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21話

 21話


 両腕を広げて、無抵抗に俺の【錬成変化】を受け入れるティエリアさんに対して、俺も覚悟を決める。


「それでは、いきます」

『ええ、お願い。私の一部があなたの中で生きてほしいわ』


 俺は、【鑑定】で見えるそのスキルを強く意識し、ティエリアさんから抽出する。


「――【錬成変化】!」

『――うぐっ!』


 触れた胸元の奥、魂から直接スキルを抽出する行為にティエリアさんの美しい顔が苦痛で歪む。

 だが俺は 絶対にこのスキルを得るために【錬成変化】を中断して失敗するわけにはいかない。


「おぉぉぉぉぉぉっ――よし!」


 スキルの抽出が終わったティエリアさんは、ぐったりとその場にしゃがみ込む。


「ティエリアさん、大丈夫ですか?」

『ええ、大丈夫よ。ふふっ、500年ぶりの痛みだわ。死んでから体の感覚がなくなったのに、痛みも貰えるなんて……』


 ティエリアさんは、ポロポロと綺麗な嬉し涙を静かに流す。


『それで、トールくんは、なんのスキルを得たのかしら?』

「俺は、このスキルを得ました」


【スキル珠】――MP+100上昇、スキル【魔力譲渡Lv7】


「――【錬成変化】」


 俺は、ティエリアさんから抽出した【魔力譲渡】スキルを取り込む。


「行きますよ! ――【トランスファー】!」


『トールくん、何を!』


【錬成変化】でのスキル抽出によって消耗しているティエリアさんに【魔力譲渡】スキルを使い、魔力を注ぎ込む。


【魔力譲渡】スキルは、MPを消費して相手にMPを譲渡するスキルだ。

 俺は、フォレスト・ボアを倒してレベルが21に上がった。

 その結果、MPが270になり、更に【スキル珠】のステータス上昇により、MPが370になる。

 早速、マナポーションを飲んでMPを全開した俺は、ティエリアさんに魔力を注ぎ込むが、ほぼ全ての魔力を渡しても、100程度しか回復しなかった。

 だが、【生命力吸収】や【魔力吸収】のスキルを使わせずに、安全な方法での魔力の回復手段を手に入れた。


『本当に、トールくんは、酷いくらいに優しいわ。このまま消滅させてくれればいいのに』

「俺が嫌なんですよ。せっかく、こうして会えたティエリアさんが消えるのが。それに困っている人を助けたいですよ。それが美人なら、尚更ですよ」

『あら、地縛霊の私を美人って言ってくれるの? それにまるで紳士のような物言いね』

「転生前の俺は、30代後半だったから、立派な紳士ですよ」

『ふふっ、それならエルフでは、まだまだ子どもね。可愛い紳士さん』


 ここで、長命種族の年齢観が出てきたか。

 確かに、長寿のエルフから見たら、子どもの体の30代など同族で多く見てきたかもしれない。

 そうなると、背伸びした子どもくらいにしか思われていないと考えると、ちょっと悔しい。


「まぁ、確かに12歳に若返ったから子どもですけど……」

『ふふっ、ふて腐れないで。でも、トールくんのそんな顔も可愛いわね』


 半透明な指で俺の頬をツンツンしようとするが、触れられない。

 ただ、美人のお姉さんにからかわれるというのは、嬉しいような、悔しいような気がする。


『さて、トールくんは、このあとどうするの? 確かに安全に私の回復手段を手に入れたとは言っても、現状の時間稼ぎよね』

「そうですね。それに関してはちょっと考えがあります。それにしばらくは、ここに通ってティエリアさんに魔力を譲渡し続けたいと思います」

『いいの? でもあなたは、その分強くなるのが遅れるわよ』


 そう言って、ティエリアさんが心配そうにしてくるが、これは俺にとってもいい機会だ。


「住んでいる家に置かれている本だけで得られる知識は限られますし、今まで手に入れたスキルも十分に使えていないから。これを機会に確認したかったんです。その相談に乗ってくれますか?」

