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7.羽根突きでUFO襲来!?

 元日の朝、ワタクシが兄のアレクサンドルと2人で経営している店『蜃気楼』ではドアに正月飾りが飾られ、玄関には立派な門松が置かれておりました。

 日本好きの彼がジャポニスム溢れるお正月にしたいと張り切って準備したからです。

 

 門松も正月飾りも市販の物ではなく彼のお手製なので、サンタさんの人形が刺さっていたりなぜかキラキラのモールが使われていたりと謎のアレンジが加わっていますが、とにかく頑張ったみたいなので良しとしましょう。

 

 そんなわけで日本のお正月らしくワタクシとアレクが店の奥のリビングでお雑煮を食べておりますと、氏神のシロが遊びにきました。


「ジェル! アレク兄ちゃん! あけましておめでとう~!」


「あけましておめでとうございます、シロ」


「おー、シロ! ハッピーニューイヤー!」


「ねぇ、玄関のあの飾り見たんだけど。サンタいるし、あれってクリスマスの余り物じゃないの?」


 あぁ、やはりそう見えますよね……神様としてはやはり不敬に思うでしょうか。


「おう、俺の手作りだぞ。サンタはクリスマスしか働いてないから正月も働かせてみた」


「ハハハ! おもしろいけどお正月くらい休ませてあげなよ!」


 ――よかった。セーフだった。

 そもそもサンタさんはクリスマス以外の日もプレゼントを作ったり手紙の返信をしたりちゃんと仕事していて、本来お正月は休暇らしいんですけどね。それなのに延長で働かされるとは気の毒なことです。


