第20章:落とし穴
私達は山道を更に進み、先回りしているアグヌス・デイ騎士団の騎士達を見つけた。
もっとも騎士達は私とフランツの煙草の臭いで居場所を特定していたのか、慌てる事なく両翼を広げる形で来た。
「迎撃!!」
私は声を上げながら「スリング」で手近にある石をアグヌス・デイ騎士団の騎士達に向かって投げた。
仲間達も同じく石を投げるけど騎士達はカイト・シールドやヒーター・シールドで石を防御する。
そして距離を縮めていくけど私達は後退しなかった。
それはシパクリ達が今も土木工事をやっているからさ。
もっとも奴等を纏めて倒すから時間を要するのは仕方ない事だよ。
ただ問題は敵に気取られない事が肝心だ。
シパクリ達の存在は既に知っているのか、騎士達は前方だけでなく背後なども警戒していた。
だけどフランツが顔を見せるなり声を荒げた。
『裏切り者のフランツに神の鉄槌を与えよ!!』
口を揃えてフランツに呪詛を吐いた騎士達は更に速度を上げてきた。
「ハインリッヒ、後退だ!!」
フランツが私の名を叫んだ。
それは完成した合図だったので私達は一斉に後退したけど騎士達は逃がさないとばかりに隊列を整え・・・・・・・・
足首に装置した車輪を勢いよく回転させ、その車輪で不整地を突っ走って来た。
あれは・・・・・・・・
私は後退しながら車輪を凝視したけど間違いないじゃない。
あれはアガリスタ共和国に本部を置く「DRl」が制作した移動兵器のローラーだ。
どうしてアグヌス・デイ騎士団が持っているのかと思ったけど直ぐ答えは見つかったよ。
何処かで聖教に情報を流れたんだ。
それだけじゃない。
演習でもリュクルゴスさん達が使っていたのを見たから模造したんだ。
模造品ローラーを用いて一気に距離を縮めた騎士達は私達の頭上を飛び越えた。
私達の背後にフランツは居たけど彼は逃げる素振りを見せなかった。
それを騎士達は観念したと見たのか、残酷な笑みを浮かべ突進したけど・・・・フランツに剣を振り下ろす前に消えた。
「へへへっ・・・・猪の群れを狩るのは楽で良いぜ」
フランツは為て遣ったりとばかりに笑みを浮かべて私を見た。
「君という”餌”が居るからね」
私は意地の悪いフランツの笑みに苦笑しながらシパクリ達に目配りした。
シパクリ達は心得たように掘った穴に土をどんどん被せていく。
すると穴の中から「野蛮人共が!!」と罵声が飛んできた。
「我等を野蛮人と称するなら貴様等はその上を行く野蛮人だ」
シパクリはアグヌス・デイ騎士団に冷たい声で応答しながら土を更に被せて行き、瞬く間に穴は埋まった。
そして仕上げとばかりにシパクリ達は地面を何度も叩いたり歩くなどした。
「これで出ては来れまい」
「あぁ、大丈夫さ。しかし・・・・あいつ等も馬鹿じゃねぇな」
フランツは騎士達が使った模造ローラーを言っていると察した私は問いを投げた。
「あれは何時から使っていたのか分かるかい?」
「いいや、初めて見たぜ。ただ情報収集はしていたから・・・・恐らく腐れ豚が指示を出したんだろうぜ」
鉞と聖書を持った鬼婆と違い、用兵家としての思考は凝り固まっていないとフランツは言い私も否定しなかった。
「手堅い用兵家とは思っていたけど・・・・柔軟な思考も出来るとなれば更に厄介な敵だね」
「まぁな。おまけに蛇みたいに執念深いんだ。嫌気が差すぜ。とはいえ・・・・倒すんだろ?」
フランツの問いに私は迷わず頷いた。
「あぁ、倒すさ。ここは自由と平等の地だからね。そこを汚す”覇者”も”王者”も要らない」
だから倒すと私が言えばフランツはジャガイモのような顔を幼子みたいに破顔させた。
「言うねぇ・・・・なら行こうぜ」
連中は待ってくれないと言い、その言葉に私は頷き出発した。
