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幕間:地獄の門へと

 大カザン山脈の然るべき山道を300人前後の集団が黙々と前進していた。


 先頭を進むのは先住民と思われる人間達で、慣れた足取りで音も立てず進んでいる。


 それとは対照的に騎士と従者、そして魔術師達の足取りは重く、苦戦している感じだった。


 彼等はサルバーナ王国の国教たる聖教を篤く信仰していた聖王カールが創設したアグヌス・デイ騎士修道会だ。


 もっとも騎士修道会とは名ばかりの無法行為を神の名の下で行っている。


 そんな彼等は先住民を先頭に敵を追い掛けていた。


 敵の名は分からないがサルバーナ王国の人間であるのは確かだ。


 どういう経緯かは分からないが、裏切り者のフランツ・ヴァン・プロップ平騎士も敵と一緒だ。


 そのため必然と彼等の足取りには力が籠もっている。

  

 しかし、慣れない道の為に足を取られているから勇み足も考えものである。


 いや、それ以前に彼等は先住民達に負けられないという気持ちが表情に出ていた。


 それは先住民達の衣服がアグヌス・デイ騎士団達には極めて原始的に映っているからだろう。


 確かに先住民達の衣服は動物や魔物等の毛皮等を鞣して、それを簡単に加工して着ているに過ぎない。


 それだけでアグヌス・デイ騎士団達には先住民達を蔑む理由になっていた。


 ただし彼等が先住民達を蔑むように先住民達も彼等を蔑むまではいかないが、理解できない存在とは見ていた。


 『後ろの奴等、俺達に負けられないとばかりに付いて来るが馬鹿なのか?』


 『たんに“負けん気”が強い子供だ』


 先住民の2人はアグヌス・デイ騎士団を見て眼で会話をした。


 自分達が追い掛けている人間達と距離は今もあるが、それでも大いなる神秘は皆に平等だ。


 だから自分達が追い掛けているのを向こうにも知らせている。


 ここを彼等は知っているから眼で会話をしている。


 『子供か・・・・確かに言い得て妙だな。奴等、俺達を野蛮人と蔑んでいるが・・・・自分達より弱い婦女子を捕まえて売るのだからな』


 本当の戦士なら自分より弱い存在には手を出したりしない。


 また戦いが避けられないなら事前に避難させると先住民の男は眼で語った。


 『確かに・・・・その点で言うなら“泣き虫野郎”という男はかなり優秀な戦士と聞くぞ』


 別の先住民の男が然る人物を眼で言うと、別の男が小さく頷いた。


 『噂では“毛皮と綿を纏った部族”からも勇者と評されたらしいぞ』


 『あの部族か・・・・相手にとって不足はないな』


 優れた戦士と戦える事に先住民達は闘争心を刺激されたのか、足を速めた。


 それにアグヌス・デイ騎士団達は追い付こうとしたが見る見る距離は開いた。 


 『後ろの奴等が待てと言っているぞ』


 一人の男がアグヌス・デイ騎士団の声を皆に伝えたが、それに従う者は居なかった。


 ただ、その声を聞いた上で「自分の意思」で立ち止まった者は居る。


 ここをアグヌス・デイ騎士団達は理解できないとばかりに不満の表情を浮かべたが、それこそ先住民達には理解できなかった。


 何せ彼等は極端なまでに個人主義社会で出来ているから無理もない。


 アグヌス・デイ騎士団に味方しているのも部族全体ではなく、あくまで「一個人」として参加しているのが良い証拠だ。


 しかしアグヌス・デイ騎士団達は今も理解できないからか、立ち止まった先住民達に不満を口にした。


 それを先へ先へ進む先住民達は・・・・疑惑の眼差しで見ながら眼で再び会話した。


 『こいつ等は俺達と交わした約束を守るのか?』


 『・・・・可能性は皆無だな』


 2人の先住民の男はアグヌス・デイ騎士団の様子を見て疑惑を確信させていった。


 アグヌス・デイ騎士団は協力したら見返りに欲しい物を与えると言ってきた。


 だが、これまでの態度などから自分達を蔑んでいるのは明白だ、


 おまけに自分達を理解しようという努力も見られない。


 『・・・・もしもの時は逃げるぞ』


 『あぁ、それが良い。他の奴等は知らないが俺も逃げるぞ』


 こいつ等と一緒に肩を並べて戦う気にはなれないと2人は視線を交わして頷き合った。

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 アグヌス・デイ騎士団達は先に進んだ先住民達に追い付くのに数時間を要した。


