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95.妖怪の村

 お兄ちゃんさ、こないだ迷子になっちまったんだよ。

 いやまぁ、いろんな国を旅してるから気が付いたら知らない街に来ちゃってて、ここがどこかわかんない……なんてことはよくあるんだけどさ。

 でも今回のは次元が違うというか。

 よかったら聞いてくれ。


 その日、俺は家に帰る為に電車に乗ってたんだけどうっかり寝過ごしてしまってな。

 気が付いたら終点だったんだ。

「この電車は回送になりますから、降りてください」ってアナウンスがあったんで慌てて電車から降りたんだけどなんかおかしい。


 俺の記憶だとこの駅はもっと周囲にビルやマンションが立ってて都会のはずなんだけど。

 なぜかそこは山に囲まれたド田舎だったんだ。

 どこからともなくカエルの鳴き声も聞こえてくる。


 駅名を確認したら、ちゃんと正しい駅名だった。

 俺の記憶違いなんだろうか。


 そのまま反対のホームで電車を待ってればよかったんだけど、好奇心から改札を出てあてもなく歩き始めちゃったんだよ。

 ちなみに改札は無人だったし、今になって気づいたけど電車から降りた時も俺一人だったんだよな。


 夕暮れの中とくに行くあてもなく、田んぼだらけの舗装されてない道を歩く。

 周囲に民家はぽつぽつとあるみたいだけど、さっきから誰ともすれ違わないし車やバイクの音もしない。

 聞こえるのはカエルの声とカラスの鳴き声だけだ。


 ――予想以上に何も無いし、素直に駅に戻るか。

 俺は来た道をそのまま引き返した。

 そう、引き返したはずなんだ。

 なのに駅が見つからない。来る途中にあったはずの民家も消えてただの森になっている。


「どうなってんだ?」


 スマホのアプリで現在地を確認しようと思ったら、電池切れなのか電源が入らない。

 充電満タンにしてきたはずだったのになぁ。


「どうしたもんかな……」


 今はかろうじて日が沈んでいないが、あと三十分もしないうちに真っ暗になってしまうだろう。

 遠出をするつもりではなかったので、鞄の中にあるのはチョコチップクッキーが少しと水のペットボトルだけだ。


「まぁ食い物と水があればどうにかなるか」


 完全に暗くなる前に、休めそうな場所を探そう。

 そう思って落ち着いて周囲を見渡すと、少し離れたところに灯りが見えた。

 民家だろうか。助かった。誰かに出会えたら何とかなるだろう。


 ――たとえそれが人間じゃなかったとしても。


「オマエ、見ない顔ダナ」


「あー、えっと。道に迷っちゃってさ」


「迷子ナノカ」


「うん」


 俺が話しているのは、炎を纏った鳥だ。

 でも顔は人のような犬のような何とも言えない奇妙な顔だし、言葉が通じる。


「何かくれるナラ村に案内シテヤルゾ」


「何か?」


「オマエの目玉、キレイで美味そうダナ」


 鳥はふわりと宙に浮いて俺の顔に近づく。炎に包まれているのに不思議と熱気は伝わってこない。


「おいおい、勘弁してくれよ。それよりももっと美味い物持ってるぞ」


 俺は鞄からチョコチップクッキーを取り出して、鳥の目の前に一枚差し出した。

 鳥はそれをひと齧りすると、目を見開いて前足でクッキーを奪い取った。


「モット寄こセ」


「ちゃんと案内してくれたらもっとあげるぞ」


「イイダロウ、オレサマはふらり火ダ。コンゴトモヨロシク……」


「俺はアレクだ。よろしくな!」


 クッキーを気に入ったのか、ふらり火と名乗った鳥は機嫌良く先導するように飛び始めた。

 その名に相応しく夜道をふらりふらりと左右に揺れながら飛ぶ姿は、炎が踊っているようでなかなかに綺麗だ。

 しばらく歩くと、藁ぶきの民家と畑が点在する集落に着いた。


「ココ、妖怪の村」


「ヨウカイノムラ……?」


 聞いたことのない地名だ。でもとりあえずは人里にたどり着けたことに安心する。

 俺がクッキーを全部ふらり火に渡すと彼は大喜びでがっついた。


「おや、ふらり火さん。見たことない人を連れてやすねぇ!」


