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第24章:猶予期間

 私とメルセデス殿が伝道所に戻るとシパクリ達が「素晴らしい宣戦布告」と褒めてきた。


 「大した事は言ってないよ。それから敵は3日間の猶予期間を与えてくれた」


 さっきの事もあるけど一先ず3日間は攻めて来ないと私は踏んだ。


 「今の内に体力を回復させておいて。私の方も完成を急ぐから」


 そう言って私は教会の中に戻りダニ達の方へ行った。

  

 教会に戻るとダニ達は使えそうな資材を片っ端から探して来た所だった。


 ラッパや太鼓等の楽器、鉄の食器等もあったから溶接などすれば形は出来ると私は思った。


 ただダニ達は溶接などしたか心配だったけどダニ達は笑ってみせた。


 「資材を溶接などして接着して下さい。そして手で回せるように取っ手と歯車を。それから燃える液体は換気の良い場所に移して、火の手が来ないようにお願いします」


 『承知』


 私の言葉にダニ達は直ぐに着手を始め、それを見ながら私は奴等の出方を考えてみた。


 だけどメルセデス殿が来たので尋ねる辺り自分の想像以上に精神的に参っているのかな?


 「メルセデス殿、奴等はどう出ると思いますか?」


 「あの小細工から察して・・・・3日の猶予期間を守るか疑問です」

 

 しかしとメルセデス殿は区切った。


 「恐らく堅実に攻めるでしょうから・・・・先ず正面から来るでしょう」


 「貴女の釘が深く刺さりましたからね。ですが“丸馬出し”に“三日月堀”を設けた場所を敵は攻めるのですか?」

  

 「様子見として考えられます。そして私達の視線を正面に集中させるのです」 

 

 その間に別動隊で側面を叩くだろうとメルセデス殿は語り私は改めて考えた。


 確かに、堅実に敵は攻めるだろうから・・・・間違いないだろう。


 となれば・・・・・・・・


 「私達は一先ず“迎撃”する事に徹した方が良いですね」


 「その通りです。また馬車にも手を施しヒルドルブのようにするのも良いでしょう」


 嗚呼と私は思った。


 メルセデス殿も女神と同じく私に助言を与えるだけではなく自分も私と共に歩く女性だと・・・・・・・・


 考えてみれば縁も所縁もない私達に助太刀を申し出るような方だから当たり前だったよ。


 「メルセデス殿、今の時点では私達がやれる事はないので、馬車とヒルドルブを見に行きませんか?」


 貴女の助言が欲しいと私が言うとメルセデス殿は薄ら微笑んだ。

   

 「えぇ・・・・喜んで」


 私が歩くとメルセデス殿は数歩後ろを歩いたけど直ぐ私の右横に位置を変えた。


 だけど私を護るように斜め前に体を向けているのが印象的だった。


 ただ、それとは別にダニ達はメルセデス殿が屈託のない笑みを浮かべた上に私の右隣を歩く事に驚いていたらしいけどね。

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 メルセデス殿と外に出た私は鉄の馬車とヒルドルブを見た。


