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第38章:喧しい小娘

 私達がサルバーナ王国の地を踏んだのはベレンゲラ様達と別れて1週間が経過した後だった。


 国境警備課の基地に行くと今の上司とアルバン副団長が居て、私達に声を掛けた。


 「長い休日は有意義だったか?」


 アルバン副団長の問いに私達は頷き、フランツを前に「突き出し」てみせた。


 フランツの手には手械が施され、衣服もボロボロだけど・・・・これには理由がある。


 そして事前に連絡はしていたからアルバン副団長はフランツの姿を見るなり鼻を鳴らした。


 「ふんっ。連絡通り太々しい面構えだな」


 「なぁ“煙草”あるか?」


 フランツはアルバン副団長に煙草を所望したが、その態度は実に太々しい感じだったがアルバン副団長の態度も負けてはいない。


 いや、元々の出自などが影響してか地が出ていた。


 「生憎だが持ってない。何せ、ここ数日は吸いっ放しだったからな」

  

 てめぇのせいで大変だったとアルバン副団長は語りフランツは肩を落とした。


 「そいつは悪かったな?しかし、噂通り“不良騎士”だな」


 如何に罪人相手でもこんな横暴な取らない筈だとフランツが皮肉るとアルバン副団長は鼻で笑った。


 「悪いが巷で噂される通り不良騎士でな。もっとも最近じゃ“背徳騎士”なんて渾名も頂戴したからな・・・・基地に連れて行け」


 聞きたい事が山ほどあるとアルバン副団長は私達に命じ、私達はフランツを基地の中へ連行した。


 ただ、その間ずっと・・・・遠くから「盗み見」している連中に対して神経を尖らせ続ける。


 もっとも国境警備課は準軍事組織だった聖騎士団の名残りが色濃い事を知っているからか・・・・基地に入るまで何ら動きはなかった。


 しかし私達の現上司たるクリス・ヴァン・ギュフロイが身を引き締めるような台詞を発した。


 「周囲に気を配れ。怪しい奴等が居たら遠慮なく“鉄”をプレゼントしてやるのも忘れるな」


 私達の上司は基地に居た同僚達に命じると私達を基地の中に在る執務室へ案内した。


 その執務室は防音壁で窓もないから先ず中を盗み見する事は出来ない。


 盗聴に関してはアルバン副団長が直々にやって何もない事を確認したから・・・・・・・・


 「枷を外すよ」


 私はフランツの両手に取り付けていた枷を外しフランツを自由でした。


 「やれやれ・・・・腕が凝ったぜ」


 コキコキとフランツは肩を回しながらアルバン副団長に改めて煙草を所望した。


 「ほらよ」


 アルバン副団長は懐から箱に入った煙草を丸ごとフランツに渡した。


 「随分と気前が良いんじゃないのか?不良騎士様」


 「お前の情報で俺達は大助かりだからな。それ位は当然の報酬だ」


 「ってぇと・・・・もう動いたのか?」


 まだ数日しか経っていないぞとフランツは少し驚きながらアルバン副団長に問い掛けた。


 「“善は急げ”って言うだろ?おまけに・・・・こいつの“生徒達”が煩かったんだよ」


 アルバン副団長は私に皮肉を言ってきて私は肩を落とすしかなかった。


 「あぁ・・・・王立軍事学校だったか?この超々お人好し騎士が創設したのは」


 フランツは紫煙を吐きながら私を見てきたので私で頷いた。


 私が総大将を務めたフルスの地で行われた大演習。


 その結果はさておき私は王国史上・・・・いやオリエンス大陸で初めて身分に関係ない軍事学校を創設したんだ。

 

 それがフランツの言った「王立軍事学校」さ。


 入学資格は特に設けてないけど「向こう5年~10年はサルバーナ王国に奉仕する事」を条件としているけど例外も設けるなど多少の「緩さ」は設けてある。


 ただ軍事学校だけあってかな?


