22話
22話
久しぶりに人(?)と会話して興奮していた俺は、夜明け前に目を覚ます。
「……ティエリアさん、綺麗だったなぁ」
この世界に、あんな綺麗な人がいるんだなぁ、と寝起きの回らない頭で呟き、血圧が上がるまでぼんやりと過ごす。
そして、夜明けと共に、竈に火を灯して、朝食を食べて廃村に出かける。
「ティエリアさん、おはようございます!」
『トールくん、おはよう。本当に来たのね』
昨日と同じように廃屋の屋根に腰掛けていたティエリアさんがふわりと降りてきて、俺の前に降り立つ。
「はい。それじゃあ、MPが余ってるので早速分けますね。――【トランスファー】」
魔力枯渇で気分が悪くならないギリギリまでティエリアさんに魔力を譲渡する。
昨日と同じ、100程度しか譲渡できず、残りの魔力は、どこに行ったのだろうか、と疑問に思う。
『ふふっ、ありがとう。一日1MPあれば、存在できるからこれで三ヶ月分ね』
「そうなんですね」
それを考えると残りMP100を切っていたティエリアさんは、かなりギリギリだったんだと思う。
「そういえば、ティエリアさんの【生命力吸収】と【魔力吸収】のスキルって人や魔物以外にできないんですか?」
俺は、比較的綺麗な廃屋の中に入りながら、ティエリアさんに尋ねる。
『できないこともないわ。村があった頃、アーライダ様の信仰心と一緒に、お供え物からも魔力を得ていたわ』
やっぱり、できるか、と予想が当たり、準備が無駄じゃなかったことを喜ぶ。
『じゃあ、これを使ってMPを回復してくださいね』
俺は、背負い鞄からマナポーションを取り出し、ティエリアさんの目の前に並べる。
「だいたい200~300のMPを回復できるやつです。これを吸収したら、ちょっとは足りない魔力の足しになるんじゃないかと思いまして」
『ありがとう。でも貰えないわ。マナポーションはトールくんにとっても貴重でしょ?』
「俺は、スキルで生産しているので大丈夫です」
でも……と受け取るのを躊躇うティエリアさんに俺は、安心できるように理由を述べる。
「俺は、【調合】や【錬金術】のスキルを鍛えるためにたくさんのポーションを作りたい。そして、このポーション瓶は、劣化防止が掛かってないので大体1週間程度しか持ちません。だから、ティエリアさんの回復に使ってください」
俺の説明に目を閉じて考えるティエリアさんは、困ったように微笑んで受け取ってくれる。
『わかったわ。でも、何も返せないのは心苦しいわね』
「俺が色々と教えてもらうための授業料ですよ」
『ふふっ、それじゃあ、私は先生ってことになるのね』
からかうように笑うティエリアさんだが、その優しい雰囲気から確かに先生が似合いそうだ。
「それじゃあ、よろしくお願いしますね。ティエリア先生」
『あらあら、大人をからかって……』
俺は、ティエリア先生から魔法の扱いを学ぶために仮拠点を整備する。
比較的綺麗な廃屋の土台や壁を【錬成変化】で修理し、中に貯まったゴミや朽ちた家具などを土に分解して、家の外に掃き出す。
とりあえず、仮拠点の基礎は直せたが、屋根は崩れ落ち、壁などは苔や汚れだかけである。
「MPも少ないし、とりあえず、休憩かな」
俺は、廃屋の中で胡座を組んで魔力回復に努める。
その間、ティエリアさんもマナポーションに手を翳し、魔力を吸収したのか、昨日は1000を切っていたMPが2000近くまで回復していた。
マナポーション1本から余すことなくMPを吸収しているようだが、俺の【魔力譲渡】とは、どこに差があるのだろうか。
『ふふっ、久しぶりのお供え物ね。それでトールくんは、先生に何を聞きたいの?』
先生呼びが気に入ったのかティエリア先生は、振り返りながら聞いてくる。
「外の世界の話とか、お金の話とか、それと魔法スキルや魔道具について教えてほしいです。あと、俺が今まで手に入れたスキルの相談とか」
俺は、魔力を回復させながら、自身のステータスを紙に書き出し、ティエリア先生に見せる。
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NAME:トール・ライド
年齢:12
JOB【錬金術師】
LV 21
HP :820/820(生命力)MP :125/370(魔力量)
STR :147(筋力) VIT :134(耐久力) DEX :123(器用さ) AGI :186(速度)
