第34章:決着
私が前へ走り出したのを見てラインハルト修道司祭は驚いた表情を浮かべた。
だけど傷だらけの私が自棄を起こしたと思ったのか、高笑いした。
「ふっ・・・・フハハハハハハッ!?とうとう自棄になったか?!」
「・・・・どうだろうね?」
私は走りながら高笑いするラインハルト修道司祭に向かって小さく問い掛ける。
もっともラインハルト修道司祭には聞こえなかったのか、指を軽く振ってサーコートの切れ端を私の背中に集中させた。
「背中を串刺しにしてから・・・・我が愛剣で真っ二つにしてやる」
ラインハルト修道司祭はロングソードを頭上高く掲げながら宣言した。
対して私は走りながらスクラマサクスを前へ突き出して捨て身の突きをやるように「見せ掛けた」た。
「死ねぇい!!」
ラインハルト修道司祭が叫ぶと同時にサーコートの切れ端が一斉に私の背中に来た。
それを見てラインハルト修道司祭は勝利を確信したけど・・・・・・・・
「フッ・・・・やはり聖教は”捕らぬ狸の皮算用”の計算が好きだな」
「私がプログレズ陛下を御助けした際も同じ感じでしたが・・・・やはり変わりませんな」
「元来、宗教とはそういうものだ。もっとも・・・・あそこまで行くと手遅れという他あるまい」
3人の実に的を射た言葉にラインハルト修道司祭の方は表情で答えた。
そう・・・・私の背中は無事だ。
それは人狼の毛皮とワイバーンの皮で作ったマントのお陰さ。
人狼の毛皮もワイバーンの皮も耐久性は鉄よりも高い代物だから風の魔では傷一つ付けられていない。
「おい、腐れ聖職者。お前は風の魔法を施したサーコートを切り札と言ったが・・・・そんなものは小細工だ」
ヴォルフガング宮中伯がラインハルト修道司祭に皮肉を言った。
「確かに、ありゃ小細工だな。超御人好し騎士のマント辺りが”奥の手”と言うもんだ」
ヴォルフガング宮中伯の皮肉にフランツも皮肉を込めて相槌を打ったけどラインハルト修道司祭は直ぐに憤怒の形相でロングソードを振り下ろしてきた。
「死ねぇぇぇぇぇ!!」
大上段から振り下ろされたロングソードは私の頭上を真っ二つにする勢いだった。
身長の差もあり私のスクラマサクスはラインハルト修道司祭の心臓を貫くには距離が足りない。
つまりラインハルト修道司祭の方が先に私に斬撃を打ち込めると普通なら考えるけど・・・・・・・・
「私にも”切り札”があるんだよ・・・・・・・・」
また私は小さく呟いてスクラマサクスを捨てた。
『!?』
この行動に皆は驚いたけど私はそのままラインハルト修道司祭に突っ込んだ。
その間もロングソードは私の頭上に迫ってきたけど私は怯まず距離を縮めて行き刹那・・・・・・・・
ラインハルト修道司祭の身体から血が流れ落ちた。
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ラインハルト修道司祭の身体から流れ落ちた血は大地には落ちず私が突き出したサクスを伝った。
その様子をメルセデス殿を始めとした皆は驚いた表情で見ている。
メルセデス殿達から見れば私がスクラマサクスを捨てた意図が分からなかったから無理もないだろうけどバルバドス大宮中伯達は平然と見ていた。
対してラインハルト修道司祭はどうして自分に激痛が走っているのか分からない表情を浮かべていた。
だけど直ぐ自分の右腋下に私のサクスが突き刺さっているのを見て漸く理解した。
右腋下は心臓から枝分かれした「腋窩動脈」が流れているから急所の一つだから・・・・そこを狙ったんだよ。
「ゴッ・・・・ガッ・・・・ギィッ・・・・!!」
自分の右腋下に突き刺さるサクスの存在を否定したいのか、ラインハルト修道司祭は血走った眼で私を睨みながらロングソードに力を込めてきた。
