表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/62

第19章:敵の追撃

 私達は山道をひたすら進み続けたけどシパクリが「敵の追手が来た」と私達に告げた。


 「人数は判るかい?」


 「100から200だ。音から察して軽装な者が主力だな」


 私の問いにシパクリは地面に耳を当てながら答えた。


 「軽装って事は従者だな」


 「我々を追い詰める為に軽装の者を出すとなれば・・・・行く手には重装備の者が先回りしているな」


 「恐らくそうでしょう。足の速い者が背後から追い掛け、その前方に足止めする者を置くのは良くある手です」


 メルセデス殿の部下の言葉にフランツは鷹揚に頷いた。


 「それが正解だろうぜ?しかし、何れは合流するんだ。その前に敵の人数を減らすのも悪くないさ」


 「確かに・・・・しかも我々の戦い易い場所だからな」

  

 シパクリは鬱蒼と生い茂る森林を見て薄ら笑みを浮かべるけど欠伸をする猫も同じだった。


 「確かに、あんた等には打って付けだな」


 フランツはシパクリ達の笑みを見て肩を落としアグヌス・デイ騎士団の為に鎮魂の祈りを捧げた。


 「おぉ、偉大なる我等が父なる神よ。これから来る獣達を憐れみながら天から見下ろして下さい」


 私達が地獄へ叩き落とす様を・・・・・・・・


 『プッ・・・・・・・・!!』


 フランツの酷い祈りに私達は思わず吹いた。


 「おいおい、何を笑うんだよ?俺は心から祈ったんだぞ」

  

 心外とばかりにフランツは怒りながら私を見た。


 「超お人好し。あの女騎士に連絡してくれ」


 あっちにも追っ手は向かっているからとフランツは言い、私は魔石でメルセデス殿に連絡を入れた。


 『ハインリッヒ殿、御無事ですか?』


 魔石を発動させるとメルセデス殿の声が直ぐ聞こえてきた。


 「はい、無事です。そちらは負傷者が追い付きましたか?」


 『今、手当てをしております。敵の方は今ほど部下達が叩いています』


 「随分と追っ手が来るのが早いな」


 フランツは追っ手がメルセデス殿達の所へ来るのが早い事に疑問を抱いたように眼を細めた。


 『魔術師を使った“移動魔法“を連続で使ったのですよ。もっとも魔法を使ったので来る事は予想できました』

 

 「そいつは良かったじゃねぇか。しかし・・・・前からも来るから気を付けろよ」

  

 『えぇ。そうですね・・・・全員、迎撃態勢を取り馬車を護りなさい!!』


 メルセデス殿が叫ぶと同時に敵の怒声が聞こえてきた。


 そこで通信は途切れたけど・・・・それで良かった。


 「フフフッ・・・・さて、やるか」 

 

 シパクリが200cmはある細長い吹き筒たる「ブロウパイプ」を取り出し、羽を付けた小さな矢を入れる。

 

 他の戦士達も同じだった。


 「クアウトリよ。すまんが、そなた等は囮となってくれ」


 「あぁ、良いよ」


 私はシパクリの言葉を直ぐ受け入れ、フランツ達と一緒に間もなく来るだろうアグヌス・デイ騎士団達が見つけられるように移動を始めた。


 それとは対照的にシパクリ達は左右に分かれると気配すら消した。


 だから何処に居るのか探すのさえ出来ないけど・・・・それが私達を更に目立たせる形になったから良かったと思う。

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

 私達が目立つ形で山道を進んでいると背後から「居たぞ!!」という大声が聞こえてきた。


 振り返るとクロスボウやロングボウを持ったアグヌス・デイ騎士団の従者らしい集団が殺気立った眼差しで私達を睨んでいる。


 「へんっ。デカい声を上げる事で俺達の戦意を削ごうってか?古臭い手を使いやがる」


 フランツは従者達を小馬鹿にしながらも直ぐ下馬して岩陰に隠れた。


 私達も急いで岩陰に隠れるとアグヌス・デイ騎士団の従者達は一斉に矢を放ってきた。


 『進め!進め!!』


 『このまま一気に押し潰してしまえ!!』


 『我等が全知全能の神に逆らう者共に神罰を与えよ!!』


 口から出て来るのは決まり文句とも言える神に対する言葉だった。

 

