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第27章:迎撃2

 私とベレンゲラの眼には横隊で進軍してくるアグヌス・デイ騎士団が見えた。


 奴等は下馬して「重装歩兵」と化した騎士を先頭とし、その背後に身軽な従者を従えていた。


 ただ先日と同じく側面に回り込もうとしているのか、後方には別の隊が控えている。


 そして本陣を見れば壮年の男がこちらを見ていた。


 私は遠眼鏡を取り出し男を見た。


 男は白金の真鍮で磨いたアルフレッド式甲冑を着て、その上には袖付きで踵丈まであるサーコートを着ている。


 傍らには数人の騎士と従者が控えていて、如何にも騎士団総長らしい風格を持っていた。


 「あの男がアグヌス・デイ騎士団の総長ラインハルト修道司祭だ」


 何処からともなくフランツが現れ私とメルセデス殿に男の正体を告げた。


 「・・・・かなり経験を積んでいますね」


 メルセデス殿はラインハルト修道司祭を見てから軍歴を予想した。


 「聞いた話じゃ10代から戦場に出ていたらしいからな」


 「それなら手堅い采配も納得できますが・・・・どうなさいますか?ハインリッヒ殿」


 フランツの言葉にメルセデス殿は相槌を打ちつつ私に問いを投げてきた。


 それを私は遠眼鏡でアグヌス・デイ騎士団の陣を見て、魔術師で遠距離攻撃をする用意もしているのを確認し、それから「風向き」も確認してから答えた。


 「・・・・火の用意をして下さい」


 「硫黄に火を点けるのか?」


 フランツが尋ねてきたけど、その口調からは「早くないか?」という気持ちが感じられた。


 「些か早いというのは分かるよ。だけど私達は少数だ。そこを考えれば・・・・前方から来る敵を足止めするのが先決だよ」


 そして矢や弾は出来るだけ残しておきたいと私が言った瞬間、メルセデス殿が「伏せて」と叫んだ。


 私達が身を城壁に隠すと同時に幾つもの火の玉が襲い掛かってきた。

 

 しかし魔法防御壁のお陰で私達は無傷だが婦女子達は悲鳴を上げた。


 「チッ・・・・ジワジワと嬲るってか?」


 フランツは移送魔法を使ってきたアグヌス・デイ騎士団を罵ったけど私は丸馬出しに居る味方を見た。


 味方は無事だった。


 そして藁に仕込んだ硫黄に火が点いたのか、鼻を刺激する悪臭が臭ってきたけど直ぐに風に乗り硫黄はアグヌス・デイ騎士団の方へ行った。


 硫黄の臭いにアグヌス・デイ騎士団は足を止めて隊列を僅かに乱した。


 それは前に進めば進むほど臭いは強烈になるから当然だった。


 味方の方も間近で硫黄の臭いを嗅ぐから私達の方も同じだけど予めマスクと措置方法を教えていたのが違う点さ。


 「これで前の敵を少し足止め出来る・・・・後は側面だ」  


 私の言葉にメルセデス殿は頷くと右手を掲げ、側面に配置した旗騎士達に合図を送った。


 すると旗騎士達は側面の城壁から梯子を掛けて登ろうとしていた敵に石などを投げ落とした。


 これに敵は不意打ちを浴びる形で怯んだけど数に物を言わせ登ってきた。


 これは「攻城戦」の基本の一つだ。


 城を力攻めする方は「大量出血」を強いられる。


 だけど私達も馬鹿じゃない。


 今以上に敵に対し出血を強いる。


 ドンドン敵は梯子を登ってきているのが遠目でも見え、旗騎士達も「後もう少し」と私達に眼で言った。


 そして「頃合い」と見たのか、私を見て首を縦に振った。

  

 「シパクリ!!」


 「皆、投げろ!!」


 私が叫ぶとシパクリ達が城壁の中に入って来た敵に白兵戦を挑み、それと同時に旗騎士達は梯子を落とし新たに登ろうとした敵を落とした。


 その間にシパクリ達は中に取り残された敵達を一網打尽にした。

 

 城に敵が入れば「落城」と言われるけど敢えて私は逆手に取る形で敵を中に入れ討ち取る手を考えた。


 戦術的には「邪道」も良い所だけど少数である事を考えれば致し方ないよ。


 とはいえ使えても数回程度だから・・・・・・・・

  

 「急いでくれ・・・・・・・・」


 小声で私は教会の中で今も作業を進めているダニ達に言った。

 

