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1話

 1話


「ようこそ、僕は転生を司る一柱――あなたたちから言えば、神です」

「……神?」


 気がつけば、真っ白な空間に居た。

 目の前には、美しい一枚布の衣服を身に着けた均整の取れた筋肉を持つ男性がいた。

 彼の背後には、目映いばかりの後光が差しているように見える。


「初めまして。私は、雷同透(らいどう・とおる)と言います」 

「どうもご丁寧に。僕は、転生を司る神の一柱。まぁ、見た通り男神(だんしん)だけど、がっかりしたかい?」

「いえ、あんまり気にしてません。むしろ、女性だと気後れするので逆に良かったです」


 今までの人生は――いや死んで死後の世界に居るのなら生前か――女性との付き合いが下手で、女性と付き合ったことのない人生だった。


「君は、死ぬ前のことを覚えているかい?」

「あんまり、覚えてません。ただ、いつも通りに暮らしていたと思うんですけど、神様の手違いとかありましたか?」

「いや、君が死んだのは、誰の手も加わっていない不幸な事故死だよ」


 事故死、と言われて断片的にだが、思い出す。


 駅のプラットホームで起きた酔っ払いの喧嘩に巻き込まれて線路に突き落とされ、電車が迫る記憶を思い出す。

 電車事故で即死だったために、苦しんだ記憶がないのは幸いだ。

 唯一の救いは、天涯孤独のために、電車事故による賠償請求されてしまう身内がいないことだろう。

 まぁ、請求されるのは俺ではなく、喧嘩していた酔っ払いたちと考えれば、多少の溜飲が下がる。

 他の心残りと言えば、これまで真面目に蓄えてきた貯金を使わずに逝ってしまったことは、少し残念である。


「とりあえず、僕の話を聞いてくれるかい?」

「あっ、すみません。わかりました」

「これから君には、僕らの異世界に転生してほしいんだ。理由は、世界の成長かな?」


 男神の話では、その世界はステータスシステムというものを組み込んだ結果、様々な事象がステータスで表記できるようになった。

 ステータスにより能力を管理することで過度なインフレを防ぎ、緩やかな発展を目指していたはずだった。

 だが、男神たちの管理する世界は、逆に人類の能力の平均が上昇しなくなってしまった。


「そこで、君の魂に【成長因子】を載せて、異世界に行ってもらいたいんだ」

「その【成長因子】があると、どうなるんですか?」

「いい質問だね。例えば、君の近くでは、人間の成長が高まりやすい。ゲーム的に言えば、【パーティー経験値増加】やレベルアップ時の【ステータス上昇量増加】みたいな効果だね」


 ステータス世界なのだから、そのようなものがあるのだろう、と頷く。


「【成長因子】が周囲の人間に吸収され、人々の中に溜まる。それが少ない方、薄い方に広がっていき、いずれは世界の平均を底上げする結果になるんだ」

「なるほど。それで人類の成長ですか」

「あとは、もし因子を持つ君と誰かとの間に子どもが生まれた場合、その子どもにも色濃く【成長因子】の影響を受ける」


 つまり、英雄色を好むを実践して、産めよ、増えよ、地に満ちよ、を実行しろということだろうか。

 俺には、ハーレムのハードルは高い気がする。


「ハーレムを作って多くの子が広がれば、因子の広がりが早まって効率がいいけど、別に強要はしないよ」

「そうなんですか?」

「そうだよ。それに、もし因子を十分に拡散しないで君が死んだ場合は、死んだ場所や近くの物が人類を成長させる聖域や聖遺物になって、緩やかに因子を拡散するから遅いか早いかの違いだよ」

「色々な疑問を答えていただき、ありがとうございます」


 俺は、男神に頭を下げてお礼を言うと、ニッコリと微笑まれる。


「さて、君が異世界に転生する理由はわかったね。たしかに、ハーレムを強要はしないけど、推奨してるんだ」

「してるんですね、ハーレム……」

「前世の女性に対しての苦手意識や倫理観で難しいのは、分かるよ。ゆっくりと慣れていけばいいよ。さて、次にこちらで提示するのは――」


 男神は、掌を握り、開くと小さな金色の粒のようなものが載せられていた。


「君の個性にあった固有のスキル――ユニークスキルを授ける。少し目を閉じて」


 そういって男神に促されて、俺は目を閉じる。

 男神の掌にあった金色の粒が俺の胸に押し付けられ、胸の内側に沈んでいく感覚を覚える。

 そして、自分の中に不思議な力が宿るのを感じた。


「君のユニークスキルは――【錬成変化(オーバーチェンジ)】というスキルらしいね」

「【錬成変化】?」

「ああ、二つの能力からなるユニークスキルだ。まずは、対象を解析して、その形状や状態を変えたり、融合、分解することができる【錬成】。二つ目に解析した対象から特定の物を抜き出す【抽出】だよ」

