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番外編:左腕の騎士3

 謁見の間に居るベレンゲラ、アフォンソ、ミゲル提督、アンドーラ宰相の4人は静かに否定の言葉を発した皇帝を注視した。


 この皇帝は戦上手にして外交手腕でも実力を発揮した先代皇帝の3男だが戦に関しては余り良い評価を与えられない。


 ただし衣服を脱げば矢傷や魔法攻撃の傷跡があるなど前線で指揮を執る勇猛果敢な将であるのは間違いないのは血筋と言うべきだろう。


 もっとも戦う相手が「悪すぎた」から将としての評価が低いだけだ。


 その反面で政治手腕は先代皇帝を凌ぐと言われる程の実力を発揮し先代皇帝が築いた土台を見事に固めた事で「中興の祖」と見る眼を持つ者からは評されている。


 しかし普段は自身が引き立てた臣下に政治は任せるようにしている為か「戦下手にして政治には無関心」と評されているのが現実だ。


 おまけに皇妃の性格もあってか、皇帝という立場にありながら公娼を一人も持っていない点も批判されているが・・・・それでも皇帝は皇帝。


 そして静かだが覇気のある声は・・・・やはり先代皇帝の血を引いていると4人に伝えた。

 

 「ミゲル提督、そなたはハインリッヒが語った夢を自分のせいと言ったが・・・・この責任は私にある」


 『御言葉ですが皇帝陛下・・・・・・・・』


 「いや、私のせいだ。私が・・・・もう少し早く手を打っておけば・・・・このような事態にはならなかった」


 私のせいだと皇帝は2度も言いつつ魔石に映された映像を見続ける。


 その姿に従う形でベレンゲラ達も魔石を見続けたが・・・・ベレンゲラは魔石に映し出されるハインリッヒを見る度に自分が側に居ればと思う場面が多々あった。


 しかし、それとは別にハインリッヒの粘り強い戦い振りに感心する面があると見ていて思う所があった。


 そして・・・・その戦い振りはミゲル提督も見ていて分かったのだろう。


 『私が教えた事を・・・・忠実に守っているな』


 「ハインリッヒ殿には貴方も”師”の一人なのでしょう」


 ミゲル提督の発言を直ぐ指摘するとミゲル提督は首を横に振った。


 『彼の師は私など足下にも及ばない名将です。だから私は彼の成長に少し手を貸したに過ぎません』


 「・・・・・・・・」


 ベレンゲラはミゲル提督の言葉に無言になるがミゲル提督はハインリッヒの戦い振りをジッと見ていた。


 その眼差しは父とも見えるし師の眼差しにも見えた。


 しかしミゲル提督はハインリッヒの師を名将と称したが知っているのか?


 突然、浮かんだ疑問の答えをベレンゲラは考えたが、映像は終幕の場面と早くも移っている。


 「まるで“歌劇”だな」


 アンドーラ宰相がバルバドス大宮中伯達の登場を称したが、その言葉には羨望の色が含まれていた。


 「羨ましいな・・・・彼が」


 皇帝がアンドーラ宰相に話し掛けたが、語り掛けた言葉にアンドーラ宰相は視線を落として頷いた。


 「・・・・“あの戦い”を言っているのですか?」


 アフォンソーが皇帝に問い掛けたが、その戦いの名を聞いたベレンゲラとミゲル提督は無言で皇帝とアンドーラ宰相を見た。


 その戦いは皇帝の初陣にして将としての評価を決定付けた戦いである。


 同時に先代皇帝が宮廷争いと地方貴族の反乱などに一区切りを入れた面もあり「あの戦い」と称されてもいるが、現皇帝には思い出したくもない戦いだ。


 ところが皇帝は受け入れているように静かな口調で、あの戦いを評した。


 「・・・・あの戦いは私亡き後も・・・・未来永劫に渡って語り継がれるからな」


 帝国史上稀に見る「大敗北」として・・・・・・・・


 皇帝の言葉にアンドーラ宰相は否定しようとしたのか、首を小さく振った。


 しかし言葉は発する事が出来ず、ある意味では皇帝の言葉を肯定するような仕草さえ見せていた。


 だがハインリッヒとラインハルト修道司祭のフェーデの場面になると皆の眼は映像に集中した。


 「聖職者がゲスなのは万国共通だな」


 アフォンソーがラインハルト修道司祭の卑怯な手を見て皮肉った。


 『自分達が信じたい事柄しか信じないのが“信者”というものだ。しかし・・・・・・・・』


 ミゲル提督がアフォンソーの皮肉に相槌を打つが途中まで言った所で言葉を中断した。


 「惨めな敗北をする点も・・・・万国共通だな」


 皇帝がラインハルトにサクスを突き刺したハインリッヒの姿を見てミゲル提督が中断した言葉を引き継いだ。

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 全ての聖職者がゲスとは言わないが、聖職者という職を悪用して私腹を肥やすゲスは確かに居るとベレンゲラは思っている。


