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第37章:別れの言葉

 目を覚ますと舞う風が私を見てきた。

  

 武器を持っていて今まで護ってくれていたと理解するのに時間は要らなかった。


 「少しは疲れが取れた?」


 舞う風が私に優しく問い掛けてきた。


 「あぁ、取れたよ。君は?」


 「大丈夫よ。ただ、青い星は・・・・・・・・」


 舞う風は私の左を顎で指した。


 私も釣られて見ると・・・・静かに眠るベレンゲラ様が居た。


 頭を少し傾けて木に背を預けたベレンゲラは小さな寝息を立てている。


 「貴方が眠ってから少し経った位に眠らせたわ」


 「・・・・・・・・」


 私は舞う風の言葉に眼を細めながらダニ達を見た。


 ダニ達も疲れていたのか、愛馬に身体を預けて眠っている。


 いや皆、眠っていて起きているのは私と舞う風だけだった。


 「・・・・青い星の正体は分かったの?」


 舞う風は静かに問い掛けてきた。


 「あぁ、分かったよ。君はビジョンで知っていたんだよね?」


 「えぇ・・・・青い星も私に祖国の事を話したから」


 「・・・・女神は言ったよ」

  

 ベレンゲラ様は枷で動けず自由になれないと・・・・・・・・

  

 「・・・・・・・・」

 

 舞う風は無言となったけど「昨日、新たなビジョンを見た」と私に告げた。


 「青い星は貴方から離れたけど暫くするとまた来たの。そして”黒紫の星“と再会したわ」


 その真ん中には私が居て、やがて黒紫の星は「銀の月」と「緑と水色の星」と一つになるらしい。


 「貴方の方には青い星が居るわ。でも、その前に“赤い星”と“緑の瞳”を持つ茶色の狼と貴方は再会するの」


 やがて青い星達を追い掛けて西から「ドス黒い渦の星」が来ると言い、舞う風は一区切り入れた。


 「・・・・・・・・」


 私は無言でコーンパイプに煙草の葉を詰め込み始めた。


 ただ、左肩に何かが来たので視線を向けると・・・・私の肩にベレンゲラ様が身体を預けていた。


 「・・・・続きを話してくれないか?」


 私の言葉に舞う風は続きを話し始めた。


 「ドス黒い渦の星に貴方は立ち向かったわ。だけど一人ではなく大勢の星や月が加勢してくれたの」


 その中に赤い星、緑の瞳を持つ狼・・・・そして青い星が居ると舞う風は言い、私を見てきた。


 「ワキンヤン、貴方は一人じゃないわ。大勢の仲間が居るから心配しないで」


 「・・・・・・・・」

  

 「青い星を見送るだけならそれで良いわ。私以外の人も同じ気持ちの筈だもの」


 舞う風はそれだけ言うと私の右肩に頭を預けて眼を閉じた。


 「私も寝るわ・・・・・・・・」


 私の右肩に頭を預けた舞う風は直ぐ寝息を立てた。


 それによって私だけが起きる事になったけど・・・・皆が側に居るからかな?


 寂しいとは思わなかった。


 「・・・・・・・・」


 私は皆を起こさないようにしながらパイプに火を点けた。


 そして香りを楽しんでいると一羽の美しい蝶が来た。

  

 見事な青の光沢を放つ蝶は絵画好きだった河岸の御爺さんの遺品にも描かれていたから憶えている。


 名は確か「ノービルス(気高い)」だった筈だ。


 光の反射角度によって薄かったり濃く見えたりする蝶は標本収集家達には垂涎物で希少価値は極めて高い。


 だけど気高いという意味を持つ名を頂戴しているだけあって未だに捕まえた者は居ないと聞いている。

 

 それは鳥のように高く飛ぶからと聞いているが・・・・・・・・


 目の前に居るノービルス蝶はゆっくり紫煙の周りを飛んでいる。


 腐った果実等が好きな筈なのにパイプの香りに釣られて来たのか?