「あの……それって鉱石だったら土とかから金属を取り出して精錬できるってことですか?」

「その認識で間違ってないよ」


 男神は、俺の認識を肯定しつつも、補足してくれる。


「ただ、それだと【土魔法】や【錬金術】スキルでも代用できる。薬を作るなら【錬金術】や【調合】でもできるね」

「まぁそうですね。確かに、他で代用できるなら、ユニークスキルじゃないですよね」


 俺がそう納得すると男神は、今までにない微笑みを浮かべる。


「そう、そこだよ。僕が与えたユニークスキルは、魂にも干渉して【錬成】と【抽出】ができるんだ」

「魂?」

「【死霊術】のように霊魂を操ることはできない。けれど、死体から魂が抜けた後の残滓を錬成して、抽出することができるんだ」


 俺は、何を言っているのだろうか? と首を傾げていると、男神は丁寧に教えてくれる。


「生物は、死ねば次の生のために魂は、冥界に送られる。その際に、現世の記憶の一部が剥がれ落ちるんだ」


 ちょうど、今の君のようにね、と自分が死ぬ前の記憶を断片的にしか覚えていないことを指摘される。


「そんな失われた記憶は、どこにあるかと言えば、亡くなった死体にあるんだ。その死体から魂から剥がれ落ちた残滓を【抽出】して、それを取り込んで強くなることができる」


 今までは神的な微笑みを浮かべていた男神がニヤリと悪魔的な笑みを浮かべる。

 俺は、そのユニークスキルの説明を聞き、微かな恐怖を覚える。

【錬成変化】は、魂の残滓を取り込むことができると言うが、生物の残滓を取り込んだ場合は、どうなるのだろうか。

 俺の中に見知らぬ記憶が混じるのではないだろうか。

 それとも俺の人格は、他の生物の残滓に汚染されて、徐々に消えていくのではないか。

 また、物質の形状を変化できる【錬成】で生物を分解すれば、一瞬で塵に変える強力な攻撃スキルではないだろうか、と考える。


「うんうん、君は賢くて、頭の回転も速い。君の考えは正しいよ」

「えっ、ありがとうございます」

「でも、安心していいよ。ユニークスキルが上手くその辺りを調整してくれる。だから、残滓を取り込んでも余計な記憶は混じらないよ」


 俺は、その説明にホッと安堵の吐息を漏らす。


「魂の残滓は、スキルやステータスといった形で君の中に吸収される。あと、魔力次第では触れた相手を塵に帰せるし、スキルも直接抽出できるけど、現状の君では無理かなぁ。まぁ、ユニークスキルは、使用者の願いで多様に成長する面白さ(ユニークさ)があるから」

「えっと……人に使えそうだし、幾らでも悪いことに使えそうですよね」


 俺の指摘に、こちらを試すような悪い笑みが一瞬、驚きに変わり、穏やかな微笑みに戻る。


「確かに【強奪】や【簒奪】などと言ったスキルと似た要素はある。けど、それをどう扱うのかは、君の行い次第さ」


 悪いことを罰する神にだって、能力を奪う権能を持つのだから、と男神が答える。


「あとは、【錬成変化】は、錬金系のユニークスキルと言っても【錬金術】ができる【付与】はできないんだ。そっちは、【錬金術】スキルを習得するか、工夫するかだね」


 そう言って、一通りの【錬成変化】の説明を受ける。

 とりあえず、使って慣れていった方が良さそうだ。

 神秘的な微笑みを浮かべている男神は、最後にアドバイスを一つ与えてくれる。


「人前で扱う分には、【錬金術】と偽ると良いかもね。付与以外は、錬金スキルと同じことができるからね」

「色々とありがとうございます」

「それじゃあ、君を異世界に送るね。幸ある人生を――」


 そうして意識を落とした俺が次に目を覚ましたのは、小さな家の中だった。

 俺の異世界での生活は、ここから始まるようだ。


書き溜め10万文字分は、毎日投稿を予定しております。それ以降は未定です。

よろしければ、お付き合いしていただけたらと思います。

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