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54.それいけ!ランタンマン(挿絵あり)

 それはワタクシが「ジャック・オー・ランタンの種」という珍しい種を手に入れたことから始まりました。


 土に蒔くとハロウィンの飾りつけでよく見かけるオレンジのかぼちゃが育つのですが、普通の種と違うのは水の他に魔力を使って育てるところです。

 なんと魔力を注いで育てることで、できたカボチャに命が宿るのですよ。これは実に興味深い。


 ワタクシは、どうせならハロウィンに間に合わせようと夏前から庭の片隅に小さな家庭菜園を作り、そこに種を植えて水と一緒に魔力を注いでいました。


「上手く発芽してくれるといいんですけどねぇ……」


 しかし残念ながら、日本の土壌とは相性が悪いのか、たった5つしか芽が出ませんでした。

 ワタクシは、その小さな芽が無事に育ってくれることを願いながら丁寧に世話をしたのです。


 その結果、なんとか2つのカボチャが実を結びました。

 ひとつはワタクシの頭と同じくらい大きなサイズ。もうひとつは、それよりもやや小さいですが、色も形も申し分ありません。


「おお、ついにカボチャ収穫か!」


 兄のアレクサンドルは、うれしそうにオレンジ色のカボチャ達を撫でました。

 彼はワタクシのように魔力は注げませんが、それでも水やりをしたり葉についた虫を取り除いたりと、まめに世話をしてくれたのです。


 無事に収穫できたら、そのカボチャでハロウィンのランタンを作る約束をしていたので、きっと彼もこの時を楽しみにしていたのでしょう。


「なぁ、ジェル。カボチャに命が宿るって本当なのか?」


「えぇ。中のワタと種を取り除いて、中をくりぬいて顔を作れば命が宿るはずなんです」


「そっかぁ。へへ、楽しみだな!」


 ワタクシ達は収穫したカボチャをリビングに持ち帰り、果物ナイフで穴をあけました。


「もともとジャック・オ・ランタンの起源はケルトの伝承でしてね……」


 ワタクシは作業をしながら、ジャック・オー・ランタンについてアレクに語って聞かせました。


「天国へ行くことを拒否され、かといって悪魔との契約のせいで地獄に行くこともできない男が、カブに憑依してこの世を彷徨い続けている姿を模した物なんだそうですよ」


「カブ? カボチャの話じゃなかったのか?」


「えぇ。元の話ではカブですが、その伝承がアメリカに伝わった際に、カブの代わりに当時生産量が多かったカボチャで作られるようになったんだそうです」


「じゃあ、もしその時にスイカがいっぱい生産されてたら、スイカ頭だった可能性もあるのか?」


「かもしれませんねぇ」


 頭がシマシマのランタンを想像してワタクシはクスッと笑いました。


「……よし、できたぞ! お兄ちゃんのカッコいいランタンを見ろ!」


 アレクは大きい方のカボチャを使ってできたジャック・オー・ランタンの顔をこちらへ向けました。

 キリッとした目に大きく開いた口。造形の得意なアレクらしい立派な作品です。


「ジェルの方はどんなのだ?」


「えっと……その、こんな感じなんですけど……」


 ワタクシはくりぬいた小さなカボチャをアレクの方へ向けました。


「――お、おう。なかなか可愛いと思うぞ?」


 アレクが気を使うのも無理はありません。ワタクシは造形が下手ですから。


 丸い目は貧弱そうですし、口もまぬけにポカンと開いています。なんとも不恰好なランタンになってしまいました。


 本当なら2つともアレクに造形を任せたほうがよかったんでしょうけど、手塩にかけて育てたカボチャだったので自分も作ってみたかったのです。


「よし、これでどうするんだ?」


「もう少し待ってみてください……ほら、動きだしましたよ」


 しばらく待つと、テーブルに置かれた大小2つのカボチャが静かに揺れ始めました。

 そしてアレクが作った大きなカボチャの方がふわりと宙に浮かんだかと思うと、そこからオレンジ色の体と手足が生えたのです。


「アレクおじさん! 僕を作ってくれてありがとう!」


「うわ、カボチャがしゃべった!」


「よかった、成功ですね!」


 少し遅れて、ワタクシが作った方もふわりと宙に浮いて体と手足が生えました。

 元のカボチャが小さいせいなのか、手足も細くて華奢なようです。


挿絵(By みてみん)


