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72.宇宙人の家

 それは桜の花が美しく咲き誇るある日の出来事です。


「なぁなぁジェル。お兄ちゃんさぁ、動画投稿しようと思うんだよ!」


「……はぁ⁉ 何言ってるんですか?」


 兄のアレクサンドルが急にそんなことを言うもんですから、ワタクシは飲んでいた紅茶をこぼしそうになりました。


「いやぁ、春はやっぱりさ、新しいことを始めたい季節なんだよな~!」


 彼が思いつきで行動するのは今に始まったことではありませんけども、なんで動画投稿なんでしょうか。


「動画を撮って自分で編集してさ、それをネットに投稿すると拡散されてバァァァァァッてコメントがつくんだよ」


「はぁ」


 彼の話によると、動画投稿すると人気者になってテレビ出演のオファーがきたりするんだそうです。


「どうしよう、俺も大スターになっちゃったりして! 道行く人にサイン求められちゃったり、アレクお兄ちゃん大ファンです! 握手してください! ……とか言われちゃったりするかもだよな~! やっべどうしよ~照れちゃうよなぁ!」


 アレクは目をキラキラさせていますが、そんな上手い話は無いと思いますけどねぇ。


 そういえば、以前もそんな調子で小説投稿サイトに感化されて、よくわからないファンタジー小説を投稿してましたっけ。

 その時は結局2話目で飽きて投稿をやめてしまいましたけども、どうせ今回も似たようなことになりそうな気がします。


「そんなのもうとっくにブームも過ぎてるでしょうし、今から始めても遅いんじゃないですか?」


「そう言うだろうと思って、とっておきの動画を撮影したんだよ。こういうのはやっぱり最初が肝心だからな!」


「もう撮ってあるんですか?」


「あぁ、編集も済んだし、後は投稿するだけだ」


「動画編集は小生(しょうせい)も手伝ったでありますよ!」


 アレクとソファーに座っていたテディベアのキリトが、ふんぞりかえりました。

 いつの間にそんなことをしていたのやら。

 しかし、アレクの言うとっておきって何でしょうね。


 アレクは犬好きですから、可愛いワンちゃんの癒し系動画とかそういうのでしょうか。

 もしくは、アレクの好きなロボットアニメの感想動画や最近買った玩具の紹介動画かもしれません。

 何にせよ、あんまり面白くなさそうな予感がします。


「まぁせっかくだから、暇があったらちょっとくらいは見てあげないこともないですけども。何の動画ですか?」


「宇宙人の家に遊びに行った動画だ」


「今すぐ再生しましょう」


 思わず即答してしまいました。ワタクシやアレクは過去に本物の宇宙人に遭遇しているのです。

 彼らはアレクの頭にアンテナを刺して身体能力を大きく向上させたり、ワタクシの結界を一瞬で破壊する驚異的なテクノロジーを所有しています。

 そんな彼らの暮らす家には、とんでもない秘密があるに違いありません。

 なんとも知的好奇心をくすぐられるではありませんか。


 そんなわけで早速、アレクの撮影した動画を再生することになりました。


『やっほー! 皆のアイドル、アレクお兄ちゃんだ! 今日はなんと……宇宙人のお家に突撃訪問しちゃうぞ!』


 目の前には銀色の見覚えのあるUFOが映っていました。いわゆる王道なアダムスキー型の空飛ぶ円盤です。

 画面内にはアレク本人は映っていません。おそらく彼の視点で動画が進んでいくのでしょう。


「しかし、よく宇宙人が撮影に応じてくれましたね」


「我が家にあった去年のワンちゃんのカレンダーをあげたらOKしてくれたぞ」


 そういえば、彼らはポメラニアンを飼っているくらい犬好きなことを思い出しました。


「でもカレンダーは今年のじゃなくてよかったんですかね……?」


「ワンちゃんのとこだけ切り取ってファイリングするから、別に日付はどうでもいいんだよ」


「つまり犬の写真12枚で応じたということですか。後で菓子折りでも持っていった方がいいですよ」


 ワタクシが心配するうちにシーンが切り替わり、場面はUFOの内部が映っていました。

 その室内には用途のよくわからない機器や装置が並んでいて、周りにはさまざまなスイッチが配置されています。

 直線的なデザインで構成されたスイッチは、鮮やかな蛍光色の光を発していました。まさしくSF映画によくある雰囲気です。


『兄ちゃんよう来たな。まぁゆっくりしていってや』


 未知の技術が並ぶ光景に感嘆していると、間の抜けた声と共に、見たことのある人物が画面に登場しました。


 太っちょで全身銀色の体にアロハシャツとステテコを着た、関西弁の胡散臭い宇宙人です。

