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11話

 11話


 ゴブリンを倒したら【性欲増強】のスキルを手に入れてしまって気分が萎えた。

 だが、家に帰って、採取したキィール草でポーションを作ることを考え、再び気分を高めていく。


「えっと、確か廃村で見つけた金属で作った鍋があるよな」


 俺は、ポーション作りの準備をしながら、テーブルに開いた【錬金術】の本の基本レシピを見る。

 ただ書かれているのが、水と薬草から錬成する、ということだけで親切ではない。

 むしろ、【調薬】の方が、沸騰したお湯にお湯の量の2割の薬草を入れて、15分煮出して、その後、不純物を濾過する。

 調合時に、使用者が木へらで混ぜながら魔力を添加することで薬効成分と魔力が結合して効力を増す、と書かれている。


「薬効成分と魔力が結合して回復力を増すって、ファンタジーだよなぁ。とりあえず、薬草を解析するか――【錬成変化】!」


 キィール草を解析した結果、薬草内の薬効成分は、80度以上で加熱することにより水に溶け出すことがわかった。

 また、薬草の鮮度によっても薬効成分の含有量が低下するらしく、お湯の量の2割の薬草と書かれているが、これは鮮度のいい理想的な作り方であり、鮮度が悪いものだとかなりの量を集めないといけないらしい。


「それに、ポーションの薬効成分には、使用期限があるのか。まぁ、当たり前と言えば、当たり前だよな」


 家に置かれた【調合】の教本を読みながら、薬草の解析結果を比べると、ポーションの使用期限は1週間以降で低下していくらしい。

 なので、ポーションの効果を保たせるために、調合ギルドか錬金ギルドが作るポーション瓶には、使用期限を10倍に延ばす劣化防止処理が施されているらしい。


「えっと、『ポーションは、通常で1週間。劣化防止のポーション瓶による保存で約三ヶ月使用できます。安全性を考えて、二ヶ月ほどで古いポーションを交換しましょう』って、勿体ないなぁ」


 俺は、パラパラと【調合】の教本を読み解く。

【錬金術】の教本よりも薬に関して詳しく載っているが、種類毎のポーションや魔法薬などによって使用期限が違うらしい。

 幻のエリクサーなどは、50年保ち、ポーション瓶に保存して10倍の500年保たれると言われているらしいが、その前に使われる、など教本の作者のユーモラスさを垣間見ることができるが、更なる長期保存方法は書かれていなかった。