 軽い調子で声をかけてきたのは大きな嘴にぎょろりとした目ん玉をもつ妖怪だった。


「オレサマのトモダチだ」


「それはそれは……どうも、あっしは髪切りでやんす。床屋を営んでおりやすんで、どうぞご贔屓に」


 髪切りと名乗った妖怪は気さくに片手を上げるが、その手は大きな鋏だ。

 どう見ても化け物だったが、危害を与えてくる様子はなさそうなのでよかった。


「なぁ、俺腹減ったんだけど、飯が食えるところは無いかな?」


「飯でやんすか。河童の寿司屋はどうでやんす?」


「寿司いいなぁ」


「案内してヤル。こっちダ」


 ふらり火が先に行ってしまったので、俺は髪切りに別れを告げて追いかけることにした。


 河童の寿司屋はこじんまりとした店で、パック寿司の持ち帰りが基本のようだった。

 一応その場でも食べられるように、店の前に座る場所がある。

 茶店で見るような背もたれのないウッドデッキみたいなやつ……あれなんて言うんだっけかな。そうそう、床机だ。

 提灯がたくさん吊るされているからかなり明るいし、ここで寿司を買って食うのも悪くない。


「カッパッパ~、ご注文は何にするけ?」


「えっと、この八貫入りのを二人前で」


 ふらり火も食べると言うので、小さな盛り合わせを注文した。


「できたッパよ。1600円ッパ」


「お、ありがとうな!」


 河童は水かきが付いた緑色の手で、寿司の入ったパックをビニール袋に入れている。

 昔話なんかでよく見る、頭に皿があって顔に嘴がある河童らしい姿をした河童だ。

 いつだったか、ジェルに魔界にある河童の沼に連れて行かれたことがあるんだけど、そこで見た河童はもっと人間っぽかった。

 たぶん河童にもいろいろ種類があるんだろうな。


 財布を取り出してお札を手渡すと、河童は不思議そうに言った。


「このお札は何だッパ? 見たこと無いッパ!」


「いや、千円札だけど」


「千円札はこれだッパ!」


 河童が見せてきたのは旧紙幣だ。もしかして、新紙幣になったことを知らないのかもしれない。


「いや、これは新紙幣なんだよ」


「知らないッパ! オラが河童だからって騙そうとしてるっパ? オラは人間の世界で寿司の修業した河童だから騙せないッパよ⁉」


 どうやら旧紙幣じゃないと使えないみたいだが、財布の中にあるのは新紙幣と硬貨が数枚だ。


「ごめんな。俺、これしか持ってないんだ。代わりに寿司の分だけここで働くから勘弁してくれないか?」


 財布の中身を見せながらそう伝えると、河童は奇妙な提案をしてきた。


「わかったッパ。じゃあオラと相撲を取ろう。勝ったらタダにしてやるッパ!」


「相撲? そんなのでいいのか。いいぞ」


 そんなわけで俺は、店の前でなぜか河童と相撲を取ることになった。

 河童は棒で地面に円を描く。その線からはみ出るか地面に足の裏以外が着いた方が負けだ。

 俺は普通に成人男性の体格だが、河童の身長はせいぜい小学生くらいだろうか。しかも細くて華奢な感じだ。

 こんなに体格差があれば勝ったも同然だと思ったんだけど。


「はっけヨイ……のこっタのこっタ!」


 ふらり火がその場をくるくると飛んで行司をする中、俺と河童はがっちり組み合って動けなくなっていた。

 その小さな体からは想像もできない力強さだ。


「くっ……すごいな」


「そっちもやるッパ!」


 相撲というのは単純な力比べだけではない。

 立ち合いの駆け引きとスピードが重要なんだそうだ。

 前にテレビを見ながら弟のジェルがそう言ってた。

 立ち合いとか正直よくわからんが、力で押すばっかりじゃないってことはわかる。

 かと言ってどうしたらいいのか。

 そう思っていると俺の腹の虫がぐぅぅぅぅと大きく鳴った。

 河童はその音に一瞬気を取られたのかわずかに力が緩んだ。その隙に俺は肩を傾けて体を斜めに捻る。

 慌てて河童が押し出そうとする力を利用して、回り込んでそのまま河童を土俵の外に押し出した。


「オラの負けッパ!」


 今のは卑怯だと言われるかもと思ったんだけど、河童はあっさり負けを認めた。


