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98.アレク、フォトコンテストで寝顔を提出する

本日でそれは非売品です!は7周年を迎えました。

いつも応援してくださる皆様のおかげです。本当にありがとうございます!

久しぶりの更新、お楽しみいただけましたら幸いです。

 俺さ、写真撮るの好きなんだよ。

 別にカメラとか詳しくないし、なんなら最近はスマホで撮るだけのことも多いんだけどさ。

 趣味が旅行だから世界の絶景スポットみたいなのは、わりと行ってるし写真も撮ってあるんだ。

 だから、とある旅行会社が企画したフォトコンテストに応募してみようかなぁって。

 そう思った俺は、写真が入れてあるクッキー缶をクローゼットから取り出した。


「最近の写真はスマホの中だから、現像しているのはちょっと古い写真しかないんだよなぁ」


 せっかくだから、キリトやジェルにも一緒に見て選んでもらおうかな。

 キリトは俺の家に同居しているオタクの幽霊だ。普段はテディベアに憑依している。

 今はたぶんリビングでゴロゴロしているか、漫画でも読んでいるだろう。


 俺がリビングにクッキー缶を持っていくと、やはりキリトはソファーに寝転がって漫画を読んでいた。

 そのすぐ傍では弟のジェルマンがソファーに座って、難しそうな分厚い本に集中している。

 俺がテーブルに缶を置くと、二人は少し顔を上げてちらりとこっちを見た。


「アレク氏、おやつの時間でありますか?」


「クッキーをいただくなら、紅茶も欲しいですね」


 二人は、俺がクッキーを一緒に食べようと持ってきたと勘違いしたらしい。


「いや、これはお菓子じゃねぇんだ。単に缶を保管に使ってるだけで中は写真なんだけどさ」


「写真がどうかしたんですか?」


 そこで俺は、フォトコンテストに出す写真を選びたい、ということを話した。

 だが、ジェルはそれには興味が無いらしく、再び視線を本に戻してしまう。


「そんなの、アレクが適当に好きなのを選んだらいいんじゃないですかね。ワタクシは読みかけの本がちょうどいいところで忙しいので」


「あー、そっかぁ……」


 たしかに熱心に読んでたもんなぁ。邪魔しちゃ悪いか。

 少ししょんぼりする俺を見て、キリトが声をかけてきた。


「それは、賞品とかもらえたりするんでありますか?」


「うん。大賞は南極クルーズで、賞金も三十万円もらえるんだったかな」


 三十万円、という響きにジェルが再び顔を上げた。

 すばやく本を横に置くと、急に身を乗り出してきて、真剣な目つきでクッキー缶に手を伸ばす。


「アレク。写真選びはワタクシが手伝ってあげましょう。その代わり賞金がでたら半額ワタクシにくださいね」


「あ、あぁ……構わないが」


「審査員の傾向は調べましたか? それに過去の入選作品の分析も必要です」


「ジェル氏がやる気を出したであります」


 ――キリト、グッジョブだ。いつの間にかジェルを上手に使う術を覚えていたんだな。


 俺たちはクッキー缶の蓋を開けて写真を取り出し、テーブルの上に広げた。

 ジェルは形の整った眉をわずかに吊り上げ、透き通るような青い瞳で写真の一枚一枚を吟味していく。

 その様子は、まるで美術館のキュレーターが展示作品を選定しているかのようだった。金が絡むとここまで違うのか。


「うーん……どうもインパクトに欠けますね。普通の観光写真というか。もっとこう、誰もがすごいと感じる絶景はないですかね」


「じゃあ、トロルの舌はどうだ?」


「それはいいかもしれません」


「トロルの舌? なんでありますか?」


 きょとんするキリトに対して、ジェルが丁寧に説明する。


「トロルの舌はノルウェーの高い山の上にある切り立った断崖絶壁のことです。岩の突き出た部分が、まるで妖精トロルが舌を伸ばしているように見えることから付いた名前なのですよ」


