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幕間:百足の夜襲2

 ベレンゲラとシパクリは別方角からアグヌス・デイ騎士団に夜襲を仕掛けた。


 しかも完全に不意を突いた形になったのでアグヌス・デイ騎士団は面食らっていた。


 「・・・・・・・・」


 ベレンゲラは一番近くに居た騎士の右小手を愛剣で切った。

  

 チェイン・メイルを騎士はプレート・メイルの下に着込んでいたが、それごとベレンゲラの愛剣は難なく切断した。


 騎士は悲鳴を上げたが左手に持ったヒーターシールドでベレンゲラを押そうとした。


 しかしベレンゲラは半身で躱すと次の敵に視線を向けた。


 その後ろに部下達は続くが彼等も敵に一撃を与えると直ぐ別の敵を攻撃した。


 これには理由がある。


 数では圧倒的に不利な自分達がアグヌス・デイ騎士団に勝つにはひたすら戦力を減らす事だ。


 だからベレンゲラは敵を完全に倒さずとも戦闘力を奪えば良いと部下達に厳命した。


 そして動き続ける事も厳命した。


 下手に止まると包囲されかねないし人数を察知されるからだが・・・・・・・・


 『あわよくば敵大将の首を取れば・・・・・・・・』


 ベレンゲラはハインリッヒが倒すと宣言したアグヌス・デイ騎士団総長ラインハルト修道司祭の首を一瞬だけ望んだ。


 いや「渇望」したが直ぐに頭から消し去った。


 ラインハルト修道司祭は今、自分達が居る場所より更に奥に居る。


 この人数では半分くらいまでしか行けないし下手をすれば全滅してしまう。


 また大将首を求めるなとも言ったし伝道所の合図で速やかに退却する事も厳命している。


 この何れかを犯せばハインリッヒが更なる窮地に追い遣られるし自分も祖国に帰れない。


 総長たる自分が任務を放棄する形で戦死など出来ないとベレンゲラは悟った訳だが・・・・・・・・


 『あの方の為なら・・・・・・・・』


 ベレンゲラは自分の心にハインリッヒの存在が大きくなり始めているのを今更に自覚した。


 しかし目の前に群がる敵を前にすると体は勝手に動いた。


 「死ねぇっ!!」

  

 従者が左からベレンゲラにショートスピアで突きを繰り出してきたが、それをベレンゲラは半身で躱しガラ空きの腋下に矛を突き刺した。


 従者は悲鳴を上げ、ベレンゲラの手には生暖かい感触が伝わってきた。


 しかしベレンゲラは気にせず矛を抜き、次の敵へと走る。


 「皆、怯まず進みなさい!勝利は私達の物です!!」


 ベレンゲラは大きな声で敵の動揺を誘う言葉を発し、それに合わせて部下達も「勝った!勝った!」と叫んだ。

  

 この言葉にアグヌス・デイ騎士団は押される形になったのをベレンゲラは敏感に空気で察した。


 しかし、伝道所を攻撃していたアグヌス・デイ騎士団の者が反転するのも見えた。 


 『頃合い・・・・ね』


 ベレンゲラが思った時に伝道所から笛の音が聞こえてきた。


 撤退の合図だ。


 笛の音を聞いたベレンゲラは部下達に目配りして後退を始めシパクリ達も後退を始めた。


 しかし、敵も闇夜に慣れて意地もあるのか、後退を始めたベレンゲラ達を追撃してきた。


 「各自、離れずに後退しなさい!!」


 怒声に近い声を発しながらベレンゲラは追撃してきた敵を切り捨てる。


 だが足首に装着した車輪を回転させながら体格の良い騎士が「ウォー・ハンマー」を持って突進して来るのを見てベレンゲラは叫んだ。


 「伏せなさい!!」


 ベレンゲラが叫ぶと同時にウォー・ハンマーが横に振られ、周囲に居た者を薙ぎ払った。


 「逃がさんぞ!異教徒共!全員、地獄に送ってやる!!」


 ウォー・ハンマーを両手で持った騎士は甲高い声で叫ぶがベレンゲラは無視して手矛で突きを出した。


 敵はウォー・ハンマーを豪快に振ってベレンゲラを薙ぎ倒そうとしたが、それより早くベレンゲラの手矛が敵の胴に届いた。


 しかし・・・・手矛は粉々に砕けたばかりか、跡形もなく溶けてしまった。


 魔法防具を着ているとベレンゲラは悟ったのとは別に敵は自身の勝利を疑わないのか高笑いした。


 「フハハハハハ!神の加護を受けた俺に異教徒の攻撃な・・・・・・・・!?」


 「・・・・大声で言わなくても聞こえます」

  