INT :100(知力、理解力) MGI :129(魔力) RMG :99(耐魔)
武器スキル
【槍Lv3】
【剣Lv3】
【短剣Lv2】
【棍棒Lv2】
【斧Lv2】
【投擲Lv2】
【盾Lv2】
【弓Lv1】
魔法スキル
【魔力回復Lv2】
【魔力操作Lv1】
【火魔法Lv1】
【水魔法Lv1】
【生活魔法Lv1】
【魔力譲渡Lv7】
強化スキル
【刺突強化Lv3】
【斬撃強化Lv2】
【打撃強化Lv3】
【生命力強化Lv4】
【筋力強化Lv3】
【器用強化Lv3】
【速度強化Lv4】
【自己強化:身体Lv1】
【感覚強化:嗅覚Lv3】
【消化Lv1】
【回復速度強化Lv1】
耐性スキル
【物理耐性Lv2】
【毒耐性Lv2】
【睡眠耐性Lv1】
【威圧耐性Lv1】
【病気耐性Lv1】
生産スキル
【錬金術Lv2】
【料理Lv2】
【調合Lv2】
【建築Lv2】
【栽培Lv2】
技能スキル
【鑑定Lv2】
【採取Lv3】
【跳躍Lv3】
【暗視Lv3】
【騎乗Lv1】
【調教Lv1】
【罠師Lv2】
【狩猟Lv2】
【伐採Lv1】
戦術スキル
【連携Lv2】
【追跡Lv3】
【逃走Lv3】
【指揮Lv2】
【威圧Lv2】
【挑発Lv1】
感知・隠密系スキル
【気配察知Lv2】
【気配遮断Lv2】
【罠感知Lv1】
【魔力感知Lv1】
【危機察知Lv2】
【霊視Lv1】
その他スキル
【仮死Lv2】
ユニークスキル
【錬成変化】
【成長因子】
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ステータスを書き出した紙をじっくり見つめるティエリア先生は、なるほど、と小さく呟く。
『とてもスキルが豊富ね。ステータス的な総合評価は、ギリギリでDランク冒険者ってところかしら』
「実際のスキルの熟練度とかを考えると、まだまだ弱いですよね」
俺が小さく溜息を吐きながら呟くと、ティエリア先生が腰を屈めて頭を撫でてくれる。
『でも、これだけスキルが多いならやれることも多いわ。例えば、武器スキルのレベルが高まれば、より効率的に体を動かすことができて、他の動きでも応用幅が広がるわ。それに、【魔力操作】で魔力を体に纏うことで身体能力を底上げすることもできるわよ』
「なるほど! そうなんですね!」
武器スキルと魔法スキルの可能性に俺は、ティエリア先生を尊敬の眼差しで見つめる。
「それじゃあ、何から始めましょう!」
『それが困ったのよねぇ。私は、肉体がないから武器や体術を教えられないし、そうしたスキルも無くしたわ。それに見本を見せるのは、私の魔力を削ることになるから……』
ティエリア先生との授業は、口頭で告げられた内容を俺が再現することが中心となる。
その授業の第一弾として、魔法スキルの練習となった。
『魔法の基本は【生活魔法】よ。火を生み出し、飲み水を作り出し、風を起こし、穴を掘り、明かりを灯し、物を動かす。この六つのことができるわ』
それぞれの魔法の呪文が【トーチ】【ウォーター】【ブリーズ】【ディグ】【ライト】【フロート】だ。
『トールくんは、魔法はイメージだって分かるわよね』
「はい。森の家の本にもイメージで割と補完できるって書かれてました」
イメージを固めるために呪文を言い、魔法を使う。
逆に、イメージがあやふやなまま魔法を使おうとすると、余計な魔力を消費したり、威力が安定しなかったりするらしい。
俺の場合には、日本製のファンタジーを見ているために、なんとなくでイメージはできている。
『そう、じゃあ、トールくんは、呪文の詠唱は要らない派ね。ありがたいわ』
「ありがたい、ですか?」
『ええ、呪文の詠唱を使えば、確かに魔法の威力が安定したり、魔力の削減になるわ。でも、時間も掛かるし、それに……」
恥ずかしい、と言外に言うティエリア先生の困った表情に、なるほど、と思う。
確かに、この世界では、長々とした呪文を詠唱して魔法を使うのが普通かもしれない。
だが、恥ずかしいのだ。
『まぁ、エルフの調合師の中には、作る薬の属性に合わせて詠唱するわ。ただ、その形が鼻歌みたいな詠唱で属性の魔力添加をするから、一概には悪いとは言えないのよね』
「それは、なんだか楽しそうですね」
『他にも集団で集まって、魔法を行使する儀式魔法があるわ』
