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第21章:寂れた教会

 私達は突然、現れた無数の火の玉に驚いた。


 左翼から迫っていたアグヌス・デイ騎士団が急に後退を始めてから間もなくだったから奴等の攻撃と見て良い。


 だけど魔石ではない。


 これは明らかに魔術師が詠唱して放った魔法による攻撃だ。


 ところが魔術師の姿は何処にもない。


 それなのに攻撃がきた。


 「糞ったれ!何なんだ?いきなり火の玉が来るなんて!!」

  

 フランツが罵声を叫びながら突然の魔法攻撃に当然の疑問を投げた。


 しかし私には分かった。


 「移送魔術だよ・・・・・・・・」


 「何だ、その魔法は?」


 フランツは私が発した言葉に問いを投げつつ第二弾の火玉が来ると頭を抱えて避けた。


 最初の時と同じく正確に火玉は私達の逃げ道を一本に絞らせるように周囲を塞いだ。


 「ちっ!あの腐れ修道司祭、そろそろ一網打尽にする気だな。で、移送魔術ってのは何だ?」


 フランツは嘗ての上官を罵倒しつつ私に先程の説明を求めた。


 攻撃をする魔術師とは別に物質を他の場所に移送する魔術師を使う事になっていると私は説明した。


 「攻撃魔法をする魔術師達とは別に後方に居る別の魔術師に移送魔術を物体に浴びせ、それによってアウトレンジ攻撃するのさ」

  

 攻撃を浴びた敵は突然の攻撃に戸惑い、実態攻撃と精神的な恐怖の両方に晒されるのが・・・・この戦法の強みだ。


 「なるほど。だから突然、火の玉が現れた訳か」


 周囲を炎で囲まれた現状にフランツは私が思っていた事を口にした。


 「切れる相手とは思っていたけど・・・・まさか、移送魔術も会得しているとは敵ながら大したものだよ」


 私は炎がない前方を見ながら敵に賛美を送った。


 「おいおい、暢気に感心している場合かよ。だが・・・・行くしかねぇな」


 周囲を炎で囲まれた現状から逃げるのは前進しかないけど・・・・それは敵の術中に嵌まる事を皆、理解している。


 それでも行くしかないのが現状だから・・・・私の小細工なんて、この程度だったんだと思い知らされたよ。


 だけど・・・・・・・・まだ勝負は決まってない!!


 「皆、行こう!!」


 私は青い月に鞭を打って炎の渦中を駆けた。


 それにフランツ達も続き、私達は炎の渦中から逃げたけど今度は騎士と従者が左右から攻撃を浴びせてきた。


 ただ、勢子の役目に徹しているからあくまで逃げ道を塞ぐ程度の攻撃だった。


 「ふんっ!まるで蛇だな」

  

 シパクリが敵のいやらしい攻撃を蛇と皮肉ったけど現状を打破できないと眼は告げている。


 「大丈夫だよ。シパクリ・・・・まだ勝負は決まってないんだ」


 私が声を掛けるとシパクリは高笑いした。

  

 「ふはははははは!その通りだったな?お前は嘗て言ったな」


 『自分が諦めない限り道は続く』


 「憶えていたのかい?」


 「勿論だ。その言葉通り、お前達は真の歴史を見つけ出しただろ?その大業を成し遂げた、お前が言うのだ・・・・皆、怯むでないぞ!!」


 『おう!!』


 シパクリが部下達に声を掛けると部下達は士気を鼓舞するかのように力強く応答した。


 その応答に私達も少なからず勇気をもらったのは言うまでもない。


 だけど問題は・・・・早急に解決しないといけない。


 『このままメルセデス殿達と合流するのは敵の術中に嵌まるけど・・・・何か打開策は無いか?』


 敵の攻撃を掻い潜りながら私は必死に考えた。


 考えたけど・・・・答えは出て来なかった。

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 私達がメルセデス殿達と合流したのは日を跨いだ上に黄昏時だった。


