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幕間:足跡を追跡

今夜は3話の幕間で、ベレンゲラ側の話です。

 大カザン山脈の然る荒野に在る岩陰近くで騎士団が野宿していた。

  

 旗は立てていないが、馬の毛並みや馬車等は質実剛健の中に雅さを僅かに出している。


 輪を作り焚き火に当たっている騎士と従者も身形が良く品格もあった。


 恐らく何処ぞの名のある騎士団が素性を隠して忍び旅でもしているのだろう。


 ただし時々だが獣や魔物の雄叫びを聞くと反射的に武器を取り、それに苦笑する姿を見せた。


 「いかんな・・・・どうも初めて館を訪れた気分になる」


 赤と黒の2色を使ったサーコートを着た騎士はロングソードを傍らに置き直し仲間に言った。


 「仕方ないですよ。俺達の祖国では獣も魔物も“敵”という認識ですからね」


 若しくは蛮族の証拠と烙印を押され村八分にされたと別の騎士が言うと周りは頷いた。


 「中には人間に危害を加える奴等も居ますが・・・・ここの住民は違いますね」


 壮年の従者が獣や魔物の雄叫びを聞きながら言うと若い従者が問いを投げた。


 「どうして解るんですか?」


 自分にはただの雄叫びにしか聞こえないと若い従者が言えば壮年の従者はこう言った。


 「私の遠き先祖は知っての通り初代騎士団総長と共に“国父”様の下で暮らした」


 その国父は獣や魔物を敵とは見なさず同じ生物として見たと従者は語った。


 「そして私の先祖に言ったのさ」


 『向こうは余程でない限り自分達を襲う事はない。寧ろ自分達より彼等の方が恐がっている』


 「しかも大自然と如何に付き合うかは向こうの方が知っている。だから彼等の鳴き声や動きを観察しろと・・・・教えて下さった」


 その言葉を自分の先祖は実行し記録に書き留めたと従者は言い、今の雄叫びをこう説いた。


 「漸く活動時間になった。さぁ、家族の為に頑張ろうと言っているのさ」


 中には縄張り争いや交尾相手を探している奴も居ると従者は鳴き声から若い従者に説いた。


 「俺達には同じようにしか聞こえませんが・・・・国父様の言葉は感慨深いですね」


 辺境男爵様の領土で体験した事を若い従者は思い出したのか、しみじみした態度を見せた。


 「私も最初は同じ気持ちだった。しかし、年を取るに連れて国父様の言葉は当たり前に思えてきた」


 人間は他の動物とは一線を引いた生物ではあるが・・・・・・・・


 「この世の支配者ではない。そして大自然の前では小さき存在だ。そして我々も死ねば自然に還る」


 ここ最近は更に思うようになったと壮年の従者は若い従者に言い、それを若い従者は黙って聞いた。


 もっとも完全に理解できた様子ではない。


 「まだ解らないようだが焦る事は無い。お前を始め若者には先があるんだ」


 自分のように壮年を迎えた者とでは年の差で解らない事は多々在るものだ。


 「しかし、それを解るように経験を積めば問題ない」


 この言葉に若い従者は納得できる面があったのか「はい」と返事をした。


 「それで良い。しかし・・・・この山脈に敵は居るんだ。そいつ等をどうするかは解るな?」


 壮年の従者がドスを利かせた声で尋ねると若い従者は無言で頷いた。


 言葉にこそ出さないが、それだけで壮年の従者には良かったのだろう。


 満足そうに笑いつつ・・・・自分達が仕える主人の天幕を一瞬だけ見た。

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 岩陰近くに建てた白天幕に女は居た、


 傍らにはラメラ・アーマーと、同じ色を用いた「頭形兜ずなりかぶと」、そして黒漆で塗られた鞘に納まった大刀と、幅広で先端も鋭利な「手矛」と「和弓」が置かれていた。


 大刀を始めも年季が入っており、まさに先祖伝来と言える感じだった。


 本当なら誇りに思うべき事だが女は僅かに瞳を曇らせた。


 スターサファイアの瞳が細くなると蝋燭の火も細くなってのストレートに伸ばした銀髪を艶やかに照らす。


 だが女は何も言わず外から聞こえる獣と魔物の雄叫びを演奏のように聴いた。


 『ここの住民は生き生きとしているわね』


 自分の祖国とは全く違う力強い雄叫びに女は如何に祖国が酷いか垣間見た気がする。


 とはいえ自分は保護を訴える訳でもないし、ただ生きている気がしてならなかった。


 ここに来たのも主人を護る為に来たが・・・・亡き師が来たかった地に自分が足を踏み入れた事に罪悪感もあった。


 『本当なら辺境男爵が踏みたかった筈よ』


 自分みたいな人間より・・・・先祖から悲願し続けた願いを叶えたかった筈と女は改めて思った。  


 しかし・・・・弟子である自分が師に代わり大地を踏んでいる。

 

