第5章:女神と会合
あれから私達は周囲を組まなく捜査した。
戦史の墓は出来て数日という感じだったので手掛かりが残っていると思ったからさ。
その動きが実を結んだと言えば良いのかな?
馬の足跡を発見する事に成功したよ。
馬の足跡は泡立つ赤い山に向かっていた。
人数は凡そ10名前後で馬車などの車輪跡は無かった。
それを見て直ぐに追い掛けたかったけど夜も近くなってきたので野宿をする事にしたのは痛恨の極みとも言えたよ。
ただ舞う風は焦る私達を落ち着かせ・・・・それに従う形で私達はティピーを張り、冷たい夜風から身を守った。
だけど欠伸をする猫は昂ぶる気持ちを落ち着かせる為か私に問いを投げてきた。
「泣き虫野郎。お前は”守護聖人”という言葉を言ったが、それは何なんだ?」
「守護聖人は私達の祖国サルバーナ王国の聖教が定めたものさ。具体的に言えば特定の組織ないし団体および国家、若しくは職業か個人を保護する者として敬われているんだ」
例えば私達のような騎士などなら龍殺しの英雄とされる「聖ソルダ」か、若しくは巡礼者達を見送る事に人生を捧げた「聖サンティネル」になる。
この守護聖人を教会に伝え、教会で「洗礼」を受けたら洗礼名が守護聖人になる仕組みなんだ。
ただ、細かく説明すると東方派聖教と西方派聖教、そして両教派から枝分かれした教派によって違う時もあるんだ。
「俺達にも尊敬できる人間や先祖達を敬うが・・・・なるほど。古の時代を生きた人間の加護を求める訳か」
「そんな所だね。ただ、聖教はあくまで神は一人しか居ないから守護聖人はあくまで聖人なんだけどね」
欠伸をする猫の解釈を私は間違っていないと頷いた。
「しかし俺には理解できんな。この大自然を唯一人の神が創造したなんて在り得ん」
欠伸をする猫とは違い、一緒に聞いていた立つ鳥は守護聖人の風習を理解し難いと言った。
確かに大自然全てを神のように見ている彼等から言わせれば唯一人の神に信仰を捧げるということ自体が解らなくて当然かもしれない。
だけど戦士の墓を設けた人間を立つ鳥はこう評した。
「あの墓を築いた人間は俺達の集落を襲った奴等とは雲泥の差があるな」
奴等は仲間でも傷ついたら置いて行ったと立つ鳥は言い、他の友人達も同じような台詞を発した。
ただ舞う風はジッとして話さない。
「どうかしたのかい?」
私が尋ねると舞う風は少し迷った表情を浮かべた。
それは私が先ほど取った態度から言うのを迷っていると私は捉えた。
「さっきの言葉は今も変わらないけど何か言いたい事があるなら言いなよ」
「ワキンヤン・・・・あの墓を築いた人間こそ・・・・私が言った者よ」
「・・・・・・・・」
舞う風の言葉に私は無言となった。
あれだけでは結論を出せない。
だけど・・・・納得できる要素はあった。
ただ私達と会い、素直に連行される気があるかは別だよ。
「・・・・墓を築いた人間がアグヌス・デイ騎士団の人間として、仮に騎士団から抜けている身でも私達に助けを求めるかな?」
私の疑問にダミアンが答えた?
