第36章:別れ2
アグヌス・デイ騎士団を制した私達は攫われた婦女子達を各部族に送り届けた。
彼等は頻りに礼を言い、水や食料をくれたけど私達には無事に家族と再会できた事を嬉しがる表情で十分だったよ。
だけどメルセデス殿達はこれから祖国に帰るから水や食料は多い方が良いから私達はメルセデス殿達に多く与えた。
そして次にフランツの頼みで私達はフランツの従者であるエリックとラウル、そしてアルベルト牧師を聖女の部族に預けた。
これはフランツだけが罪を被ると私達に言った条件だ。
ただ2人は最後まで納得しなかったけど最終的にはフランツが押し通す形になり私達と先日、別れたんだ。
2人には辛い結果となったけどフランツは「必ず帰って来るから俺に代わって聖女を護ってくれ」と頼んだから2人の支えにはなるだろう。
そして次に私達はシパクリ達を送り届けた。
シパクリ達が一番被害を受けたけど皆、それを悔いる態度は見せなかった。
それどころか私達を都の人間総出で、もてなしたから少し困ったよ。
だけど皆で騒げて楽しかったのは事実さ。
ただ長居は出来ないから私達はシパクリ達とも別れて道を進んだ。
その道はシパクリ達が築いた道で、実に整備された道だったから予定より早く着けるかもしれない。
しかしメルセデス殿達は余り浮かない表情だった。
それは間もなく祖国へ帰らなければならないからと知っているからだろう。
私達の方もメルセデス殿達と別れるのは辛いけど・・・・・・・・
「出会いがあれば別れはある。そして・・・・・・・・」
『別れがあるから・・・・再会もあるのよ』
私の耳に女神の言葉が聞こえてきた。
その声は直ぐ隣から聞こえてきたので私は反射的に顔を向けた。
だけど隣に居たのはメルセデス殿だった。
「どうか・・・・しましたか・・・・・・・・?」
メルセデス殿は私が顔を振り向かせた事に戸惑いと心配する表情を見せた。
「いえ・・・・少し疲れたのかもしれません」
「お休みになられては・・・・・・・・」
「いえ、貴女達も祖国へ出来るだけ急いで帰らなければならないでしょうし・・・・・・・・」
「おい、超々お人好し騎士。美人の“戦女神“の言葉には耳を傾けろよ」
メルセデス殿の言葉を謝辞しようとした私にフランツが待ったを掛けてきた。
「お前は働き過ぎだ。シパクリの都じゃ接待役から始まり給水、そして太鼓持ちまでやったんだ。ここ等で一休みしても罰は当たらねぇよ」
「確かに・・・・ここ等で休むのも良いだろう。俺も疲れた」
欠伸をする猫がフランツの言葉に頷くと他の皆も休もうと言い馬から降り始めた。
それを見て青い月も休むとばかりに脚を折ったから強制的に私は降りざるを得なくなった。
だけど皆が言う通り休むのが良いかも知れない。
私が近くの木に背を預かるとメルセデス殿と舞う風が側に来た。
「私と舞う風が側に居りますから御安心ください」
「ワキンヤン、休んで」
2人に言われた私は苦笑しながらも帽子を深く被り眼を閉じた。
別に眠る気はなかったけど・・・・本当に疲れていたのかな?
