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第31章:出撃2

 鉄馬車が先頭を切り、その左右がヒルドルブと私達が付き従う形で続く。


 敵陣に突破口を強引に開く「楔形陣形」だ。


 その楔形陣形の背後にシパクリ達が続く。


 私達の陣形を見てアグヌス・デイ騎士団は攻撃を仕掛けてきた。


 前列に配置していた魔術師達が魔法を放って私達に大量の火玉が襲い掛かってきて私達の周囲を抉ったり燃やしたりした。


 シパクリ達は徒歩だから余計に被害が多かったけど一致団結した様子を見れば士気が低下していない。


 だけど私達もやられっ放しではない。


 直ぐ反撃した。


 投石機、サブレウ野砲、カイレグ多連装、ラオホ・カノーネでアグヌス・デイ騎士団の陣に石や砲弾を撃ち込んだのさ。


 この私達の反撃にアグヌス・デイ騎士団は陣形に穴を幾つも開ける形になった。


 ただし直ぐ穴を埋めるように兵は動き私達が入り込む隙間を与えなかった。


 「帆を立てよ!!」


 私の左側に居たメルセデス殿が鉄馬車に乗る部下に命令した。

  

 それは「突撃準備」の合図だった。


 メルセデス殿の言葉で鉄馬車に帆が張られた。


 それによって鉄馬車の速度は驚くほど上がった。


 その速度に私達の愛馬は必死に付いて行く形になったけど私達を振り落とさないよう気を遣ってくれた。


 「矢を放てぇっ!!」


 ラインハルト修道司祭の怒声と共にクロスボウ兵達が一斉に矢を放ってきた。


 狙いは馬に乗る私達だったけど、それを護るようにシパクリ達が前に出る。


 ただ彼等の盾をクロスボウの矢は容易く射抜いた。


 だけどシパクリ達は構わずクロスボウ兵達に突進すると見たのか、ラインハルト修道司祭は騎士達に指示を出した。


 騎士達は私達を左右から挟撃するようにランスを突き出してきたけど・・・・それによってアグヌス・デイ騎士団の左右は大きく開いた。


 「サブレウ野砲、敵陣中央を狙え!!」


 私の声にサブレウ野砲の砲口が敵陣中央に狙いを定めると魔術師達は慌てたように魔法防御壁を張ろうとした。


 だけどサブレウ野砲の方が先に火を噴いて魔術師達を薙ぎ払った。


 もっとも「行進射撃」だから狙いは中央から大きく横にずれてしまった。


 それでも厚みを持たせる形で密集したアグヌス・デイ騎士団の陣形に穴を開ける事には成功したよ。


 そして反撃を許す隙を与えなかった点もあったので・・・・私達は突破口を開ける事が出来た。


 「突破口を押し広げよ!!」


 シパクリ達が先頭を切り、開いた隙間に侵入して穴を押し広げて行き、そこに私達も続いてアグヌス・デイ騎士団の築いた壁を破壊していく。


 だけど立ち止まる事は出来ないからひたすら前へ進む私達に対してアグヌス・デイ騎士団は押し潰そうとした。


 その証拠に左右から挟撃しようとした騎士達がランス・チャージを仕掛けてきた。


 でも鉄馬車に設けた銃座に居たダニが動いた。


 ダニはハンドサイフォンを勢いよく回すとランス・チャージを仕掛けようとした騎士達に炎を浴びせた。


 『グァァァッ!?』


 炎を浴びせられた騎士達は馬から転がり落ちて地面をのたうち回ったけど炎は消えなかった。


 そして従者達にもスコプルスの炎を浴びせたダニは反対側の騎士達にも炎を浴びせた。


 「怯むな!数で押し潰せ!!」


 ラインハルト修道司祭の怒声が間近で聞こえてきたけど私は構わず青い月を駆って前へ進んだ。


 「皆、止まらずに進むんだ!このまま行くんだ!!」


 私の叫びに皆はひたすら前進を続けた。


 それによって壁を貫ける手前まで行ったけど・・・・ここで鉄馬車の車輪が壊されてしまった。


 片輪が破壊された事で鉄馬車は大きく傾いてしまった。


 そこへシパクリ達が駆け寄り支えようと試みたけど重量もあり支え切れないのは傾き続けるのを見れば明白だよ・・・・・・・・


 「敵の足が止まったぞ!押し潰してしまえ!!」


 ラインハルト修道司祭の叫び声に残るアグヌス・デイ騎士団が一斉に群がってきた。


 「皆、怯まず戦うんだ!こんな奴等に私達は負けられない!!」


 私は皆に怒鳴るように叫び士気を鼓舞しつつラインハルト修道司祭を睨んだ。


 するとラインハルト修道司祭も私に気付いたのか、部下達を前に出しながら私を見てきた。