 それが女には無常にも捉えられたが・・・・天幕の外に気配を感じると気を引き締めた。


 「どなたですか?」

  

 『アルベルトです。ベレンゲラ総長』


 女騎士は天幕の外から名乗り出た老従者に入室を許可した。


 すると天幕を潜りブリガンダインを着た壮年の男が入って来た。


 「部下達はどうでしたか?」


 「現時点では不満など言っておりません。寧ろ・・・・我国との違いに感慨深さを感じているようです」


 「・・・・私も似たような気持ちになりました」


 ベレンゲラはアルベルトの言葉に小さく吐息した。


 「左様ですか。しかし・・・・どうやって探し出しますか?」


 魔術師に調べさせたが敵も対策を取っているとアルベルトの言葉にベレンゲラは無言となった。


 「流石にコステロ伯爵の鍛えた生徒達と賞賛したい所ですが・・・・長期戦は我々にとって不利です」


 「・・・・敵の対策を打開する策はこちらにありますか?」


 「現時点ではないそうです。ただ、微量ですが魔力を探知する事は可能だそうです」


 しかし・・・・それすら敵の策略とも取れるとアルベルトは 言うがベレンゲラは無言を貫いた。


 アルベルトは年若いが思慮深い騎士団長の言葉を待った。


 「・・・・探知できるなら可能な限り探知を続けなさい」


 長期戦は我々に不利であるし士気にも係わるとベレンゲラは言った。


 「我々が来ることを想定した策略という線も捨て切れませんが・・・・奴等を見つけるのが先決です」


 「承知しました」


 アルベルトはベレンゲラの言葉に小さく頷いた。


 「ただ、奴等を探す為に大カザン山脈に住む部族と会うでしょう」


 「というと我々が上陸した海岸沿いに居た部族達のような集団ですか」


 「そうです。貴方はどう見ましたか?」


 ベレンゲラの問いにアルベルトは思った事を正直に話した。


 「我々を見ても驚きませんでしたね。ただ・・・・警戒心を抱いた者も居ました。恐らくコステロ伯爵の生徒達---コンキスタドール達が何かやったのではないでしょうか?」


 「そう考えられますね。コステロ伯爵だけが彼等を動かした訳ではないのですから」


 「・・・・・・・・」


 暗に第3皇子を皮肉っているとアルベルトはベレンゲラの言葉から察したが、第3皇子の性格を鑑みればベレンゲラが皮肉るのも無理はないと思い直す。


 ただし・・・・ベレンゲラが言う前にアルベルトは言った。


 「畏れながら総長。我々は第3皇子よりも世の中を知っているつもりです。また我々の遠き先祖達は常にあらゆる欲望と戦い・・・・勝ち続けました」

 

 敵には負ける事も何度かあったが自己の欲望には負けた事が無いのは・・・・誇れるとアルベルトは言いベレンゲラも頷いた。


 「えぇ、そうですね。ですが・・・・改めて言います。自衛以外の攻撃は原則として禁止です」


 「御意に」


 「また物資を得る際は略奪ではなく物々交換を徹底させなさい。もし、これを破った者が居たら私が処断します」


 騎士として自裁する事も許さないと暗にベレンゲラは言ったがアルベルトは黙って聞いた。


 「これはムガリム帝国エレンスゲ騎士団総長のベレンゲラ・デ・ブルゴス・イ・アラゴム伯爵の命令です」


 「承知しました」


 アルベルトはスターサファイアの瞳で真っ直ぐ自分を見つめるベレンゲラに片膝をつくと頭を垂れて命令を受け入れた。


 それを見てベレンゲラは小さく深呼吸する事で・・・・新鮮な空気を体内に招き入れた。

 

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