78.鉄食いイモタロウ
こないだ、フォラスのおっちゃんに会うために魔界に行ったの覚えてるか?
その時に、パンダの乗り物そっくりの大きな虫が住んでるところに連れて行ってもらったんだけどさ。
そこで金色のどんぐりが落ちてるのを見つけたんだよ。
後で弟のジェルマンに見せようと思って、拾ってズボンのポケットに入れておいたんだけど。
いろいろあって結局そのまま忘れてたんだよな。
それからしばらくして、服を洗濯しなきゃなぁってなってポケットを見たら、どんぐりが割れてて中から小さな黄色い芋虫が出てきたんだ。
「これ、ジェルに見せたら怒られるよなぁ……」
怒られたくなかった俺は、こっそりこいつを飼うことにした。
プラスチックの飼育ケースに入れて、餌はキャベツの葉っぱを用意した。
「名前、何にしようかなぁ……芋虫だからイモタロウでいいか。お前は今日からイモタロウだ!」
名前を付けて満足した俺はケースの中を覗き込んだ。
でも困ったことに、イモタロウはキャベツに見向きもしない。
「何だったら食べるんだろうな?」
家にあった食材をいろいろ試したんだけど、結局どれも食べなかった。
唯一、ジェルがボンゴレビアンコを作る為に買っていたあさりには興味を示したけども、結局それも食べなかったんだ。
カエルみたいに生餌じゃないとダメなのかと思って、庭で蚊を捕まえて入れてみたりしたけど、そういうのでもないらしい。
「イモタロウは、何が食べたいんだ?」
俺はなんとなくイモタロウを飼育ケースから机の上に出してやった。
するとヨジヨジと体をくねらせて、ペン立ての方にまっしぐらに向かっていく。
「おい、そっちは危ないぞ」
するとイモタロウは、ペン立ての側に落ちていたホッチキスの針を食べてしまった。
「おい、そんな物食ったら死ぬぞ!」
さらに側に落ちていた画鋲まで齧って、細い針の部分が無くなってしまった。
「もしかして、こいつ……金属を食べるのか⁉」
プラスチックのケースに戻して様子を見たけど、あんな物を食べたのに特に苦しそうにしている様子も無い。
やっぱり魔界の生物ってちょっと変わってるんだなぁ。
それから俺は、毎日ホッチキスの針をイモタロウに食べさせてやることにした。
銀や金も与えてみたけど、それには興味を示さなかった。
どうやら鉄が好きみたいだ。
一週間でイモタロウは俺の親指くらいに育った。
ホッチキスの針と画鋲を与えているけど、すごい勢いで食べるから面白い。
二週間後には、中指くらいの大きさになった。
画鋲をあげると針だけじゃなく丸い部分まで綺麗に食べる。
俺のことを餌をくれる人と認識できているらしく、俺がケースに近づくとお尻を振りながら近寄ってくるのが可愛い。
食べる量もホッチキスの針じゃ追い付かないから、ホームセンターで鉄釘をたくさん買ってきて食べさせた。
それがいけなかったんだろうか。三週間後には、俺の掌よりも大きなサイズになってしまった。
「でっかくなったなぁ……」
このまま育てていくとどうなるんだろう。
芋虫だし、いつかでっかい蝶になったりするんだろうか。
そろそろ飼育ケースをもう少し大きいのにしてやった方がいいかもしれない。
そう思っていた矢先に、ジェルに見つかってしまった。
「ひぃぃぃっ!! アレク、なんですか、その気持ち悪いのは⁉」
「気持ち悪くなんかないぞ! 俺のペットのイモタロウだ!」
俺はジェルに事情を説明した。
するとジェルは「鉄を食べる」ということに引っかかるものがあったらしく考え込んでいる。
そして、困ったような顔をしながら俺に話し始めた。
「これは朝鮮半島に伝わっている昔話なんですけどね……とある町で女の人が針仕事をしている時に虫がやってきて、その虫が落ちていた針を食べたんだそうです」
「イモタロウみたいだな」
「えぇ。その虫は針を食べた分だけ大きくなりました。きっとその後も針や鉄くずなんかを食べたんでしょうね。とうとう鉄釜を食べるまでに大きくなったそうです」
鉄釜……要は鉄の鍋とかだな。イモタロウも今は釘を食べてるけどもっと大きくなったら鍋やフライパンとかあげないといけないかもしれない。
