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終章:最後の会話

 情報ギルドのアンナが事件を嗅ぎ付けてから早1ヶ月が経過した。


 その間フランツは私達が所属する国境警備課の基地に1週間ほど拘留された後にヴァエリエに移送された。


 表向きは強盗騎士の首領で、大カザン山脈に逃げたのを私達が追い掛けて苦労の末に捕縛したという形で通っている。


 我国とクリーズ皇国の間にほぼ同時に起きた軍事演習については「たまたま時期が重なっただけ」という形に表向きはなっている。

  

 これにはクリーズ皇国側からも「口裏合わせ」を求める旨があったと内務省から通達された。


 詳しい事はクリーズ皇国も言わなかったらしい。


 ただ数年前から言われている「後継者争い」に何らかの動きがあったのだろうと個人的に推測している。


 クリーズ皇国には4人の皇子が居て、それぞれ四方を任されているけど皇帝になるのは「末っ子」と見られている。


 これは遊牧民で出来たクリーズ皇国独特の考えだけど・・・・そこに問題があるんだ。


 もっとも口裏を合わせる事を求めてきた辺り何かと向こうもあるんだろう。


 しかし、クリーズ皇国と口裏を合わせた事で情報ギルドはクリーズ皇国の軍事演習を大きく取り上げた。


 とはいえ両国揃って口裏を合わせたから推測の域を出ていない。


 対してフランツの事は「3面記事」に載った程度で済んだのは幸いだよ。


 もっとも情報ギルドにも伝手がある「名無し」様の情報では最後までフランツの事にアンナは拘っていたらしいんだ。


 それを聞いて私は流石だと個人的に称賛している。


 アンナの性格からして「足を棒に振る」という言葉を地で行って必死に情報を得ようとしただろうからね。


 だけど名無し様はこう評した。


 『ギルドに席を置いているなら足並みはある程度は揃えるべきだ。それをしないと組織から爪弾きされる』


 それでも自己の勘を信じるなら確固たる証拠を出さないと我が儘な子供と称する辺り苦労人の名無し様らしい台詞だ。


 しかしアンナの努力とは裏腹に証拠をあれ以上は用意できなかったらしいから私達の勝ち・・・・・・・・


 とは言えないのが辛い所だよ。


 アグヌス・デイ騎士団に対する情報を得られないと悟ったアンナはフランツが移送されると同時にヴァエリエに移動した私達を付け回し始めたんだ。


 もっとも私達は知らぬ存ぜぬを貫いている。


 これは私達の気持ちとは別に王室も事態を重く見たからさ。


 今、下手に騒げば尻尾を出し始めた聖教と真・聖教は再び雲隠れする恐れがある。


 そこを王室は恐れ私達を含めた関係者に緘口令を敷いた。


 だから私達は口を閉じ続け・・・・フランツがシュトラーフェに収容される日まで適当に仕事をした。


 そしてフランツがシュトラーフェに収容される日・・・・私はシュトラーフェに行った。


 表向きは逮捕した面から収容される所を見届ける形だけど実態は・・・・・・・・

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 私はシュトラーフェの門前に一人、立ちながらフランツが来るのを待っていた。


 ただ周囲は厳重な警備体制を敷いている。


 これはシュトラーフェが出来てから何度か囚人を殺害しようとした過去があるからさ。

  

 もっとも本当はフランツを暗殺し、これ以上の情報を漏らされたくない聖教に対する備えだ。


 だけど・・・・・・・・


 『果たして聖教が動くかな?』


 聖教は今、重大な決断を迫まられている。


 フランツを殺せば情報はこれ以上の漏洩はしない。

  

 反面でフランツを亡き者にすれば王室は好機とばかりに叩き潰す行動を取るだろう。


 もちろん現段階でも叩き潰す意思は王室に在るけど他国の眼や国内の眼もあるから「大義名分」が必要なのさ。


 そんな大義名分を聖教側から差し出せば聖教は準備不足で2000年前と同じ轍を踏む事になる。


 それを・・・・回避するにはフランツを見逃すしか手はない。


 もっともフランツを生かせば情報はこちらに持たされるから聖教はどちらに転んでも首が絞まるのさ。


 しかし私が解決しなければならない問題もある。


 その問題は先日と同じく前から現れたアンナさ。


 「いい加減にしてという表情ね?」


 アンナは私の非難する眼を真っ直ぐ受け止めながら話し掛けてきた。


 「正直に言えば君に付け回されるのはウンザリしているよ。マドモワゼル」


 私はコーンパイプを取り出しながらアンナの問いに答えた。

 

