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番外編:左腕の騎士

番外編の方はベレンゲラ達が祖国へ戻った話となります。

 五大陸の西に位置する一大陸の名はオッキデンス大陸と言う。


 その大陸には他の4大陸とは違い一ヶ国しか存在していない。


 最初は数多の小国が在ったとされているが、ある時代に一ヶ国になった。


 つまり一ヶ国に併合された形となったのだ。


 だが、現支配者となっている国とは別に今も独立しようという動きは絶えない。


 何せ他の大陸同様にオッキデンス大陸も民族が統一されている訳ではないし、謀略と武力によって併合された事も拍車を掛けている。


 それなのに北のセプテントゥリオーネス大陸、南のメリディエース大陸との間にある南北大陸を自国の保護国とするなど・・・・他の大陸をも併合せんという野心も絶える事がない。


 もっとも初代から今の皇帝全員が他国に侵略するのを良しとした訳ではない。


 今の皇帝と先代皇帝は他国に侵略するのを良しとせず国内の安定化などを図り、先代皇帝の功績によって一先ず国内は安定した。


 そして今は2代目が更に地盤を固めているが・・・・その子息が初代皇帝の宿願を叶えようと裏で動いていた。 


 いや・・・・現皇帝の3男たる第3皇子だけではない。


 欲に塗れた人間が突き動かされて半世紀前のように行動しているのだ。

 

 半世紀前にセプテントゥリオーネス大陸とメリディエース大陸の間にある南北大陸を・・・・オッキデンス大陸の覇者たる「ムガリム帝国」は自国の保護国とした。


 ただし、この時の宮廷は後継者争いに端を発し国外へ侵略の手を伸ばす余裕なんて無かった。


 代わりに手を伸ばしたのは地方貴族と、目先の利益をチラつかされて飛びついた一部の宮廷人である。


 しかし、そんな内部事情を他国が知る訳はなく、また欲望を満たした者達も遠い先の事も考えてはいなかった。


 そんな目先の事しか考えてない業深いムガリム帝国がベレンゲラの祖国である。


 ただオリエンス大陸から帰国したベレンゲラが最初に思ったことは無事に祖国へ帰れた喜びよりも深い悲しみだった。


 それは自分たちが出発した海岸の直ぐ近くで海に住む魔物を帝都に住む貴族が遊猟していたからだ。


 しかも魔物の子供まで一緒に遊猟した挙句に狩った後の後始末すらしなかった・・・・・・・・


 もっともベレンゲラを見るなり、その貴族は直ぐに逃げた。


 何せベレンゲラはムガリム帝国一の剣士にして、初代から今に掛けて勇名を馳せた騎士の家系でもあるし伯爵という爵位も持っている。


 おまけに今、使えている主人は「刑場の犬」などと渾名されながらも宮廷内で恐れられているアンドーラ宰相の一人娘だ。


 バックも強力とあっては並みの相手では太刀打ち出来ないから逃げて当たり前である。


 そしてベレンゲラも普段なら自国の所業に半ば諦観の念を抱きつつ後始末をした事だろう。


 だが・・・・今回は違う。


 それはベレンゲラ達が帝都から遠く離れた辺境の地に帰ってから間もなくのことであった。

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 ベレンゲラは帝都の中にあるムガリム帝国の皇帝が代々住んでいる居城の宮廷奥の廊下を一人、歩いていた。

 

