56.サンタがやってきた
あ~、暇だなぁ。
今日の俺は一人でアンティークの店「蜃気楼」の店番をしている。
いつもは弟のジェルマンが一緒なんだけどさ。
ジェルのやつ、行きつけの宝飾品店のウィンターセールがあるとかで一人で出かけちまったんだ。
たぶんまたブローチを買うんだろう。
「ハァ……俺も一緒に行きたかったなぁ」
“アレクが一緒だとゆっくり買い物ができませんから、付いて来ないでください“
ジェルにそっけなくそう言われたことを思い出して、自然とため息がでる。
「ジェルのやつ、幼い頃はずっと俺にくっついて離れなかったのになぁ。お兄ちゃんさびしい……」
俺はカウンターの椅子に座って、静かな店の中をぐるりと見渡した。
魔術書や珍しい薬品、骨董品や美術品、アンティーク家具に神話に登場するような伝説の武具。
所狭しと物が並んでいるはずなのに、ジェルが居ないと店がやけに広く感じるから不思議だな。
「あー、早く帰ってこねぇかなぁ……」
その時、店の入り口の方で物音がした。ジェルが帰って来たんだろうか?
「お帰り! ……あれ? えっ、えっと、誰だっけ⁉」
そこに居たのはジェルではなく、でっぷりと太って白いヒゲを生やしたおっちゃんだった。
オッサンと呼ぶのはちょっと違う、なんというか見ててほっこりするような、おっちゃんって呼ぶに相応しい感じの人だ。
真っ赤な服と真っ赤な帽子が暖かそうだなぁ。
あっ、これってもしかして――
「なるほど、サンタのコスプレか~! そういや、もうすぐクリスマスだもんな。すげぇ似合ってるな!」
「ホッホッホッ、おじゃまするぞぃ」
「おう、アンティークの店、蜃気楼にようこそ! ゆっくり見て行ってくれ!」
この店は、うちの店の品を必要とする人しか入れないようにできている。
だからきっと、この店の中におっちゃんの必要な物があるんだろう。
久しぶりのお客さんに俺はうれしくなった。
サンタにそっくりのおっちゃんは、店内を楽しそうに見て回って、棚の隅に置かれていた金色のベルを買いたいと言った。
これはたしか、大型のペットや家畜に付けたりする用のベルだったはず。
おっちゃんは何か飼ってるのかな?
「うーん、できれば売ってあげたいんだけど今は無理なんだ」
この店を管理しているのは弟のジェルマンで、彼が売って良いと判断した相手で無いと売ることができない。
そういうルールで始めた店だから、俺の判断でベルを売ることは出来なかった。
「それは困ったのう。ぜひトナカイの為に売って欲しいんじゃが……」
おっちゃん、トナカイ飼ってるのか。まるで本物のサンタクロースみてぇだな。
「じゃあさ、ジェルが帰ってくるまで店の中で待っててくれないか? すぐ帰ってくるように言うからさ」
「ほうほう、ではそうさせてもらおうかのう」
俺はおっちゃんを来客用の椅子に座らせて、ジェルに電話してすぐ戻ってくるように言った。
「ごめんな、すぐ戻ってくるってさ」
「構わんよ。のんびり待たせていただこう」
俺は温かい紅茶をいれて、おっちゃんに手渡した。
「ほうほう、ありがたいのう」
「今日も寒いよなぁ。遠慮せず飲んでくれ。――そういやさ、おっちゃん普段は何やってる人なんだ?」
一緒に紅茶を飲みながら軽く雑談をふってみると、おっちゃんは話に乗ってきた。
「そうだなぁ、最近は手紙の返事を書いたり、おもちゃを作ってるのう」
「おっちゃんは、おもちゃ工場で働いているのか。工場ってライン作業が大変なんだってな」
「ほうほう、そうかもしれんのう」
おっちゃんはニコニコしながら相槌をうっている。
「しかし、おもちゃ工場に働いてるとか、子どもがうらやましがるだろうな。――おっちゃん、子どもは居るのか?」
「ホッホッホッ、世界中の子どもはワシの子どもじゃよ」
――マジか! 話の流れで何気なく聞いただけなのに、とんでもない答えが返ってきた!
