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第3幕:赤い泡立つ岩山

 その日の内に私達は基地を出発し大カザン山脈に向かって馬を駆った。


 馬達は私達の気を感じたのか、何時もより早足で道なき道を進んでいる。


 そんな賢くて気持ちを理解してくれる家族に感謝しながら私達は敵から如何に誘拐された婦女子達を助け出すか話し合った。


 「敵は基地を必ず持っている筈だから先ずは基地を見つけないとね」


 私が一番に言うとダミアン達は頷きながら問題を出してきた。


 「それが先決だね。だけど基地を見つけ侵入して助け出したとしても・・・・本当の問題はそこからだね」


 何せ大カザン山脈地帯は私達にとって「治外法権地帯」なんだ。


 そこから誘拐された婦女子達を助け出しても奴等が来れば元の木阿弥だ。


 ここを解決するには奴等を徹底的に叩き潰すしかないが、私達を合わせて計24人で・・・・・・・・


 果たして何処まで戦える?


 そこが最大の難関だ。


 しかし今の問題を先ずは解決しなければならない。


 「舞う風。君は赤い泡立つ岩山に敵の数人が居ると言ったけど・・・・彼等が味方になるという意味は何だい?」


 平原に住む彼女の部族において彼女は「メディスンマン(呪術師)」だ。


 メディスンマンは薬草と魔術の知識が豊富な者達の事で、怪我や病気の治療、または儀式の執り行いが仕事だ。


 大自然と交流して「ビジョン」を得る事でなれるという私達には異例に見える存在なんだ。


 そしてメディスンマンになる為に葉大自然と交流しビジョンを得る事が条件だから・・・・家柄や血筋で選ばれる訳ではないし、修業してなれる訳でもないんだ。


 そんな立場に舞う風は僅か5歳の時になったというから凄いけど常識に囚われた者なら先ず信じないだろうね?

 

