17話
17話
流石に、一晩掛けてゴブリンの住処を殲滅したのは疲れた。
一日の眠りの後、【スキル珠】と【スキルの残滓】を選別して取り込んだ。
生きたままスキルの抽出を行なわなかったために、ステータス的には、それほど上がらなかった。
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NAME:トール・ライド
年齢:12
JOB【錬金術師】
LV 20
HP :770/770(生命力)MP :252/252(魔力量)
STR :142(筋力) VIT :128(耐久力) DEX :118(器用さ) AGI :181(速度)
INT :95(知力、理解力) MGI :124(魔力) RMG :94(耐魔)
武器スキル
【槍Lv3】
【剣Lv3】
【短剣Lv2】
【棍棒Lv2】
【斧Lv2】
【投擲Lv2】
【盾Lv2】
【弓Lv1】
魔法スキル
【魔力回復Lv2】
【魔力操作Lv1】
【火魔法Lv1】
【水魔法Lv1】
【生活魔法Lv1】
強化スキル
【刺突強化Lv3】
【斬撃強化Lv2】
【打撃強化Lv3】
【生命力強化Lv4】
【筋力強化Lv3】
【器用強化Lv3】
【速度強化Lv4】
【自己強化:身体Lv1】
【感覚強化:嗅覚Lv3】
【消化Lv1】
【回復速度強化Lv1】
耐性スキル
【物理耐性Lv2】
【毒耐性Lv2】
【睡眠耐性Lv1】
【威圧耐性Lv1】
【病気耐性Lv1】
生産スキル
【錬金術Lv2】
【料理Lv2】
【調合Lv2】
【建築Lv2】
【栽培Lv2】
技能スキル
【鑑定Lv2】
【採取Lv3】
【跳躍Lv3】
【暗視Lv3】
【騎乗Lv1】
【調教Lv1】
【罠師Lv2】
【狩猟Lv2】
【伐採Lv1】
戦術スキル
【連携Lv2】
【追跡Lv3】
【逃走Lv3】
【指揮Lv2】
【威圧Lv2】
【挑発Lv1】
感知・隠密系スキル
【気配察知Lv2】
【気配遮断Lv2】
【罠感知Lv1】
【魔力感知Lv1】
【危機察知Lv2】
【霊視Lv1】
その他スキル
【仮死Lv2】
ユニークスキル
【錬成変化】
【成長因子】
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とりあえず、有用スキルを取り込んでみると、本当に多くなって感じがする。
【自己強化:腕力】のスキルとウルフから得た【自己強化:脚力】は、全身に作用する【自己強化:身体】という形に統合され、レベルが1になった。
他にも、ゴブリンの拠点ということで新規スキルの他にも、全体的なスキルの底上げができた。
ただ、【睡眠耐性】は、俺が睡眠薬を撒いたことでゴブリンが取得したスキルっぽい。
【威圧耐性】は、ゴブリン・リーダーが【威圧】スキルを持っていたので、威圧されて過ごしていたんだろうことが容易に分かる。
また、【病気耐性】は、捕らわれ、劣悪な環境に置かれていたメスコボルトが持っていたのを考えると少し切なくなる。
だが、その一方で、念願の魔法スキルも手に入った。
「多分、強くなったと思うけど、強さが分からない」
まぁ、通常のゴブリンには負けないと思うので、そろそろゴブリンの上位種や森の獣型の魔物たちを狙っていきたいと思う。
ここまで強くなれば、安心して、ダンジョンの低層や森の奥に向かうことができると思う。
だが、その前に――
「どうするかなぁ、この不要なスキルは――」
ステータス強化の部分は抽出したが、メスゴブリンから手に入れてしまった【安産】スキルである。
これは、女性向けのスキルだろうな、と思う。
「まぁ、適当にアクセサリーに付与して売り出すか。安産のお守りとでも言えば、売れるだろ」
この森から出た後のことを考えながら、しばし休憩するが、ふと気付く。
「なんか、臭う」
ゴブリンの集落一つを壊滅させたためだろう。
体に血の臭いが残っているような気がする。
正直、今はなにをやっても集中してできない気がする。
「よし、後回しにしてたけど、風呂を作るか」
俺は、普段よりもラフな格好で森の中を進む。
そして、近くの湧き水が流れる小川まで足を伸す。
「農業用の水路を作って、そのついでに風呂を作る! ――【錬成変化】!」
ブーツを踏みならし、足元の地面を整える。
それにより地面が圧縮され、50メートルほど凹み、小川から水を引き込むための水路の一部ができあがる。
小川と水路の境界には、圧縮した土が水の流れを遮っており、MPの残量はまだまだ余裕がある。
それに【回復速度強化】のスキルは、HPの回復だけではなく、MPや疲労などの回復も早めてくれるらしいので、連続して【錬成変化】を使って水路を敷く。
「小川から引いて、溜め池を作って、余計な水を元の小川に戻す」
U字の水路を作り、水路の中にゴミや魔物が入り込まないように、土を圧縮した蓋をする。
そして、溜め池を作るために、森の一部を錬成した鉄の斧で伐採する。
【斧】と【伐採】スキルの活躍で木々が切り倒され、【錬成変化】で根っこを地面から引き抜く。
「溜め池の周囲の開拓完了。水路の設置も完了、っと。あとは水を流すだけだな」
そして完成した小川と水路を遮る土壁を【錬成変化】で元に戻し、溜め池と水路に水を流す。