「――『ポーション瓶こそが、高温、多湿、低温、不衛生など様々な環境でも中身を守り続ける最高の保存方法である』って、今度は、調合ギルドの回し者じゃないのか?」


 俺は、訝しげに本を読むが、結局はキィール草で作られるポーションの使用期限は、最長3ヶ月らしい。

 そして俺は、なんの気なしに【錬金術】の教本を読んでいると、以前読んだ【空間拡張】のある道具袋などのページを目にする。


「おっ、【アイテムボックス】?」


 それは、内部にアイテムを収納する魔道具らしい。

 世の中には、鞄型、腕輪型、アクセサリー型など様々な形状が存在し、内部に亜空間を作り出して、その中に物品を保管する魔道具らしい。

 ゲームらしくていいなぁ、と思っていると、後半部分に重要なことが書かれていた。


「うん?『――アイテムボックスは、時間経過型、時間遅延型、時間停止型がある。その内部にある物の劣化速度を遅くするものがある』って、これ!」


 時間遅延や時間停止のアイテムボックスでポーションを保存しておけば、長期間の保存ができる。

 勿体ない精神の日本人としては、是非欲しい、と思うが、次のページで落胆する。


「あはははっ、作るのは、高いレベルの【錬金術】と【空間魔法】、その他の素材が必要なのね」


【空間魔法】など聞いただけでレアっぽいので、ゴブリンたちからスキルを得ることなど難しいだろうな、と感じる。


「まぁ、今は無理でもいつかは欲しいよなぁ」


 俺がそう呟き、ポーション作りのために大鍋に水を入れて、その中に綺麗に洗ったキィール草を沈めて作る。


「イメージは――80度以上での加熱抽出。薬効成分は、濃度3%、魔力添加、不純物除去――【錬成変化】!」


 俺は、鍋の中に対して、【錬成変化】を使う。

 薬草からスキルによって抽出した薬効成分が鍋の中の水に溶け出し、魔力と結合し始め、緑の色が濃くなり始めるが――


「ヤバッ! 中止!」


 俺は、処理の半分程度の段階でスキルを終える。

 そして、その場にへたり込む。


「ふぅー、はぁー、危ない。魔力が全部吸われるところだった」


 俺の魔力量は64だが、今の一回で残り10まで減っていた。

 そして思い付くのは、調合師は混ぜる際に木へらを通して魔力を添加するという話だ。


「これも【錬成変化】の欠点の一部だな。一瞬で作業工程を錬成しようとするから、一度に魔力が取られる」


 本来、調合の際には時間を掛けて、上手く自分の魔力回復量と消費量を釣り合わせながら魔力を添加するのだろう。

 そのために、調合師の技量によって魔力添加率が変わり、性能が左右されるのではないか、と仮定する。

 もしくは、調合の木へらに魔法使いの杖のような魔力増幅作用があり、それによって消費魔力を削減している可能性だ。


「とりあえず、できたポーションを見てみるか」


 森に自生する麻から錬成した麻布で、色素が抜けてしおしおになった鍋の中身を別の鍋に移す。

 そして、できあがったポーションを鑑定する。


 ライフポーション【回復薬】

 体力回復の低品質なポーション。体力は、HP100回復する。


「うーん。とりあえず、一応はできたけど、あんまり質はよくないなぁ」


 薬草を採取してから少し時間が経過しているために、葉っぱの先が少し萎れていたのが原因かもしれない。

 それとも魔力添加率が悪いのか、水分が多すぎて希釈されてしまっているか。


「薬草に関しては、切り取った部分を湿らせておくのがいいのか。生命力溢れているから茎からでも力強く水を吸ってくれるのか」


【調合】の本に書かれている薬草採取のススメを読み、次は茎の根元を湿らせて持ち帰ろうと、メモを残す。


「えっと、確か蒸留水を加えて薄めても薬効はあるんだよな。けど、再加熱したり、後から魔力を添加しようとすると、薬効成分が消えたり、魔力添加ができない、と――」


 調合の本を読みながら、魔力がある程度回復したところで再び【錬成変化】を行なう。


「さて、今度は、少しずつ脱水するか――【錬成変化】!」


 俺は鍋の中のポーションに対して、少しずつ水分を気化させて、薬効成分の濃度を高めていく。

 そして、鍋の中身が半分くらいになったところで、止める。


 ライフポーション【回復薬】

 体力回復の中品質なポーション。体力回復は、HP200回復する。


「おっ、いけた。魔力添加は受け付けないけど、加熱しない濃縮ならいいんだな」


 俺は、鍋の中で半分になったが、色が濃くなったポーションを見て喜ぶ。


「それで、これを更に濃縮したらどうなるんだ? ――【錬成変化】!」


 俺は、更に薬効成分の濃度を高めていくが、回復量は一定以上にはならなかった。


「あー、200回復が限界かぁ。やっぱり素材の質と魔力添加率の関係かなぁ。とりあえず、200回復のラインまで水を加えるか」


 濃縮後、再び水を加え、嵩増しする。

 結果、鍋の半分ほどのポーションに戻るが、そこでふと気付く。


「あっ、ポーションの保存容器がない。作らないと。本では、ポーション一本の規格が100ml前後くらいか」


 ポーション1本が、大体が前世の栄養ドリンクくらいの容器が必要になるとのことらしく、鑑定した結果は、それを基準とした回復量らしい。

 なので、俺のポーションの場合、体力を100回復させたいなら半分。400回復させたいなら2本飲む必要があるらしい。

 ただ、ポーションは傷に掛ける場合と内服では回復量に差が生まれる。


 外傷に掛ける場合は出血の防止や傷の再生など、更なるダメージを負わないことを目的としており、ポーションを飲む場合には、時間を掛けて体力を回復させたい時らしい。


「えっと、外傷に使う場合には、数値の7割程度。内服では数値通りの回復量だと思えばいい……なるほど」


 ポーション及び、【調合】は奥深い、と感心する。


「ファンタジー世界だからかな。医学ってそんなに発達してなくて、回復魔法やこうした調合師が医者の役割を担ってるんだろうなぁ」


 俺はしみじみと呟きながら、本を閉じる。


「おっと、ポーションを保存する瓶を作らないと――」


 俺は、慌てて近くの森から粘土と水と竈の灰を集める。

 そして、一日掛けて、【錬成変化】で素焼きのポーション瓶を作り、灰と水と粘土から作った釉薬を素焼きの瓶に掛けて、【錬成変化】でガラス化する。

 これにより撥水性を持たせ、内部の液体を保存できるようにした。


「普通は、陶器を作る釜とか必要だけど、上手くできてよかった」


 俺はできた陶器のポーション瓶を手に取り、村から拝借した金属で作った漏斗(ろうと)で水を注ぐ。

 そして内部から液体が漏れないことを確認して、水を捨て、ポーション瓶に漏斗で鍋のポーションを注いだ。


「できたポーションは、4本分だったか。次の探索には2本持っていこう。残り2本は、予備で置いておこう」


 俺は、木の繊維を固めて作った栓をしてポーション瓶を戸棚にしまう。

 こうして小屋の中に薬があると、少しだけ安心感が増した気がする。


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