 ワタクシがそんなことを1人でぼんやり思っていますと、ふと、アレクが急に思い出したように提案しました。


「あ、そうだ! 家で門松の材料探してる時にさ、日本らしいお正月アイテムを物置で見つけちゃったんだよ! 持ってくるから一緒に遊ぼうぜ!」


 そう言って、まるで靴かビスクドールでも入ってそうなサイズの桐の箱を持ってきました。

 箱から察するに高価な物かと思ったのですが、いざ見てみるとデカデカと「半額!」と書かれたシールが貼られていて箱の高級感が台無しです。

 表面には大きな筆文字で「幸せを呼ぶ羽子板」と書いてあります。

 蓋を開けてみると、絵や装飾が何も付いていない木の羽子板のペアと玉の付いた羽根が入っていました。


「幸せを呼ぶ羽子板とは、正月らしくて縁起がいいですね」


「そうだろ~、これってバドミントンみたいなやつだよな。俺やってみたい!」


「それならもっと広い場所がいるよね。うちの神社に来るといいよ」


「それはいいですね。シロの神社、行ってみたいです」


 こうしてシロの案内で、ワタクシとアレクは彼が祭られている神社へ行くことになったのです。


 シロの神社はうちの店から10分ほど歩いたところにありました。大きな赤い鳥居に手水舎、その先に拝殿とは別に本殿があり、なかなか立派な神社です。

 境内は爽やかな空気に満ちた明るい雰囲気で、初詣の人達が絶えず訪れ、そこそこ賑わっているようでした。


「これはすごい。立派なところじゃないですか」


「ありがとう、よかったら気軽にこっちにも遊びにきてよ」


 ワタクシが感心しながらそう言うと、シロは照れたように軽く微笑みました。


「シラノモリ様、お帰りなさいませ」


「シラノモリしゃま~! おかえりなしゃい!」


 鳥居をくぐると、神主のような格好をしたお爺さんと黒柴の子犬が本殿の方からやって来てワタクシ達を出迎えました。


「あぁ、ただいま。あ、僕のお世話をしてくれてる宮司の白井さんだよ。そして、こっちの黒い犬がうちのお使い番のクロだよ。よろしくね」


「アレクサンドル様、ジェルマン様、ようこそおいでくださいました。シラノモリ様から常々お話は聞いておりますぞ」


 白井さんが丁寧にお辞儀したので慌ててこちらも挨拶をしますと、隣に居た子犬も舌足らずな子どもの可愛い声で元気いっぱいに挨拶しました。


「あたちは、クロでしゅ! よろちくおねがいいたちましゅ!」


「すごい。あなた、犬なのに人の言葉をしゃべるんですね」


「あい! あたち、おしゃべりできましゅ!」


「わ、ワンちゃんだ……!」


可愛い子犬の登場に犬好きのアレクの目がキラリと輝いて、今にも触りに行きたそうにそわそわと指を落ち着き無く動かしました。


「シロ。アレクをその子に近づけると危険ですよ。抱き上げてチューされますよ」


「え、そうなの?」


「えぇ、前科持ちですから。前に犬に変身したスサノオにキスしましたからね」


 ワタクシの告発にシロはうぇぇぇぇと声をあげて、慌ててお使い番の子犬に言いました。


「ほら、出迎えは済んだだろ、キス魔に抱っこされる前に早く本殿に戻りなさい」


「はぁ~い」


「ではアレクサンドル様、ジェルマン様、どうぞごゆっくり」


「またねぇ~」


 子犬は小さな尻尾をぴこぴこと揺らしながら、白井さんと一緒に本殿へ戻っていきます。

 アレクは心底がっかりした様子で、未練がましく本殿を見つめていました。


「まったく、誰がキス魔だよ。ちぇ~、ワンちゃんいいなぁ……」


「ほら、アレク兄ちゃん。今日は羽根突きしに来たんでしょ。はい、これ」


 そう言ってシロが羽子板をアレクに差し出しました。


「ここは皆が参拝してるから、ちょっと離れたところでやろうね」


「おう、わかった」


 拝殿の端にちょうど空き地のようになっている場所があったので、そこで開始することにしました。ちょっと他人の目がある場所ではありますが、羽根突きをするだけですからそこまで目を引くこともないでしょう。

