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幕間:神の名の下に

 山道の入り口付近に陣に立った男が一人いた。


 その男は白金の真鍮で磨いたフリューテッド式甲冑に身を包み、白いサーコートを上から着ていた。


 一昔前を生きた聖王カールが好んだ丈まである袖付きで、丈の長さも踵丈まである物だった。


 しかも袖付きサーコートの表地は赤色のビロードと金襴を用いるなどカールが好んだサーコートを完全に真似ている。


 かなり聖教を信仰していたカールを信奉しているのか?


 カールが自分専用の紋章にしていた金色の大十字架をサーコートには刺繍している。


 そしてロングソードも刀身こそ後期物だが鍔は前期物に見られた十字鍔だった。


 もっとも男にはそれで良いという雰囲気を感じられたが・・・・仮にも「修道士」の身分でありながら剣を帯びるのは如何なものか?


 修道士は原則として人を傷付ける剣を所持してはいけないとされている。


 それなのに修道士の髪型である「トンスーラ」をしている辺りは間違いなく修道士だ。


 その証拠に魔術師と思われる男が近付いて男を「修道司祭」と言ったから男は間違いないだろう。


 しかし、修道司祭と呼ばれた男は近付いて来た男に狂気を宿しながらも「澄んだ」瞳を向ける事で報告を求めた。


 「敵は修道司祭の読み通り・・・・サルバーナ王国に向かっています。ただ・・・・明らかに”他国者”と見受けられる騎士団が居ます」


 「他国者・・・・・・・・?」


 この単語に修道司祭は興味を覚えたのか、魔術師に「映像はあるか」と問い掛けた。


 「ここに・・・・・・・・」


 魔術師が魔石を取り出すと修道司祭は魔石を握って発動させ映像を見て・・・・納得したように首を縦に振る。


 「確かに、オリエンス大陸には見られない顔立ちだな。おまけに背も低い」


 修道司祭は魔石から見える映像から騎士団の人間達が他国者ではないかと言った魔術師の持論に一定の納得を抱いた。


 「しかし・・・・この地も考えてみれば”他国者”の血で汚れ切っているからな」


 そ奴等が先祖返りしたのかもしれないと修道司祭は持論を言ったが、直ぐに魔術師へ別の命令を与えた。


 「これより本隊も前進する。そなたは騎士100、従者200、魔術師を30名、そして・・・・”あの者達”を連れて左翼へ回り込め」


 修道司祭が顎で指した先には大カザン山脈の先住民らしき者達が居た。


 「御言葉ですが・・・・あの者達は命令という言葉を知りませんが・・・・・・・・」


 魔術師は先住民達を「得体の知れない獣」を見るような視線を送った。


 ところが先住民達は逆に魔術師を真っ直ぐ見つめ返してきた。


 先住民達は黙って魔術師を見つめ返しただけだが、それが魔術師には居心地が悪かったのだろう。


 視線を修道司祭に向け直した。


 ただし、それで先住民達は何か察したように眼を細めたのを魔術師は知らなかった。


 修道司祭に至っては大して気にする事でもないのか、敢えて無視して魔術師を説得する台詞を発した。


 「確かに奴等は得体の知れない獣みたいな存在だ。しかし”犬”として使える。持って行け」


 有無を言わせない口調に魔術師は無言で頷くと一緒に行く騎士達の方へ行った。


 対して修道司祭は無言で地図を広げた。


 地図は大カザン山脈を組まなく調べたのか、実に詳細な地図だった。


 だが、サルバーナ王国の国境線を修道司祭は忌々しそうに見下ろす。


 『直線距離では4~5日だが、このペースで行けば10日から12日で着くだろう』


 そして一歩でも奴等がサルバーナ王国の国境線を超えてしまえば・・・・・・・・


 『我々の負けとなるが・・・・勝つのは我々だ』


 修道司祭はサルバーナ王国から南北へ数百kmほど行った先に在る然る点を指さした。


