第28章:百足騎士
私とフランツはメルセデス殿を見た。
対してメルセデス殿は先ほど自分が剣になると言った言葉に続く形で言葉を発した。
「私が外に出て夜襲を仕掛けます。人数は50から60人で良いです」
メルセデス殿は静かに語るけどフランツはこう言った。
「それだけで足りるのかよ?」
「夜襲は少数でやる方が効果的です。それに伝道所を手薄にしては危険ですから」
だから100人より少ない方が良いとメルセデス殿は語った。
そしてフランツから私に視線を変えた。
「ハインリッヒ殿、貴方は自らを盾と称しました。その気持ちは私も解ります」
騎士とは戦う職業だが、自ら好んで剣を抜く事はしてはならないからだとメルセデス殿は語った。
「ですが盾だけでは自分はおろか他人すら守り切れません」
だから・・・・・・・・
「私が剣となります・・・・・・・・」
「しかしメルセデス殿。貴女は・・・・・・・・」
「クアウトリよ。心配するな」
私の肩をシパクリが叩いて言葉を中断させた。
「お前が心配するのは解るがメルセデス殿なら心配要らないさ。我も出るからな」
「・・・・気を付けなよ?」
私はシパクリの手を握り言葉を掛けた。
するとシパクリは口端を上げ笑ってみせた。
「心遣い感謝する。なぁに、敵の血だけ浴びて帰って来る」
シパクリは笑いながら私から離れ、私はメルセデス殿に今度は言葉を掛けた。
「メルセデス殿、貴女も気を付けて下さい・・・・・・・・」
「ご安心ください。貴方に女神の加護があるように・・・・私にも先祖の加護があります」
ですがとメルセデス殿は区切り私の左手を取った。
「貴方の気遣いに感謝します。そして貴方にも加護がある事を・・・・・・・・」
メルセデス殿は私の左手に軽く口付けを落とすと胸の位置で「然る印」を結んだ。
その印を結んでからメルセデス殿はシパクリの後を追い掛けたけど・・・・・・・・
「・・・・・・・・」
私は無言でメルセデス殿の背中を見つめ・・・・確信した。
「あんな美女に口付けされたのに・・・・どうした?」
フランツが私の態度を見て尋ねてきたけど私はこう答えた。
「いや・・・・あの方に“借り”が出来たと思ってね。ただ法の番人の立場と相反するんだ」
「公私の狭間か・・・・まぁ、そんな眼をしているんだ。決まっているんだろ?」
「あぁ、決まっているよ・・・・女神からも頼まれているからね」
私の言葉にフランツは暗い前方を見ながら笑った。
「なら決まっていて当然だな。しかし・・・・楽しくて仕方ないぜ」
奴等を倒せば牢に入り、恐らく死ぬまで娑婆に出られないだろうとフランツは呟いた。
「だが、お前等と戦えた事は俺には良い思い出になるぜ。それこそ“生活金”を稼げる」
「確かに・・・・生活金を稼げるね。しかし・・・・果たして上手く出来るか・・・・・・・・」
私がダニ達の方を見るとフランツは小さく笑ってみせた。
「なぁに、心配要らねぇよ。あの美女が任せているんだからな」
部下を信頼し仕事を任せるのは良い上官の基本とフランツは言い、私はフルスの地で行った大演習を思い出して笑った。
「あぁ、その通りだね」
私は大演習の事を思い出しながら笑い夜警を続けた。
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メルセデス殿とシパクリ達が夜襲に出撃してから間もなく敵が来た。
人数は500人前後で、味方区別の為に白い布を頭に巻いている。
そして音を防ぐ為に従者が半分以上を占めていた。
「やっぱり敵も考えていた・・・・か」
「まぁ、そんなもんだ。だが、俺達の勝ちさ」
フランツは私に然る方角を指さした。
その指さす先には穴から出て来たメルセデス殿達が居て、見事に敵の背後を取る形になっていた。