「可能性はあるけど限りなく低いと思うよ」
ダミアンは自作の手帳を取り出すと然るページを読み上げた。
「犯罪組織から足抜けした犯罪者の内・・・・自ら投降した者は全体の1割以下」
その犯罪組織から抜けた理由は様々だが悪事に手を染める事を大半は止めないとダミアンは更に続けた。
「過去の記録だし、あくまで確立だから全てとは言わないよ」
これ以上に組織から足抜けした者は居る可能性もあるし真っ当な人間になった者も居るとダミアンは言った。
ただ・・・・・・・・
「中には罪を犯す為に生まれた“人でなし”も居るから・・・・さ」
この「人でなし」とは私達が逮捕した犯罪者の中にも多数いた。
本当に罪を犯す為に生を受けた人間も居て私達は理解できず彼等が犯した罪に恐怖すら感じたよ。
そんな人の皮を被った獣も見たから私達はダミアンの言いたい事が・・・・嫌な気持ちだけど解ってしまった。
だけど私はダミアンを見て言った。
「確かに人でなしは居るけど・・・・まだ彼等とは会ってないんだ。それなのに結論を出すのは早計だよ」
舞う風の言葉もあるし先ずは彼等に追い付くのが先決と私は言った。
この言葉にダミアンは尤もだと頷いたけど直ぐ微苦笑を浮かべた。
「やっぱり“彼”の言う通り・・・・お人好しだね」
私もそうだけど君は輪を掛けているとダミアンは言い、今度は私が微苦笑せざるを得なかった。
これに皆は笑い合い口々に私を弄ってきたが、私は笑いながら受け入れた。
それを舞う風は黙って見ていたけど先ほどの表情はなく、一安心するような表情だったのを・・・・私は見逃さなかった。
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辺りは暗い闇だったけど私は恐怖を感じなかった。
闇は確かに暗くて時には光すら覆い隠す事もあるけど・・・・それでも光は必ず闇を照らしてくれる。
その証拠に闇は少しずつ明るくなり・・・・やがて月が天に浮かんだ。
月が天に浮かぶと私の前に一人の女性が現れ微笑みを浮かべてくれた。
私と仲間達を救ってくれた気高く優しい女神だ。
「やぁ・・・・・・・・」
私が声を掛けると女神は更に深い微笑みを浮かべてくれたけど言葉はチクリと刺すような台詞を言ってきた。
『また・・・・無茶しているのね?』
「分かるのかい?」
『貴方の事なら何でも知っているわ。鳥や獣だけでなく草木も教えてくれるのよ』
「ははははは・・・・参ったな。これじゃ隠し事なんて出来ないな」
『隠し事?貴方が?クスッ・・・・出来ない事は言うものじゃないわ』
女神は微笑みを浮かべながら私の言葉を皮肉ってきた。
最近・・・・私が眠りの世界に旅立つと女神は私の前に現れてくれるようになった。
これは私にとって何事にも代え難い最高の至福だ。
だけど女神との距離は縮まらない。
それどころ触れる事も出来ない。
ただ再会できるだけで満足すれば良いのに・・・・過ぎ去った昔を思い出し・・・・それを叶えたいと思うのは私が欲深い証拠かもしれない。
『・・・・ハインリッヒ』
私の心境を読んだのか・・・・女神は微笑みを消して私の名を口にした。
『馬鹿な真似を考えたりしちゃ駄目よ』
「・・・・解っているよ」
君は「あの時」に言ったじゃないか。
「私は何時も貴方の側に居る。だから・・・・強くなくても良い。精一杯・・・・生きろと」
『えぇ、そうよ・・・・私は貴方と出会えた事で精一杯に生きたわ。だから貴方も精一杯・・・・生き抜いて。だけど私を思い続けて御爺ちゃんになっちゃ駄目よ?』
「ははははは・・・・それすら駄目なのかい?」
乾いた笑みを私が浮かべて言えば女神は頷いた。
『貴方の友達---自由な部族達の教えにこうあるわよ。”あなたが生まれた時、あなたは泣いて世界は笑っていたでしょう。だからあなたが死ぬ時は・・・・あなたが笑い、世界が泣く人生を送りなさい”と』
私は貴方を始め色々な人達が泣いてくれるという人生を送れたと女神は言った。
『今の貴方も死ねば泣く人は居るでしょう。でも・・・・貴方は何なの?』
「・・・・騎士だよ」
女神の問いに私は間を置いて答えた。
ただ、それは決して・・・・嫌な質問じゃない。
『えぇ、貴方は騎士よ。騎士は弱き者を助ける存在。だから・・・・早く死のうなんて考えないで今も苦しめられている大勢の人達を救う為に生きて』
嗚呼・・・・・・・・
私は女神の言葉に何も言えなくなった。
彼女は何時も正しい事を言い、私の歩く道を照らしてくれた。
今もそうだ。
弱気になった私を叱咤したけど・・・・それでも道を示し、照らしてくれたんだ。
『ハインリッヒ・・・・私の愛する騎士・・・・大丈夫よ。私は何時も貴方の側に居るわ』
だから安心して邪悪なる騎士団の魔手から弱き者達を助けてと女神は言い・・・・その言葉に私は頷く他なかった。