 ワタクシは、自分の作ったランタンがどんなことを話すのかと、興味津々で見つめました。


「…………」


 しかし、一向に喋る気配はありません。

 それどころか顔を隠すように手を顔に当てて、恥ずかしそうにうつむいています。

 もしかしてワタクシの造形が微妙すぎたからでしょうか。

 こんなことなら2体ともアレクに任せるべきだったのかもしれません。

 少し残念に思いつつも、とりあえず命が宿ったらしいことには安心しました。


 こうして2体のジャック・オー・ランタンが誕生したのですが、問題が発生しました。

 アレクの作ったランタンは、とんでもない性格だったのです。


「アレクおじさん! 僕は正義の為に戦います!」


「ランタンマン……できればおじさんじゃなくて、お兄さんと呼んで欲しいけど、正義の為に戦うのは偉いぞ!」


「はい! アレクおじさん!」


 いつの間にかランタンマンという名前が付けられた彼は、アレクがクローゼットから持って来た大判の茶色いスカーフをマントのように身につけて宙に浮いています。


「それじゃ、パトロールに行ってきます!」


「えっ……おい、外は――」


 アレクが止める間も無く、ランタンマンは小さい方のランタンと一緒に窓を開けて、ふよふよと外へ出て行ってしまいました。


「おい、ランタンマン達が出ていっちまったぞ!」


「大丈夫ですよ。周囲にはワタクシが張り巡らした結界がありますから、きっとその先には出られません」


 しかし、彼らは結界に弾かれることなく、そのまま外に行ってしまいました。


「あれ、結界が効いてない? ……あぁ、ワタクシの魔力で育っているから認証済み扱いになって通れるんですねぇ。これは興味深い」


「感心してる場合じゃねぇよ! 町の人にランタンマン達の姿を見られたら騒ぎになるぞ。早く追いかけねぇと!」


 ワタクシ達は急いでランタンマン達の飛んで行った方向へ走りました。


 ――キャァァァァァ!


 すぐ近くで若い女性の悲鳴が聞こえたので、急いで向かうと、そこには道行く男女に襲い掛かろうとするランタンマンの姿があったのです。


「ハロウィンに浮かれるカップル死すべし! リア充死すべし!」


 ランタンマンはそんな怨嗟の声をあげながら、男性の方に殴りかかろうとしていて、小さい方はおろおろした様子で空中に浮いています。


 アレクが慌てて後ろから抱きついて止めたので未遂に終わりましたが、危うく傷害事件になるところでした。


「うちの子が申しわけございません!」


 ワタクシが平謝りすると、相手は気味悪がって逃げてしまいました。

 そりゃあそうですよね……


「おいおい、ランタンマン。正義の為に戦うんじゃなかったのかよ」


「リア充死すべし! カップルを撲滅せよ!」


「ダメだこいつ……」


「あぁ可哀想に。きっとモテないアレクの怨念が、ランタンに宿ってしまったんでしょうねぇ」


 ワタクシが率直な感想を述べると、アレクはあからさまに不機嫌な顔で反論しました。


「おい、ジェル。モテないのはオマエも同じだからな。むしろオマエが魔力を注ぎながらリア充を恨んだりしてたんじゃないのか?」


「失敬な! ワタクシはあえて独り身を選んでいるだけです! アレクと一緒にしないでください!」


「なんだと、お兄ちゃんは言っておくが、めちゃめちゃモテてるからな! 宇宙規模でモテてるんだぞ!」


「リア充死すべし! リア充死すべし!」


「あー、もう! ランタンマンは黙ってなさい!」


 ワタクシ達がしばらく路上で言い合いをしていると、いつの間にか小さなランタンがランタンマンに近づいてその手をキュッと握りました。


「……ランタンマン」


 てっきり話すことができないと思っていたランタンは、少女のような可愛い声でゆっくり話し始めました。


「わたし、うまれたときから、ずっとあなたをみてたよ。ずっとすきだったの」


「えっ……僕のことを?」


「あなたにはわたしがいるよ。だから、そんなことやめて」


「僕のことを愛してくれるの?」


「あいしてる」


 その言葉を聞いたランタンマンは、小さなランタンを抱きしめて「ありがとう」とつぶやきました。


 そして二人は仲良く手を繋いで家に戻って行ったのです。

 ――ワタクシ達を完全に無視して。


「あぁぁぁぁぁ!!!! リア充死すべし!!!!」


「おちつけジェル、相手はカボチャだ!」


「うぅ。でも、でもっ……」


「ほら、お兄ちゃんがアイス買ってやるから。コンビニでも寄って帰ろうな」


「はい……」


 釈然としない気持ちのまま、ワタクシ達はアイスを買って帰宅したのでした。


 その後、彼らは本人たちの希望で魔界へ移住することになりました。

 小さな家を建てて、仲睦まじく二人で幸せに暮らしているそうです。

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