 だけど不利な状況下でやられては大いに戦意は低下するから馬鹿に出来ないと私は思いつつ・・・・フランツに問い掛けた。


 「彼等が私達を見つけたという情報は既に騎士達の方にも伝わっているかな?」


 「あぁ、伝わっている筈だから・・・・向こうも動いているだろうぜ」


 そして私達の逃げ道を制限させるとフランツは言いながら先程の戦闘で奪ったクロスボウで山道を登ってきた敵の一人を射た。


 「グゲェッ!?」


 フランツの射たクロスボウの矢は敵の腹に突き刺さり、敵は武器を手放し仰向けに倒れて山道を転がり落ちた。


 だけど誰も彼を助ける素振りは見せず、漸く止まった仲間の死体を無情にも踏んで登って来る。


 「やはり厄介な敵だね・・・・・・・・」


 私はアグヌス・デイ騎士団の従者達を見て嫌な気分になったがアガリスタ共和国で戦ったランドルフ君達も似たような気持ちだったのではと思った。


 もっともランドルフ君達の方が実戦経験はあるから割り切っている可能性は高い。


 私みたいに弱い心を持っている友人達じゃないと思い・・・・私も弓矢を射た。


 「ぎゃあっ!?」


 矢は敵の額を射抜き、その敵も倒れたけど・・・・やはりアグヌス・デイ騎士団の従者達は怯む様子を見せない。


 「おい、逃げるぞ!!」


 フランツが従者達の背後に誰も居ない事を確認するや声を荒げて私に叫んだ。


 その叫び声に私は頷いて後退を皆に指示しアグヌス・デイ騎士団達から逃げようと「見せ掛け」た。


 するとアグヌス・デイ騎士団は一気に追い詰めようと動いたけど・・・・そこで彼等は足を止めた。


 シパクリ達のブロウパイプが一斉に彼等の首などに矢を吹いたからさ。


 矢を受けた彼等は一瞬にして痙攣を始め膝を折るなどして攻撃の手は緩んだ。


 すかさず私はスクラマサクスを抜いて、フランツ達とアグヌス・デイ騎士団に逆襲を仕掛けた。


 もっとも痺れ毒を塗った矢の力でマトモな反撃は出来ない従者達を一方的に叩いただけだけど・・・・・・・・


 そこに慈悲なんて見せなかった。


 『戦場で情けなんて見せるな』


 ヴォルフガング宮中伯の言葉が不意に頭の中に浮かんだけどヴォルフガング宮中伯だけじゃない。


 ジョッシュさん達も同じような言葉を私に言ったんだ。


 その言葉は正しいよ。


 ただ唯一の慈悲が戦場に在るとすれば・・・・・・・・


 「楽に死なせる事・・・・・・・・」


 私は戦場に在る唯一の慈悲を口にしながら従者達にスクラマサクスを突き立てた。


 皆、私達を怨めしく睨みながら事切れるけど私は敢えて・・・・その怨めしい眼差しを受け止めた。


 そして全員を殺した私達は武器を奪った。


 徳に弓矢やクロスボウの矢は多い方が良いから奪えるだけ奪ったよ。


 ただ、それを終えた後は手を組ませた。


 「森の時もそうだが・・・・甘ちゃんだな」


 フランツは私に皮肉を言ってきた。


 「彼等に対する怒りはあるよ。でも死ねば皆、平等になるからね」


 戦場に屍を晒すのは戦士の宿命としても・・・・・・・・


 「甘ちゃんも程々にしろよ?何時か足下を掬われるぞ」


 「努力するよ。しかし・・・・先回りした奴等はどうしようか?」


 シパクリ達のブロウパイプではプレート・メイル等で全身を包んだ騎士には通じない。


 隙間を狙うなら別だけど・・・・それだって上手く立ち回らないと無理だ。


 かといってライフルや弓矢は弾数、矢数があるから無駄に使えないし・・・・・・・・


 「それなら心配するな。あいつ等を纏めて叩き倒してやるよ」


 フランツは私の心配を鼻で笑いながらシパクリ達を見た。


 「ちぃっと“土木工事”をしてもらうが良いか?」


 「あぁ、良いぞ。土木工事なら我々の得意分野だからな」


 シパクリはフランツのやる事を察したのか、屈託のない笑みを浮かべてみせた。


 それを見てフランツは紙巻き煙草を取り出し銜える。


 「臭いが向こうに伝わるよ」


 「良いんだよ。言っただろ?あいつ等を纏めて叩き倒してやるって」


 そう言いながらフランツは煙草に火を点けて美味そうに吸った。


 それを見て私もパイプを取り出して葉を摘め火を点けようとした。


 だけどフランツが先日と同じように火を差し出してくれたから・・・・それで葉に火を点けた。


 そして煙を吐いたけど何時も以上に美味しく感じたのは何故かな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