「腹の虫の音に気を取られたのはオラが未熟な証拠だッパ。それに久しぶりに相撲がとれて楽しかったから問題ないッパ!」


 なんつーか、すげぇ人間できてるな。いや、人間じゃねぇんだけども。

 何はともあれ、俺たちはありがたく寿司をご馳走になった。

 河童の好意で巻き寿司を追加されて、さらにお茶まで用意してくれたので大満足だ。

 俺たちが寿司を食べ終わってお茶をすすっていると、見たことのある妖怪が声をかけてきた。


「おい、前に一緒に飲んだ兄ちゃんじゃねぇか。なんでこんなところに居るんだ?」


「琵琶さん⁉」


 古い楽器の形をした頭に、蓑を着たその妖怪は、琵琶の妖怪だ。

 隣には琴を背負ったトカゲみたいな妖怪が居て、くりっとした丸い目で俺を見つめている。


「人間はここに居ちゃいけないよ。この村には問答無用で人を食うような妖怪は居ないけども、それでも食わないとは言ってないからね」


「おいおい、琴。こいつは俺の知り合いなんだ。あまり脅かしてやるなよ」


 淡々と語る琴の妖怪を琵琶さんが嗜める。

 俺は彼らに改めてここに来た経緯を話した。


「ふーん。たまたま波長が合っちゃったんだろうね。君は僕らが見える人だから。いわゆる神隠しというやつだよ」


 琴の妖怪は淡々と説明する。


「俺、もしかして家に帰れなかったりするのか……?」


「こいつ良いヤツ。オレサマと美味い物ワケタ。トモダチ」


 不安そうな俺を擁護するように、ふらり火がバサバサと翼を揺らして抗議する。


「……琵琶とも知り合いみたいだし、今回は助けてあげるよ。黙って付いておいで」


 俺は琵琶さんたちに先導されて夜道を歩いた。

 その間に一つ目の子どもや、人の顔をした動物とすれ違ったりもしたけど、皆知り合いらしくて琵琶さんたちと挨拶していく。


 この村についてもっと聞いてみたくなったが、琴の妖怪に黙っているように言われたから俺はおとなしくしていた。そのせいで家に帰れなくなるのは困るしな。


 少し歩くと小さな赤い鳥居が見えた。その奥にも小さな鳥居がいくつかあるのが見える。

 真っ暗なのにそれが見えるのは、鳥居が淡く光っていたからだ。


「家に帰りたいと思いながら、あの鳥居を全部くぐって。……いいかい。その間、絶対に後ろを振り返っちゃ駄目だよ」


 俺が緊張した顔で黙って頷くと、琵琶さんが耐えられないといった感じでププッと吹きだした。


「ちょっと琵琶! 笑わないでよ~!」


「いや、だって琴がさも大妖怪みたいな演技してるから面白くってさ」


「だって人間が来たときくらい怖がられたいじゃない! 僕だって妖怪なんだしさぁ~!」


 琴の妖怪は前足をブンブン振り回して琵琶さんに抗議している。

 どうやら、本当の彼はまったく怖くない妖怪らしい。

 実際、顔もお目目クリクリのモフモフで可愛いしなぁ。


「まったく。人間に妖怪の怖さを教える作戦が台無しだよ~」


「すまんすまん。まぁそんなわけで、ここから帰れるからさぁ。気を付けてな~」


「アレク。さらばダ」


「うん、皆ありがとう!」


 皆に見送られて、俺は鳥居をくぐった。

 もしかしたら大丈夫だったのかもだけど、約束を守って一度も振り返らなかった。

 そして、最後の鳥居をくぐった瞬間、我が家の前に立ってたんだ。


 まさか夢だったんだろうか。

 とっさにスマホを確認してみると普通に電源が入った。

 そして、鞄の中からチョコチップクッキーが無くなっていた。


「やっぱり夢じゃなかったんだなぁ」


 帰宅してジェルに妖怪の村のことを話すと、ものすごい剣幕で怒られて、無事に帰って来れてよかったとしみじみとした表情で言われた。


 皆も、知らない場所に迷い込んだら気を付けるんだぞ。

 もしかしたら、不思議な世界に繋がっているかもしれないからな。

予約投稿してなかったので更新日が1日だったことを忘れてました。待ってててくださった方がいらっしゃったらすみません><

次回の更新は4月5日(土)です。ここまで読んでくださりありがとうございました!

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