 しかし私達が通った道は至る所で火の手が上がっていて昼間と思えるほど明るい。


 だけど・・・・それは目の前に居たメルセデス殿達が通った道も同じだったよ。


 そしてメルセデス殿達の衣服もススなどで汚れていて、中には軽い火傷を負っている者も居たけど誰も死んで居なかった。


 それだけメルセデス殿が奮闘したと私は解り、目の前の女性騎士に憧憬の念さえ抱いたよ。


 「ハインリッヒ殿、御無事でしたか・・・・・・・・」

 

 メルセデス殿は私の姿を見ると安堵の息を吐いてくれたけど直ぐに厳しい表情を浮かべた。


 「貴方の方も魔法攻撃を受けたのですね・・・・・・・・?」


 「えぇ、やられました。それのせいで敵の術中に嵌まってしまいました」


 私はメルセデス殿に移送魔術の事を説明し、それを聞いてメルセデス殿は理解してくれた。


 「・・・・新たに産声を上げた魔術を早々に会得したのですか。敵ながら切れますね」


 「この超御人好し騎士にも言ったが・・・・敵に感心している場合じゃないぞ」


 フランツがメルセデス殿にも私と同じ突っ込みを入れつつ私達が逃げて来た方角を睨んだ。


 「あいつ等、俺達が合流する地点を予想して攻撃を止めたが・・・・そろそろ来るぜ」


 そう彼が言った瞬間・・・・私達の間近が爆発した。


 そして連鎖反応するように周囲も爆発し始めて、先程と同じように私達は逃げ道を一本に絞り込まれた。


 「・・・・敵は我々を嬲り殺すつもりですね」


 メルセデス殿は周囲を炎で囲まれながらも冷静な口調で敵の意図を読み取った。

 

 「裏切り者の俺を楽に死なせてくれるような慈悲深い連中じゃねぇからな」


 メルセデス殿の言葉にフランツは皮肉気に答えた。


 「・・・・裏切り者に対する制裁は古今東西を問わず残酷に尽きますからね。ですが・・・・問題は今です」


 「このまま奴等に弄ばれるのは嫌だが・・・・行くしかねぇ」


 2人は私を見た。


 シパクリも「行くか?」と問い掛けてきた。


 「・・・・行きましょう。このまま奴等の術中で果てる訳にはいきませんからね」


 「壁があるなら乗り越えれば良い」だけの話だ。


 メリディエース大陸の東スコプルス帝国で出会った人物が私に言ってくれた言葉が頭を過ぎる。


 その言葉は今も河岸の御爺さんが言い遺した言葉と同じく・・・・私の胸にある。


 更に・・・・・・・・


 「一度でも“交わした約束は守らなくてはならない”んだ!!」


 南北大陸で世話になった人物の言葉を私は口にした。

 

 その言葉を私に言って、その方は私の為に骨を折ってくれたけど・・・・今は私がやる番だ。


 私は女神に誓った。


 この地を護ってみせると・・・・ここを治めていた領主にも誓った。


 そして私自身がアグヌス・デイ騎士団を打倒すると誓った以上・・・・その誓いは守り通さなくてはならない。


 ただ、奴等が私達を何処に追い詰めるか・・・・ふと考えた。


 メルセデス殿やフランツの言う通り奴等は私達を嬲り殺すつもりなのは今の攻撃でも明白だ。


 となれば・・・・谷や崖辺りに私達を追い込んで殺すつもりかもしれない。


 しかし、それを考えている暇すら敵は与えないとばかりに攻撃を激しくしてきた。


 「クソッ!!」


 私は声に出してアグヌス・デイ騎士団を罵ったけど・・・・その瞬間に前方に何かが見えた。


 その何かとは小山だった。


 「皆、あの小山を目指すんだ!!」


 何かに引き寄せられるように私は青い月に鞭を打って走らせた。


 皆も前進する私に続いて小山を目指し進み続けたけど小山付近で私は目を見張った。


 それは小山の背後には寂れた教会が静かに佇んでいたからさ。


 かなり古い時代の教会なのは造りから判ったけどアグヌス・デイ騎士団の攻撃から身を護るには良い。 


 私達は小山を迂回しようとしたけど、その小山の左右は深い空堀だった。


 その為、私達は慎重に下りて僅かに当時の面影を残す小口を潜って教会の中に入った。


 しかし・・・・皮肉な話だけどアグヌス・デイ騎士団はここを私達の墓場にしようとしていたのさ。


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