 「・・・・・・・・」


 私は静かに右手を差し出した。


 するとノービルス蝶は私の手に止まると羽を休めた。


 「・・・・・・・・」


 羽を休めたノービルス蝶を暫く見ながら私は皆が起きるのを待ちつつ・・・・左肩で休むベレンゲラ様とノービルス蝶を重ね合わせた。

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 皆が起きたのは1時間くらい経過してからだった。


 真っ先に起きたのはベレンゲラ様で私の左肩に身体を預けて眠っていたと知るや直ぐ謝ってきた。


 だけど私は気にしないで下さいと言い、先に飛んでいったノービルス蝶の事を話した。


 「あの気高い蝶を・・・・・・・・」


 ベレンゲラ様もノービルス蝶の事は知っていたのか、些か驚いた様子で私に問い返してきた。


 「えぇ・・・・流石は気高い蝶と言われるだけあって実に美しい青色でした」


 しかし、気高い故に心が安まる事は少ないだろうと私は言った。


 「・・・・普通の蝶であれば良かったと思う時が・・・・彼等にもあるでしょう」


 普通の蝶であれば眼に留まる事は余りないだろうけど・・・・・・・・


 「それでも無闇に狙われたりする事は・・・・ありませんからね」


 「えぇ、そうですね。しかし、私の手に止まっていた間は休めたと私は思いたいです」


 ノービルス蝶は皆が寝ている間ずっと私の手に留まっていたのは休める場所が無かったかもしれない。


 「・・・・・・・・」


 私の言葉にベレンゲラ様は自分とノービルス蝶を重ね合わせたのか、何も言わなかった。


 ただダニ達を見たから職務を放棄できないと考えたと私は察しつつ次々と起きた仲間達に出発しようと告げる。


 それに皆は頷き、直ぐ私達は出発したけど間もなく分かれ道に着くからか、口数は誰と言わず少ない。


 だけどベレンゲラ様は分かれ道に辿り着くまで私の隣に居た。


 まるでノービルス蝶のような感じだったけどベレンゲラ様は何も言わなかった。


 対して私も口を開かなかったけど・・・・それで良いと思ったよ。


 そして・・・・分かれ道に辿り着いた。


 ベレンゲラ様が行く道は海岸沿いに通じる道で、私達が行く道はサルバーナ王国に行く道だ。


 「”終着点”ですね」


 私が告げるとベレンゲラ様は無言で頷いた。


 そして名残惜しそうに私から離れると愛馬から降りるとダニ達の前に立った。


 「ハインリッヒ殿、並びに皆様方には多大な恩が出来ました。この恩は終生、忘れません」


 ありがとうございましたとベレンゲラ様は深く頭を下げてきた。


 それに続いてダニ達も頭を下げたけど青い月から降りた私は首を横に振った。


 「礼を言うのは私達の方です。そして私達も貴女達の事は忘れません。どうか道中、気を付けてお帰り下さい」


 私はベレンゲラ様に右手を差し出して別れの挨拶を交わそうとした。


 対してベレンゲラ様は少し間を置いてから私の手を握ってくれた。


 「ハインリッヒ殿達も道中お気を付けて下さい・・・・では失礼します」


 ベレンゲラ様は私の手から自分の手を離すと愛馬に跨がり左側の道へ進んで行った。


 その背中は孤高の騎士と言う他ない位に気高くも寂しそうだった。


 まさにベレンゲラ様はノービルス蝶だ。


 そして女神が言っていたように枷のせいで自由になれない身だ。


 だけど舞う風は再び会うというビジョンを見た。


 それなら私が掛ける言葉は決まっている。


 アルメニア・エルクラム大公国で出会った武人が私に言った言葉を・・・・・・・・


 あの寂しそうな背中に・・・・・・・・


 「・・・・・・・・”アスタ・ラ・ビスタ”」


 『!?』


 私の発した別れの言葉にベレンゲラ様は驚いたのか、振り返ったのが分かった。


 だけど私は振り返らず・・・・そのまま仲間達と右の道を進んだ。


 「おい、超々お人好し騎士。さっきの言葉は何て意味だ?」


 フランツが馬を私の隣にやって尋ねてきた。

 

 「別れの挨拶さ。ただ、永遠の別れじゃなくて再会を込めた別れの挨拶なんだよ」


 「なるほど。まぁ、女神が居ても・・・・あんな美人を目の前にしたら再会を込めた別れの挨拶くらいしたいな」


 ケタケタとフランツは笑ったけど、その彼とも間もなく別れると私は今更になって痛感させられた。  


 だけど・・・・・・・・


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