16話
16話
魔法スキルを手に入れたい。
そう考える俺は、東と西の森を探索し続け、様々な魔物の分布を頭の中に叩き込んでいる。
遠目から見たが、魔法スキルを使える魔物は、かなり強い。
俺が遭遇したフォレスト・ボアよりも強力な個体が多いために、討伐もしくは、スキルの抽出を断念していた。
「だが、今日は違う! 今日こそは、これで成功させる!」
俺は、森の中で様々な物を鑑定した。
ライフポーションの材料であるキィール草やマナポーションの材料であるエーダル草。
他にも解毒薬に使える花の群生地や毒のキノコなど。
その中で、見つけたものの一つに――【睡眠薬】の材料を見つけた。
夜白草という白色の花弁を持つ木の根である。
作り方は、花の木の根を採取して、綺麗に洗浄した後、乾燥させた根をベースに数種類の素材を加えて、粉末状にすり潰しながら魔力を添加する。
ゴリゴリゴリ、と自作の薬研で木の根をすり潰し、他の素材も加えながら、均一になるように作る。
【睡眠薬】を吸わないように口元に麻布を巻き、無心ですり潰す中、これまでの【調合】のことを思い出す。
「夜に細々と頑張ってたなぁ」
薬草の中には、鮮度が重要なものが多いので、溜めておくことができず、毎日採取しては、夜間に【調合】スキルの練習としてポーションを作っていた。
また【調合】と【料理】スキルで似通った部分があり、相乗効果でレベルが2になったことで、薬を作る幅とその性能も良くなる。
それに【調合】スキルで作り出す薬の中には、漢方のような薬もあり、それを調味料代わりに使っているので、俺の食生活が少しだけ彩られたのは、余談である。
そうしたことを思い返しながら、薬研ですり潰し、最後に【錬成変化】で均質化させる。
ナイマの睡眠薬
獣や魔物を眠らせるのに使われる粉末状の睡眠薬。品質は、中品質。
できた睡眠薬を舞い上がらせないように、錬成した紙に折り畳んで仕舞う。
この森の家の薬事情も大分、よくなった。
ライフポーションも今では、中品質を安定して作り、マナポーションは、ギリギリ中品質だが、1本飲めば、俺のMPを全回復できる程度の効果があるので現状ではこれで十分だ。
そしてこれが、俺の現在のステータスだ。
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NAME:トール・ライド
年齢:12
JOB【錬金術師】
LV 18
HP :662/662(生命力)MP :204/204(魔力量)
STR :130(筋力) VIT :114(耐久力) DEX :102(器用さ) AGI :159(速度)
INT :83(知力、理解力) MGI :105(魔力) RMG :83(耐魔)
武器スキル
【槍Lv3】
【剣Lv2】
【短剣Lv2】
【棍棒Lv2】
【斧Lv2】
【投擲Lv2】
【盾Lv2】
【弓Lv1】
魔法スキル
【魔力回復Lv2】
【魔力操作Lv1】
強化スキル
【刺突強化Lv3】
【斬撃強化Lv2】
【打撃強化Lv2】
【生命力強化Lv3】
【筋力強化Lv3】
【器用強化Lv2】
【速度強化Lv3】
【自己強化:脚力Lv3】
【感覚強化:嗅覚Lv3】
【消化Lv1】
耐性スキル
【物理耐性Lv2】
【毒耐性Lv2】
生産スキル
【錬金術Lv2】
【料理Lv2】
【調合Lv2】
【建築Lv1】
技能スキル
【鑑定Lv2】
【採取Lv3】
【跳躍Lv3】
【暗視Lv3】
【騎乗Lv1】
【調教Lv1】
【罠師Lv1】
【狩猟Lv2】
戦術スキル
【連携Lv2】
【追跡Lv3】
【逃走Lv3】
【指揮Lv2】
感知・隠密系スキル
【気配察知Lv2】
【気配遮断Lv2】
【罠感知Lv1】
【魔力感知Lv1】
その他スキル
【仮死Lv2】
ユニークスキル
【錬成変化】
【成長因子】
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大分強くなり、魔物を倒すための粉末タイプの睡眠薬を作ることができた。