 「既に朽ち果てた・・・・汚らわしい異教徒の教会を貴様等の墓場にしてやろう」


 教会なのは勇戦した貴様等に対する手向けと修道司祭は聖職者からは掛け離れた笑みを浮かべながら言った。


 しかし「窮鼠、猫を噛む」という諺を知っているのか、先ほどの魔術師を呼んだ。


 「相手は少人数の上に婦女子を連れているが、油断せず確実に追い込め」


 ここにと修道司祭は先ほど指さした点を魔術師に言った。


 「分かりました。修道司祭に父と子と聖霊の加護があらん事を・・・・・・・・」


 「汝達にも父と子と聖霊、そして偉大なる聖王カール陛下の加護があらん事を・・・・・・・・」


 アグヌス・デイ騎士団総長ラインハルト・デュ・ファン・フランソワと最後に自身の名を言った男に魔術師は頷いた。


 そして騎士達と先住民達を連れて山道の左翼を前進して行った。


 それを見届けてからラインハルト修道司祭は十字を切った。


 「神よ、どうか彼等に貴方の加護を与え、敵対者には天罰を与えて下さい」


 ラインハルト修道司祭は十字を切りながら改めて敵対者---娼婦母子の回し者達の死を祈った。


 そこには純粋な殺意が宿っていたが、直ぐラインハルト修道司祭は武人の表情を浮かべ旗騎士達を集めた。


 旗騎士達はラインハルト修道司祭の所へ行くと合言葉とも化した祈り言葉を発しながら指示を仰いだ。


 「我等は敵右翼から攻める。敵はサルバーナ王国に入ろうとしているから時間は限られているが・・・・我等には創設者カール陛下と偉大なる神の加護がある」


 死を恐れず奴等に死を与えさせろとラインハルト修道司祭は断じた。


 「奴等に死を与え、裏切り者のフランツには裏切りの罰も与えよ。我等を裏切った罪が如何に重いか・・・・教え込むのだ」


 それが終わったら本隊は私と王国に秘密裏に入国するとラインハルト修道司祭は言った。


 「では、ついに・・・・・・・・」


 騎士の一人が待ち侘びたようにラインハルト修道司祭に声を掛けた。


 「ついに我等の悲願を達成する“聖戦”の準備は始まり、我等にも大司教猊下より声を掛けられた」


 それを聞いて一同は浮き足立ったが、それをラインハルト修道司祭は沈めた。


 「皆が興奮するのは解る。しかし、これは神が我等に与えた試練だ」


 「聖ヨブ」の試練を書かれた「ヨブ記」にもあるように神は人間の信仰心を疑っているとラインハルト修道司祭は皆に告げた。


 その姿は聖王カールが信者の前で説教をした時と非常に酷似していた。


 しかし「自己陶酔」の部分も酷似しており、理性を保っている者から見ればこう映る事だろう。

 

 「神の力」に酔った者と・・・・・・・・


 神の力とは即ち神が持つ力であり、信者の持つ力ではない。


 神が信者に力を貸す事はあるだろう。


 そして信者が行使する事もあるだろうが・・・・それは神が貸し与えた力である。


 つまり自分の力ではないのだが・・・・・・・・


 ラインハルト修道司祭を見れば自分の命令で大勢の人間が敵と戦う為に進んでいると映っているのだ。


 それは神に陳情あるいは請願しているに他ならない。


 いや、そもそも神の教えからアグヌス・デイ騎士団は大きく逸脱している。


 それなのに自分達は天の国へ行けると信じて疑っていない。


 ここは春の政変を起こした聖教派一派にも同じ事が言える。


 もっとも内部から破滅し始めたのは如何にも聖教派らしいが、このアグヌス・デイ騎士団に関しては内部分裂が見られない。


 それだけ一つの存在に皆が信奉しているからだが・・・・彼等は知らないようだ。


 嘗て・・・・この地を統治した人物が言い遺した台詞を・・・・・・・・


 そして国王を影で護り通した「闇の獅子」の存在も・・・・・・・・ 


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