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第32章:3人の勇士

 私が深く頭を下げると3人は馬を止めて馬上から私を静かに見下ろしてきた。


 だけど、ただ側に居るだけで他者を圧倒する気迫が体から放たれていた。


 特に先頭の武人は馬も大きいけど本人の身長も高いから尚更だよ。


 でも私は3人に声を掛けた。


 「お初にお目に掛かります。私はサルバーナ王国王立司法省傘下の守護騎士団国境警備課に所属するハインリッヒ・ウーファー旗騎士です」


 「我々に声を掛けたのだから・・・・何者かは知っているのだな?」


 先頭の武人は覇気に満ちた声で私に問い掛けてきたけど間違いは許さないという気が出ていた。


 「その屍を連想させる鎧と、片翼が無い堕天使を軍旗にした人物は1人しか私は知りません」


 双頭のワイバーンを愛竜とし、敵対者および罪人を容赦なく串刺しの刑に処した事から「悪魔伯」とも「串刺し卿」とも聖教に言われながらも・・・・・・・・


 時の王プログレズ王からは王国を守護する為と評され、イプロシグ王子からは「守護堕天使」と渾名され領民からも公明正大な領主と慕われた大カザン山脈の一部を統治した・・・・・・・・


 「“ゴエティア・ド・バルバドス大宮中伯”様と見受けます」


 「フフフフッ・・・・流石は我が愛槍を打った鍛冶職人の子孫だな。よく我が名を言い当てた。しかし、残る2人はどうだ?」


 バルバドス大宮中伯は私に左右の2人を顎で指して問い掛けてきたけど私は直ぐ答えた。


 「黒狼の毛皮を纏い、獅子の頭部を持つ悪魔を軍旗とした人物は・・・・・・・・」


 プログレズ陛下より地方貴族等を始め王国に仇なす者達を闇に葬るよう密命を受けた・・・・・・・・


 「傭兵騎士という渾名とは別に”闇の獅子”とも渾名されたヴォルフガング・ファン・ド・ペルス宮中伯です。そして炎を出す”三尖両刃刀さんせんりょうじんとう”と、8本の”トゥグ(ブンチューク)を御旗とした人物は・・・・・・・・」


 緑林の徒を率いて貧しき者達を助け続け・・・・・・・・


 「貴方様が“愛しい敵”と渾名したウチュ・オクラル(三本の矢)族の長エレルヘグ・ベイ(勇敢な君主)様と見受けます」


 「フフフフッ・・・・いやはや見事に言い当てられたな?」


 バルバドス大宮中伯は愉快そうに2人に笑い掛けた。

 

 「それは“彼の人物”も言っていましたよ?」


 「我々の姓名くらいは容易く言い当てるとな。しかし、こうもスラスラと言われてしまうと些か呆気ない気分だ」


 ヴォルフガング宮中伯とエレルヘグ・ベイ様はバルバトス大宮中伯の言葉に肩を落とした。


 「確かに、そうだが・・・・久々の戦場だ。少しは楽しもうではないか」


 ニヤリとバルバトス大宮中伯は地獄の王が言った言葉を口にした。


 『“特急便”で腐れ宗教の私兵団を全員、連れて来い』


 「あの王があそこまで言うのは驚いたが・・・・奥方の影が見えたからな。どうせ奥方に何か言われたのだろうな?」


 「そうだろう。あの王は私生活では“マイホームパパ”を目指しているからな」


 「その割には反抗期の娘には避けられ、奥方には扱き使われているから哀傷が漂いますけど・・・・ね」


 バルバドス大宮中伯とエレルヘグ・ベイ様の会話にヴォルフガング宮中伯は私生活の実態を口にしながら武器を振り上げた。


 ヴォルフガング宮中伯の武器は左右対称に斧頭が付いた片手持ちの「バトル・アックス」だった。


 バトル・アックスを振り上げたヴォルフガング宮中伯は円形の盾たる「ラウンド・シールド」で斬り掛かってきた騎士のロングソードを裁いた。


 そしてバトル・アックスで騎士を頭から真っ二つにした。


 「相変わらずコソコソ鼠のように動く奴等だ。おい、さっさと片付けろ!!」


 おちおち会話も出来ないとヴォルフガング宮中伯は愚痴りながら一人、呆然と立つラインハルト修道司祭を見た。


 「神に助けを求めているなら無駄だ。戦場で”奇跡”なんて待った所で起こりはしない」

 