「すげぇ、俺知ってる! そういうの『ゼツリン』って言うんだってジェルが言ってた!」
俺が尊敬の眼差しで見ると、おっちゃんはホッホッホッと白いヒゲを撫でながら笑っている。
「でもさ、そんなにたくさん子どもが居たら家の中、大変だろうな~!」
テレビで、子だくさんの大家族の日常を放送してる番組を観たことがある。
きっとそんな感じで、おっちゃんの家も毎日大騒ぎに違いない。
「いや、トナカイと住んでいるだけじゃよ」
――おっちゃん! 家庭上手くいってないのかよ! 無神経なこと言っちゃってごめんなぁぁぁぁ~!!!!
俺は心の中で土下座した。
するとおっちゃんは俺の表情に何か察したのか、急に話題を変えてきた。
「そういえば、もうすぐクリスマスじゃが、アレクサンドル君は何が欲しいんだね?」
――あれ、俺おっちゃんに名前言ってたっけ? まぁいいや。
「俺はパン男ロボが欲しい!」
「パンオトコロボ……どんな物じゃろうなぁ」
「見せてやるよ! ちょっと待っててくれ!」
俺は自分の部屋から、お気に入りのロボットアニメのおもちゃを持ってきた。
「こっちがRXで、こっちがDX。そんでこれがマークツーだ!」
「むずかしいのう……全部同じに見えるんじゃが」
「おっちゃん、よく見ろ。角の形とか武器の色とか違うんだ」
「ほぅほぅ……」
俺はパン男ロボがいかに大人気で、カッコいいロボットであるかを熱弁した。
あまりにもおっちゃんが楽しそうに聞いてくれるので、今から上映会を開こうと思ったのに、そうなる前に店のドアが開いてしまった。
「あの、外にトナカイとそりがあるんですけど。――あ、どうもいらっしゃいませ。ワタクシは店主のジェルマンでございます」
いつの間にか外は雪が降っていたらしく、ジェルはコートについた雪を軽く掃って店の中へ入ってくる。
「あの、アレク。そちらの方はもしかしてサン――」
「おもちゃ工場で働いてるトナカイが好きなゼツリンのおっちゃんだ!」
「すいません、何言ってるのかわかりません」
ジェルは俺と話すのを早々に切り上げて、おっちゃんの接客をし始めた。
「……それで、何をお求めでございましょうか?」
「このベルが欲しいんじゃよ。トナカイがどこかで落としたらしくて、ずっと悲しんでいたんでなぁ」
「そうでしたか。やはりあなた様は……ではベルをお譲りいたしましょう」
ジェルは「少々お待ちください」と軽くお辞儀をして、ベルを布で磨いてピカピカにするとおっちゃんに手渡した。
「すまんのう。お代はいくらかのう?」
「世界中の子ども達に夢を与えるあなた様から、お代をいただくわけにはまいりません。どうぞ、そのままお持ちください」
「そうかい、ありがとうなぁ。じゃあ早速トナカイに付けてやるとするかのう」
そう言っておっちゃんが店の外に出て行くので、俺たちも付いて行った。
いつの間にか、店の外には立派な角のトナカイと真っ赤なそりがある。
「すげぇ! トナカイだ!」
「ホッホッホッ、ワシの自慢の相棒じゃよ」
おっちゃんがトナカイの首にベルを付けてやると、トナカイはうれしそうに首を振り、ベルを揺らして澄んだ音を響かせた。
「――じゃあ早速、出発するかのう。アレクサンドル君、ジェルマン君、世話になったのう。ありがとうよ!」
おっちゃんが真っ赤なそりに乗り込むと、トナカイは暗くなり始めた空を見上げて進み始めた。
するとまるで飛行機が離陸するみたいにトナカイとそりが宙に浮かんで、そのまま夕暮れの空に消えていったんだ。
「おっちゃん、本物のサンタだったのか……」
それから数日後。
朝、目が覚めると、俺の枕元には木彫りのパン男ロボ、そしてジェルの枕元には木彫りのトナカイのブローチが置かれていた。
――あぁそうか、今日はクリスマスだな。サンタのおっちゃん、素敵なプレゼントありがとうな。
次回の更新は1月1日(土)です!
内容的にはさほど進展は無いんですが、次回からseason3が始まります。
ここまで読んでくださりありがとうございました!