「岩の突き出た部分が、舌に見えるでありますか」


「えぇ、ちょうど一か所だけ細長く突き出ていて、人がそこを歩けるようになっているのですよ。柵もありませんし、とても危険ですけどね」


「これが、その写真だな」


 俺が写真を二人に見せると、ジェルは不思議そうな顔をした。


「この景色の角度おかしくないですか? 空中に浮いているか、もしくは崖からぶら下がってないと撮れないですよ」


「あぁ、それは片手で先端にぶら下がって、崖の真下から撮ったんだ。普通そんな場所から撮れないだろ? 珍しい構図だと思ってさ」


「よく怒られませんでしたね」


「もちろん、めちゃめちゃ怒られた」


「確かにインパクトはありますけどねぇ……」


 ジェルは渋い顔をしている。ならば別のを見せてみるか。


「これなんかどうだ? ナイアガラの滝なんだけど。虹が綺麗でいいだろ?」


「水しぶきがすごい迫力であります!」


「そうですね……いや、――でも。うーん?」


 ジェルは、また不思議そうに首をかしげている。


「どうして滝の真下から虹を見上げる構図なんですかね? それだと、滝つぼからじゃないと撮れないはずなんですが」


「滝つぼから撮ったからな。ちょっと近づきすぎて落っこちちゃってさぁ。水の勢いすごくてヤバかったのは覚えてる」


「写真撮ってる場合じゃないですね」


「どうやって生還したのか気になるであります」


「そこはフィジカルだよ、フィジカル」


 実際、俺もどうやって岸に戻ったか覚えてないんだよなぁ。


「そんな危険なことしちゃだめじゃないですか!」


「十年以上前の話だから。今は無茶してないから大丈夫だよ」


「どうだか。そもそもアレクは軽率すぎるんですよ。自身の身体能力を過信しすぎるというか。だいたいですねぇ、ワタクシがどれだけ普段から心配しているかわかってるんですかね……」


 ――うわ、これお説教が始まるやつじゃねぇか。

 藪をつついて棒に当たる……いや違うな、蛇だ。藪をつついて蛇を出すってやつだ。

 キリトが「アレク氏の責任でありますよ」と言わんばかりに視線を投げかけてくる。


「おっと、そういえばそろそろおやつの時間だな! お兄ちゃんコンビニに買い物行ってくるわ。付き合ってくれてるお礼に美味いアイスを買って来るからちょっと休憩しよう、な?」


「えっ、アイスですか。それは構いませんが」


「じゃあ行ってくるわ」


 ジェルが同意したのでこれ幸いと、俺はコンビニに出かけた。

 お説教が始まると長いからな。高級アイスを差し出して気をそらすのが一番だ。

 ちょうどコンビニで季節限定の良いアイスがあったんで、買って帰ることにした。


「ただいま~……あれ?」


 アイスの入ったビニール袋を片手にリビングに戻ってみると、キリトが片手を口元に当ててこっちを見ている。


「シーっであります。ジェル氏が寝ているでありますよ」


 見れば、ソファーにもたれてジェルはすやすやと眠っていた。

 分厚い本をずっと読んでいたから疲れてたんだろうな。


 天使のような寝顔のジェル。傍らには分厚い洋書。

 そしてテーブルには散らばったたくさんの写真。

 ――これって、もしかして被写体として最高なんじゃないだろうか。


 俺は音を立てないように気をつけながら、自分の部屋からカメラを持ってきて、その光景を撮影した。

 シャッター音でジェルが目を覚ましちゃったから一枚しか撮れなかったけど、その一枚はとても良い感じに撮れたと思う。


 せっかくなのでジェルに許可をもらって、コンテストに出してみた。

 すると大賞は逃したものの、佳作として入選したんだよ。


「ワタクシが被写体なのに大賞じゃないなんて、審査員の目は節穴ですかねぇ」


「まぁそう言うなって。賞金は無かったけど、図書カードをもらえたからジェルにやるよ」


「ちょうど買おうと思っていた本があるのでうれしいですね、ありがとうございます」


 返却された写真は、フォトフレームに入れて俺の部屋に飾ることにした。

 ジェルには「そんな日常の写真を飾らなくても」と呆れられたが、俺にとっては大切な一枚だ。

 絶景に勝るとも劣らない、心に残る景色だと思っている。

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