 たしか名前は山田さんでしたっけか。


『ありがとう! 今日はよろしくな!』


『ほら、兄ちゃん来てくれたで。クーちゃんよかったなぁ』


 画面の外からトテトテと可愛いポメラニアンがやってきました。

【ポメラニアンのクーちゃん】というテロップが入って、カメラがクーちゃんに近づきます。


『おー、クーちゃん!』


 ハッハッハッと舌を出してご機嫌そうなクーちゃんの背中を、アレクの手が撫でました。

 ふさふさの尻尾がピコピコと動くのがとても可愛らしい。


『久しぶりだな、元気にしてたか?』


 アレクの声に返事をするように、さらに尻尾を振って彼の周囲を行ったり来たりしてはしゃいでいます。あぁ、可愛い。


 クーちゃんは以前に我が家でお泊りしたことがあるので、ワタクシもよく知っています。

 あの時はアレクがクーちゃんのことを「化け物」とかおかしなことを言ってましたけど、やはりそんなことあるわけないですよね。


『……よし、ここでお兄ちゃんが宇宙人にインタビューするぞ!』


 おっ、宇宙人にインタビューとは、とても貴重な動画になりそうですね。

 山田さんの方も気のせいか、ちょっと身構えたように大きな黒目が光りました。


『んじゃ、とりあえず…………好きなワンちゃんの種類は?』


『やっぱりポメラニアンやな。ふわふわで愛嬌があって可愛いし。でも柴犬もえぇな。ちょっと気難しいけどもちゃんとしつけたら主人に忠実やから』


『わかる~! どっちも違う良さがあるよな~!』


「いや、何を聞いてるんですか⁉ もっと聞くこと他にあったでしょう⁉」


 思わず動画を見ながら声をあげてしまいました。


「まぁな。確かにポメ飼ってる時点で好きな犬種はポメな可能性は高いから聞くまでもないんだけどさぁ。それでも好きだけど自分じゃ飼えないなぁって犬種はあるかなぁと思って――」


「いや、そうじゃなくて! ……はぁ。もう結構です」


 動画はそこから15分程度、犬の魅力について宇宙人が語っていました。

 ワタクシが知りたいのはもっと宇宙の神秘とか最新のテクノロジーとかそういうのなんですけどねぇ。


 少し退屈になったところで、画面にひょろっと背の高い、青いアロハシャツを着た別の宇宙人が映りました。


『どうも~、お久しぶり。上田ですぅ~。兄ちゃん飴ちゃん食べる?』


 上田さん。そういえばそんな名前だったような。


『せっかく来たんやから、もっとえぇもん教えたるわ~。宇宙ワープの制御システムとか、地球人はまだ知らんやろ~?』


 おお、上田さんグッジョブ。そうです、ワタクシはそういうのを求めているのです……!  

 そしてカメラは、光り輝く電子機器を一瞬映したかと思うと、すぐに茶色い毛玉に画面が切り替わりました。


『おお、クーちゃんすげぇ!』


 そこにはくるくる回って犬用の玩具を引っ張り回して遊ぶクーちゃんの姿がありました。


『クーちゃん可愛いなぁ~。そうや、こないだクーちゃんがなぁ~めっちゃ面白いことしたんよ。ドッグランに連れて行ったんやけどなぁ~そしたらクーちゃんが――』


「えっ⁉ 宇宙ワープの制御システムはどうなったんですか⁉」


「結局クーちゃんが可愛いから撮影して、うやむやになっちまったなぁ」


 結局、この後もクーちゃんが時々映っては、宇宙人がどうでもいいことを話すだけで、動画は終わりました。


「よし、じゃあ早速、動画公開するかな~! 反応が楽しみだ!」


「うーん……」


 正直なところ、クーちゃんが可愛い以外はクソどうでもいい動画でしたが、それでも一応、宇宙人が映っているのは間違いありません。


「これを世間に公開したら、アメリカあたりに目を着けられて大変なことになったりしませんかねぇ」


 ワタクシは少し心配しつつも、事の成り行きを見守ったのですが。

 公開して一か月後。

 動画のコメント欄は「宇宙人のコスプレ雑で笑える」「もっとクーちゃんをだせ」という感じの反応しかありませんでした。

 あまりにもチープな内容に、本物とは思われなかったようです。


「まぁ確かにアロハシャツに関西弁の宇宙人なんて、嘘臭いにもほどがありますよね……」


 アレクは再生数が伸びなかったのを残念がっていましたが、

 ワタクシは騒動にならなかったことに安心したのでした。

本当は4月1日に投稿予定だったのですが、当日エイプリルフール絡みでバタバタしてて一週間延期させていただきました。

もし待っててくださった方がいたら申し訳ございません。

次回は5月6日(土)の更新です。ここまで読んでくださりありがとうございました!

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