第26章:迎撃
アルベルト牧師と会話をしてから私は再びメルセデス殿と伝道所の周囲を周りながら後2日で出来るだけの対策を練った。
ただ人数が限られているから万全とは言い難いけどね。
だけど出来る限りの対策は練った。
「投石機は教会付近に配置しましょう。カイレグ多連装、ラオホ・カノーネは左右に配置し面攻撃をメインとし、サブレウ野砲は丸馬出しに配置するのが良いでしょう」
メルセデス殿は私が考えた兵器達の特性を熟知しているように適切な助言を私にしてくれた。
「では、そうしましょう。ただ、丸馬出しは堡塁の役割を担っているので魔術師も何人か配置できないでしょうか?」
「その点なら攻撃に特化した者を数名ほど加えましょう。そして城壁左右には弓兵とクロスボウ兵を配置するのが良いでしょうが・・・・出来るだけ敵を引き付けて倒すのが宜しいでしょう」
城壁を見ながらメルセデス殿は私に助言してくれたが、その眼は剣先のように鋭かった。
「恐らく敵は魔法で攻撃を行いながら歩兵を前進させる筈です」
静かにメルセデス殿は敵の出方を口にしたけど、それは正当派と言える戦術なので私は頷いた。
「ただ、こちらは魔法防御壁を張っているので魔法攻撃に対する備えはあります。ですが敵に比べれば矢数から人数も・・・・全て絶対的に不足しています」
だから兵糧攻めなんてすれば一溜りもないとメルセデス殿は静かに語ったけど、それを行うと時間を要するから敵はしないとも語った。
「あくまで敵は短期決戦のハラでしょう。ですが、それは私達も同じです」
ここを踏まえて私達がやる事は敵の数を一人でも多く減らす事とメルセデス殿は断言した。
「幸いダニ達なら兵器は完成させられますから・・・・先ずは明日の攻撃に耐えるのが鍵です」
「分かりました。しかし・・・・厳しい戦いになりますね」
私はメルセデス殿の言葉に頷きつつ明日からの戦いを想像した。
メルセデス殿の言う通り私達は敵の攻撃に耐えながら兵器を開発しなければならない。
話を聞く限り問題はないだろう。
あるとすれば敵の数に物を言わせた「波状攻撃」に私達が耐えなくてはならない点だ。
そこに婦女子達が加わるから・・・・・・・・
「籠城戦は“飢餓と絶望”との戦いとは言ったものですね」
「誰の言葉ですか・・・・・・・・?」
メルセデス殿は言い得て妙という表情を浮かべながら私の言葉に問い返してきた。
「この地を治めていた領主の言葉です」
「失礼ながらこの地を治めていた領主の他には誰も居なかったのですか?」
「そうらしいです。それによって領主は一時完全包囲されて窮地に陥った事があるんです」
相手は聖教の信者が自発的に始めた「十字軍」により被害を浮けたアガリスタ共和国とクリーズ皇国の2ヶ国だったとされている。
「しかし国同士の争いには至りませんでしたが、ここの領主は逃げて来た信者を保護した事で戦に巻き込まれてしまったんです」
「何時の時代も狂信的な人間が要らぬ混乱を起こしますね」
メルセデス殿の言葉に私は頷いた。
そう何時も狂信的な人間が混乱を巻き起こすのは歴史を見れば数多くある。
だけど十字軍を私は全面的に批判する気にはなれなかった。
それをメルセデス殿は見抜いたのか、続きを尋ねてきた。
「領主の城を包囲した軍は兵糧攻めをして領主達を苦しめましたが思わぬ形で領主達は助かりました」
それは包囲に参加していた敵軍の将が兵糧を送り包囲網の一角を解いたからと私はメルセデス殿に言った。
「包囲網を完全にすると死に物狂いになるから一角は開けるのが常道と聞きますが兵糧を送る話は、初めて聞きます・・・・・・・・」
メルセデス殿は興味深そうに眼を細め更に続きを求めてきた。