それにマナポーションを背負い鞄一杯に詰め、【錬成変化】を連続で使えるように準備する。
そして狙いは、夜間――
「あそこだな。ゴブリンの巣は――」
【暗視】スキルで見つめる先には、無数の粗雑な竪穴式住居が立ち並ぶ。
そして、小さな焚火の周りや建物の中には、無数の生き物の気配がする。
森を探索し続け、幾つかのゴブリンの巣を見つけ、ここは俺の家から最も近い場所にある。
ゴブリンの巣は、常に100匹近くのゴブリンが住んでおり、そして毎日森の中で死んでいくゴブリンが減らないペースで補充される場所だ。
俺は、そんなゴブリンの住処に向けて、風上から【睡眠薬】を流す。
自分も睡眠薬を吸わないように口に当て布をするが、大きな鼻と口を持つゴブリンは、容易に吸い込み、次々と眠りに就く。
「よし、これで外のゴブリンは、無力化したな」
俺は、いびきを上げるゴブリンたちを確認して、地面を錬成して拘束し、奥に進む。
ゴブリンの巣穴には、普通のゴブリンや子どもを産むメスゴブリン、またメスコボルトたちが捕まり、ゴブリンに孕まされていた。
もしこの中に人間が混じっていたら、色んな意味で衝撃が大きかっただろうが、居ないことに安堵しつつ、【錬成変化】で拘束して無力化し、一番大きな住処に向かう。
そこには、腹の上にメスゴブリンを乗せた上位種のゴブリンたちを見つけた。
俺は、目当てのゴブリン上位種も拘束する。
「ゴブリン・リーダー、ゴブリン・シャーマン、ゴブリン・ウィザード。よし、目当ての奴らを確保した」
強力なスキルを持つ上位種や魔法を使わせないように口に繊維の塊を詰め、鑑定する。
ゴブリン・リーダー
スキル【剣Lv3】【威圧Lv2】【危機察知Lv2】【性欲増強Lv3】
ゴブリン・シャーマン
スキル【火魔法Lv1】【霊視Lv1】【性欲増強Lv2】
ゴブリン・ウィザード
スキル【水魔法Lv1】【生活魔法Lv1】【調合Lv1】【性欲増強Lv2】
「そのスキル、貰うぞ。――【錬成変化】!」
ずっと焦がれていた魔法を得るために、ゴブリン・シャーマンの体に触れる。
そして、スキル抽出の激痛に悶えるゴブリン・シャーマンから【火魔法】のスキル珠を手に入れる。
【スキル珠】――INT+1上昇、スキル【火魔法Lv1】
俺は、嬉しさからその場でそのスキルを自身に取り込む。
だが、確認は後回しだ。
「とりあえず、得られる物を全部奪おう」
睡眠薬で今夜の間は、ゴブリンたちは起きることはないだろうが、ゆっくりはしていられない。
全てのゴブリンのスキルを奪うには、MPが足りないので、【鑑定】スキルを使い、有用スキルだけを抽出し、それ以外は、短槍で貫き、死体から【スキルの残滓】を奪うことにする。
「害悪になるし、ここで見逃して人に被害があったら寝覚めが悪い。どうか、死んでくれ」
俺は、一人そうぽつりと呟き、黙々とゴブリンの集落で殺戮する。
一晩でゴブリンの集落は壊滅し、107体のゴブリンを倒した。
得られたスキルの成果は――
・スキル宝珠【剣Lv3】【威圧Lv2】【危機察知Lv2】【火魔法Lv1】【霊視Lv1】【生活魔法Lv1】【水魔法Lv1】
・スキルの残滓×104体分
新規スキル【安産Lv1】【栽培Lv1】【伐採Lv1】【挑発Lv1】【自己強化:腕力Lv1】【回復速度強化Lv1】【睡眠耐性Lv1】【威圧耐性Lv1】【病気耐性Lv1】など。
正直、スキル珠やスキルの残滓を大量に手に入れて収拾が付かなくなってきた感じがする。
これらのスキルを十全に活かせるような気がしない。
そして全てのゴブリンを始末し終えた後、ゴブリンの住処には、血の臭いが充満していた。
俺は、それら全てを分解して森に帰し、更地にした。
12歳の体で徹夜したために、魔石や【スキル珠】や【スキルの残滓】が入った背負い鞄がやけに重く感じる。
また【錬成変化】の使うために、マナポーションをガブ飲みして、タプタプする胃を揺らしながら、夜明けと共に、家に戻るのだった。