『ええ、そのくらいなら、お安いご用よ』


 大きな胸を張って答えてくれるティエリアさんに、眼福だなぁと思い、表情が緩む。


「それじゃあ、俺は、今日はこれで帰りますね。明日の準備とか色々としたいですから」

『……そうね。また明日ね』


 俺は立ち上がり、野菜の詰まった背負い籠を背負うと、ティエリアさんが寂しそうな表情を浮かべる。


「また明日です。さようなら」

『ええ、さようなら』


 寂しそうなティエリアさんに背を向けて森の家に戻っていく。

 その時、やはり、目に見えない何かの視線を感じた。


「精霊か妖精が俺を導いてくれたのかな? それともティエリアさんを気に掛けている何かが導いたのかも」


 ポツリと呟き、もしそうでなければ、近いうちにティエリアさんは自然消滅していたかもしれない。

 そうだと考えれば、これは幸運な出会いだ。


「さて、準備をするぞ!」


 家に帰れば、まずは戸棚にあるマナポーションを全て取り出す。

 また、日暮れまで時間があるので、森の群生地からエーダル草をありったけ集め、それからもマナポーションを作る。


「ティエリアさんのお陰でMP量が増えたからポーションの魔力添加率を高められる」


 ゆっくりと鍋を掻き混ぜて作るマナポーションが完成した。


 マナポーション【回復薬】

 魔力回復の中品質なポーション。魔力回復は、MP300回復する。


 古いマナポーションは、ギリギリ中品質なMP200回復するやつだったが、今回作ったのは、同じ中品質でも300回復する。

 魔力添加率の違いでその効果量は、1.5倍になっている。


「さて、マナポーションは、全部で20本用意できたな。とりあえず、明日は、10本運ぼう。それで明後日に残りも運ぼう」


 一度に大量に運ぶと重いし、割れた時困るので陶器のポーション瓶を布で包んで鞄に詰めていく。

 明日が楽しみだ、と一人小さく笑い、その日は早めに眠りに就く。


 …………

 ……

 …


 私が地縛霊となって500年が経ったある時、不思議な子どもと出会った。

 北の森から姿を現わした黒髪の少年は、廃村の家屋や畑の跡地を物色するためにやってきたようだ。

 地縛霊となった私を見ることができる人は、今までほとんど居らず、僅かな期待を抱いてその子の前に降り立つが、気づかず通り過ぎる。

 そして、誰も使っていない錆びた農具や調理器具をせっせと集め始めた。


『何をしているのかしら?』


 私は、小首を傾げながら、少年の行動を見つめていると、廃屋の外が騒がしい。

 どうやら、この子の匂いを感じ取ったウルフたちが出てきたようだ。


『この子が危ないわね。仕方がない、やりましょうか』


 私は、地縛霊となり、この村を見守っていた。

 村が滅んでは、村が興り、また滅ぶのを何度も見た。

 壊れた村を再建しやすいように、近寄る魔物たちから生命力と魔力を奪って、追い払っていた。

 それが私が存在し続けるのにも必要だった。

 だが、最後に村が滅んで50年は、もう存在し続けることを諦め、消滅を望んでいたために、村の跡地に近寄る魔物にも手を出さなかった。

 そのために、ここが危険な場所だと忘れた魔物たちが入り込んできたようだ。


『この子が襲われたら寝覚めが悪いわね。けど、気味悪がられないかしら』


 突然、魔物が苦しみだしたら困惑するだろうな、と思いながら、ウルフたちから生命力と魔力を吸収して、少しだけ消滅が遅れてしまうことに溜息を吐く。

 すると、私が魔物を倒す前に、少年は地面を踏み鳴らし、地表を操作して魔物を拘束する。

 そして、逃げた魔物に対して、槍で追撃して倒していく。


 子どもにしては、不釣り合いな鋭い攻撃に驚く。

 そして、とても冷めた目付きで拘束した魔物を淡々と一方的に倒していく姿を見た。

 その後、自身が倒した結果を見て、複雑そうな顔をする少年を見て、戦う時とそれ以外の時とでは、切り替えが早い人は居るが、この子はそういう性質なのかな、と思う。


 少年は、倒した魔物に一つずつ手を翳し、利用可能な部位以外を全て土に返している。


『あれは、【錬金術】かしら。器用ね』


 けれど、そもそもこんな人里離れた場所に子どもの冒険者が来ないはずがない、と頭を振る。

 それにウルフの死体を分解する時、魔石とも違う見たこともない珠を手に入れ、自身に取り込んでいるように見えた。

 ますます不思議な子どもだ。

 最後に幾つかの廃屋から金属を集め、【錬金術】で鉄を抽出している手元を覗き込む。


『子どもなのに、やっぱり器用なことするのねぇ』


【錬金術】による金属抽出は、ごくありふれた技術だ。

 だからこそ、スキルの使用者の力量と知識量によって、金属の純度が左右される。

 この少年は、銀のように美しく輝く鉄インゴットを錬成してみせ、畑の跡地に自生する野菜などを集めて、この廃村から去った。


 その時の表情は、穏やかな子どもっぽくてとても安心した。


 それからしばらく経った頃に、再びあの少年がやってきた。

 前よりも立派な槍を背負い、とても明るい表情で畑の跡地の野菜を集めている。

 前回来た時は、精神的な余裕がなかったのかもしれない。

 今回は、心に余裕があるのか前回は、見つけ損ねた野菜を見つけて、はしゃいでいる。


 それに、小綺麗になっているのを見ると、愛らしい顔立ちがよく分かる。


『ふふふっ、この前来た子がまた来たのね。あんなにはしゃいじゃって可愛いわね』


 私は、思わず口から言葉が出る。

 前回来た時は見えなかったために、独り言のつもりだったのだが、少年が私の方をハッキリと見上げてくる。


 最初は、勘違いかと思ったが、不思議な少年・トールくんは私をしっかりと見ていた。

 そして、彼との出会いが地縛霊として500年停滞していた私に、運命を運んでくれた。



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