「その敵将は領主と何度も領土で争っていましたが戦士の礼節は誰よりもあったそうです」
更に彼はあくまで処罰するのは十字軍の先導者であり、それに加担した民草は処罰しない方針だったんだ。
「だから他の将にも・・・・こう言ったそうです」
『彼とは弓矢で勝負を決したい。また今回の件は自分の正義に無知の民を巻き込んだ奴等が主犯だ。そいつ等さえ処罰すれば問題はない。何より彼の男は逃げて来た信者を領主として助けたに過ぎない』
「それが巷では群盗としか見られなかった“緑林”が持つ矜持と言ったそうです」
「何時の時代も狂信的な人間が要らぬ混乱を起こしますが・・・・そのように誇り高い者も居る“良き例”ですね」
メルセデス殿の言葉に私は頷きながら結末を話した。
「その戦士の言葉が領主に伝わったのか、領主の方でも主犯を出すよう信者と交渉しました」
これに信者達は最初こそ猛反発したと私が言うとメルセデス殿は相槌を打った。
「信者から言わせれば異教徒との妥協など敗北と変わらないですからね。まして自分達と同じ宗教を信仰する者から言われたなら・・・・尚更でしょう」
「その通りです。しかし、最終的には領主の言葉で信者達は折れました」
『貴殿等の信者心は見上げたものだが、異教徒だからといって略奪をするのは如何なものか?まして同国人にもしたという話を聞いた以上・・・・串刺しとなりたくないなら先導者を出せ』
「・・・・過激な言葉ですが、それ位が信者の心を折るには良かったのですね」
メルセデス殿は私が語った領主の言葉に相槌を打ち、結末を尋ねてきた。
「結末は先導者達は引き渡され死刑を言い渡されましたが、それでも敵なりに誠意を見せたのか“名誉”の死刑方法でした」
その処刑方法は皮袋に包んで馬の大群に踏ませるというもので一見すれば酷い処刑方法と見えるかもしれない。
「ですが大地に貴人の血を流さない処刑法という事でクリーズ皇国では今も重んじられています」
そして領主は信者達の所業を深く詫びてからサルバーナ王国に彼等を返した。
しかし、この籠城が領主には教訓となったんだろうね?
「自身の城に実のなる植物を植え、絨毯なども食べられるものにしたそうです。そして戦に備えて腰には干し肉、麦、そして金貨で500サージを入れた皮袋を腰に巻くようにしたそうです」
「領主は良き武人ですね。そして異文化に人間は偏見を持ちますが・・・・貴方は偏見を持っていない“賢い騎士”です」
メルセデス殿の言葉に私は首を横に振った。
「真に賢き者なら自身で答えを見つけます。私は先人達の人生を調べる事で学んでいるに過ぎません」
賢き者ではなく凡人か、良くて凡人に毛が生えた程度と私が言うと今度はメルセデス殿が首を横に振った。
「自分に自信がないから自己否定するのは解ります。ですが貴方は私から見れば真の騎士道を歩く方です」
これは個人的な意見とメルセデス殿は断ってから私に然る言葉を言った。
「ハインリッヒ殿。どうか、ご自身を卑下しないで下さい。そして・・・・歩み続けて下さい」
その道に阻む物があれば・・・・・・・・
「私が・・・・・・・・」
「敵が動いたぞ!!」
メルセデス殿の言葉を遮るように味方の怒声が伝道所に飛び回った。
「・・・・ハインリッヒ殿。行きましょう」
メルセデス殿は最後まで言わないで私に声を掛けてきた。
既に騎士の眼に変わっているのを見て私も頷いた。
「行きましょう。奴等を倒す為に」
私の言葉にメルセデス殿は頷き、2人で城壁に走りながらカタパルトを担当する味方に準備を命じた。
そして城壁に登った私達の眼に・・・・横隊で進軍してくるアグヌス・デイ騎士団が見えた。




