表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/98

26.アレクショボイメッセージ(挿絵あり)

 それは街路樹が色づき始め、秋が深まったある日の夕方のことでした。


 アンティークの店「蜃気楼」のカウンターでは古い科学雑誌を読むワタクシと、棚の掃除をする兄のアレクサンドルの姿がありました。


「なぁ、ジェル。さっきから何読んでるんだ?」


「アレシボメッセージについての記事ですよ」


「あれしぼめっせーじ? なんだそりゃ?」


 ハンディモップで棚の上の埃を取っていた彼の手がぴたり、と止まりました。


「1974年にアメリカが、宇宙人に向けてメッセージを送ったんですよ。地球のことや人間のことなどを信号にして電波で宇宙へ発信したんです」


 アレクにもわかるように簡単に説明したところ、彼は完全に掃除はそっちのけで興味津々といった顔でやって来て雑誌を覗き込みます。


「なんだこの絵……ちっちゃい四角がいっぱいだけど、これがメッセージなのか?」


「えぇ。1679個の小さな四角を73行23列に並べ替えると、意味のある図形になるんですよ」


 その説明に対し、アレクは軽く頭をかいて眉を寄せながら素直な感想を述べました。 


「よくわかんねぇなぁ。もっとわかりやすいメッセージにすりゃいいのに」


「そうですねぇ。魔術を応用したらもっとわかりやすい形でいろんな情報を送れると思いますが……」


 ワタクシが雑誌のページをめくりながら何気なくそう答えると、彼は玩具を見つけた子どものような弾んだ声を出しました。


「え、マジで⁉ 魔術を応用したら……ってことは、ジェルも宇宙人にメッセージ送れるのか?」


「えぇ。やったことはないですけど、たぶんできると思いますよ」


「すげぇな! 俺も宇宙人にメッセージ送りたい!」


「えぇ……? そんなこと言って掃除をサボる気じゃないんですか?」


 ワタクシの冷ややかな視線を軽く受け流して、アレクはニヤリと笑いました。


「ジェルだって本当に魔術で宇宙人にメッセージが送れるのか興味あるだろ? だったら今日の掃除はこれでオシマイだ!」


 彼は反論する余地を与えず、さっさとハンディモップを片付けてしまいました。


「しょうがないですねぇ……」


 こうしてワタクシ達は、実験も兼ねて宇宙人にメッセージを送る準備を始めたのです。

 アレクが見守る中、ワタクシは店の前で特殊に調合したインクで地面に魔法陣を描いていきます。


「魔法陣はこれでよし。あとはパラボラアンテナになる物があればベストなんですが……」


「パラボラアンテナ?」


「えぇ。ほら、このページにあるような浅い半球みたいな形の。形状が似てる物なら何でも構いませんが……」


「あぁ、あるある!」


 雑誌に掲載されているアンテナの写真を見せると、彼は大きく頷いて店の奥へ何か取りに行きました。

 しかし、我が家にそんな物あったでしょうか……?


「おい、ジェル。これはどうだ?」


 彼は家から大きな鉄製の中華なべと自撮り棒を持ってきました。


「……意外とありかもですね」


 中華なべをスタンドに傾けて立て、中央に伸ばした自撮り棒を貼り付けますと、見た目は残念ですが一応形状としては問題ないような雰囲気となりました。


「さて。あとはどんなメッセージを送るかですが。とりあえずメモに書き出して、後でまとめて信号に変換しましょう」


 ワタクシは、店のカウンターの上にあったメモ用紙とペンをアレクに渡しました。


「何を発信しようかなぁ~」


「そうですねぇ。まずは、本家のアレシボメッセージを参考に内容を考えましょうか」


 アメリカが送ったメッセージには1から10までの数字に、水素・炭素・窒素・酸素・リンの原子番号や、デオキシリボ核酸のヌクレオチドに含まれる糖と塩基の化学式やDNAに含まれるヌクレオチドの数……といったことが書かれているのですが。


