13話
13話
今日も家の周りを見回り、拠点の様子を確かめる。
家を中心に、隣に廃村から見つけた小麦や野菜、森で自生している麻や果樹などを栽培している。
まだ収穫できないが、一人分の畑としては十分だろう。
「うーん。食料は、畑を上手く回していけば、持続的に食べられるだろうけど、医薬品も必要だろうな。それに燃料の保管場所と畑の拡張が必要なら水路も欲しいよな」
俺は、森の中から木々を拾い、少しずつ薪を集めたりしている。
飲料水は、【錬成変化】で空気中から生成しているが、スキルや魔法で一々生み出すよりは、農業用水路と貯蔵庫を用意して、今のうちに集め始めた方がいいかもしれない。
それにまだこの世界に転生して1ヶ月ほどだが、越冬に向けての準備が必要だろう。
「春から秋にかけては、外での探索を。冬は、ダンジョンでの修業がいいかなぁ」
今の季節は分からないが、近いうちに家の周りの整備をしたい、と思う。
そんな日々の確認を終え、本日は再び東側に探索の足を延ばす。
【気配遮断】スキルにより隠密行動しつつ、標的となり得る魔物を探すと、初めて見る魔物が地面を掘り返しているのを見つける。
「……あれは、イノシシか。それにしても、デカい……」
牛ほどの大きさのイノシシが自生しているイモを掘り返して食べているのを見つけ、【鑑定】を使うと、フォレスト・ボアという名前が出た。
「うーん。強そう。それに、【鑑定】のレベルが低いからか名前だけだよ」
フォレスト・ボアと真っ正面から戦って勝てそうにないと思う俺は、気付かれないように後退しようとするが――
「やべっ、ゴブリンが来た!」
この森で溢れているゴブリンの気配を感じ、すぐさま近くの木に登り、隠れて様子を伺う。
すると、フォレスト・ボアがゴブリンの悪臭を感じ取ると食事を中断して振り返り、突進を始める。
ゴブリンたちは、ギャアギャアと騒ぎ、木の槍や棍棒を突き出すが、フォレスト・ボアの剛毛に阻まれ、その牙に突き上げられて吹き飛ばされる。
「うわっ……エグっ。トラックで撥ねられたみたいじゃん」
正直、牛クラスの生物が時速50キロで突進したために、ゴブリンの首や体の骨があらぬ方向に曲がり、絶命している。
フォレスト・ボアは、その反り立つ牙で一体を貫いたのか、不愉快そうに頭を振って、振り落とす。
そして、何事も無かったかのように去っていくフォレスト・ボアを警戒しつつ俺は、木から下りていく。
「なるほどなぁ。正面からはやり合いたくないな。さてと、他のやつが倒した死体からは【スキルの残滓】は取れるのか。――【錬成変化】。よし取れた」
今回のゴブリンから得られるスキルに新規のものはなかったが、フォレスト・ボアに倒されたゴブリンから魔石と【スキルの残滓】が手に入ることが分かった。
「……フォレスト・ボアを見たら、久しぶりに豚肉を食いたくなってきたなぁ」
俺は、そう思い、次に遭遇した時に仕留める方法を考えながら、森の中で【薬草】を探し、ゴブリンやウルフ、コボルトなんかの魔物をいつものように【錬成変化】で拘束して倒していく。
またウルフに騎乗するコボルト・リーダーを含むコボルト・ライダーの集団を見つけた。
「――【錬成変化】!」
ウルフの足を拘束して転倒を誘い、地面に落ちたコボルトたちも同様に拘束して槍の餌食にした。
多くの【スキルの残滓】を吸収し、経験値を得た結果、レベルが10に上がった。
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NAME:トール・ライド
年齢:12
JOB【錬金術師】
LV 10
HP :450/450(生命力)MP :80/80(魔力量)
STR :60(筋力) VIT :48(耐久力) DEX :47(器用さ) AGI :70(速度)
INT :43(知力、理解力) MGI :45(魔力) RMG :43(耐魔)
武器スキル
【槍Lv2】
【剣Lv1】
【短剣Lv1】
【棍棒Lv1】
魔法スキル
【魔力回復Lv1】
強化スキル
【刺突強化Lv2】
【斬撃強化Lv1】
【打撃強化Lv1】
【生命力強化Lv1】
【筋力強化Lv2】
【速度強化Lv2】
耐性スキル
【物理耐性Lv2】
【毒耐性Lv1】
生産スキル
【錬金術Lv1】
【料理Lv1】
【調合Lv1】
技能スキル
【鑑定Lv2】
【採取Lv2】
【跳躍Lv1】
【暗視Lv1】
【騎乗Lv1】
戦術スキル
【連携Lv1】
【追跡Lv1】
【逃走Lv1】
感知・隠密系スキル
【気配察知Lv2】
【気配遮断Lv2】
ユニークスキル
【錬成変化】
【成長因子】
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有用スキルは、大抵はダブりであり、無用なスキルとして【騎乗】などのスキルを習得した。
だが、【スキルの残滓】を取り込んで得られるステータス上昇効果は、少しずつ貯まってきたように感じる。
また、レベルが10になったところでレベルアップ時のステータスの上昇量が増えた。
けれど、こうして強くなっていくから分かる。
「俺は一応、錬金術師なんだよな。どうみても速度特化の脳筋スタイルなんだよなぁ」
だからと言って、MGIステータスを底上げするために、ゴブリンの【性欲増強】スキルを持ちたいとは思わない。
と言うか、実は、【スキルの残滓】の中には、デメリットのようなスキルがある。
【悪臭】とかの文字通りのスキルや、レベル表示がなく、スキル所持者のステータスを半減させる【虚弱】なんかのスキルがある。
むしろ、こんなスキルを誰が取る、などと考える。
「まぁ、病気とか体質による先天的なスキルとか何だろうなぁ」
俺は、そう呟き、帰りにホーン・ラビットを一匹仕留めて今日の夕飯にする。
ただ、昼間フォレスト・ボアを見たために、豚肉を食いたいなぁ、という気持ちが強くなるのだった。