「溜め池に水が溜まるまで風呂を作るか」
今までコツコツと貯めていた鉄を使い、風呂釜の錬成を始める。
形は、ドラム缶風呂を想像して作ろうとした。
だが、12歳の子どもの体だと少し深すぎるために、高さを半分にして、口を広めに作ったら、五右衛門風呂っぽくなった。
風呂底に足を付けて火傷しないように、切り倒した木で中敷きを作り、安定するように周囲の土を盛って圧縮して風呂を作った。
「ついでに、今まで先延ばしにしてた備蓄小屋でも立てるか」
家の空き部屋に薪や木材なんかを保存していたが、そろそろ分けるべきだと思い、一度に各種施設を作ることにした。
「さて、素材は、土の圧縮で――【錬成変化】!」
【錬成変化】と【建築】スキルを併用すれば、土を圧縮した柱と壁の薪置き場ができた。
俺は、溜め池に水が貯まるまで、伐採した木の枝を払い、切り倒した木を手頃な大きさに分解して、魔法の練習をする。
「【錬成変化】でも生木を乾燥させられるけど、魔法スキルも使うかな――【ドライ】!」
【生活魔法】の乾燥の魔法を使う。
だが、木材の目が硬いためか、生活魔法では上手く水分を抜き取ることができない。
もっと魔力を籠めて時間を掛ければ、できそうではあるが、効率的には悪く感じる。
「うーん。これじゃないか。まぁ、薬草とかキノコとかの乾燥に使えるかも。じゃあ、次は、火魔法を使うかな【ヒート】!」
【火魔法】の加熱の魔法を使う。
すると、徐々に木の断面から白い湯気が立ち上がり、水分が抜けるのが見える。
だが――
「うわっ! 熱っ!」
触れていた箇所が過熱しすぎて、自然発火し、慌てて手を離す。
その際、燃え始めた丸太をとりあえず放置して、ライフポーションで火傷を癒やす。
「火って怖いなぁ。レベル1でも森林火災を起こせるんじゃないか」
俺は、そう呟きながら練習用の丸太が燃え尽きるのを眺め、新たな丸太を運ぶ。
生前でも持ち運ぶのに苦労しそうな丸太を肩に担げるのだから、ステータスとレベルの世界は、凄いな、と感じる。
なぜ、世界は停滞したのか、疑問に思いながら次は、【水魔法】を試す。
「えっと、確か部屋の中の本に書かれていたのは――【ウォーター】!」
周囲の水を集める【ウォーター】によって丸太内部の水分を抜くことを意識する。
丸太に魔力を行き渡らせるために断面から水分が染み出してくるが、急速に水分を抜いたことで丸太に罅が入って割れる。
「あー、【水魔法】で水分を抜くと割れたり、曲がったりするのか。じゃあ、建材には向かないんだろうな」
まぁ、薪に使う奴だし、いいか、と思い、【錬成変化】で薪に変えて備蓄小屋に放り込む。
一番は使い慣れた【錬成変化】だが、ようやく手に入れた魔法スキルを楽しく使う。
そうこうしていると、溜め池に水が溜まり、いよいよ風呂を入れる準備が整ってくる。
「さて、五右衛門風呂に水を移して、そのついでに畑に水やりするか」
魔法や錬金術とは、無から有を生み出すよりも有るものを利用した方が楽である。
「さて、綺麗な水分を集める――【ウォーター】」
溜め池の水を利用して操り、水球を空中に作り、風呂釜に注ぎ、余った分は、細かな霧雨状にして畑に降らす。
「次に、【ヒート】だとさっきの二の舞になるよな。えっと、――【ファイア】」
風呂釜の側面に手を当てて、風呂釜を加熱して風呂を沸かそうとすると触れた場所が熱くなり火傷する。
なので、風呂釜の底に炎を生み出して、風呂釜全体を熱していく。
直接、風呂釜の中に炎を突っ込むことも考えたが、一気に蒸発して水蒸気爆発を起こしたら困るので、少しずつ温度をみながら温める。
「うん。風呂の温度は、こんなものかな。石鹸やシャンプーが欲しいけど、仕方がないよな」
俺は、今まで家の竈で温めたお湯で体を拭く程度だったので、改めて痒さのようなものを感じる。
今すぐに、服を脱ぎ捨て、風呂に入りたいが【調合】の本に書かれていたことを試す。
「風呂にポーションを入れる薬湯ってどんなんだろうな」
使用期限が最も短い古いポーションを持ち出し、風呂釜の中に混ぜていく。
透明なお湯が、薄緑色に変わるのを確かめ、すぐに服を脱いでお湯を全身に掛けて汚れを落とし風呂釜に入る。
そして、12歳の体に合わせた小さめの風呂に入り込むと、自然と声が漏れる。
「ああ、生き返るぅぅぅっ――」
森に木霊す、俺の声。
野外に作った一人露天風呂から眺める光景と森林浴、ポーション風呂の緑の香りを味わいながら、異世界転生を果たしたこの二ヶ月を思い返す。
ポーションの効果か、細かな傷や肌の荒れなどが収まり、子どもらしい肌や髪の艶が戻る気がする。
風呂に入る前に、転生時に若返って生き返ってることを思い出して、一人で小さく吹き出す。
「あははっ、ホント綺麗にしているつもりでも意外と汚れてるな」
汗とか土とか埃、魔物の血とかだろう。
正直、こんなサバイバル生活にいきなり放り込まれて、よく適応できていると褒めたい。
「……神様、まだまだ【成長因子】を世界に広げるための準備ができてませんが、もうしばらくお待ちください」
俺は、風呂の中に小さく祈り、そして頭までお湯に浸けた。
そして、久しぶりの風呂を楽しむために長湯した結果、湯当たりして、ライフポーションを飲んだのは、ちょっと恥ずかしかった。