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敵の追っ手を倒した私達は更に険しい山道を進み続けたけど、連続の戦いは私達に疲労を容赦なく背負わせた。
また行く手を阻む山道も同じだった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・・」
誰と言わず息は荒かったけど弱音を吐く者は居なかったよ。
それはサルバーナ王国の国境に入りさえすれば味方が居るという情報を知っているからさ。
同時にアグヌス・デイ騎士団に負けられないと言う意思が共通してあるからだろう。
そして・・・・この地を一部だけど嘗て統治していた領主と、その領民達が見ているという気持ちもある。
ここを統治していた領主は聖教を篤く信仰していたけど同時に王国を守護せんという思いが人一倍強かったと言われている。
その為なら非情な手段も辞さず、また自ら悪役になる事も躊躇わなかったんだ。
だから聖教を題材とした1000年前後の絵画等を見れば領主に似た容貌を持つ「悪役」が殊の外に描かれているんだよ。
当時からもやり過ぎという批判を浴びていたけど死ぬまで領主は自身の統治を変えなかった。
また聖教に対する信仰と王室に対する忠誠も変えなかったとされているけど・・・・臨終の際に言い遺した言葉から・・・・・・・・
「例え肉体が滅び去り、魂の存在になろうとも地獄の底から王国を護る為に我は蘇らん・・・・か」
「おい、誰の台詞だよ?随分と凄い台詞だが」
思わず呟いた私にフランツが声を掛けてきた。
「疲れた顔をしているけど休むかい?」
「それを言うならお前の方が酷いぜ。まぁ・・・・ちぃっと休もうぜ」
まだ先は長いと言うフランツの言葉に皆は交代で休もうと言い、それぞれ担当方角を決めると見張りを始めた。
「はぁ・・・・くたびれたぜ。で、さっきの台詞を言ったのは誰なんだ?」
「仮にも騎士修道会に属していたなら知っている筈だよ?」
「悪いな?歴史は信仰と同じくらい苦手なんだよ」
私の皮肉をフランツは正面から受け止め、それに私は苦笑した。
「それでよく今まで騎士団総長付きの平騎士をやれたね?」
「要領は良い方なんでね。それで誰が言った台詞なんだ?気になって仕方ねぇから教えてくれ」
「ここの地を一部だけど統治していた領主の臨終に言い遺した言葉だよ」
「どんな奴だったんだ?」
「敵対者には冷酷無比にして情け容赦しない性格だったらしいよ。ただ、自身も戦場では槍を手に勇猛果敢に突撃し、部下を鼓舞するなど勇将と謀将の面を持っていたとされているんだ」
「中々にバランスの取れた武人だったんだな?しかし執政者としてはどうなんだ?道を築いた連中は誇りに思っていたとダニとかいう魔術師は語ったけどよ」
フランツの言葉にメルセデス殿が付けた騎士も興味を抱いたのか私を見てきた。
「その領主は・・・・執政者として悪という存在に妥協が一切なかったとされているよ」
「というと・・・・かなり苛烈だったのですか?」
騎士の問いに私は頷いた。
「そう聞いています。ただし、悪に妥協しない執政は聖教の信者に対してもだったんです」
この言葉にフランツと騎士は察しがついたのか「執政者としても優秀」と評価した。
「だが、まだ分からない事もある。3代目と、4代目国王によって救われたと言った点だ」
あれはどういう意味かとフランツは問い掛けたけど「交代」と仲間が声を掛けてきた事で私と共に立ち上がった。
「残念だったね?」
「なぁに・・・・まだ俺が牢に入るまで時間はあるんだ。その間に教えてくれ」
フランツの言葉に私は再び苦笑しながら・・・・彼の背負っているだろう罪悪は誰が癒すのか考えてしまった。
彼の言う聖女が最終的には癒すだろう。
しかしシュトラーフェに収容された後は・・・・・・・・