 いや、眼で話し掛けてきた。 


 『貴様が王族の飼い犬の長か・・・・今までよく戦ったな?だが、ここで終わりだ』


 「誰が終わるものか!ここは貴様等のような輩が汚して良い場所じゃない!王国も同じだ!!」


 ラインハルト修道司祭に怒鳴りながら私は群がってきた敵にスクラマサクスを振り下ろした。


 だけど多勢に無勢という事もあり・・・・私達は徐々に押し潰されそうになっていく。


 『これまでなのか・・・・・・・・!?』


 私は自分が立てた誓約を守れないばかりか、大勢の人まで死なせてしまうのかと一瞬だが諦めようとした時だった。 

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辺り一面を暗黒の雲が覆い隠し大地が裂ける勢いで震えた。


 「な、何だっ!?」


 誰かが震え出した大地に尻餅をついて悲鳴交じりに問いを投げたけど誰も答えられなかった。


 ただ、馬達の怯えが尋常でない事が・・・・得体の知れない「何か」が現れると私達に告げる。


 しかしラインハルト修道司祭は違う。


 「ええい、何をしているか!今こそ敵を倒す絶好の機会だ!たかが地震如きに戸惑うな!全ては我等が神の御意・・・・・・・・!?」


 ラインハルト修道司祭は途中で言葉を中断せざるを得なかった。


 それは彼の間近に長大な槍が何処からともなく飛んで突き刺さったからさ。


 その槍は穂先が90cmもある「大身槍」と称される直槍で全体を黒漆で塗り固めていたけど樋の部分には翼を広げた双頭の龍が優美に彫られている。


 あの槍は・・・・・・・・


 『神の御意思か・・・・そんな寝言は聞き飽きた』


 『やれやれ・・・・プログレズ陛下と出会った時から聖教は変わらないな』


 『何時の時代も狂信者は居るが・・・・貴様等の国教はブライズン教並みに病んでいるな』


3人の男の声が聞こえたと思いきや今度は馬の蹄と金属同士がぶつかる音が聞こえてきた。


 音は最初こそ遠くだったけど徐々に近付いて来て・・・・地中から飛び出してきた。


 先頭を切って出て来たのは2m前後はある栗毛色の馬に跨がった武人だった。


 しかし見た時は「屍人」かと思ってしまった。  


 その武人が着ている黒と赤を主体にしたラメラー・アーマーは胸部と背部を守る胴を片肌だけ脱ぐ形になっていたんだ。


 だけど肌色に塗った胴の上から色糸を貼り付けた形だから実際には胴を着ているんだ。


 でも遠目からはあたかも片肌を露わにしていると見える。


 しかも露わになった片肌の部位からは肋骨の浮いた肉色の体を覗かせているのが屍人と印象付けるんだよ。


 おまけに兜は髑髏を模倣していて、その上から熊毛をあしらい、ドラゴンの前立てを取り付けていた点も印象深い。


 自分の存在を戦場で知らしめる為に風変わりな鎧兜を着るのは武人の性だけど、こんな恐ろしい鎧兜を着る人物は1人しか知らない。


 その次に出て来た武人も同じだった。   


 前期物のプレート・メイルを着て、その上から黒狼の毛皮を纏い獅子を模った兜を被っている。


 最後の1人は2人赤い赤く塗った5枚の鉄板を4ヶ所に設けた蝶番で止め、赤い素掛威すがけおどしを施したラメラー・アーマーと、鍬を連想させる前立て、そして炎を穂先から出す槍が印象的だった。


 「・・・・・・・・」


 私は3人の後ろに続いた将兵も見て正体を察したけどラインハルト修道司祭を始めとした者達は分からない様子だった。


 しかし先頭を切って現れた武人はジロリと血のように赤い眼でアグヌス・デイ騎士団を睨み据えた。


 「皆の者、この騎士にあるまじき者達を打ち倒せ。ただしラインハルト修道司祭は残せ」


 「そいつはハインリッヒ旗騎士が倒すからな」


 「残りは遠慮なく生皮を剥いで鎖に繋げ」


 「地獄の王」からの命令だと3人は言い、それを合図に将兵達は一斉にアグヌス・デイ騎士団に襲い掛かった。


 対してアグヌス・デイ騎士団は予想外の登場した軍団によって瞬く間に打ち倒されていく。


 その様子を私達は呆然と暫し見ていたけど3人は悠々と歩み寄って来て私は青い月から下りてスクラマサクスを後ろにやり片膝を着いた。

 

 そして深く頭を下げた。

 

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