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76.アレクとジェルのお化け屋敷

 なぁなぁ、苦手を克服する時ってどうしてる?

 お兄ちゃんはさ、あえて苦手に立ち向かうことで克服するんだ。

 俺の苦手な物は何かって? それはな……。


「えっ、お化け屋敷でアルバイトするんですか⁉」


「そうなんだよ。お化け役が足りなくって、友達がどうしてもって言うからさ」


 俺の説明に弟のジェルマンは眉間に眉を寄せて「うーん」とうなっている。


「でも、アレク。あなた幽霊は苦手じゃなかったんですか?」


「まぁそうなんだけど。でもこっちが幽霊の仲間になっちまえば怖くないかもだし大丈夫かなって」


「そんな自分もゾンビになればゾンビが怖くないみたいな理論で……まぁ別にワタクシには関係ないですけども」


 ジェルは自分には関係ないと言うが、実はそうじゃないんだな。

 なぜなら、ジェルも一緒に連れて行くって友達に言っちゃったから。


「いやいや。そう言わずにジェルも一緒にアルバイトしようぜ!」


「えぇ~、嫌ですよめんどくさい」


 まぁそう言うと思った。でもこんなことで引き下がるお兄ちゃんじゃないぞ。


「いや~残念だなぁ。レトロな屋敷で人間社会に怨嗟の声を上げながらたたずむ……そんな人間的深みのある演技ができるのはジェルだけだと、お兄ちゃん思うんだけど」


「ふむ……まぁ、ワタクシぐらいになると、年月を重ねた人間の深みというものが自然とにじみ出てくるものですからね」


 お、ジェルの口角が上がった。喜んでる。もう一押しだ。


「そうだろう、なにせ昔をイメージした情緒あふれる建物だからな、ジェルにピッタリのロケーションだと思うんだ」


「ふむ……寂れた洋館でアンティークに囲まれ孤独に研究を続ける神秘的な美しい錬金術師……きっと訪れた人はワタクシに畏怖を感じることでしょう!」


 ――なんか勝手に勘違いしてくれてるからちょうどいい。このまま押し切っちまおう。


「さすが孤高の錬金術師ジェルマン! よっ、世界一!」


「世界一は大げさですけどねぇ……まぁそういうことでしたら力を貸してあげなくもないですよ」


 よし、言質はとった。隣でテディベアのキリトが呆れた顔をしている気がする。


「留守は小生が預かるであります。アレク氏と行ってくるといいであります」


「なんだ、キリトは来ないのか?」


「そんな幽霊だらけのところ、怖いから嫌であります」


 キリトもたしか幽霊だったはずなんだけどなぁ、と思いつつ俺は承知する。

 こうして、俺たちは二人で遊園地のお化け屋敷のアルバイトをすることになった。


 そして翌日。お化け屋敷と書かれた木製の看板がついた和風の建物を見て、ジェルがヒステリックに声をあげた。


「これはどういうことですか! 寂れた洋館はどこに⁉ どう見ても日本家屋じゃないですか!」


「あー、まぁその辺はささいな違いだから大丈夫だよ! 誤差の範囲だ!」


「誤差の意味知ってます⁉」


「まぁまぁ。こういう仕事をジェルはやった事が無いだろ? 社会勉強だと思って行こうぜ」


 プリプリ怒るジェルをなだめつつ、俺たちはお化け屋敷の中に入った。


「おー、アレク! 来てくれて助かったよ~、マジ人手不足で超ヤバくてさ~。しかも皆、言葉通じなくて大変なんだよ……」


 俺をアルバイトに誘った友人は、困った顔で他のメンバーを紹介する。

 その場に居たのは、ベトナム人、中国人、アメリカ人にブラジル人、アフリカ人、ドイツ人だった。全員、白い着物着てて頭に三角のやつを付けている。明るいとこで見たらコントみてぇだ。