 ベレンゲラは右手に持った愛剣で敵が被っていたサレットの隙間から眼部を貫いて黙らせた。


 しかし敵は唸り声を上げベレンゲラを捕らえようと右手を伸ばしてきた。


 ところが敵の右手は宙に舞った。


 それとは別にベレンゲラの左手には一振りの湾刀が握られていた。


 握られているのは(つか)(なかご)が一体で、左右に「透かし彫り」がなされている「毛抜形太刀」だ。


 「・・・・・・・・」


 敵の左手を斬り捨てたベレンゲラは空中で舞うと静かに着地し群がる敵を両手に持った二振りの剣で斬り捨て続けた。


 その軽やかな動きは舞でも見ているようでムガリム帝国一の剣士の実力は遺憾なく発揮されていた。


 しかし眼は魔剣王とも氷の騎士でもない。


 寧ろ正反対の表情だった。

  

 「来るなら掛かって参れ!今以上の屍を築き上げたいならば!!」


 ベレンゲラは怒りに満ちた声でアグヌス・デイ騎士団に宣言した。


 この言葉にアグヌス・デイ騎士団は怖じ気づいたように二の足を踏んで停止した。


 それを見てベレンゲラは負傷者達を優先的に後退させ殿を務めた後に後退した。


 先ほど宣言したように屍の山を築き上げた後に・・・・・・・・ 

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 アグヌス・デイ騎士団総長ラインハルト修道司祭は怒りと屈辱で震える自分を抑えるのに限界を迎えそうだった。


 何せ昼間の攻撃に失敗したばかりか、敵に背後から夜襲を仕掛けられるなど・・・・・・・・


「アグヌス・デイ騎士団が創設されてから初めてだっ!!」

  

 堪え切れずラインハルトは怒声を上げた。


 しかし、味方は被害把握に忙しく自分の怒声に気付いていない。


 何人かは気付いたが「障らぬ神に祟り無し」とばかりに敢えて無視している。


 それすらラインハルトには怒りの矛先を向ける理由になったがギリギリの所で抑えた。


 そして強引に気持ちを抑え付けると直ぐ今後の策を練った。


 『力攻めは駄目だ。いや、最初から焦らず持久戦に持ち込めば良いのだ』


 こっちに食料等はあるから問題ないと思ったが先ほどの件もある事を忘れてはならないと自分に告げる。


 「周囲の地層を調べ抜け穴がないか調べよ。見つけたら塞いでおけ」


 こちらから夜襲を仕掛けるのは魔法攻撃のみにするとラインハルトは騎士達に命じた。


 しかし・・・・ここで魔術師がラインハルトに声を掛けた。


 「総長、ただ今・・・・アレクサンドロス様から・・・・連絡が入りました・・・・・・・・」


 魔術師の声は怒りか、憔悴かは定かではないが妙に声が震えていた。


 「アレクサンドロス大司教は何と言った?」


 ラインハルトは魔術師に内容を尋ねた。


 「アレクサンドロス大司教はこう言われました」


 『女王を貴族派に取られ、自分は追っ手から逃げ回っている。時間は限られている。急ぎサルバーナ王国へ入り準備をせよ』


 あからさまではないが遠回しに今の問題を片付けろと命令しているとラインハルトは捉えた。


 しかし貴族派に女王を取られたという事でアレクサンドロスが苛立っているのも理解できた。


 「皆の者、アレクサンドロス大司教が我々の到着を待ち望んでいる。こんな問題は一刻も早く片付けるぞ」


 我々の神が暮らす地上の王国を築くのだとラインハルトは大声で宣言した。


 それを聞いて負傷者達まで大声で同調したから誠に宗教の力は凄い。


 皆が同調したのを確認するとラインハルトは直ぐ魔術師達に魔法攻撃をやらせた。

  

 そして騎士達には周囲の警戒を命じ、自身は神に祈った。


 『我等が偉大なる父と子と聖霊よ。異教徒共に死の鉄槌を与えて下さい!いえ、我等に何とぞ力をお貸し下さい!!』


 貴方様の王国を地上に築く為にとラインハルトは心から祈ったが・・・・・・・・


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