50.不思議な池(挿絵あり)
なぁなぁ、すげぇ不思議なことがあったんで聞いてくれよ。
お兄ちゃんさ、ピクニックに行ったんだ。
梅雨でずっと雨続きで、やっと晴れたから外に出かけたいなって思ったんだよ。
だから、お気に入りのパン男ロボとお昼ごはん用のおにぎりと飲み物を持って、近所の山まで出かけることにした。
弟のジェルマンがリビングで読書してたから、一緒に来ないか誘ってみたけど「めんどくさい」の一言で拒否された。
彼はいつ誘ってもこんな感じだ。わかっちゃいるけど少し淋しい。
そんなわけで一人で山に登ったんだけど、山の上は最高だな。
景色も良いし、空気もちょっとひんやりしてて街中よりも澄んでる気がする。
俺は岩の上に腰掛けてお昼ご飯を食べることにした。
「こういうところで食う飯って美味いんだよなぁ」
――その時、アクシデントが起きた。
スマホで記念撮影している間に、パン男ロボがおにぎりと一緒に地面を転がっていってしまったんだ。
「おい、待て!」
俺は慌てて追いかけた。でもなぜか追いつけない。
おかしい。そんなに坂道じゃないのに、まるで誰かが引き寄せてるみたいにパン男ロボとおにぎりはコロコロとどこまでも転がっていく。
おにぎりは袋に入ってるから食べられるけど、ロボが汚れちまうなぁ……
そう思ってたら、ボチャンって音と共に目の前の小さな池にロボとおにぎりが落っこちてしまった。
慌てて水面を覗き込んだが、水が澄んでいるはずなのに底は見えない。
しかし、こんなところに池なんてあったっけ……?
そう思った瞬間、水面が光ってピカピカしたドレスを着た女の人が現れた。
右手には金色と銀色のパン男ロボを持っていて、左手で俺のおにぎりをモシャモシャ食っている。
「あ、俺のおにぎり……」
「もぐもぐ……ごっくん。貴方が落としたのは金のパン男ロボですか? それとも銀のパン男ロボですか?」
「いや、俺のおにぎり……」
「貴方が落としたのは金のパン男ロボですか? それとも銀のパン男ロボですか?」
女の人は機械みたいに同じことしか言わない。
「いや、だから俺のおにぎり……! えーっと、俺が落としたのは『ハイグレード1/144陸戦型パン男ロボRX-78』だ!」
「マニアうざ……いえ、正直者の貴方には金のパン男ロボと銀のパン男ロボを授けましょう」
女の人は、俺の目の前にキラキラと光るロボを置いて消えてしまった。
何がなんだかさっぱりわからない。
ロボとおにぎりを盗られてピクニックどころではなくなってしまったので、俺は金と銀のロボを拾って家に帰ることにした。
「おかえりなさい、アレク。ずいぶん早かったですね」
「聞いてくれジェル! 変な女の人におにぎりとロボを盗られたんだよ!」
俺は山の中であった出来事を詳しく話した。
「それは不思議ですねぇ……そういえば、似たような話をイソップ寓話で読んだことがありますよ」
「イソップぐうわ……?」
「えぇ。その中の『金の斧と銀の斧』というお話です。木こりの若者が鉄の斧を泉に落としてしまうんですが、泉から神様が現れて落とした斧は金の斧か、それとも銀の斧か? と若者に問うのです」
「答えたらどうなるんだ?」
「正直に答えると鉄の斧を返してもらえる上に、金と銀の斧も一緒にもらえます。嘘をつくと何ももらえません」
「確かに俺の話と似てるな。俺の場合は出てきたのが女の人だったし『ハイグレード1/144陸戦型パン男ロボRX-78』は返してもらえなかったけど」
「ハイグレードだとか、そんな事はどうでもいいんですがね」
「どうでもいいってことはねぇだろ」
文句を言う俺に対し、ジェルは青い瞳をキラキラさせながら答えた。
「重要なのは、その池に物を落とすと金と銀に変えてくれるということですよ!!!!」
――30分後。俺はジェルに言われるまま、例の池へと彼を案内していた。
俺達の大きなリュックサックの中には、焦げ付いて使わなくなった鍋や壊れた時計など、家中で集めた不用品が詰まっている。とても重たい。
幸い山頂までは彼の転送魔術ですぐ来られたんだが、池の正確な場所がわからなかったから、そこから少し山の中を歩くことになった。
「なぁ、ジェル。いくらなんでも荷物が多くないか?」
「何言ってるんですか! このガラクタが金と銀に変われば大儲けですよ! さぁ、池に急ぎましょう!」
彼の目がギラギラしていて怖い。今朝はピクニックなんてめんどくさいって言ったくせに、金が絡むとこれだ。
荷物の重みにゼイゼイ息を切らせながらも、俺達は無事に池にたどり着いた。
「はぁ、はぁ……これがその池ですか。……じゃあ早速、ガラクタを投げ入れるとしますかねぇ!」
ジェルは足元をふらつかせながら、リュックサックの中身を池に放り込もうとした。
「おい、ちょっと休んでからじゃないと危ねぇぞ」
「だいじょうぶですよ……ああっ!」
ガシャン! ドボン!!!!