 ワタクシも羽子板を受け取り、羽根が付いた丸い玉を握りました。


「さぁ、いきますよアレク!」


「おう! どっからでもかかってこい!」


 開始の合図とともに、カーンと乾いた音と共に勢いよく羽根が宙を舞います。

 最初は調子よく打ち合いをしていたのですが、しばらくすると観戦していたシロが急に変なことを言いました。


「ねぇねぇ、その羽子板が入ってた箱の裏に変なことが書いてあるんだけど!」


「えっ」


 その声に気をとられたアレクが羽子板を盛大に空振りさせて、羽根がぽとりと地面に落ちました。

すると急にどこからともなく、ちゅんちゅんと鳥の鳴き声がして大量のすずめが現れ、こちらに向かって飛んでくるではありませんか。


 すずめの大群はアレクの頭上をかすめて遠くへ飛んでいきました。なぜかアレクは頭を手で押さえてすずめを睨んでいます。


「おい、頭にすずめのフンが落ちてきたぞ! ついてねぇなぁ……ジェル、拭く物もってない?」


 アレクはティッシュを受け取り、フンをぬぐいました。


「急に災難でしたね。でもアレクにそんなことがあるとは珍しい」


「だよなぁ、頭にフンとか初めてかも」


「アレク兄ちゃんが災難に遭った……ねぇこれ見て、もしかしてここに書いてあることが起きたんじゃない?」


 驚いた様子のシロが、そう言いながら蓋の裏側をこちらに見せると、裏には細い筆で書いたと思われる文字でこんなことが書いてありました。


 一、一度遊戯を開始すると二百五十六回、打ち合いを完了させないと一昼夜のちに大きな災厄が訪れる


 二、羽根を落とした者に大小問わず無作為な内容の災厄が訪れる


 三、打ち合い完了後にその場に大きな幸運が訪れる


「大きな災厄が訪れるってなんだよこれ!」 


「大きな災厄……地震とか何かの天変地異があるということでしょうか?」


「たぶんそういうのも含まれるよねぇ……」


 シロがワタクシの言葉に頷きました。


「それを防ごうと思ったら俺とジェルで明日までに256回もラリーしなきゃなんねぇってこと?」


 アレクが、げんなりした様子で声をあげます。


「そうなりますね……シロ、なんとかなりませんか?」


 神であるシロならなんとか無かったことにできるのではと思い問いかけましたが、残念ながらそう上手くはいかないようです。


「これは個人がかけた呪いとかそんなレベルの話じゃなくて、神器に近い物だと思うから僕じゃ無効にはできないよ」


 シロはお手上げ、と言わんばかりに肩をすくめました。


「おかしいですねぇ……『幸せを呼ぶ羽子板』と箱に書いてたのに」


 そう言いながらワタクシが蓋を手にとり、よく見てみますと半額シールが少しはがれかけていて、下になにか文字のようなものが見えるではありませんか。

 不審に思ってそっとシールをはがしてみると『幸せを呼ぶ』の手前に『不』の文字が書かれていました。


「不幸せを呼ぶ羽子板。なんて陰湿な……!」


「とりあえず、ゲーム始めちゃったからには終わらせないといけないね。あと何回くらいだろう」


「あと230回くらいは必要かと」


「えぇ~まだそんなにあるのかよ!」


「じゃ、僕がカウントするよ。ジェルもアレク兄ちゃんもがんばって!」


 シロに励まされ、ワタクシ達は再び打ち合いを始めました。青空の下、カンッ、カンッと乾いた音が響きます。


「ちくしょ~、騙されたぜ。不幸せを呼ぶ羽子板ってなんだよ!」


「でも『打ち合い完了後にその場に大きな幸運が訪れる』と説明の最後にありました。頑張ればきっと報われます……よっ! ほら、アレク、ぼさっとしないで打ち返してください!」


「……あっ! わりぃ、しくっちまった」


 羽根は再び地面に落ちました。


「ん、何もおきねぇな……?」


 その時、通りがかった参拝客の中年男性が熱々のおでんを片手にこちらへ近づいてきました。


「お、羽根突きなんて今時めずらしいねぇ……おっとっと!」


 酔っているのかどうも足元がおぼつかない様子で、案の定男性は盛大につまずき、コケはしなかったのですが手に持っていたおでんは宙を舞い、熱々の玉子がアレクの胸元へ。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあちぃぃぃぃ!!」


「アレク兄ちゃん、大丈夫⁉」


 シロが慌てて手水舎で手ぬぐいを冷やして持ってきました。


「アレク兄ちゃん……真冬なのに胸元の開いた服を着てるからだよ」


「そんなこと言ったって、この格好は俺のポリシーなんだよぉ……ふぇ~……熱かったぁ~」


「これが無作為な災難、ということですかね。やれやれ、なるべく羽根を落とさないように気をつけて打ちましょう」


 しかし、その後もミスは続き、容赦なく災厄がアレクを襲うのでした。


「あっ、わりぃ……いてっ! 急に頭に小銭が飛んできたぞ!」


「お賽銭が勢いあまって飛んできたんですね。拝殿の近くですから仕方ないですよ」


「いや、でも賽銭箱までかなり距離あるぞ!?」


「さぁさぁ、次いきますよ!」


「……よしっ! うわ、ちょっとそれ届かな……あ。ぎゃあああああああ!」


「あぁ! 急に突風で生ダコが飛んできてアレク兄ちゃんの顔面に!」


「そういえば来る途中にたこ焼きの屋台がありましたね。そこから逃げ出したんでしょうか」


「いや、そういうのってもう茹でてあるだろ! このタコ生きてるんだけど!? こら、吸い付くな! かなりいてぇぞ!」


 アレクが顔面からたこを引き剥がし憤慨していると、いつの間にかできていた観衆から声援が飛んできました。


「黒髪の兄ちゃんがんばれ~!」


「外人さんファイトー!」


「お、おう!」


 予想外の声援にアレクが戸惑いながら応えます。

 その内に人が人を呼び、数人程度だった観衆は数十人に増えてしまいました。


「さぁ、金髪の嬢ちゃんと黒髪の兄ちゃん、どっちが勝つか賭けた賭けた賭けた!」


 人が集まった上に、さらには賭けまで始まる始末。しかも嬢ちゃんとはワタクシのことですか。


「アレク兄ちゃん、ジェル。あと30回だよ! 頑張って!」


「ちょっとギャラリーができてやりづらいですが、いきますよ、アレク!」


「おう! かかってこい!」


 再び打ち合いが始まり、ワタクシ達が打ち返す度に周囲から歓声があがります。

 しかし相次ぐ災厄にアレクのペースはすっかり乱されてしまったようで、再び羽根は地面に落ちるのでした。


「ちきしょう、タコの次はなんだ!イカか?」


 とっさにアレクが警戒して周囲を見回すと観衆から「おい、あれを見ろ!」と声が上がり、皆の視線の先を見ると空を飛ぶ銀色の円盤がこちらへ向かってくるではありませんか。


「UFOだ!」


「すげぇ!」


 皆がスマホを取り出し撮影し始めるとあっという間にUFOはアレクの頭上へやってきて、光が周囲を包み、アレクとたまたま近くで観戦していた中年男性の身体が空中へ浮かび上がりました。