「ヌクレオチド……? そんなよくわからん話はいらねぇな。それよりお兄ちゃんオススメのハンバーグのレシピ入れとこうぜ!」


 アレクが一蹴したことにより、我々のメッセージには『合びき肉300gたまねぎ1個』といった内容が記載されることになりました。


「他にはどんなこと書いたらいいんだ?」


「そうですねぇ……人間がどういう姿かわかる資料でしょうか」


「俺の写真でいいか?」


「アレクの容姿は、平均からちょっと外れてる感じがしますが……」


「いいんだよ!『地球人はこんなカッコいいのか!』って、宇宙人をびっくりさせようぜ!」

 

 そう言いながらアレクはズボンのポケットからスマホをサッと取り出し、腕を伸ばして自分の姿を手際よく撮影しました。


「よし、せっかくだからアプリで盛ろう。美白MAXにして、目もキラキラにでっかくして……」


 写真を撮るのは上手いのに加工は苦手なのか、アレクがアプリをタップするたびにアゴが異様に細長くなり目が巨大化して彼の顔がどんどん人間離れしていきます。


「うわ、気持ち悪い」


「加工すんのって案外難しいもんだな……」


 現時点で、宇宙へ発信するのがハンバーグのレシピと気持ち悪いアレクの写真だけなんですが、これでいいんでしょうか。――いや、絶対よくない。


「あの。もうちょっと、宇宙人にとって有益な情報を送るべきだと思うんですが」


「有益ってどんなのだよ?」


「たとえば地球の人口とか……」


「そういや地球の人口って何人だ? 俺とジェルがいて……シロがいて、ジンちゃんがいて。スサノオとか神社の人もいて。そもそも神様は人口に入れていいのか?」


 アレクが考え込んで答えのでないループに入ってしまったので、ワタクシは正解を答えました。


「77億人らしいですよ。神様や魔人はノーカンです」


「人ってたくさんいるんだな……」


 アレクは感心しながらメモに『人はたくさんいます』と書き込みました。


「あとは太陽系の絵が必要じゃないでしょうか?」


「何のために描くんだ?」


「地球から発信されたメッセージですよって知らせる為です」


「なるほど。よし、お兄ちゃんが描いてやるよ!」


 アレクは家からスケッチブックを持ってきて、スマホで検索した太陽系の図を見ながら惑星を描いていきました。


「まず太陽があって……おい、水星すげぇちっちゃいな……木星と土星はデカすぎだろ。えーっと、うちはここです。近くまで来たら寄ってくれ。――よし、オッケーだ!」


 彼は地球に矢印を追加して、うちの店の住所を書き込んでいました。


「これでいいのか?」


「えぇ。でももっと、わざわざ解読するだけの価値のある情報が欲しいですよねぇ」


「しょうがねぇなぁ。お兄ちゃん秘蔵のとっておきの写真を放出してやるか……」


 アレクはスマホの画像フォルダを確認し始めました。とっておきの写真……?


「これを見れば宇宙人も大興奮まちがいなしだな!」


「ちょ、ちょっとアレク、いかがわしいものは……あっ」


 アレクがスマホを差し出すと、画面には可愛い柴犬の写真が何枚も並んでいました。


「俺のワンちゃんコレクションだ! いいだろ~!」


「――はぁ。じゃ、その犬の写真も送りますか」


 ワタクシは写真をプリントアウトした紙や絵、そしてメモをお手製のパラボラアンテナが設置された魔法陣の上に置きました。


「さて……これで魔法陣を起動すれば宇宙へメッセージが送られるはずです」


 ワタクシは手をかざし、呪文を唱えました。


「――我はクロノスの眼を欺きし者。今ここに新たなる門は開かれた。はるか彼方にありし存在よ、我が問いに答えよ!」


 呪文を唱え終わると同時に魔法陣が光り輝き、光が中華なべを経由して自撮り棒の先端から細い光の帯がレーザー光線のように空に向けて一度放たれると、辺りに静寂が訪れました。


