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幕間:赦されるなら

 ベレンゲラはハインリッヒに適切な助言を言いながら罪悪感で胸を痛めていた。


 目の前の若き騎士が先ほど話した内容は驚くべき内容だったが、彼と出会って間もないがあり得なくない展開と思い直していた。


 しかし、人として大事な事を持って生きているとベレンゲラは思うがハインリッヒの言った言葉には何も言えなかった。


 ハインリッヒが言った内容は「永遠に叶わぬ夢」と既に知っていたからだ。


 南北大陸にあるアルメニア・エルクラム大公国に居る教皇の飼い犬たる文官・・・・・・・・


 恐らく奴は今件を大きな足掛かりにするとベレンゲラは見ていた。


 何せアルメニア・エルクラム大公国は祖国同様に・・・・暗闘が繰り広げられているからだ。


 ただ、そこに旧アルメニア・エルグランド公国の復興を叶えようとしている組織も係っており事態は非常に混乱している。


 それは武官が定期的に届ける情報によって解ってはいたが・・・・教皇派が混乱を利用し、メリディエース大陸に侵略するという点は読めなかった。


 これは武官だけではなくアンドーラ宰相を含め自分もだ。


 しかし、考えてみれば現教皇は自分の危機を有利に変える術を持っているではないか。


 そして欲しいと思ったものは人であれ物であれ・・・・絶対に手に入れるまで諦めない執念深い性格も・・・・・・・・


 この時点でも自分達は教皇派を甘く見ていたから後手に回ったとベレンゲラは痛感するが、それとは別に教皇派の動向を予想した。


 恐らく文官は武官に掣肘を打ち込んだ後に東スコプルス帝国に自分の息が掛かった軍を派遣しただろう。


 それに対して武官は宮廷に指示を仰ぎ、それに対して宮廷は聖白十字騎士修道会を派遣したが、ダニの言う通り・・・・こちらは完全に後手に回っている。


 聖白十字騎士修道会が南北大陸に着くには如何に天候に恵まれた上で魔法を駆使しても最短で10~15日だ。


 その間に教皇派はメリディエース大陸に辿り着いている。


 おまけに「あの男」が教皇と手を組んだ時点で・・・・・・・・


 結果は見えしまった。


 『恐らく東スコプルス帝国は・・・・私達が任務を終えて帰還するまでに消滅しているでしょう』


 ベレンゲラは自分でも嫌になるほど冷静な答えを導き出した。


 それはダニから報告された時にも思ったが・・・・ハインリッヒの話を聞いて改めて自分の祖国は何て業深い所業をしたのだろうかと思う。


 同時に目の前の騎士に・・・・何もかも言えたらどんなに良いだろうか?


 自分の祖国が東スコプルス帝国を今、侵略しているという事実をハインリッヒに言えたら・・・・・・・・


 『ハインリッヒ殿・・・・お許し下さい』


 ベレンゲラは心中でハインリッヒに謝罪した。


 それは枷によって言えない自分の不甲斐なさと祖国の業深い所業に対しての謝罪だった。


 『本当に自由の身になれたら・・・・・・・・!!』


 この時ベレンゲラは心底、自分の枷を怨めしく思った。


 しかし武人の性か・・・・・・・・


 ハインリッヒが硫黄を使った敵に対する策を話すと頭が無意識に切り替わったが、それによって懺悔の気持ちが和らいだのをベレンゲラは否定できなかった。

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 「硫黄を敵に対して使う・・・・どういう形で使うのですか?」


 ベレンゲラはハインリッヒの策に問いを投げた。


 それはハインリッヒが硫黄を使い敵を寄せ付けない作戦をイマイチ掴み切れないからだった。


 「硫黄は加熱すると有害な毒を放出するんです」


 ハインリッヒは硫黄を指さしベレンゲラに硫黄の特徴を教えた。


 「硫黄を燃焼させると酸化して”二酸化硫黄”という非常に有害なガスを発生させるんです」


 それによってアグヌス・デイ騎士団の攻撃を引き延ばすとハインリッヒは言い、ベレンゲラは良い案と思い頷いた。

 

 ただ、欠点もあると見抜いたので忠告した。

 

