46.バレンタインプレゼント(挿絵あり)
その日、ワタクシはリビングでバレンタインチョコのラッピングをしていました。
「ねぇ、ジェル。僕の分は~?」
我が家に遊びに来ている氏神のシロが、小首をかしげて甘えた声でたずねます。
彼はこんな時だけ、子どもらしい外見を最大限にあざとく使うのです。
「はいはい、ちゃんとシロの分も用意していますよ」
「やった~! ――そういえば、アレク兄ちゃんは居ないの?」
「えぇ。今日は知り合いのコンビニにヘルプを頼まれて夕方までバイトに行ってるんですよ。店長にお子さんが生まれてから人手が足りないそうで」
「ふーん。アレク兄ちゃんは人付き合い良いよねぇ」
「ですよね。ワタクシも以前その店にお世話になったので一緒に働こうと思ったんですが、アレクに全力で拒否されまして」
「ジェルはやめといた方がいいと思うなぁ」
「そうですか? ワタクシもやっと世の中に馴染めてきたと思ったんですがねぇ……」
そんなことを言いながら、真っ赤な包装紙でラッピングされたチョコに金色のリボンを結びました。
「さて、後はプレゼントをラッピングして添えるだけですね」
「プレゼント?」
「えぇ。今年はチョコがシンプルなのでプレゼントもあげることにしたんです」
ワタクシは密かに自室に隠していた箱を持ってきてシロに見せました。
「見てください! アレクが欲しがっていたパン男ロボDX2です! 超レアなロボットなんですよ!」
自信満々に見せたのに、シロはなぜか困った表情をしています。
「どうかしましたか?」
「……ジェル。箱にはパン男ロボDXって書いてあるけど。これ、ひとつ前のロボットじゃない?」
箱を見てみるとたしかに「DX」と書かれています。
どうやら勘違いして違うロボットを買ってしまったようでした。
「困りましたねぇ。返品交換といっても、超レアなロボットらしいので在庫が無いでしょうし。そもそも買ったのはちょっと前だから……」
今から買い直すにも、そんな超レアな物がどこで売っているのやら。
スマホを取り出して調べてみると、やはりどこも完売でした。
「はぁ……大失敗です」
「元気だして、ジェル。――そうだ。ジェルの錬金術でDXをDX2に改造できないかな?」
「錬金術で、ですか?」
「うん、ほら。同じロボットだから基本の形は同じだもん。細かいパーツが違うだけだから錬金術で改造すればDX2になると思うんだ!」
錬金術は物の形を変えることができます。
ワタクシは今までにもそれで壁を補修したり、魔女の箒を改造したりもしてきました。
同じ要領で、ロボットを改造することは可能です。
しかし――
「うーん、修復ならまだしも、新しく造形するのは苦手なんですよねぇ……」
「でもきっとアレク兄ちゃん喜ぶと思うよ?」
上手く改造できる自信はありませんでしたが、アレクの喜ぶ姿は見たい気がします。
「しょうがないですねぇ」
ワタクシは少し渋りながらもロボットの改造に着手したのでした。
「えっと……まずDXとDX2の違いを把握しないといけませんね」
スマホ画像を検索してみると、頭の形が違うようです。
「ちょっと尖ってる感じだよね」
「なるほど。とりあえずこうですかね……えぃっ!」
魔法陣の上で頭の形をイメージしながら魔術で変形させていきます。
こう長く……長く……
「待ってジェル! 頭が伸びてるよ! 全然尖ってない!」
気が付けば、ロボの頭部は不自然に縦に伸びていました。
「……ま、まぁ頭や顔はそんなに重要じゃないですよ、大事なのは装備です、装備」
「そうかなぁ」
「えっと、他にはどこを改造すればいいんですかね?」
「胴体と腰に装甲が追加されてるね」
「装甲って何ですかね?」
「うーん、なんかすごい攻撃を弾くやつだよ。ほらこの分厚くなってる部分」
シロが見せてきた画像を参考に、装甲を追加していきます。
装甲の材料はちょうどおやつに食べたプリンの空き容器があったので、そこからプラスチックを拝借することにしました。
プリン、美味しかったなぁ……そんなことを思いながら作ったのがいけなかったのでしょうか。
なぜかロボットには装甲ではなく、下着みたいなピンクのフリルが追加されてしまいました。
「こんなのぜんぜん攻撃弾けないよ!!!!」
「だ、大丈夫です! 装甲はそんなに重要じゃないですよ、大事なのは武器です、武器」
「そうかなぁ……」
シロは取り返しの付かないものを見るような冷めた目でロボットを見ています。
「最後はキャノン砲の追加だね。これだけでもなんとか成功させようよ、ジェル」
「うぅ……がんばります」
意識を集中させて細心の注意を払い、スマホで何度も画像を確認しながらワタクシはキャノン砲を制作しました。
そのおかげでしょうか。今度は良い感じに造形が上手くいったのです。
「やった……!」
「すごいすごい! ジェルもやればできるんだね!」
「当然です! ワタクシは天才錬金術師ですから!」
我ながら素晴らしい出来映えです。これならきっとアレクも大満足のロボットになるでしょう。
「後はこれをロボットの肩に融合させて……」
多少頭が変形したり変なフリルは付いてますが、終わりよければすべて良しです。
ワタクシは呼吸を整え、指先に魔力を集中させました。
「……あぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 違います違いますっ! 一番付いてはいけないところに砲身が!!!!」
ロボットのフリルの間から覗く股間に、立派な砲身が付いてしまいました。
「なんだか卑猥なロボットになったね」
「うぅ、せっかくキャノン砲自体は成功したのに……」
作り直しをするべきか考えながら時計を見ると、もうアレクが帰ってくる時間になっています。
「どうしましょうこれ……」
「そうだねぇ」
どうあがいてもフォローしようがない「DXだったロボ」を見ながら思案していると、玄関から兄のアレクサンドルの元気な声がしました。
「たっだいま~! お兄ちゃんのお帰りだぞ~!」
「……お帰りなさい、アレク」
「おかえり、アレク兄ちゃん」
「おう、シロも来てたのか。どうしたんだ、元気ねぇな?」
「えぇ……まぁ……」
言葉を濁すワタクシを不思議そうに見ていたアレクですが、すぐにテーブルの上のロボットに気付きました。
「お、そこに置いてるのってもしかしてパン男ロボ⁉」
「え、あ……これは……」
「すげぇ、こんなの見たことねぇぞ! もしかしてジェルが改造したのか⁉」
「あ、はい……実はそれ、バレンタインチョコと一緒にアレクにプレゼントしようと思ってたんですが」
「マジ⁉ 俺にくれんのかよ! ありがとうな! やべぇ、股間から弾が出るとか、かっこよすぎだろ!」
彼はロボットを手に取ってニコニコしています。
よかった……アレクの趣味がかなり変でよかった……
ワタクシはシロと顔を見合わせて安堵しました。
「……よし! さっそく写真に撮ってSNSで皆に自慢しよう!」
「それはやめてください!」
「やめてあげて!」
その後「DXだったロボット」はアレクの部屋で他のパン男ロボ達と仲良く棚に飾られることになりました。
「アレクが喜んでるなら、それで良し、ではありますけども……」
もう少し造形の腕を磨きたいと思ったワタクシなのでした。
次回の更新は3月6日(土)です。
ここまで読んでくださりありがとうございました!