「おい、ちょっとどうなってんだ! ジェル! シロ! たすけ……」


「お……なんか浮いてるな~? 酔いが回ったかな~、ガハハハハ!」


「アレク!」


「大変だ! アレク兄ちゃんと知らないおっさんがUFOにさらわれた!」


「あれは、さっきおでん持ってた方ですよね……」


 あまりにも非現実なことに皆、呆然としていると、しばらくして再びUFOから光が射してアレクと中年男性がゆっくり降りてきました。


「いやー、危なかったわー。宇宙人やべぇな。いきなり頭にアンテナぶっ刺そうとしてくるんだぜ」


「これテレビ番組の収録か? 最近のテレビはすごいなぁ~ガハハハハ!」


「まぁ、お兄ちゃんの身体能力を持ってすれば回避余裕だったぜ!」


 余裕だと笑うアレクの頭には、先端に丸い玉の付いた銀色の棒のような物が刺さっていました。ガハハと笑う中年男性の頭にも同じ物が刺さっています。


「いや、回避できてないよ! アレク兄ちゃんもおっさんも頭にアンテナ刺さってるよ!」


「あ、アレク、大丈夫ですか?」


「おう、なんともないぞ?」


 UFOは目的を果たしたのか、ものすごいスピードで飛び去ってしまいました。


「困りましたねぇ。頭は後でなんとかして差し上げますので、とりあえず羽根突きの続きをしましょうか」


「おう、あと10回だからな!」


 観衆はざわざわしていますが気にせず続けましょう。あと少しですし。


「あんちゃん、がんばれよ~」


 頭にアンテナを生やした中年男性もおでんを食べながら応援しています。――後であの人もどうにかしてあげないと。


 そして羽根突きの乾いた音が響き、再び打ち合いが始まりました。

 ――5……4……3……2……1……よし!

 これで最後と思うとつい力が入り、ワタクシは強い力で打ち返してしまい、羽根は大きく宙を舞いアレクの頭上を越えて地面に落ちました。


「え、これ大丈夫なのか⁉」


「回数はクリアしていますから大丈夫なのでは……」


 アレクの問いに自信なさげに答えると、急に遠くからドドドドドドと力強い足音のようなものが聞こえてきました。


「た、大変だー! 急に山からイノシシが下りてきたぞー! 逃げろー!」


 観衆から悲鳴が上がったと同時に、イノシシが鳥居の向こうから勢いよく走ってきて、その先には先ほどワタクシたちを出迎えてくれたお使い番の黒い子犬が居るではありませんか。