 亡父に連れられて幼少期から何度か足は運んだが、彼の地に赴いてからは久し振りに歩く廊下であるがベレンゲラの心中は懐かしさなど無い。


 寧ろ帰国した直後に見た遊猟もあってか・・・・酷く悲しかった。


 それでも祖国に変わりないのが更にベレンゲラに何とも言えない悲しみを覚えさせたが・・・・直ぐオリエンス大陸で出会ったハインリッヒが別れ際に言った台詞を思い出した。


 彼と別れてから何度もベレンゲラはハインリッヒ達と過ごした日々を思い出すが、やはり別れ際に彼が言った台詞がベレンゲラの頭には刻み込まれていた。


 『・・・・あの台詞・・・・私の正体に気付いていたんだわ・・・・・・・・』


 何処で彼が自分達の正体を知ったのかはベレンゲラも分からない。


 だが、恐らく女神が教えたのだろうとは推測しているが・・・・・・・・


 『ハインリッヒ殿・・・・やはり貴方は真の騎士が歩む道を進む方です』


 本来なら敵である自分達をハインリッヒの立場なら捕まえるか、殺すべき所だ。


 それなのに・・・・正体を知りながら自分達を見逃したのだから処罰されてもおかしくない。


 また甘いと評価されるだろうが・・・・それでもベレンゲラはハインリッヒの行動に心から今も感謝している。


 ただ、彼が語った夢を祖国は「永遠に叶わぬ夢」にした事実は変わらない。


 それに自分は何も出来ない事に苛立ちを覚えた時・・・・前方から声を掛けられた。


 「よぉ、ベレンゲラ伯爵」


 ベレンゲラは自分の名を気さくに呼んで壁に背を預ける男を見た。


 年齢は自分より1~2歳年下で、身長がムガリム帝国の人間にしては背が頭一つ分も高く白金の髪に薄青色の瞳の容姿も珍しく黙って立っていれば一枚の絵画になるが口調からも解る通り性格は気さくである。


 「貴方もアンドーラ宰相に呼ばれたのですか・・・・・・・・?」


 聖十字白騎士団総長アフォンソ・デ・カストロ殿・・・・・・・・


 ベレンゲラの問いにアフォンソは鷹揚に頷いた。


 「こっちも報告義務があるからな。まぁ、流石に南北大陸に居る”鉄髭おっさん”は魔法通信だ」


 「・・・・・・・・」


 ベレンゲラはアフォンソの言葉に無言となるが、その眼はアンドーラ宰相に報告する内容が既に解っていた。

 

 「その様子だと察しているようだが・・・・東スコプルス帝国は”教皇領”になった。もっとも教皇領になったのは帝都を始めとした一部だ。おまけに不安分子は腐るほど居るから公表するのは先になるらしいがな」


 「・・・・残りは西スコプルス帝国が併合したのですか?」


 東スコプルス帝国と反対側に位置する分裂した片割れの存在をベレンゲラはアフォンソに問い掛けた。


 「いいや、寧ろ東スコプルス帝国と密約を結んでいた”オボーデッヤ(奴隷)朝”に攻め込まれそうになって焦っていたぜ」


 「火事場泥棒」の真似事をしたからざまぁ見ろとアフォンソは侮蔑を込めてベレンゲラに笑ってみせた。

 

 「しかし・・・・あんたの言葉じゃねぇが・・・・この国はまた要らぬ業を背負ったな」


 「・・・・・・・・」


 アフォンソの言葉にベレンゲラは無言となるが、ベレンゲラが寡黙なのを知っている為かアフォンソは言い続けた。


 「俺の方は陸戦だったが・・・・東スコプルス帝国の皇帝は立派な武人だったぜ」


 女子供は逸早く帝都から逃がし、それでも残った者や逃げ遅れた者は密約を交わしていたオボーデッヤ朝に保護してもらうなど尽力した。


 そして自身は逃げる事は出来たのに敢えて帝都に残り籠城戦の末に親衛騎士団を連れて敵陣に切り込み戦場の露と化した。


 「教皇の”糞息子”は愚か者と言ったが・・・・俺は違うと思っている。皇帝は・・・・あの気高い魂を持った武人は未来を子供達に託したのさ」


 ちょうど海に散った老大提督と同じだとアフォンソは言うが、そこには何時もの軟派な面は欠片も無かった。

 

 「まったく・・・・自分の祖国なのに愛国心の種すら無いぜ。だが・・・・お陰で俺も踏ん切りがついたぜ」


 「嗚呼・・・・以前お話していた事ですか」


 ベレンゲラはアフォンソが語った言葉を憶えていたのか問いを投げた。


 「あぁ・・・・俺ぁ、この国を出て”自由”になる」


 自由という言葉にベレンゲラは感慨深い気持ちを抱いた。


 大カザン山脈で自分は自由だった。


 そして身分に関係なく平等だった。


 あの感覚は今まで味わった事のない気持ちを自分に与えてくれたとベレンゲラは思いながらアフォンソに言った。


「自由になるのは良いですが部下はどうするんですか?」


 アフォンソは教皇の首輪であるから武人としての実力は極めて高い。


 家柄の方も没落してはいるが貴族だから決して卑しい訳ではない。


 だが普段はお気楽で軟派な男で通っている上に皮肉屋でもあるから敵は多い。


 彼の下に居る部下達もアフォンソの影響を色濃く継いでいる為か評判は悪い。

  

 そのアフォンソが消えたら間違いなく部下達に矛先は向くとベレンゲラは知っていたので問うがアフォンソはニヒルな笑みを浮かべた。


 「安心しな。部下達も一緒に付いて来る。俺の可愛い“旗持ち”も一緒だからな」 


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