 入学を希望するのは専ら傭兵などの職種が主流なんだ。


 そんな荒事を生業としている彼等なら何をするか容易に想像できたけど私は確認の為にアルバン副団長に問い掛けた。


 「彼等も来たのですか?」


 「あぁ、来たさ。どっから情報を得たんだか・・・・大変だったんだぞ?」


 私達を助けに国境を越える手前まで行き、その次はフランツがもたらした聖教の「隠し荘園」を始めとした探索に「善意」で協力したとアルバン副団長は言った。


 「・・・・その気持ちは嬉しいので強くは言えませんが御迷惑を掛けました」


 私は謝罪したけどアルバン副団長は手を横に振り必要ないと告げた。


 「俺達の方も何だかんだ助かったのは事実だ。しかし・・・・後で礼くらいは言っておけよ?」


 皆は合言葉のように「我等が校長を死なすな」と言っていたとアルバン副団長は言い、その言葉に私は頷き、フランツの今後について尋ねた。


 「司法省と内務省の最高機密文書だ」


 アルバン副団長は私にとんでもない書類を渡してきたが、それを私は素早く読んだ。


 『フランツ・ヴァン・プロップの所業は王国の治安に大きく害を与える行為に他ならない。 

 しかし、今件の働きと彼自身の罪悪感から“情状酌量”のある。

 また彼の人脈等は切り捨てるには惜しいので・・・・死刑から減刑する』

 

 「つまり・・・・永牢刑ですか?」


 私が問うとアルバン副団長は愛用の煙草たる「女神の抱擁」を銜えながら頷いた。


 「あぁ、そうだ。しかし間違えるなよ?あくまで表向きだ。実際はこいつのシュトラーフェでの態度などから更に刑が軽くなる事もある。逆も然りだが・・・・やっぱり気になるのか?」


 「否定しません。そして・・・・そういう風に他人の気持ちを”試す”所はハッキリ言えば嫌いです」


 聖騎士団改め守護騎士団に入団した際は言えなかった言葉を私はアルバン副団長を正面から見て言った。


 「ケッ・・・・少し前までは胃が痛いとか言っていたのに成長しやがったな?」


 アルバン副団長は私の言葉に鼻を鳴らしたけど最後の方は私を認めたような台詞を言ってくれた。


 「・・・・女神の力は偉大ですからね」


 「前言撤回・・・・とまでは言わないが・・・・余り引き摺り過ぎるな」


 私の言葉にアルバン副団長は口調を変えて助言してきた。


 「偉そうな台詞は言わねぇが・・・・過去は過去だ。元に”戻す”事は出来ねぇよ。例え神だろうと・・・・な」


 「・・・・・・・・」


 アルバン副団長の言葉は的を射ていた。


 だけど・・・・改めて「第3者」から言われると胸に深く突き刺さる。


 「お前が今も女神を愛しているのは解る。しかし・・・・お前の女神は何時までも自分に愛を捧げ続ける、てめぇの姿勢を愛しているのか?」


 最後の方は柄が悪かったけど、それは私に反応しろと言っていると知っていた私は・・・・首を横に振った。


 「いいえ・・・・自分の分まで精一杯に生きてくれと言われました」


 「だろうな?女ってのはガメツイ面もあれば一途な面もある。まさに”男泣かせ”だが・・・・そういう所に男は惹かれるもんだ」


 逆も然りとアルバン副団長は言いながら顎でドアを指した。


 「しかし・・・・今、押し掛けている女神には多少の“おいた”をしても良いと思うぜ?」


 「それは私も考えましたが、彼女の信念に汚れはありませんからね。出来るだけ穏便に済ませます」


 私はアルバン副団長からフランツに視線を向けた。


 フランツはアルバン副団長が渡した女神の抱擁に火を点けながらコーヒーを飲んでいる。  


 罪人とは思えない態度だけど如何にもフランツらしい態度と私は見た。

  

 「おい、女を待たせんなよ。あの戦女神に数段劣る小娘だろうと女は女だ」


 「分かったよ。じゃあ、またね」


 私はフランツの言葉に苦笑しながらドアを開けて外に出た。


 外に出ると同僚が「喧しい小娘を早く何とかしてくれ」と愚痴を零しながら私を案内した。


 とはいえ私自身・・・・苦手なタイプだから上手く出来るか疑問だったけどね。


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