「……え、これだけ?」


「これだけですよ?」


 アレクは不満そうに口をとがらせました。


「おい、ジェル。どういうことだ? 宇宙人から返事は来ないのか?」


「返事は来ても2万年後とかじゃないですかね? だって、アレシボメッセージも送っただけで返事はきてませんし」


「なんだよ、つまんねぇの~。おーい! 宇宙人! メッセージ受け取ったなら返事ぐらいしろ~!」


 夕日が落ちて暗くなりはじめた空に向かって、彼は大声で呼びかけました。


「ちょっと、アレク。そんなこと言ってもUFOなんて来るわけが……えぇっ⁉」


 急に地面が照らされたので上を見たら、そこにはピカピカと光を点滅させる巨大な円盤の姿があったのです。


 この周囲には店の存在を隠すための結界が張り巡らせてあるのですが、それがピシッと音を立てたかと思うと、一瞬ですべて破壊されました。なんとも恐ろしいパワーです。


「あぁぁぁぁぁぁ‼ ワタクシの魔術結界がぁぁぁぁぁぁ~‼」


「やったぁ! マジでUFOきた! メッセージ届いたんだな‼」


 アレクは結界が壊れたことなんかまったく気にならないらしく、空を見上げて大喜びしています。

 すると円盤から柱のような太い光が射して、その中に二人組みと思われる人影らしきものが見えました。


「やった、宇宙人だ!」 


「えぇっ⁉ どうしましょう、もし友好的な宇宙人じゃなかったら――」


 相手は結界を一瞬で破壊するほどの高い能力の持ち主です。もし今から地球を侵略する、なんてことになったりしたら……


 ワタクシが最悪の事態を想定して身構えると、光の向こうから間の抜けた男性の声が聞こえました。


「なんや。誰かと思ったらオマエらかいな」


挿絵(By みてみん)


 目の前にいたのは、オカルト雑誌で見たような小柄で全身銀色で覆われた身体に大きく真っ黒な目の典型的な宇宙人達です。

 しかし、お揃いのアロハシャツにステテコ、そして下駄を履いていました。 


「え、宇宙人……ですよね?」


「せやで? あんさんの顔も知ってるで。あんたら正月に神社で羽根突きしとったろ?」


 宇宙人は親しげに話しかけてきました。


「あー! あんときの! 俺にアンテナぶっ刺した宇宙人かよ!」


 アレクが大声で反応しました。そういえば、お正月に神社で羽根突きをした際にUFOが来てアレクと知らないおっさんが拉致されるという事件がありましたっけ。


 ワタクシ達の反応をよそに、宇宙人たちはマイペースに話し始めました。


「なんや、せっかくカッコえぇとこ見せよう思って、張り切ってUFO乗って来たのに損したわー」


「せやな。ここやったら別にチャリでよかったわ」


「え、そんなご近所にお住まいなんですか⁉」


「そうやで。ここから真っ直ぐ行ったらパチ屋あるの知ってる? そこの角曲がったとこ」


 たった今、政府に報告しないといけないような重要な情報を掴んだ気がしますが、ワタクシは聞かなかったことにしておこうと思いました。


「ところで、犬どこ?」


「え、犬……?」


「柴犬の写真、送ってきたやん。うちら犬触りに来たんやけど」


 ワタクシ達が柴犬を飼っていないことを知ると、宇宙人達はがっかりしました。


「なんや。ほな帰るわ」


「自分ら、あんましょうもないことしたらあかんで。ほな、さいなら」


 宇宙人は光の柱の中へ戻って行き、円盤の中に吸い込まれました。そしてUFOは音も無くパチンコ屋のある方向へと消えて行ったのです。


「宇宙人、すっかり地球に馴染んでましたね……」


「そうだな……」


 星が輝き始めた真っ暗な空を、アレクとワタクシはぼんやりと見つめていたのでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 加工盛り盛りアプリはやめろwwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