 「ですが風向きに注意しないといけませんね。私達の方に来たら一巻の終わりです」


 「その点は大丈夫です。ここは風上に在りますし、舞う風が居ますから」


 それを聞いてベレンゲラは舞う風を探した。


 すると舞う風も自分とハインリッヒを探していたのか、こちらに来て「風が力を貸す」と言ってきた。


 「風は言ったわ。この地で暮らした婦女子に借りがあると」


 「それは有り難いね。それから欠伸をする猫達はどうだい?」


 「寝ているわ。貴方も眠ったら?疲れている筈よ」


 舞う風の言葉にベレンゲラも頷いたがハインリッヒは首を横に振った。


 「まだ眠れないよ。それに徹夜は慣れているから大丈夫だよ」


 休める時に休むべきだがとハインリッヒは言った。


 「だけど今は少しでも奴等に対する備えをしておかないと駄目だよ」


 「・・・・ハインリッヒ殿、貴方の気持ちは解りますが舞う風の言うように休まれた方が良いです」


 ベレンゲラは舞う風に続く形でハインリッヒに休むよう言った。


 それをハインリッヒは困った表情を浮かべながら断ろうとした。


 しかしシパクリが来て「我も休むから休め」と言ってきた。


 「クアウトリ。メルセデス殿の言う通り眠れ。そなたも我も指揮官だぞ?」


 指揮官が休む事で部下達も休めるとシパクリが続けて言うとハインリッヒは漸く折れた。


 「分かった。眠るよ」


 「それで良い。なぁに、敵も疲れているから心配するな」


 シパクリはハインリッヒの肩を叩くとベレンゲラと舞う風に後を頼みハインリッヒと消えた。


 それを見てからベレンゲラは舞う風に話し掛けた。


 「私と貴女ではハインリッヒ殿を・・・・説得できませんでしたね」


 「仕方ないわ。シパクリはワキンヤンの友だもの。対して私達は違うわ」


 「確かに・・・・ですがハインリッヒ殿が休まれるから良いです」


 「貴女は眠らないの?」


 舞う風の問いにベレンゲラは頷いた。


 「ハインリッヒ殿と同じく徹夜は慣れています。何より・・・・今は眠りたくないんです」


 「・・・・ワキンヤンを悲しませるような事をしたの?」


 舞う風の口調が固くなったのをベレンゲラは感じ取りながらも頷いた。


 「・・・・少し歩きながら話しませんか?」


 ベレンゲラの言葉に舞う風は何か感じるものがあるのか、静かに頷くと誰も居ない方に視線を向けた。


 その視線を見てベレンゲラは歩き出し、その隣を舞う風は歩いた。


 2人で肩を並べて歩いていたが頃合いを見計らいベレンゲラは口を開いた。


 「ハインリッヒ殿を悲しませるような事を・・・・私の祖国はしました」


 「・・・・・・・・」


 ベレンゲラの言葉に舞う風は無言となった。


 「私の祖国は無数の毒蛇がのたまう壷と自国民も称する陰惨な国です」


 しかし、初代の皇帝が掲げた悲願を達成させようと誰もが動いている。


 「ですが、それは建前です。本心は自分達の欲望を満たす為です」


 「・・・・その欲望でワキンヤンは悲しむのね」


 舞う風の感情が込められなかった声にベレンゲラは頷いた。


 「今の王は祖国の現状を憂いて手を打ちました。ただ今回は・・・・遅すぎました」


 それをハインリッヒは知らないとベレンゲラは語り肩を落とした。


 「私はハインリッヒ殿の語った夢を叶わぬ夢と知っていました。それなのに伝えられず・・・・謝る事も許されません」


 「・・・・・・・・」


 「ですが、もし・・・・もし・・・・赦されるなら・・・・あの真っ直ぐな騎士に赦されるなら・・・・・・・・」


 ベレンゲラは最後まで言わなかった。


 しかし舞う風は無言でベレンゲラを見ていたが、その頬を伝う真珠を見て・・・・こう言った。


 「“泣くことを恐れずに。涙は心の悲しみを洗い流す”わ・・・・・・・・」

 

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