だけど右腋下を突かれている為に力は殆ど入って来ない。
対して私は石のように動かず・・・・左手で受け止めたロングソードを押し返す。
するとロングソードはラインハルト修道司祭の手からポロリと落ちて地面に突き刺さった。
「こ、んなものに・・・・・・・・!!」
右が駄目なら左とばかりにラインハルト修道司祭は左手を私の喉に伸ばしてきたけど私はサクスを握る右手に力を込めた。
サクスはラインハルト修道司祭の右腋下に深く入っていき、そのまま大量の血を流し続けた。
「ぎ、ギィッ!?」
「こんなもので悪いが・・・・これが私の”切り札”だ」
私は血走った眼で睨んでくるラインハルト修道司祭を睨み返しながら左手に装着した籠手を引いてラインハルト修道司祭に見せ付けた。
この籠手は筋金を入れ、その上からワイバーンの皮と人狼の毛皮を巻いた代物でマント同様に並みの防具より頑丈さに掛けては高い。
しかし、ラインハルト修道司祭のように風の魔法を施したサーコート等を用いる者から見れば実に「稚拙」な切り札と映る。
でも・・・・・・・・
「そんな稚拙な切り札に貴様は負けたんだ。そして・・・・・・・・」
私は左手をラインハルト修道司祭の首にやり、右腋下からサクスを引き抜いた。
サクスが引き抜かれるとラインハルト修道司祭の右腋下からは大量の血が勢いよく流れ出したけど未だに生きている。
「貴様の息がある内に・・・・言っておきたい事がある」
顔を青白くさせ始めたラインハルト修道司祭に顔を近付けて私はハッキリ言った。
「ここは自由と平等を旨とする大地だ」
そこには男女の差別はおろか宗教も動物や魔物の差別も無い。
「そんな場所には”覇者”も”王者”も必要ない。腐り切った宗教の私兵団も・・・・だ!!」
私は右手に持ったサクスを勢いよくラインハルト修道司祭の喉に突き刺した。
「!?」
サクスは深々とラインハルト修道司祭の喉に突き刺さっていき・・・・ついには外に切っ先が飛び出した。
それに伴い私にも血が飛び散ったが私は構わなかった。
「ゴッ・・・・ガバッ・・・・オゴッ・・・・!!」
喉を貫かれたラインハルト修道司祭は血走った眼で私を睨んでいたけど暫くすると眼を白目にして仰向けに倒れた。
仰向けに倒れるとピクリとも動かなくなり、それによって私は死んだと理解した。
だけど私はラインハルト修道司祭の喉に突き刺したままのサクスを抜いて血を拭き取り・・・・見開かれていた眼を閉じさせた。
「ただ今のフェーデはハインリッヒの勝利とする!!」
ラインハルト修道司祭が息絶えたと見たヴォルフガング宮中伯が高々に宣言した。
その宣言を聞いてから私は片膝をついて歩み寄って来た3人に頭を下げた。
「泥仕合を見せてしまい申し訳ありません・・・・・・・・」
「いいや、良き戦いであったぞ」
バルバドス大宮中伯は私の言葉を否定した。
「戦とは華麗、優麗という言葉とは対照的なものだ。こ奴の小細工も戦場の外でならそこそこ輝いたであろう」
しかし戦場では悪戯に相手を嬲るような真似は稚拙だとバルバドス大宮中伯は断言した。
「もっとも・・・・それこそ聖教の十八番だろう。しかし・・・・これからは違う」
自分達が「やられる役」に回るとバルバドス大宮中伯が宣言すると・・・・巨大な黒い門が出て来た。
その門は数多の人間が重なり合って出来た門で、神学者として名高いカール・ファン・シャルンストが書いた「地獄への道」に出て来る地獄の門に酷似していた。
「さぁ、我等が住まう愛おしい地獄を統治する王よ。命令通り特急便で送るからシッカリ裁いてくれ」
地獄の門を前にしてバルバドス大宮中伯が言葉を掛けると・・・・静かに地獄の門は開いた。
ハインリッヒが取った戦法は黒田二十四騎の一人に数えられる野口一政の戦法です。