 それこそ東スコプルス帝国を自身の領土にした現教皇がムガリム帝国では挙げられる。


 サルバーナ王国ではハインリッヒ達と共に倒したアグヌス・デイ騎士団がそうだ。


 もっとも教皇の方は信仰心なんて欠片も持っていない。


 対してラインハルト修道司祭は聖教を狂信的に信仰し、それ以外は認めていない。


 ただ共通しているのは唾棄すべきゲスという点だが・・・・・・・・


 「何れ・・・・教皇も惨めな死が訪れるでしょうね」


 ベレンゲラはラインハルト修道司祭を見ながら断言した。


 それに対して皇帝を始めとした者達は誰も異論を唱えなかった。


 しかしハインリッヒの発した言葉に皇帝は反応した。


 『ここは自由と平等の大地だ。そこに”覇者”も”王者”も必要ない。貴様のような腐れ宗教の私兵団もだ!!』


 「・・・・”左腕の騎士”が言いそうな台詞だ」


 「・・・・"偉大なる大契約者"が持つ異名でしたな」


 皇帝の言葉にアンドーラ宰相が真っ先に言葉を発した。


 この偉大なる大契約者とは今から半世紀も前に名を馳せ、今も傭兵界では神のように崇められている人物の異名だ。


 同時に現皇帝の初陣を大敗北にした「表裏比興の者」を打ち負かした人物でもあるが、ベレンゲラやアフォンソは半世紀以上も前の人物だから詳しい事は知らない。


 ミゲル提督の方は「嗚呼、なるほど」と納得する面もあるようだがアフォンソは知らない自分が嫌なのか・・・・・・・・


 「左腕の騎士が大契約者の渾名ってのは・・・・ハインリッヒがやったような戦法を大契約者もやったからか?」


 アフォンソがアンドーラ宰相に問いを投げた。


 何時もなら皮肉を交えるが、眼は騎士団総長の眼であったのはアフォンソという男が「公私」を完璧に切り離している証拠と言えた。


 「・・・・偉大なる大契約者は騎士が本来なら持つ盾を持ちませんでした。それは両手持ち用に改良したスクラマサクスを愛剣としていたからと言われているからです」


 アンドーラ宰相はアフォンソの問いに理由を説明したが、答えとしては捉え辛い言い方だった。


 しかしアフォンソなら言いたい事を理解できると知っているからとアンドーラ宰相は思っているからとベレンゲラは捉え・・・・事実それは正しかった。


 「なるほど・・・・盾を持たない代わりに利き手じゃない左手を盾代わりにした訳か。いやはや流石は半世紀たった今も傭兵界で神様と崇められている訳だ」


 名将中の名将だとアフォンソは偉大なる大契約者を評し・・・・その偉大なる名将と同じような戦法を取ったハインリッヒも評した。


 「甘い点は否めないが・・・・こういう奴だからシパクリって言う奴等も援軍として馳せ参じるのも解るぜ」

 

 俺もあの場に居れば迷わず援軍に行くとアフォンソは言い・・・・ベレンゲラに視線を向けた。


 何も言わないが「あんたが熱を上げるのも解る」と眼は言っており、それをベレンゲラは否定しなかった。


 「・・・・彼に惚れたか」


 皇帝がベレンゲラに問いを投げてきたが、その問いにベレンゲラは無言で答えた。


 本来なら敵国である人間に惚れたという事実を肯定する言動をすれば第3皇子の乳母達に付け込まれ兼ねないと恐れた為だった。


 如何に皇帝やアンドーラ宰相が手を打った状態の部屋に居るとしても油断は禁物である。


 また・・・・ベレンゲラ自身がハインリッヒに惚れたか、どうか解らないという面もあったからだが皇帝は別の言葉を暫くして発した。


 「ハインリッヒ・ウーファー・・・・彼のような人物こそが真の騎士道を体現した人物だな」


 「確かに・・・・甘い所はありますが敵にも慈悲を見せる心は騎士道に通じますね」


 皇帝の評価にアンドーラ宰相は頷きつつ映像が消えた魔石をベレンゲラに返そうとした。


 ところが魔石は再び光り・・・・更に映像を映した。


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