 しかし、何とか追い付くと荒い息を整えると戦闘準備を始めた。


 馬とランスを従者に預けると騎士達はロングソードか、メイスを持ち先頭に立った。


 対して従者はクロスボウか、ロングボウを持った者は両翼に付き、スタッフ・クラブ等を持った者は護衛として付いた。


 そして馬を引く従者は魔術師と後方に陣を構え、先住民達はバラバラに立ったが・・・・・・・・


 やはりと言うべきか?


 アグヌス・デイ騎士団は先住民達の代表者と勝手に決め付けた男に皆を従わせるように言った。


 しかし男は半ば諦めた口調でアグヌス・デイ騎士団の要請に返答した。


 「我々に指導者は居ない。だから命令なんて出来ない」


 この言葉は聞き飽きたのか、アグヌス・デイ騎士団の面々は憤怒の表情を露わにした。


 それを見て男は眼を細めた。


 目の前の人間達は人間の皮を被った獣だ。


 しかも他の獣達と違い仲間意識すら欠如している質の悪い獣の群れだ。


 『恐らく我々と交わした約束も果たすまい』


 男は出発前に視線を逸らした外套を着た男を見たが、男は再び目を逸らした。


 「“人間の瞳は舌が発音できない言葉を話す”とは言ったものだな」


 自分の部族に伝わる格言を男は小さく呟いたが、他の部族にも似たような格言はあるのだろう。


 皆・・・・アグヌス・デイ騎士団をジッと見てから集まった。


 それを見てアグヌス・デイ騎士団は不満を解消したように前進したが先住民達を押し退けるようにした。


 これが彼等に確信を与えたのだろう。


 明らかにアグヌス・デイ騎士団と距離を置いて後から付いて行く。


 ただし弓矢等を手にはしても矢は引き絞らなかった。


 どうせ目の前の奴等は泣き虫野郎に倒される。


 なら・・・・自分達は如何にして泣き虫野郎がアグヌス・デイ騎士団を打ち倒すか見よう。


 些か意地の悪い考えを彼等は頭に抱いたが、彼等は約束を果たそうと努力してきた。


 対してアグヌス・デイ騎士団は約束を守る気を持っていない。


 それが彼等に意地の悪い考えを頭に抱かせたから言わばアグヌス・デイ騎士団の自業自得というものだ。


 しかし先住民達の考えなんて端から頭にないのか、アグヌス・デイ騎士団は黙々と前進した。


 そして・・・・ある程度の所で足首に装着した歯車を回転させると一気に山道を駆けた。


 馬を引く従者はそれを必死に追い掛け、落脱した騎士や従者を助けながら進んで行く。


 何とも滑稽な姿だと先住民達は後ろから見て思ったが、ここで足を止めた。


 それは大地が震えたからだ。


 地震ではないと先住民達は自分達の周りだけ揺れているのを見て悟る。


 そして直ぐ揺れの正体を知った。


 獣や魔物が頻りに雄叫びを上げているのは・・・・大いなる神秘が怒っているからだ。


 大いなる神秘は何時も自分達の至る所に居て、そして側に居る。


 その大いなる神秘が怒っているのはアグヌス・デイ騎士団に対してだ。


 自分達も協力したが大いなる神秘は奴等にだけ怒っていて・・・・罰を与えると獣や魔物は雄叫びで教えてくれた。


 だが自分達が邪な考えを抱いた事にも少なからず怒っていると獣と魔物は教えた。


 その雄叫びを聞いて先住民達は誰と言わずアグヌス・デイ騎士団から背を向けた。

 

 それを馬を引く従者達は気付かないのか、せっせと仲間達と共に先へ行く。


 そう・・・・地獄の門へ。

 

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