 だけど彼等の呪術は凡そ私達の知る魔術とは一線を引いた存在で、その神秘を私達は何度も見てきたから力は確かだよ。


 だからこそ私達は彼女が示した場所に向かうが、そこに居る人間が味方になるという意味は・・・・まだ知らない。


 そこを私が問うと舞う風は真っ直ぐ私を見て説明してくれた。


 「彼は・・・・深い悲しみを胸に抱いた人物よ。その悲しみは今まで犯した罪なの。だけど今、それを取り除こうと藻掻いているの」


 「・・・・・・・・」


 私達は舞う風の言葉に耳を傾けたが否定するような言葉は発しなかった。


 それは彼女の部族にある言葉があるからだ。


 「身構えず、自分からおのずと出てくる答えを信じる」という言葉は・・・・私達に今も出ない答えを待つように告げている。


 だから私達は舞う風の言葉を黙って聞いた。


 「深い悲しみを胸に抱き藻掻いている者は私達に・・・・いえ、“ワキンヤン”・・・・貴方が救うのよ」


 舞う風は私に与えられた「神聖な名前」を口にした。


 本来なら真名とも言える、この名前は身内以外には言ってはいけない名前として彼等の間では通じている。


 しかし私の真名を言ったのは彼女を含め・・・・皆が私の過去を知っているからであり「家族」と見てくれているからだ。


 「ワキンヤン。貴方は、嘗て“悲しい乙女”を救ったわ。だから今度は・・・・彼を救って」


 彼を救うのが私の為になると舞う風は静かに言った。


 「・・・・救えるかは、断言できない。ただ君等の家族は助け出すという点は断言するよ」


 「・・・・・・・・」


 舞う風は私の返答に無言となったが欠伸をする猫はポンと肩を叩いた。


 「泣き虫野郎。お前の言葉は・・・・俺の心に届いたぞ」


 お前の声は「まっすぐ喋った」と欠伸をする猫は言った。


 「だから光線のように俺の心に届いた」


 『我々の心にも届いたぞ。ワキンヤン』


 欠伸をする猫の台詞に他の友人達も私に声を掛けてきた。


 「お前は真っ直ぐに伸びた舌で舞う風の言葉に答えた」


 我々は「先が二つに割れた舌を憎む」とも友人達は言うが・・・・確かに、そうだ。


 彼等は何時だって真っ直ぐに喋り、そして決して嘘を吐いたりしなかった。


 寧ろ先程の言葉通り彼等は嘘を憎む。


 だから彼等は私が「今の時点」で舞う風の言葉に拒絶するような台詞を発しても怒らなかったんだ。


 ただし舞う風自身は私の言葉に心を痛めている様子ではあった。


 でも・・・・今の時点では、そうとしか言えないのが正直な私の本音だったのは否定できない。

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 夜になり私達は大カザン山脈の山中で野宿をした。


 標高が高く空気は冷たいがサラマンダーの皮を鞣した「ティピー」の中に居るお陰で寒くない。


 その中で私達は地図を広げて誘拐された婦女子の出身地と、アグヌス・デイ騎士団の足取りを調べた。


 奴等が現れたのは今から一ヶ月前で、最初に襲われたのは東部の最端部に暮らす部族だったらしい。


 「生き残った者の話では黒くて”大きな箱”を奴等は引き摺って現れたらしい」


 頭部の左右を剃り、刺青を入れた友人こと「立った鳥」は私に奴等の乗り物を教えてくれた。


 「現れた奴等は馬に乗った者、徒歩の者が連携して集落を襲い、その間に黒くて大きな箱に女と子供を入れた」


 そして収容が終わると集落を・・・・炎で包んだらしい。


 「・・・・異教徒の改宗が目的だから荒事には慣れている訳か」


 私は冷静に敵の行動を分析しつつ立った鳥の指を地図上から追い掛けた。


 「集落に居た男達は直ぐに奴等の追い掛けたが・・・・この地で奴等を見失った」


 立った鳥が指さした場所は敵対部族の集落近くだった。


 「敵は君等の事を調べているね」


 恐らく奴等は事前に彼等を調査し、そこに逃げ込んだと私は予想しながら別の友人を見た。


 「俺の方も同じだ。ちくしょう・・・・奴等め!!」


 友人はギリッと歯軋りして敵対部族を口汚く罵った。


 だけど直ぐに私を見て地図で自分の集落と奴等の動いた道を私達に教えた。


 その作業を全員にしてから私達は漸く結論を出した。


 『奴等は事前調査した上で万全の態勢で事に及び・・・・今後も誘拐をする』


 現時点で奴等の目的は憶測の域を出ないけど誘拐を続けるのは私達の間では明白だった。


 何せ「この手」の犯罪を始め大体の犯罪者は一度でも捕まらないと自信を身に着ける。


 その自信がある限り犯罪を止めないのは過去の事件等を見れば一目瞭然だよ。


 しかも大カザン山脈は3ヶ国揃って治外法権となっているから捜査の網は掛からない。


 この点も奴等には邪魔が入らないから犯罪を続ける理由になる。


 本当なら3ヶ国が連携して捜査網を敷き、奴等の足取りを調べた上で一網打尽にするのが最適だ。


 だが・・・・それが出来ない。


 私達で奴等の犯罪を止めるしか道はない。


 となれば・・・・・・・・


 「上司から馬鹿騒ぎは程々にしろと言われたけど・・・・守れそうにないね」


 『・・・・・・・・』


 私の台詞にダミアン達は無言となった。


 何せ出発前に私達は釘を刺された。


 あの釘は私達が国境警備課に「異動」となった出来事を言っているのは解る。


 もし、同じ事を再びやれば今度は異動だけでは済まないだろう。


 だけど・・・・私は言った。


 「この土地は・・・・如何なる者も犯す事が出来ない”自由の土地”だ」


 如何なる神を崇めようと・・・・如何なる生活を送ろうと・・・・それは、この地に住む者達が古くから受け継いだ伝統で出来ている。

 

 それを余所者が自分勝手に・・・・私欲に塗れて汚すなんて言語道断だ。


 ここを考えれば・・・・・・・・


 「休暇届ではなく”辞表”を出すべきだったかもしれないね」


 この言葉は否定はしないのか・・・・皆は静かにコーヒーが入ったカップを掲げた。


 それこそ「あの事件」が発生し・・・・私達だけで向かった時と同じだった。


 だけど・・・・あの事件同様に私達の心は一つに纏まっていたよ。


 『民草を護る盾とならん』


 私達は口を揃えてカップを掲げると口にした。


 景気付けに飲んだ酒とは違いコーヒーは・・・・何処までも私達の身体をゆっくりと温めてくれた。


ハインリッヒのいう高貴なる友人たちとはネイティブ・インディアンをモデルとしております。


そして彼等の言葉も彼等の部族に伝わる格言を引用しております。

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