先日の雨のせいで地面が少し滑りやすくなっていたせいだろうか。
ガラクタを投げ入れようとしたジェルは転んで、そのまま池に落っこちてしまった。
「ジェルっ!」
この池はかなり深いみたいだ。一瞬で沈んで一向に上がって来ない。
早く助けに行かねぇと……!
リュックサックを置いて、急いで池に飛び込もうとしたら水面が光って、女の人が現れた。
両腕にジェルの姿をした金色の像と銀色の像を抱えている。
「貴方が落としたのは金のジェルですか? 銀のジェルですか?」
「バカ野郎! そんなの要らねぇから今すぐジェルを返してくれ!」
「貴方は正直者ですね。金のジェルと銀のジェルを授けましょう」
目の前に、ジェルそっくりな金と銀の像が置かれる。
くそ、まったく話が通じない。
「ふざけんな、ジェルを返せぇぇぇぇぇ!!!!」
消えようとする女の人を追いかけるように、俺は無我夢中で池に飛び込んだ。
――ドボン!!!! ゴボゴボ…………ドサッ!
「いてて。あれ……? 水が無い?」
なぜか俺がいるのは地面だった。
見上げると、俺の頭上で水がゆらゆらしている。立ち上がって背伸びして手を伸ばしても水には届かない。
でも俺の髪も服もびしょ濡れだから、池に飛び込んだのは間違い無さそうだ。
その時、何かが靴の先にコツンと当たった。ドクロだ。
よく見てみると、辺りには人骨っぽい骨が散乱している。
「何だここは……」
「アレク? 大丈夫ですか?」
振り返ると、髪と服がビシャビシャに濡れた状態のジェルが居た。金でも銀でもない。ちゃんと生きている。
「ジェル! 無事でよかった……」
「まさか池の中がこうなっているとは思いませんでしたね。アレクの落としたパン男ロボもここにありましたよ」
「やっぱりここは、あの池と繋がってるんだな」
「そうでしょうね。しかし、アレクはどうしてここに?」
俺が経緯を話すと、彼は大きく目を輝かせた。
「――ってわけで、お兄ちゃんは命をかけて後を追ってきたんだ。だから感謝の印に今夜の夕食は特大ハンバーグをだな……」
「金と銀のワタクシの像があるんですか⁉ それはぜひ回収せねば!!!!」
金に目がくらんでいるジェルは、俺のことをそっちのけで大喜びして地面に転送用の魔法陣を書き始めた。
「いや、だからハンバーグ……うん、ジェルが無事だったから、まぁいいか……」
俺達は転送魔術で、無事に池の中から脱出した。
「あれ……池はどこだ?」
元の場所に戻ってみると、そこにあったはずの池が無くなっていた。
池があったと思われるところには金と銀のジェルの像が立っていて、その足元には俺達のリュックサックも置かれている。
「ここだったよなぁ……?」
「間違いないですよ。景色に見覚えもありますし。何よりも荷物がそのまま残ってるじゃないですか」
「じゃあ、何で池が無いんだ?」
「それはわかりません。せっかくガラクタを金と銀に変えるつもりだったのに、惜しいことをしましたねぇ」
ジェルは残念そうにリュックサックを見ている。
「でもまぁ、ワタクシにはこの金と銀の像がありますからね。ずぶ濡れになった甲斐がありました!」
そう言ってジェルが金色の像に手を伸ばし、軽くぺチッと叩くと、像はあっさり地面に倒れた。
「あれ⁉ なんだか妙に軽い感触だったんですが」
彼は険しい表情でポケットからルーペを取り出して、倒れた像を鑑定し始めた。
「あぁぁぁぁぁっ! これ金メッキじゃないですか!!!!」
「じゃあ、銀色の方も?」
「こっちは銀メッキです! しかも両方とも中は空洞でスカスカですよ!」
「本当だ、片手で持てる」
「大儲けするはずが、ガラクタが増えただけじゃないですか……ハッ、ハクションッ!」
ジェルは大きなくしゃみをして、がっくりと肩を落とした。
「なぁ、あの池は何だったんだろうな」
「……ろくでもない存在ですよ。少なくとも池に居たのは神様なんかじゃありませんねぇ」
ジェルは忌々しそうに、像を見ながら答えた。
そんな「ろくでもない存在」に遭遇して無事に帰って来られたのはラッキーと思うべきなんだろうか。
あの池は消えちゃったけど、今もどこかに出現しているのかもしれない。
――もし山の中で池を見つけた時は、落っこちないように気をつけろよ。
今回は童話モチーフのはずなのになぜかSCPっぽい話になりました。たぶんオブジェクトクラスは収容不可っぽいのでKeterでしょうか。
次の更新は7月3日(土)です。
ここまで読んでくださりありがとうございました!