 「ヴォルフガング宮中伯、その者は神を心から信じてはおらん」


 バルバドス大宮中伯がヴォルフガング宮中伯の言葉を否定するような台詞を発しながら愛槍を引き寄せると・・・・エレルヘグ・ベイ様と同時に飛来した矢と火玉を切り裂いた。


 いや矢と火玉だけじゃない・・・・矢を射た従者達と火玉を放った魔術師達も切り裂いたんだ。


 ただ、どちらも斬られた途端に跡形もなく消えてしまった。


 「我が愛槍は雷を操れる所までは知らなかったようだな?」


 驚く私をバルバドス大宮中伯は悪戯が成功した子供みたいに笑った。


 「・・・・知りませんでした」


 私は正直に答えるとバルバドス大宮中伯は笑みを深くした。


 「フフフフッ。そなたの鼻を明かせて心地良いが・・・・用意は良いか?」


 バルバドス大宮中伯の問いに私は頷いた。


 「奴は聖教の私兵団だ。必ず“狡賢い手”を使うから気を付けよ」


 私からの手助けはここまでとバルバドス大宮中伯は言い、最後の一人が倒されたのを見て高々に声を発した。


 「皆の者、これよりアグヌス・デイ騎士団総長ラインハルト修道司祭と守護騎士団旗騎士ハインリッヒはフェーデを行う!!」


 「掟通りフェーデは一対一で剣を使い片方が倒れるまで行う。そこに助太刀も助言も禁止とする」

    

 バルバドス大宮中伯の宣言にメルセデス殿達は驚いたけど更にヴォルフガング宮中伯の言葉に抗議しようとした。

  

 「もし、助太刀や助言をしたらその場で我々が処罰すると覚悟せよ」


 エレルヘグ・ベイ様が三尖両刃刀をチラつかせて釘を刺すと皆は口を閉ざすしかなかった。


 ただメルセデス殿は違った。


 「恐れながらバルバドス大宮中伯、それは余りにも酷と思います」


 「貴殿はメルセデスと言ったか?地獄で見ていたが他国者でありながらハインリッヒ達に味方した志は認めるが・・・・奴はハインリッヒが倒してこそ意味がある」


 だから手出しは許さないとバルバドス大宮中伯は厳しい口調でメルセデス殿に告げた。


 「ですが・・・・・・・・」


 「メルセデス殿、ここは私に任せて下さい」


 私は尚も抗議しようとメルセデス殿を抑えた。


 「お言葉ですがハインリッヒ殿・・・・・・・・」


 「あの男は王国の癌です。その癌は王国の臣民が取り除かなければなりません」


 そして私は奴等を倒すと誓約した。


 「この誓約をバルバドス大宮中伯様達は成し遂げさせようとしたのです。その気持ちを無徳には出来ません」


 仮に私が倒れる事があっても・・・・・・・・


 「その時は奴も道連れにします。また貴女達の事は王国に報告してないので祖国に帰って大丈夫です」


 「・・・・・・・・」


 メルセデス殿は私の言葉にギュッと拳を握り締め何か言おうとしたけど寸での所で抑えた。


 それに対して私は何も言わずフランツを見た。


 「君の悪夢も後少しで終わるよ」


 「女に言うような台詞を男に言うなよ。しかし・・・・気を付けろよ?超お人好し騎士」


 フランツは私の言葉に悪態を吐きながら私の肩を叩いた。


 対してダミアン達は敢えて何も言わなかった。


 シパクリ達も欠伸をする猫達も同じだったけど・・・・それはフランツが言いたい事を言ったからに過ぎないからさ。


 もっとも舞う風は「ワキンヤン、気を付けて」と声を掛けてくれた。


 「悪いけど・・・・これを持っていて」


 私はクロスドロウホルスターからスタームルガーGP100を抜いて舞う風にグリップを向けて渡してから右薬指と左薬指に填めていた指環を取る。


 「ワキンヤン、それは・・・・・・・・」


 「手にしていたら使いたいと心が揺らいでしまうから持っていてくれ」


 「・・・・必ず返すわ」


 舞う風は私の言葉の裏に隠された意味を見抜いたのか、ギュッとGP100と指環を握り締めた。


 それを確認してから私は決闘する相手に厳しい視線を向ける。


 ラインハルト修道司祭は鎧を脱いで上からサーコートを着た出で立ちでロングソードを鞘から抜いていた。

 

 だけど・・・・何か仕込んでいると私は察しながらスクラマサクスを手に前へ進んだ。


 「貴様のような背徳者によって・・・・栄光あるアグヌス・デイ騎士団は壊滅だ」


 ラインハルト修道司祭は憎悪に満ちた眼で私を睨みながら怨嗟の言葉を投げてきた。


 「栄光という言葉は間違っています。貴方達がやってきたのは徒労を組み欲望の赴くままに蛮行を行った盗賊に過ぎません」 


 「聖王カール陛下が創設された騎士団を盗賊呼ばわりするか!?」


 私の言葉にラインハルト修道司祭は激昂したけど私は冷静に返した。


 「事実を言ったに過ぎません。そして私は守護騎士として・・・・貴様を倒す」  


 私が腰を落として中段に構えるとラインハルト修道司祭は日より/屋根にロングソードを構えた。


 そして静かに距離を縮め合った。


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