「そして周囲のありとあらゆる鉄を食べるようになってとても巨大になったので、困った町の人はその虫を退治しようとしたのです」
「えっ、そんな!」
「鉄はワタクシ達の生活に欠かせない素材です。それを大量に食われるとなれば、退治せざるを得ないのですよ」
「まぁそうだけど……」
ジェルは、イモタロウを殺せと言いたいんだろうか。
「まだ話の続きがあります。その虫は体が鉄で出来ているからとても硬くて、退治しようとしても刀も槍も効果がありませんでした」
「じゃあ退治できねぇじゃねぇか」
「その通りです。そこで軍隊が出動して、虫の体に油をかけて火を放ったのです」
「それで、虫は死んだのか?」
動揺した俺に対して、ジェルは冷静な声で「いいえ」と言った。
「もし鉄がその程度で燃えるなら鍋もフライパンもとっくに灰になっていることでしょう。実際は燃えませんから、虫は火を纏ったまま苦しんで町の中を転げまわったのです。その結果、町は大火事になり消失したんだそうです」
ジェルはここまで一気に話すと、はぁ……と溜息をついた。
「もちろん同じことが起きるとは言いませんけども、それでもその虫も恐らく無尽蔵に大きくなって、ここでは飼えない状況になると思いますよ」
「……そうかもしれない」
現にイモタロウの成長スピードは加速している。体の表面も硬くなってきているようだ。
「ワタクシは、その虫を魔界の元居た場所に返してあげるのが良いかと思います」
その意見に同意した俺は、ジェルに頼んでドングリを拾った場所に連れてきてもらった。
イモタロウもケースの中に入れて一緒に来ている。ケースがずしっと重たい。
「ほら、アレク見てください。柵の中にその虫そっくりの芋虫がいますよ」
そこには親指サイズくらいの、イモタロウそっくりの芋虫が動いている。
ここならイモタロウも仲間と一緒に暮らせるんだろうか。
そう思った瞬間、目の前でイモタロウの仲間がパンダみたいな虫にパクッと食われてしまった。
「うわぁぁぁぁぁん! やっぱりイモタロウ連れて帰るぅぅぅ!!」
「いけません! これが正しい生態系なんですから!」
「ちゃんと世話する! 俺が養うからぁ!」
「エサ代にいくらかかると思ってるんですか⁉」
俺とジェルが言い争いをしていると、リヤカーにたくさんの鉄くずを乗せたおじさんがやって来た。
「おや、でっかいテツクイコロネムシだねぇ」
「テツクイコロネムシ?」
「その芋虫のことだよ。ここまで大きいのは初めて見た。大抵はその大きさになる前に食われるからなぁ」
おじさんはイモタロウを見て感心している。
俺たちはおじさんから詳しい話を聞かせてもらった。ここにいるパンダそっくりの虫は、ジャイアントシロクロベアードクムシという名前で鉄をいっぱい含んだテツクイコロネムシを食べるらしい。
その結果、フンが純度の高い鉄になるのでそのフンを回収して鉄製品に加工するんだそうだ。
「なるほど、だからここでその虫たちを飼っているんですね」
「なぁ、イモタロウをここに放したら、食われちまうんだよな?」
「うーん。そこまで大きいのは珍しいし、先生に見てもらった方がいいかもしれないねぇ」
親切なおじさんはそう言って、この芋虫を研究している学者さんを呼んでくれた。
その結果、イモタロウはその学者さんの家で飼われることになった。
ちょうど繁殖させる為にテツクイコロネムシを捕まえたいと思っていたところだったそうだ。
「なぁ、その虫って大きくなるとヤバいんじゃねぇのか?」
俺の心配にフクロウに似た姿をしている学者さんは、ホーホー鳴きながら答えた。
「大丈夫だホー。餌の量を調整すれば、これ以上大きくならないホー」
「よかったぁ……イモタロウ、元気でな」
俺が声をかけると挨拶するようにお尻を振った。
イモタロウが幸せに暮らしてくれることを祈って俺たちは魔界を後にしたのだった。
次回の更新は11月4日(土)です。
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