 どちらも至る所に傷跡が痛ましくあるけど近付けば今も健在と私達に訴えていたよ。


 「・・・・先ず馬車に例の兵器を備え付けたいと私は考えています」


 「確かに、あの資材だけなら小型になるのは否めませんからね。ですが逆に取り回しの面では良いでしょう」


 私の言葉にメルセデス殿は教会を見てから私の考えに同調してくれた。


 「ただ、今の人数を馬車に収容して走るのは厳しいので馬車を大きくしたいんですが・・・・何か良い案はありますか?」


 「ダニは土を操る魔術師です。彼の魔術を使いましょう」


 土は地盤をシッカリ固めれば協力な形になるとメルセデス殿は言い私はピンと来た。


 「“戦闘指揮所”を造るんですね?」


 「そうです。これは一種の“海戦”となりますからね」


 海戦と聞いて私はまたピンと来た。


 「海戦の特徴は・・・・敵艦隊を壊滅させるのが勝敗の鍵ですからね」


 「海戦も調べたのですか・・・・・・・・?」


 メルセデス殿は私が直ぐに答えたのを疑問に思ったのか、問いを投げてきたけど至極当然と私は思いながら答えた。


 「陸戦も海戦も同じ戦いです。それに旅で知り合った方々からも教えられました」


 『例え取るに足らぬ小戦だろうと念入りに調べよ。大事の前の小事とは言うが、小事を無事に片付けてこそ大事は活かされる』


 「良い言葉ですね。誰が教えたのですか?」


 先ほども誰かの言葉を叫んだとメルセデス殿は指摘し私は微苦笑した。


 「私の悪い癖です。自分に自信が無いから偉大な先人達や先輩達の言葉を借りるんです」


 メルセデス殿が否定しようとしたのを察した私は言葉を発して言わせなかった。


 「壁があるなら乗り越えれば良いと言ったのは東スコプルス帝国の海軍元帥でした」


 この言葉にメルセデス殿は驚いたけど更に私は言葉を発した。


 「一度でも交わした約束は守らなければならないと言ったのは現“アルメニア・エルクラム大公国”に駐在する武官です」


 またしてもメルセデス殿は驚いたけど無理もないよ。


 何せアルメニア・エルクラム大公国は現在ムガリム帝国の保護国となっているんだけど他国との交渉は基本的に禁止されていているんだ。


 もっとも外貨獲得や情報収集の為に多少の交易等は条件付きだけど許されている。


 ただ、それも厳重な検問と条件を満たした一部の人間だけで基本は駄目という姿勢は変わらない。


 「・・・・アルメニア・エルクラム大公国には如何なる理由で行ったのですか・・・・・・・・?」


 メルセデス殿は慎重な口調で私に問い掛けてきたけど私は微苦笑して答えた。


 「知り合いの商人に頼んで乗り込んだ船が嵐で難破してしまったんです」


 そこを武官に助けられ暫し世話になったと私は説明しつつ・・・・その武官から教えられた事を話した。


 「その武官は文官と仲が悪かったので世話になった私達も文官から何かと嫌がらせや嫌疑を受けました」


 普通なら自国の人間と・・・・まして出世にも響きかねない文官と矛は交えたくない筈だけど・・・・・・・・


 「その武官は最後まで私達の世話を見てくれました。その理由を武官はこう言いました」


 『君等は難破した所を私が保護した。そして私は君等の船が直るまで世話をすると公言した。それは私にとって誓約となる』


 「だから自分の出世に響きかねない事だろうと破る訳にはいかないと言われましたし、当時10代になったばかりの私に些か怒りました」


 『人生10年程度しか生きていない若造が他人を気遣うなど早過ぎる』


 「・・・・それで彼の国では何をされたのですか?」


 メルセデス殿は私の昔話を聞くや知り合いに居るのか、些か思い当たるような表情を浮かべつつ続きを促してきた。


 「商人は商売をしました。対して私は古戦場を巡ったり歴史書物を読み漁りました。それを武官は見ていたのか、私に海戦も調べろと助言してくれたんです」


 そして自分の戦話もしてくれたと私が語るとメルセデス殿はこう言った。


 「ムガリム帝国が東スコプルス帝国に侵略した話・・・・ですか?」


 「はい。その武官は東スコプルス帝国歴2070年5月4日に行われた“第一次シヌス海戦”に見習い水兵として出陣したそうです」


 「・・・・海戦史でも類を見ない圧倒的勝利に終わった第一次シヌス海戦に出た、その武官は貴方にどのような話をしてくれたのですか?」


 「東スコプルス帝国の老将が指揮する艦隊に自軍は翻弄された末に負けたと自嘲しながら話しました。ただ、その老将が見せた類稀なる戦い振りを厚く語ってくれました」


 地形の把握、敵艦隊の残骸を利用した戦術、そして粘り強い戦い振り・・・・・・・・


 「ですが・・・・その方が今も胸に秘めているのは戦闘が終わった後の事です」


 『例え敵将兵であろうと戦が終われば敵も味方も無い。もし、生存している者が居れば手厚く世話をせよ。戦死している者が居たら悪戯に扱わず手厚く葬り、そして遺族に対して遺品等を届けよ』


 「・・・・戦場というと人間の本能が剥き出しになる世界では”理想主義”と言う誹りは受けますが、その思考を私は嫌いにはなれません」


 メルセデス殿の言葉に私も同意した。


 「私も同じです赤の他人たる私に何かと世話を焼いてくれた武官には今も感謝しています」


 「貴方らしいですね。そして・・・・その武官は嘗ての自分を貴方に重ねたのでしょう」


 戦いに敗れ船の一部だった板にしがみ付いて海を漂っていた所を敵たる老将に助けられた過去の自分と・・・・・・・・


 メルセデス殿の言葉に私は頷いた。


 「恐らくそうでしょう。ですが私としては何時か2人が互いに昔話として語り合えたら良いと思います」


 嘗ての敵同士が終わってから酒を飲んで語り合った事はある。


 だから・・・・・・・・


 「話が逸れましたね」


 「いえ・・・・構いません」

  

 メルセデス殿は私の言葉に首を横に振り話題をアグヌス・デイ騎士団との会話に戻した。


 だけど、私は知らなかった。


 メルセデス殿が土下座して私に謝りたい気持ちだった事を・・・・・・・・


 そして・・・・この時、既に東スコプルス帝国は・・・・・・・・

  

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