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幕間:大いなる神秘の怒り

 アグヌス・デイ騎士団総長ラインハルト・デュ・ファン・フランソワ修道司祭は本隊を率いて正面から敵を追っていた。


 先頭は先住民達だが、ラインハルトは先住民達の動きを注視していた。


 山道という道なのに彼等は黙々と進んでいて、疲れを全く見せていない。


 それは彼等が極めて軽装だからとラインハルトは先住民達の格好を見て確信した。


 同時に疲れない歩き方を彼等は修得しているのも大きいと思ったが「脅威」とは軍事的には思わなかった。


 何せ彼等は自分達で指導者は居ないと称し、あくまで一個人の意思で全て行動すると言っていた。


 つまり戦いをしても彼等はバラバラに攻防および撤退をするという訳になる。


 この点で言えば自分が指揮するアグヌス・デイ騎士団は統率が執れているから有利とラインハルトは考えていた。


 もっとも先住民達の身体能力は計り知れないから個々の戦闘力では劣る可能性は捨て切れないが・・・・・・・・


 『戦は数で大半は決まるからな・・・・・・・・』


 自分が指揮するアグヌス・デイ騎士団の数は今の時点でも4700人は居る。


 その点、敵は100名前後だから数では圧倒的に自分が勝っている。


 後はこのまま半包囲網を指揮ながら墓場に追い込んで殲滅すれば自分の勝ちだ。


 ここをラインハルトは頭で確認すると左翼の方から爆音が聞こえてきた事を確認した。


 「・・・・左翼に連絡を取って確認せよ」


 「こちら右翼。左翼、応答せよ」


 ラインハルトは自分付きの魔術師でもある従者に命令し左翼に連絡を入れた。


 『こちら左翼。ただ今、殿を務めたと思われる敵と交戦中。裏切り者のフランツも居ます!!』


 左翼からきた連絡はラインハルトに小さな興奮を抱かせた。


 それは裏切り者のフランツ・ヴァン・プロップが居るという情報を聞いたからだった。


 『やはり居たか。フランツ・・・・私を裏切った罪は極めて重いぞ。簡単に死ねると思うなよ?』


 ラインハルトは暗い笑みを浮かべながらフランツに宣言した。


 『敵が後退を始めました!!』


 左翼の方から声が新たに聞こえてきてラインハルトは次の指令を出した。


 「そのまま敵を追い込め。こちらも攻撃を始める」


 ラインハルトは魔術師達に目配りした。


魔術師達は一例に並ぶと詠唱を始めた。


 詠唱は典型的な炎の魔術だがラインハルトの傍らに居た魔術師は敵との距離を正確に測った。


 それとは別の魔術師は然る一点に手を向け詠唱している。


 詠唱は物を動かす魔術の詠唱だったが何をするのか?


 「敵との距離を測りました」


 距離を測っていた魔術師の言葉を聞いてラインハルトは火玉を掌で弄ぶ魔術師達に視線を向けた。


 こちらの準備は完了しているから後は・・・・・・・・


 「準備完了!!」


 詠唱を終えた魔術師が高々にラインハルトに狂気を滲ませた声を発した。


 「よし・・・・やれ!!」


 ラインハルトが命じると火玉を弄んでいた魔術師達は一斉に火玉を放った。


 その先には何も無いが・・・・物を動かす魔術の波長は見えないがある。


 そこに火玉は向かうが直ぐ消えた。


 刹那・・・・・・・・


 遙か前方に火の手が上がった。


 「フフフフ・・・・中々の出来栄えだな」


 「中央貴族の小倅」が自分の私兵団に編み出させた「移送魔術」の出来にラインハルトは笑みを深くした。


 この移送魔術とは中央貴族の然る子弟が自分の指揮する私兵団に編み出させた魔術として注目を集めている魔術だ。


 その魔術は物質を移送する魔術の一種で、既に物質を他の場所に移送させる魔術は確立されていた。


 だが、魔術師が放つ魔法を他の場所に移送するというのは・・・・誰も思い付かなかったのか、産声を上げていなかった。


 それを中央貴族の小倅は自身の私兵団に所属する魔術師達に会得させ・・・・攻撃用の移送魔術を確立させたのだ。


 しかし魔術師の魔法を別の場所へピンポイントで移送するには中々の高等な技術を要するが・・・・・・・・


 遙か前方から見える火の手が証明するように「間接攻撃」を敵に出来るのが最大の強みだ。


 ここをラインハルトは目を付けて魔術師達に会得させたのだが・・・・効果は絶大と言うべきだろう。


 「敵が怯んでいます!!」


 距離を測っていた魔術師が敵の様子を伝えるとラインハルトは鷹揚に頷いた。


 「このまま攻撃を続けよ。左翼はそのまま敵を右翼に追い込め」


 敵が合流したら一気に墓場へ追い込むとラインハルトは命じながら本隊を前進させた。

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 ラインハルトが本隊を敵が先ほどまで居た場所に行くと辺りは炎で焼かれた森林等が至る所にあった。


 そして巻き込まれたのだろうか?


