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68.リュージさんのクリスマスパーティ

 クリスマス。それはイエス・キリストの降誕を祝う日。

 本来は自宅で家族と過ごすものです。

 決して恋人と高級ディナーを食べて浮かれてよさげなムードの夜景や美しいツリーを見つめながら「君の方が綺麗だよ」なんて言うような浮かれた日ではないのです。


 つまり、ワタクシが兄のアレクサンドルや居候のキリトと過ごすのは極めて正しいことなのです。


「――だから決してワタクシがモテないとかそういうことは無いのです!」


「急にどうしたでありますか、ジェル氏」


 ワタクシの独り言に、リビングでアレクと一緒に薄い冊子を読んでいたテディベアのキリトがこっちを見ました。


「キリト、いいからそっとしておいてやれ。毎年のことだから」


 アレクはやれやれという表情をしています。どうしてそんな目で見られないといけないんでしょうね。


「そういやさぁ、俺達あてにクリスマスカードが届いてたぞ」


 アレクがテーブルの上にある封筒を指し示しました。


「へぇ、珍しいですね」


 封筒は3通あります。誰からでしょう。


「このピンク色の封筒はジンですね……」


『はぁ~い、ジンちゃんよ~♪ メリークリスマス! 今アタシはダーリンと二人でのんびり旅行中なの。クリスマスはニュージーランドで過ごすのよ。ビーチで泳ぐの久しぶりで楽しみだわぁ! それじゃ、また会いましょうね』


「クリスマスに泳ぐって正気の沙汰じゃないであります!」


「いやいや、ニュージーランドは南半球だからな。こっちは冬だけど向こうは夏なんだよ。だから向こうのサンタさんの絵は水着でサーフィンしてたりするぞ」


「そんなのサンタさんじゃないであります」


 キリトは納得がいかなさそうな顔をしていますが、アレクの言っていることは本当です。

 確かに日本のクリスマスに慣れていると変な感じはするかもしれませんが。


「さて、もう一通は……フォラスですね」


「フォラスってあの変態マッチョのオッサンでありますか?」


「一応、偉い悪魔なんですけどねぇ」


 悪魔がクリスマスカードを送ってくることの是非はともかくとして。


『愛し子達よ、メリークリスマス。たまには我の屋敷にも来てくれるとうれしいのだが。そろそろプロテインが無くなる頃だろうからクリスマスプレゼントとして追加で300箱ほど送ろうと思う。筋肉はすべてを解決する、そのことを忘れぬようにな』


「はぁ⁉ さんびゃっぱこ⁉」


 驚きのあまり、声が裏返ってしまいました。

 そんな物が届いたら家の中がプロテインだらけになってしまいます。

 慌ててフォラスに電話して、送るのは止めてもらいました。


「まったくもう……」


「相変わらずだな、おっちゃん」


「送らないことと引き換えに、今度仕事を手伝いに来るように言われてしまいました。面倒なことになりそうです」


 気を取り直して、最後の封筒を手に取りました。

 水色に金色の装飾の入った綺麗な封筒です。差出人の名前はありません。

 中は小さく折りたたまれた白い和紙が入っています。


『アレクさん、ジェルさん、お久しぶりネ。私のおウチで聖誕節するよ! 私、いっぱい人間の聖誕節のやり方調べたヨ。だから一緒にパーティするネ! このお手紙読んだらすぐにお迎え行くヨ』