 しかし、その言葉を阻止する勢いでアグヌス・デイ騎士団の攻撃は激しくなった。

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 敵は右とは違い、開けた場所となっている上に手薄な左側面に攻撃を集中してきたけど私達は何度も撃退し何時の間にか夜になった。


 夜になると敵は太鼓の音で退き、私達は第一撃を防げたと喜んだけど油断は禁物だ。


 「交代で見張りを立て、その間にさっき戦った者は休んで下さい」


 私は指示を出しながら見張りに立った。


 ただ伝道所の外に在る丸馬出しの者にも連絡を入れ交代で休むように言うのも忘れなかった。


 また倒した敵から武器や防具を取り外させ死体を埋めさせる指示も出したよ。


 これは「疫病」の防止も兼ねての事だけど、フランツは気に入らない様子だった。


 それは何時の間にか私の隣に立って見張役をやりながら呟いた言葉で解った。

 

 「自分の正義で好き勝手にやりながら埋葬されるとは・・・・“良い身分”だぜ」


 「・・・・フランツ殿。死人に鞭を打つ言動は慎むべきですよ」


 フランツ同様に何時の間にか見張役になったメルセデス殿が見かねたように戒めの言葉を言う。


 するとフランツは肩を落とし私に話し掛けてきた。


 「お人好し騎士。あいつ等、今度は倍以上の数で来るぞ。若しくは・・・・来たぞ」


 フランツの言葉と同時に火の玉が襲い掛かってきたけど魔法防御壁によって伝道所は無傷だった。


 硫黄の方も消火したから有毒ガスは発生していない点も良いけど・・・・・・・・

 

 「”心理攻め”もやる訳だね?攻城戦の基本だ」


 「あぁ、そうだ。しかし・・・・無力な婦女子には厳しいぜ?」


 見ろよとフランツに言われたけど私は見なくても解っていた。


 幼い子供達は泣き叫び、それを婦女子が必死に励ましている声が・・・・聞こえるからさ。


 それと同時にアルベルト牧師も彼女達を励ますように言葉を掛けているのも聞こえたけど・・・・・・・・


 「君を前に言うのは悪いけど・・・・”焼け石に水”だね」


 「あぁ、そうだ。しかし・・・・俺は、お前を信じているぜ?」


 あいつ等を倒すと誓ったからなとフランツは私を見て断言してきたけど・・・・・・・・


 「疑問符を付けないでくれよ。疑ってしまう」

 

 「おいおい、超御人好しな騎士のくせに人を疑うのか?」


 「最初より酷い言い方では?」


 メルセデス殿はフランツが私を「御人好し騎士」と称したのに今では「超御人好し騎士」と称した点を小さく突いた。


 そこにシパクリも来て「こいつが超御人好しなら貴様は超大馬鹿者」と言った事で笑いが誰と言わず出て来た。


 私達の笑い声が婦女子達にも聞こえたのか、皆は泣くのを止めた。


 そして頑張ろうと子供達も励まし合いを始めた。


 「フフフフ・・・・やはり子供達には明るい笑顔が良い」


 シパクリが子供達を見て満足そうに言い、それに私は頷いた。


 「子供達は常に明るい笑顔で居るべきだからね。負けられないよ」


 「確かに・・・・しかし、籠城しているだけでは我が兵達の士気は下がり兼ねん。どうだ?“夜襲”をしてみんか?」


 シパクリの言葉に私は良い案と思った。


 籠城するのは短いけどダニ達が果たして計画通り進んでいるか今の時点では分からない。


 そして亀みたいに籠もっていると士気が低下する点も見逃せないよ。


 特に「援軍」が見込めない籠城は尚更だけど・・・・・・・・


 『向こうも夜襲を考えていたら・・・・・・・・』


 確実に私達は一転して不利になる。


 だけど・・・・・・・・


 「"攻めるは守るに勝り、攻めざる者に勝利無し"と・・・・言うからね」


 「また誰かの言葉か?」


 フランツが呆れたように私を茶化してきたけど私は否定しなかった。


 「ここの領主と親交があった貴族の言葉だよ。君はどう思う?」


 「悪くない言葉と思うぜ。とはいえ・・・・圧倒的に少数である俺達が出れば伝道所が手薄になるって考えも解る」


 悩むのも無理ないとフランツは語ってから・・・・・・・・


 「誰を“攻手”として“守手”とするかで現状は変わるが・・・・誰にする?」


 「それなら私が“剣”となりましょう」


 フランツと私の間にメルセデス殿は入ると静かに発言した。


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