「クロ!逃げて!」


 シロの叫びも虚しく、クロは迫り来るイノシシの勢いに腰を抜かして動けなくなっていました。

このままだとイノシシに跳ね飛ばされてしまう……

 ――誰もがそう思った瞬間、アレクがものすごい速度で走ってイノシシを追い抜き、クロを抱きかかえ横に転がるようにして回避しました。


「アレク!」


 イノシシはそのまま本殿の横を抜け、走り去って行きました。


「へへ……ワンちゃん、大丈夫か?」


「あい……だいじょうぶでしゅ……!」


 アレクに抱きかかえられ、クンクン鳴きながらクロが元気に答えます。

 その様子に、ワタクシもシロも周囲もホッと胸をなでおろしたのでした。


「アレク兄ちゃん、ありがとう!」


「キシュ魔のおじしゃん!ありがとうございまちた!」


 アレクの腕から地面に降ろされたクロは元気に尻尾を振りました。


「お、おう……」


 アレクは複雑な表情で答えます。


「アレク、お手柄でした。よく間に合いましたね」


 ワタクシが声をかけると、アレクは照れ笑いを浮かべながら答えました。


「へへ。気が付いたら身体が勝手に動いてたわ。追いつけるかどうかなんて考える暇なかったし」


「あなたの身体能力は普通の人より高いですからねぇ。しかし、それにしても今回は規格外だったように思うのですが?」


「そうだなぁ。そういや、なんだかいつもより身体が軽くて速く動ける感じだなぁ」


 ワタクシの問いにアレクも首をひねります。


「ねぇ、アレク兄ちゃん。もしかしてなんだけど、そのアンテナのせい……とかじゃない?」


 シロが彼の頭で輝く銀色の棒を見つめながら言いました。


「その可能性はありますねぇ……」


「マジかよ、すっげぇ! 俺、改造人間になっちゃったのか!」


 アレクは子どものように目を輝かせ、身体の軽さを確認するように軽く足踏みしています。

 なんでそんなにうれしそうなんですかね。


「残念ですが、そんな変なアンテナを生やしたままにしておくわけにはいきませんから、後で外しましょう」


「えー、やだやだ! お兄ちゃんこのままがいい!」


「そんな怪しいもの、そのままになんてできませんよ!」


「でもこのアンテナがあればスーパーお兄ちゃんだぞ!」


「鏡見てからおっしゃい、クソださいですから。一緒に歩くのをためらうレベルのダサさですよ!」


「そんなぁ……」


 ワタクシとアレクがそんな感じで言い合いしていますと、急に拝殿の方から歓声があがりました。


「大変だ! 温泉が湧き出たぞー!」


 まさかと思い、声の方へ行ってみると、さっきまでワタクシ達が羽根突きをしていた場所に温泉が湧いていました。

 こんこんと地面からたくさんのお湯が出ていて、周囲はほかほかと湯気が立ちこめていてとても温かそうです。


「打ち合い完了後にその場に大きな幸運が訪れる――もしかしてこの温泉が大きな幸運なんですかね」


「たぶんそうだろうね。『その場に』って書き方されてたからどうなるのかなと思ってたけど、まさかこんな結果とは……うん、いい温度だ。これは良いなぁ」


 シロが温泉に指をつけて様子を見ながら答えました。クロも真似をして前足をちょんちょんとお湯につけています。


 温泉のすぐ側には羽子板が落ちていました。イノシシの騒動の巻き添えをくったのか役目を終えたからなのかはわかりませんが、ワタクシのもアレクのもぱっくりと真っ二つに割れています。羽根の方はどこへ行ったのか、探してみましたが結局見つかりませんでした。


「いやはや、人騒がせなお品でしたねぇ……」


 ワタクシは小さくため息をつきました。


 その後、神社の中に小さな足湯が作られ、それが参拝する人たちの間で話題になり、シロの神社はますます栄えることとなりました。


「なんだか、僕が得しちゃった感じで悪いね」


「いえ、ワタクシたちも足湯楽しんでますから大丈夫ですよ」


「それに、いつでもワンちゃん抱っこできるしな! なー、クロ?」


 湯に足を浸しながらアレクはクロを抱きかかえ、ご機嫌でクロに語りかけます。


「あい、キシュ魔のおじしゃん!」


「だから俺はキス魔じゃないし、お兄ちゃんだってば……」


「そういやアレク兄ちゃん、アンテナ無くなったんだね」


「あの後、家に帰ったら即手術だったらしいぞ。ジェルが何かしてたっぽいんだけど、俺寝てたからわかんねぇ」


「なにそれ。怖いんだけど、大丈夫なの?」


「えぇ。稀代の天才錬金術師たるワタクシの知識をもってすれば、それくらいのことは容易いのですよ」


 ワタクシは何食わぬ顔で答えました。

 実はあのアンテナ、意外と簡単に引っこ抜けたんですよねぇ……その結果、アレクの頭に10円ハゲができましたが。毛はまた生えてくるでしょうし、まぁなんとかなるでしょう。


 ワタクシがアレクの頭を見ながらそんなことを思っていますと、急に彼が何かを思い出したように言いました。


「そういや、あのおっさんのアンテナってどうなったんだ?」


「あ……」


「そのままな気がするんだけど?」


「……えぇ、忘れてましたね」


「おいおい、大丈夫かよ!」


 その後、頭にアンテナを生やした中年男性がスーパーオッサンと名乗り、災害や犯罪に立ち向かい大活躍しているのが世間の話題になったのですが、その原因を知るのはワタクシ達だけなのでした。

※読みやすさを考慮して、話の順番を入れ替えしました。


この話は旧8話で、変更前の7話は「ジェルはママンです!?」です。



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