 「だったら正直に答えて」


 「何をだい?」


 「真実よ!!」


 アンナは私の態度に業を煮やしたのか、声を荒げて言った。


 「真実と君は言うけど・・・・何度、説明したら納得するんだい?」


 あの男は強盗騎士の首領で、仲間は私達との戦闘によって死亡した。


 「そして奴は大カザン山脈に逃げた。だから私達は長期休暇という名目で国境を越えて彼を捕まえたのさ」


 クリーズ皇国が国境沿いで軍事演習を行っていたのは本当に「偶然」だったと私は言い、アンナに次の言葉を言わせなかった。


 「・・・・・・・・」


 アンナはジッと私を睨むように見てきたが私はタバコの葉をパイプに詰めながら遥か前方から土煙を上げて来る鉄の護送馬車を見た。

 

 その護送馬車は周囲を馬に乗って黒いラメラ・アーマーの一種たる「胴丸」に身を包んだ騎士達が囲んでいる。


 手には弓矢や馬上槍を持ち、腰には大小の刀剣を所持しているけど極め付けは地獄の悪鬼を連想させる「面頬」を付けている点だ。


 ・・・・彼等こそ悪党達から「地獄の番犬」と恐れられている内務省傘下の「王立重罪取締騎士団」だ。


 彼等とは別に護送馬車を囲んでいる騎士団が居た。


 こちらは重罪取締騎士団の漆黒とは違い濃い紺色の胴丸を着ていて両手にはカイト・シールドと鉄棒を持っていた所も違う。


 彼等は司法省傘下の「王立機動騎士団」で、集団犯罪など大掛かりな犯罪の際に対応する騎士団で主に体力のある若い騎士が配属されるんだ。


 「・・・・地獄の番犬以外にも機動騎士団が出張るなんて高が強盗騎士の護送にしては大掛かりじゃない?」


 「捕まえるのに苦労したからね。それに逃げた仲間が取り戻しに来る可能性もあるんだ」


 厳重な警備体制で臨んでも損はないと私が言うとアンナは私から護送馬車に視線を向けた。


 だけどアンナが居ると判るや機動騎士団が護送馬車より先行してシュトラーフェに来た。


 そして私とアンナを見ると私には会釈したけどアンナには厳しい視線を向けた。


 「情報ギルドの方ですね?申し訳ないですが間もなく囚人を収容するので離れて下さい」


 「大丈夫ですわ。こちらの・・・・ちょっと!?」


 アンナは断ろうとしたけど機動騎士団はアンナを囲むとある程度の距離まで連れて行った。


 そして残った機動騎士団は馬から降りるとシュトラーフェの門前で左右に分かれた。


 これによりシュトラーフェの門前付近は確保される形になり、それを確認してから重罪取締騎士団と護送馬車は停止した。


 だけど護送馬車は停止したままだった。


 代わりに2人の男性が馬に乗り現れた。


 一人はアルバン副団長で、もう一人はアンナが名を言った。


 「王女の飼う“黒い番犬”・・・・重罪取締騎士団監察方ハイズ・フォン・ブルア辺境男爵・・・・・・・・」

 

 ハイズ辺境男爵はアンナの声が聞こえた筈だけど・・・・まるで居ないような態度で青白い愛馬から降りた。


 それに少し遅れてアルバン副団長も馬から降りると護送馬車のドアが開いてフランツが降りてきた。


 両手には手械が填められているけどフランツは気にしてない様子だった。

  

 フランツの後ろにアルバン副団長とハイズ辺境男爵は立つと重罪取締騎士団は前に立って歩き出す。


 それに数歩遅れる形でアルバン副団長とハイズ辺境男爵は歩いた。

  

 「・・・・・・・・」


 私は無言でフランツを見ていたけどフランツは私を見なかった。


 それどころかアルバン副団長が銜えた煙草を振り返って奪うなど如何にも彼らしいと行動に私は見ながらマッチを取り出す。


 フランツはアルバン副団長から煙草を奪うと口に銜えマッチを探す仕草をしたけどマッチがないのか、懐を探る仕草を続けている。

 

 やがて私の所まで来たので私はマッチに火を点けフランツに差し出す。


 フランツは一瞬こそ驚いたけど私の手を両手で包むと自分が銜えた煙草に火を点けた。


 その様子を皆は黙って見ていたけど私もフランツも顔を合わせなかった。


 火が点いた煙草を銜えたまま紫煙をフランツは吐いて私の横を通り過ぎる。


 逆に私は火が点いたマッチでパイプに火を点け紫煙を吐いた。


 それにより私とフランツが交わした会話は誰も知らない。

 

                                      灰色の聖騎士 完

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