鼻歌を歌いながら薬を作るエルフは、神秘的かもしれない。
たしかに、急ぐ必要のない場面では、呪文の詠唱という技術体系は必要かもしれない。
それに――儀式魔法。
例えば、同一スキル持ちを多数集めて、同じ詠唱を使い、儀式的に魔法を発動させることで高レベルに匹敵する魔法を行使するなど、想像する。
『呪文ってのは、意味のある言葉と音の高低とかの組み合わせ、声に乗せる魔力で魔法を増幅させたりするからオリジナルの呪文を作ってもいいわ』
時折、無意識に鼻歌を歌うと魔法を発現させる子どもがいるらしく、そうした無意識領域の魔法も存在するらしい。
「世の中、不思議が一杯ですね」
『そうね。けど、知識としては持っていてもいいけど、トールくんは戦う人だから速度が重要よね』
「そうですね。一分、一秒でも早く敵を制圧したいですね」
俺の言葉に、ティエリア先生が満足そうに頷く。
そして、早速、六つの魔法を教わり、その中の【ウォーター】と【ブリーズ】は、風呂や生活用水の確保、乾燥させる必要がある薬草などに使っている。
なので、残り四つの魔法を試してみる。
「――【トーチ】!」 ポッ、とマッチほどの火が灯る。着火に便利だ。
「――【ディグ】!」 目の前の穴が10センチほど削れた。ちょっと微妙な気がする。
「――【ライト】!」 球体の白い明かりが目の前に生まれる。夜の読書や作業に便利そうだ。
「――【フロート】!」 目の前の石が浮き上がり、そして落ちる。持続力に難あり。
『どうかしら、生活魔法は?』
「すごく、微妙ですね」
着火と飲み水、乾燥の魔法は、生活をちょっと便利にさせるが、穴掘りはスコップで代用可能だし、ライトも夜間の作業には便利かもしれないが、正直夜は寝たい。
浮遊の魔法は、スキルレベルや使用する魔力量によっても持てる重さと持続時間が変わるらしいが、体力があるなら自分で運ぶ。
「他のことで代用できることが多いですね」
『生活魔法って基本はそうなのよ。でも、それが全部できない人もいるのよ』
「えっ?」
『できる人は、その属性に適性が合って、使い慣れれば、適性のある魔法スキルを手に入れられるわ。トールくんの場合は、全属性の魔法適性を持っていることになるわね』
「そうなんですか。それって珍しいことなんですか?」
『うーん。珍しいと言えば珍しいけど、羨ましがられないわよ。全属性の魔法適性持ちって意外と多いけど、大抵は、器用貧乏になるから多くても2~3つの属性を集中して鍛えるわ。それに【空間魔法】の適性が合っても理解とか認識の段階で躓く人が多いらしいわ』
へぇ、と俺は感嘆の声を上げながら、ふと首を傾げる。
「あれ、でも先生の持つ、闇魔法とか浮遊のスキル? ってことは、先生は、4属性の適性持ち?」
生活魔法の【フロート】を使っていけば、【闇魔法】や【浮遊】のスキルが得られるのか、と思ったが、極端にレベルが低かった。
ティエリア先生は、生前あんまり使ってこなかったのか、と思いきや違うらしい。
『私は、生前には無属性と風と水、光に適性があったわ。でも、地縛霊になってから得たスキルだから、種族特性みたいな物ね』
「へぇ~」
俺は、納得しつつ『無属性』という新しい単語に首を傾げる。
「先生、無属性って何ですか?」
『無属性は、基本6属性とその上位や派生以外の魔法ね。例えば、さっき魔力を体に纏う――【身体強化】やトールくんの使う【錬金術】。他にもアイテムボックスの【空間魔法】とか、精霊を使役する【精霊魔法】とかね」
「なるほど……」
本当に、無属性とは色々とあるんだなぁ、と思いながら納得する。
「それじゃあ、回復魔法スキルは何に分類されるんですか?」
「それは、【回復魔法】よ。ただ、水や光の魔法にも回復魔法があるから、一概には言えないわね」
大抵は、【回復魔法】を使える人は、水か光魔法も使える場合が多いらしい。
この場合、スキルがあるから回復魔法が使えるのか、回復魔法が使えるから一定水準の技能を証明するためにスキルが生まれるのは、永遠の疑問になりそうなので考えるのを止めた。
「魔法スキルに関しては、こんなところかしら。なにか質問はある?」
俺は、とりあえず、魔法って色々あるんだなぁ、と思いながら首を横に振る。
『それじゃあ、トールくん。練習しましょう』
そう言われて、早速ティエリア先生の授業は、次のステップに進む。