瞬く間に私は眠りの世界へ旅立った。
ただ眠りの世界へ旅立つ瞬間・・・・・・・・
『女神と会えますように・・・・・・・・』
願った辺り子供なのかもしれない。
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眠りの世界へ旅立った私は直ぐ夢の世界で目覚めた。
そこは女神と初めて出会った「大いなる母」という名の河で、辺りは黄昏になっていた。
この時間も女神と出会った時間だ。
そして辺りを見回すと・・・・女神は音も無く私の前に現れた。
最初に会った時と同じく白地のシャツに赤と青の2色を色糸をに使って綺麗な刺繍を施した「ソロチカ」を着ている。
嗚呼・・・・・・・・
私は何とも言えない気持ちになりながら女神を見た。
『ハインリッヒ、頑張ったわね?』
女神は私に笑顔を見せながら労いの言葉を掛けてくれた。
「バルバドス大宮中伯達を始めとした皆が力を貸してくれたからさ。私一人じゃ出来なかったよ」
『でも貴方だからこそ皆は力を貸したのよ。だから貴方は頑張ったわ』
私の言葉を女神は修正してから本題に入ってきた。
『ハインリッヒ・・・・メルセデス殿の事だけど・・・・分かっている?』
「メルセデス殿達は・・・・ムガリム帝国の人間だね?」
私の言葉に女神は静かに頷いた。
『あの方の本名はベレンゲラ・デ・ブルゴス・イ・アラゴム。ムガリム帝国の伯爵で、ここに来たのは貴方達が最初に戦った相手を追って来たの』
あの人間達はムガリム帝国のコンキスタドールだと女神は言った。
「スヴィトラーナ殿達の祖国アルメニア・エルグランド公国を滅ぼした者達だったのか」
『えぇ。あの人間達を追って来たベレンゲラ殿に私は声を掛けたの。でも・・・・何処で分かったの?』
「あの方が夜襲に行く時さ・・・・あの印の結び方はアルメニア・エルクラム大公国で見たからね。そして神に祈る時に発した言葉の訛で確信したんだ」
『・・・・ベレンゲラ殿をどうするの?』
「・・・・・・・・」
女神の問いに私は無言となった。
何せムガリム帝国は南北大陸を自国の保護領とした前科だけでなくセプテントゥリオーネス大陸とメリディエース大陸にも侵略した過去を持っている。
ただ一枚岩でないのはアルメニア・エルクラム大公国を旅した時も垣間見えた。
そして民間人や宮廷人が自発的に組織したコンキスタドールという半世紀以上も前の産物を持ち出す辺り・・・・・・・・
帝国全体が他国に侵略するのを良しとはしてない筈だ。
恐らくメルセデス殿・・・・いや、ベレンゲラ様達はコンキスタドール達の行動を良しとしない宮廷の人間から秘密裏に処理しろと命じられたんだろう。
その経緯で私達に助太刀する事になったのは女神が裏で動いたからだ。
つまり、これはサルバーナ王国もムガリム帝国も関知していないけど「共同戦」をした事になる。
ただ国家同士の関係は別にしても・・・・・・・・
「受けた恩は返すのが・・・・人としての礼儀だよ」
『・・・・・・・・』
女神は私をジッと見つめてきた。
その青い宝石のような瞳には私が変わっていない事に安堵している色があった。
「ヴォルフガング宮中伯から忠告されたばかりだけど・・・・例え次が敵同士で相見える形になっても私はベレンゲラ様達を見送るよ」
あの方達の助太刀がなければアグヌス・デイ騎士団を倒す事も・・・・攫われた婦女子達を救う事も出来なかったのも・・・・事実だからね。
『でも、もし知られたら?貴方を狙う者達も居るでしょ?』
「確かに私に恨みを持つ人間が知れば格好の材料にするだろうね。だけど私は自己保身の為に恩を仇で返したくない」
『・・・・・・・・』
女神は私の言葉に無言となった。
対して私は言葉を言い続けた。
「何より君は私にあの方を助けて欲しいと頼んだじゃないか」
自分と同じように枷で動けず自由になれない・・・・大勢の部下を率いているから孤高の存在だと・・・・・・・・
「あの方と過ごして一部だけど理解したよ。だから私は・・・・決めているよ」
側で支える事は出来ないけど・・・・それでも受けた恩を返す為に・・・・・・・・
「ベレンゲラ様達を見送るよ」
それが私に出来る精一杯の恩返しと断言した。
『・・・・やっぱり貴方は優し過ぎるわね。でも、そんな貴方だから私は愛したから同じね』
女神は微苦笑して私の頬を撫でた。
『ハインリッヒ、貴方の気持ちは解ったわ。でも気を付けてね?』
「あぁ、気を付けるよ」
『貴方に大いなる神秘の加護がありますように・・・・・・・・』
女神は私の額に口付けを落とし私は夢の世界から現実へ引き戻された。