「いやはや流石は領主の妻だな?“抜け道”を設けていたんだからな」
「正妻は9家の一家ハグレス家だったと聞いているけど・・・・領主の色に染まっているね」
「その口振りから察っして勇猛果敢な精神が良いって家か?」
フランツの鋭い指摘に私は頷いた。
「ハグレス家は騎兵戦術を得意としていて、その戦振りから”赤い一角馬”と渾名されたんだ。そして歴代の当主も勇猛果敢を旨としているからね」
「なるほど。そこを考えれば領主の色に染まったって言葉に納得だ」
勇猛果敢な精神は必要だが、それだけでは「あんな手」は考え難いとフランツは皮肉を込めて言った。
「君は私の親友と同じく皮肉を交えて評価を下すね。もう少し素直に評価できないのかい?」
「お前が馬鹿正直に評価するんだ。それに味付けしただけだぜ?」
「なるほどね。それはそうと・・・・さっきの説明で少しは私色が出たかい?」
「なに言ってんだよ。まだ出てねぇよ」
私の言葉にフランツは口端を上げ笑い、私は苦笑しながら丸馬出しに配置したサブレウ野砲に魔石で連絡を入れた。
「敵が来たから“歓迎の花火”を一発頼むよ」
私の言葉に前方からも来たアグヌス・デイ騎士団にサブレウ野砲が砲口を定めた。
そして私も89式自動小銃カービンのレシーバーを引いて弾を装填した。
「しかし・・・・あいつ等も間抜けだな。俺達が本陣を夜襲するのに自分達も仕掛けるんだからよ」
「私達は圧倒的に少人数だから夜襲するなんて考えていないの・・・・さ!!」
私は城壁から半身を踊り出し驚いた敵に5.56㎜弾を浴びせた。
それが合図となったように敵が「突撃!!」と叫んだ。
だけど正面から仕掛けようとした味方が半分以上も一気にやられた事で敵は浮き足立った。
「このまま押し返せ!!」
私が叫ぶと応援に駆け付けた味方が勢いに任せて敵を攻撃する。
これに敵は押される一方で突破口はおろか「橋頭堡」さえ築けない有り様だった。
それを敵本陣に居るラインハルト修道司祭は苛立って見ていたかもしれない。
しかし「戦力の逐次投入」の愚を犯さず、何か感じ取ったように本隊を警戒させるのが松明の動きで判った。
だけど・・・・まさか背後から仕掛けてきたメルセデス殿達に驚いているだろう。
何せ完全包囲したと考えていたのに背後を取られたんだからね。
現に敵の何人かは本陣が攻撃されている事に気付いたのか、更に浮き足立った。
「このまま押し返すんだ!敵本陣に夜襲は成功した!!」
私は浮き足立った敵に追い打ちを掛けながら言葉でも揺さ振りを仕掛けた。
私の言葉を聞いて敵は本隊を見る者が現れた。
そして私の言葉が本当だと知ったのか「本陣に戻れ!!」と叫んだ。
しかし私達は逃がさないとばかりに攻撃を浴びせ続けた。
それとは別にメルセデス殿達は敵本陣で暴れ回っている。
100人にも満たない人数を逆手に取って縦横無尽に敵本陣を搔き乱す様は夜戦の特徴を上手く引き出していた。
それとは対照的に敵は同士討ちをするなどして自ら出血を強いた。
このまま行けば敵大将の首も取れそうな勢いにも見えたけど私達が居る伝道所を攻撃していた隊は反転し本陣へ引き返した。
私達に背後を見せる形を敵は取ったけど大量に使い捨て魔石を投げるなどした。
そして互いにカバーし合い退却する辺りも経験が活かされている。
「・・・・敵ながらやるね」
私は本陣へ急ぎ戻って行く敵を見ながら89式自動小銃カービンを肩に掛けた。
「感心するなよ。まだ生き残りがあれだけ居るんだぞ?」
「君は勇将か猛将タイプだね」
私はフランツの言葉で将の性質を評した。
「腐れ修道司祭にも言われた。しかし・・・・頃合いは見計らうべきだからな」
下手に追撃するのは危険とフランツは言い、城壁の外で事切れている敵の収容を皆に指示した。
それを聞きながら私は滅茶苦茶にされた敵本陣を望遠鏡で見た。