 ……という内容が中国語で書かれていました。


「たぶんこれは、リュージさんですね。“このお手紙読んだらすぐにお迎え行くヨ”とありますが――」


 ワタクシが言い終わる前に、玄関の扉を叩く音がしました。

 扉を開けると、そこには豪華な刺繍の入った青い着物を着たロングヘアーの男性が立っています。


「リュージさん!」


「パーティのお迎えキタヨ!」


「えっ、あの、ちょっと待ってください! とりあえずどうぞ」


 慌てて彼を家の中に招き入れてリビングのソファーに座らせました。


「ジェル氏、リュージさんって誰でありますか?」


「龍神という雨や水を司る偉い神様の一族です」


「なんで神様が、クリスマスパーティにジェル氏たちを誘ってくるでありますか?」


「それは……やってみたかったんでしょうねぇ」


 首をかしげるキリトを見て、リュージさんは目を輝かせました。


「可愛いですネ! ジェルさんのぬいぐるみデスか⁉ おしゃべりできるのスゴイです!」


「あぁ、そういえば初対面でしたね。うちで居候しているキリトです。この中にはアニメオタクの魂が入ってます」


「ジェル氏、紹介が雑であります」


「キリトサン、コンニチワー! 私、リュージ言いマス、ヨロシクネ! アナタも一緒にパーティ来るイイデスカ?」


「小生も一緒に行っていいでありますか?」


 キリトはワタクシの方をちらりと見ました。おそらくいつも出かけることを反対されているからでしょう。


「一緒に行くべきだと思うぞ。家で独りで留守番なんて寂しいだろうし」


 アレクがキリトを抱きかかえてワタクシの目の前に突き出しました。

 あざとく両手を合わせたポーズをしたテディベアの黒い瞳が、じっとワタクシを見つめます。


「……まぁ、いいんじゃないですかね。汚れる心配も無さそうですし」


「よし、決まりだな!」


 こうしてワタクシ達は、リュージさんの主催するクリスマスパーティへ出かけることになったのでした。


 前に出かけた時と同様に、大きな龍の姿になったリュージさんの背に乗ったのですがキリトとアレクは大はしゃぎでした。


「ジェットコースターみたいでありますね!」


 はしゃぎすぎてアレクがキリトを落としたりしないかと、気が気ではありませんでしたが、なんとか無事に龍神の住まう天の御殿へと到着したのです。


 御殿の前には巨大なクリスマスツリーがありました。

 10階建てのビルくらいはあるでしょうか。

 巨大な木に付けられた色とりどりのオーナメントが太陽の光を反射してキラキラと輝いています。

 そして上の方では巨大な黄金の龍のオーナメントが――。


「いや、あれはリュージさんのお父さん⁉」


「ツリーは爸爸バーバ(中国語で父親の意味)が飾り付けしてくれてるヨ」


「おお、人の子よ! よく来た!」


 大きなサンタの人形を片手に持った黄金の龍が、上空から大きな声で話しかけてきました。


「なんか生贄を捕まえてきたみたいに見えるな……」


「アレク、失礼ですよ!」


「ハハハ、ゆっくりしていくが良い!」


 見た目こそ人知を超えた神々しい存在ですが、リュージさんの父親だけあって気さくなのです。

 ワタクシ達は、挨拶を済ませて御殿の中へと足を踏み入れました。

 中では豪華な装飾を身に着けたリュージさんの母親が、たくさんの召使と一緒に歓迎してくれました。


「急にごめんなさいね。息子があなた方と聖誕節を祝いたいと言うものですから……」


「いえ、お招きくださりありがとうございます」


「遠慮せずゆっくりしていってくださいね」


 挨拶を済ませるとワタクシたちは広間へと案内されました。

 そこには大きな鳥の丸焼きやカラフルなオードブルが並んでいます。


「すげぇ……!」


 そして何段にも積み重なった山盛りのフルーツが乗った、クリスマスケーキ……?


「これ、ウエディングケーキじゃないですかね」


「でも上にサンタも乗ってるし、クリスマスケーキじゃね?」


「皆で食べるの、大きいがイイと思ったヨ。調べたら大きいケーキあったネ!」


 見た目はウエディングケーキですが、食べられるなら問題ないでしょう。

 そうこうする内に、ツリーの飾り付けを終えたリュージさんのお父さんも戻ってきて、クリスマスパーティが始まりました。


 先ほどまで巨大な龍の姿だったお父さんも人間の姿になって、お子様用の足の長い椅子に座っています。

 なぜかお父さんは人間の姿になるととても小柄になるのです。


 ご馳走をおなかいっぱい食べて、一息ついた時にリュージさんが「プレゼント交換スルヨ!」と言い出しました。


「すみません、リュージさん。急だったので何も用意していないんですよ。なのでワタクシ達からの贈り物は後日お渡ししますね」


「問題ナイヨ! じゃあジェルさんには――」


 リュージさんは懐から白い板を取り出してワタクシに差し出します。


「私の所有する島の神様になれる権利ヨ! 皆の暮らし見守る楽しいヨ」


「えぇぇぇぇぇ⁉ そんなの受け取れませんよ!」


「面白そうじゃねぇか!」


 アレクが食いついたので、リュージさんは白い板をワタクシ達の方に向けました。

 どうやら白い板はタブレットだったようです。


「ここをタッチすると雨が降るヨ。いっぱい降ると洪水なるから注意ネ。こっちをタッチすると竜巻が起きて――」


「結構です! 天候を左右するなんてワタクシには荷が重すぎます!」


 ――さすが龍神。何もかも規模が違うのですねぇ。


 天候を管理するなんて大変すぎますし、そもそも神様の権利に見合うプレゼントなんて何を贈ればいいのか想像もつきません。

 思いがけず楽しいクリスマスになったことを喜びつつも、プレゼント交換だけは丁重にお断りしたのでした。

次回の更新は1月7日(土)です。ここまで読んでくださりありがとうございました!

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