「人手不足を外国人労働者で安易に解決するのは良くないとワタクシは思いますよ」


「いやぁ、でもここに居る皆さんでなんとかしてもらわないと困るんですよ~。本当に人手不足でねぇ」


 ジェルの言葉に、遊園地スタッフの制服を着た友人が返答する。

 事情を詳しく訊いてみると、病気や休暇がありえないレベルで重なって、お化け屋敷担当のスタッフが全員休みになってしまったらしい。

 つまり、ここに集められた人は全員、未経験の素人ということだ。


「事情はわかりました。それで、ワタクシは何をすればいいんですか?」


「適当に好きな場所でお化けやってください。俺も普段はメリーゴーランドの担当なんでよくわかんないんスよ~」


 俺は友人に頼まれるままに、外国人たちにそれぞれの言語で「好きな場所で適当にやれ」という命令を伝える。

 俺たちが白い着物に着替えて戻ってくる頃には、遊園地が開園していた。


「さて、ワタクシ達はどこを担当しましょうかね?」


「俺は井戸から出て、うわぁぁあぁ~って脅かすのやりたいな」


「いいですね。行ってみましょう」


 俺たちは薄暗い中を歩いて井戸へ向かう。時々、入口の方から「ウォウ、ウアメシアー!!」という声が聞こえる以外は静かだ。


「ウアメシアってなんだ?」


「たぶん、うらめしや~って言っているつもりなんじゃないですかね? さっきアレクが皆さんに教えてあげてたじゃないですか」


「うらめしやって言わせとけば幽霊っぽくなるかと思ったけど無駄だったな」


「声に生命力がありすぎますね」


 小さな屋根の下にある石造りの井戸に行ってみると、なぜか中から白い光が漏れていた。

 覗き込むと中国人が中でスマホを見ながら座っている。

 ここは涼しくて座れるから居心地がいいらしい。


「先客がいるなら仕方ない、他のところに行くか」


「楽そうな場所は、もう他の人に取られてそうですねぇ……」


 俺たちは、作り物の安っぽい骸骨や破れた提灯が照らす中をあてもなく歩き始めた。


 磔にされた作り物の死体が、ガーっと機械音をさせながらこっちに向かってきたかと思うと、そのまま時間が巻き戻るかのように遠ざかって行く。


「こういう仕掛けって元の場所に戻っていく時がシュールだよな」


「ライトが消える前に戻られると雰囲気ぶち壊しですね」


 さらに歩くとヒュゥゥォ~となんとも表現しがたい音と共に

 和服の女の人の人形がライトに照らされた。

 何が起きるのかと見ていると、シューッという機械音をさせながら女の人の首が真上に伸びる。


「ろくろ首ですね。設計の都合なんでしょうけど垂直に伸びるのはどうかと思います」


 確かに。なんかうねうねして欲しい感あるかも。

 気が付けばジェルと二人でお化け屋敷を見て回っただけになってしまった。

 それにしても、さっきから俺たち以外のスタッフの姿が見えない。


「好きな場所で適当にやれって言ったから、皆あちこちでお化け役をしていると思ったんだけど……」


「さっきから作り物のお化けばかりで人が居ませんね」


 不思議に思いつつも歩いていくと、カァカァとカラスの声が聞こえる墓場の隣に、藁ぶきの古民家があった。

 障子越しにたくさんの影が映っているのが見える。


「どうやら皆、こっちに居るみたいだな」


 横に回りこむとスタッフ用の扉があったんで開けてみる。

 中は電気がついてて明るいし、畳と座布団まである。

 そこでは死に装束の外国人が座布団に座って無言で弁当を食っていた。


「なんだこの状況」


 部屋の奥では化け猫の人形が笑いながら左右に揺れているが、誰も気にしていない。


「皆フリーダムすぎてヤバいな……」


「アレクが引くレベルのフリーダムってかなりの無法地帯ですよ」


 その時、閉まっているはずの障子が開いた。お客さんが近づくと障子が開く仕組みらしい。

 本来は中の化け猫がお客さんに見える構造なんだろう。

 だが化け猫は部屋の隅に追いやられ、死に装束の外国人が集団で弁当を食ってる光景しか見えない。


 お客さんが俺たちを見てぽかーん、としている。

 まぁそうだよな。

 くそ、この沈黙は気まずい。

 皆、気にせずに弁当を食っている。メンタル強いな。

 早く障子が閉まることを祈りながら、気が付けば俺はお客さんに手を振っていた。


「ちょっと、アレク!」


「しょうがねぇだろ。この状況で怖がらせるのは無理だ!」


 俺たちは障子が開くたびに、パレードのキャストになったかのように手を振った。

 それを見て、弁当を食べ終えた外国人たちも一緒に手を振り始めた。


「ヘイ! ウアメシアー! ウアメシアー!」


 彼らの謎のコールが響く中、お客さんが半笑いで通り過ぎて行くのが悲しい。

 それでも、たまに子どもが手を振り返してくれるのが地味にうれしかった。


「ありがと~、また来てくれよな~!」


「絶対来ないと思いますよ……」


 そんなわけで俺たちのアルバイトはぐだぐだで終わった。

 でもその結果「癒やし系お化け屋敷」としてSNSで評判になったので、偉い人からのおとがめは無かったらしい。


 結局、幽霊を克服できたかはわからねぇけど、お化け屋敷をジェルと見て回れて楽しかったんで満足だ。

 また何か変わったアルバイトを体験したら報告しようと思う。

次回の更新は9月2日(土)です。

ここまで読んでくださりありがとうございました!

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