 魔物や獣の死体も転がっている。


 中には傷ついた魔物や獣も居るがラインハルトは気にもせず自分付きの魔術師に敵の動向を尋ねた。


 「敵は今も逃亡中ですが左翼は順調に敵を右翼に追い詰めています」


 魔術師の報告にラインハルトは直ぐ指示を出した。


 「左翼を一時後退させ物質移送魔術で攻撃しろ」


 奴等が怯んだら一気に左翼は敵を右翼に追い込ませるとラインハルトが指示を出すと魔術師は左翼に連絡を入れた。


 それを耳で確認しながらラインハルトは燃える森林と、魔物や獣を悲しそうに見つめている先住民達に問い掛けた。


 「何が悲しい?」


 「何故、こんな真似をする・・・・・・・・?」


 先住民の一人がラインハルトに怒りを滲ませた声で問いを投げた。


 「敵を追い詰める為だ」


 「それでも別の方法があった筈だ・・・・・・・・!!」


 先住民はラインハルトの素っ気ない返事に我慢の限界を迎えたのか、怒鳴りながら詰め寄った。


 しかしラインハルトはゴミでも見るように先住民を見下しながら答えた。


 「草木など幾らでもある。魔物や獣は我々より下等だから死んでも苦ではない」


 「草木は我々に食べられる木の実等を与え、家を造る材料となってくれる!魔物や獣も同じだ!!」


 我々は今まで彼等と共存して生きてきたと先住民が叫ぶと他の先住民達も同調した。


 だがラインハルトは鼻で笑った。


 「共存とは片腹痛い。人間が頂点に居るべきだ。そして他は傅くべきだ。貴様等のような者も同じだ」


 『我々は平等だ!!』


 ラインハルトの言葉に先住民達は声を揃えて反論したが、そんな戯れ言をラインハルトは聞きたくないのだろう。


 「こいつ等を殺せ。飼い主に歯向かう犬は始末するに限・・・・・・・・!?」


 ラインハルトは愛馬が大きく体を揺らした事で言葉を中断した。


 いや、彼の愛馬だけではない。


 部下達の馬達も暴れて・・・・いいや、大地も震えている。


 「見ろ!大いなる神秘は怒っている!お前等の馬達も怒っているぞ!!」


 「お前達に付き合うのはもう御免だ!!」


 「貴様等などコヨーテや狼の餌になれ!!」


 先住民達は愛馬を宥める事に必死となったラインハルト達に罵声を浴びせると一斉に走り出した。


 中には馬を強奪して逃げる者も居たがラインハルト達は追えなかった。


 それは大地が更に揺れ、焼けた草木等が頭上付近に落ちてきたからだ。


 「お、おのれぇっ・・・・・・・・!野蛮人共が!フランツ達を始末したら貴様等を皆殺しにしてやる!!」


 ラインハルトは逃げていく先住民達に呪詛の言葉を吐きながらも直ぐ頭を切り替えた。

  

 「魔術師は早く移送魔術で攻撃を行え!騎士達は前進の準備をしろ!これ以上、悪戯に時間を費やするな!!」


 怒声混じりの命令をラインハルトは下しながら神に叫んだ。


 『神よ!こんな真似をするのは我々の信仰心を今も疑っているからですか?』


 もし、そうなら我々は貴方の疑いを見事に晴らしてみせるとラインハルトは叫んだ。


 すると・・・・・・・・


 大地の揺れが止まり、愛馬達も大人しくなった。


 「・・・・・・・・」   


 ラインハルトは自分の叫びが神に聞き届けられたと捉えたのか、暫し無言となった。


 だが、魔術師が左翼に攻撃を始めたのを音で気付くと直ぐ残酷な笑みを浮かべた。


 それは敵の死が近付いたと思ったからだが・・・・・・・・


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