第18章:山道を進め
アグヌス・デイ騎士団から逃げた私達は険しい山道を青い月達に乗りながら進み続けた。
ただし、ある程度の所で全員が無事か改めて確認した。
もっとも無傷とはいかなかったけど幸いな事に全員が軽傷だった。
「軽傷者だけで済んで一安心だな?」
フランツはアグヌス・デイ騎士団が居る方角を見ながら私に声を掛けてきた。
「まぁね。しかし・・・・ヤバい相手だね」
仲間がやられても怯まず、傷付けられても大して悲鳴を上げないアグヌス・デイ騎士団に私は軽い恐怖を抱いた。
「神の名の下に行動しているからさ。だが・・・・そんな奴等は対処法が楽だ」
殺られる前に殺れとフランツは簡潔に真理を言った。
「確かにそうだけど問題はこれからだ。きっと奴等の総司令官は私達の正体を勘付いた筈だよ」
あんな風に戦力の分散を行う相手なら・・・・・・・・
「私達が逃げた方角とは逆の方角に馬車はあると睨む筈だよ」
「確かに、あの男なら直ぐ見抜くな。しかし俺達の方にも兵を向けるぞ」
そして左右から追い詰めて一カ所に集めた所で一網打尽にするとフランツは断言した。
「あの男は確実な方法を好むからな。そして追っ手の主力は俺達の方に来るだろうぜ」
メルセデス殿達の方に馬車はあるから必然と足の動きは遅くなるから・・・・・・・・
「適当な追っ手を差し向けて勢子の役割を果たさせれば必然と俺達の方に来る」
対して私達も助けようと合流すると言ったフランツの言葉に私は頷いた。
「そうなれば後はサルバーナ王国に入る前に包囲して終わりだ。しかし・・・・そうはさせないだろ?」
「勿論さ。騎士の誓いは絶対だからね」
騎士が立てる誓いは様々な理由から騎士自身が立てるものだけど共通している事は誓いを違えない事だよ。
具体的な例を挙げるなら傭兵騎士ヴォルフガング・ヴァン・ド・ペルス宮中伯と、騎士王アルフレッド・フォン・シュヴァンツ陛下が挙げられる。
この2人は騎士が異名に入っている通り騎士道を常に持って生きたんだ。
2人揃って必ず誓いを立て守ったけど、その中でも注目したいのは婦女子や敵と戦う際に立てた誓いさ。
ヴォルフガング宮中伯は強敵と交えた際は勝つまで座って食事を取らなかった。
アルフレッド陛下は婦女子を助けるまで座って寝なかった事だよ。
私は2人には遠く及ばないけど・・・・・・・・
それでも2人のように誓いを破らない。
必ず・・・・アグヌス・デイ騎士団を壊滅させ、この地を護ってみせる。
「クアウトリよ。今、奴等の本隊が丘に到着したぞ」
シパクリが地面に耳を当て私にアグヌス・デイ騎士団の本隊が丘に到着した事を私に伝え私は嘆息した。
「行動が早いな・・・・なら私達も移動しよう」
下手に休んでは向こうに追い付かれると私が言うとフランツは首を横に振った。
「心配するな。あいつ等は仲間でも平気な顔で切り捨てるが勇敢に戦って死んだ奴等は手厚く葬る」
まして私達が倒した敵はアグヌス・デイ騎士団から見れば初めて見る死に方をしている。
「なるほど・・・・どうやって死んだ検分する訳だね?」
「そうだ。そして生き残って戦える奴等からも情報を聞くから・・・・まぁ、後1時間くらいは休めるぜ」
それなら今の内に休んでおこうと私は決断し、それに皆も頷き1時間ほど同地に留まった。
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
休んだ後、私達は再び山道を進んだ。
山道は進む事に険しさを増したけど私達は草木に痕跡を残さないようにしながら進む事を心掛けた。
敵に進行方向を悟られないようにしてだけど、その途中で私達は足止めの罠を幾つも仕掛けた。
大体は小さな罠だけど数を増やせば侮れないからね。
そんな小さな罠を仕掛けていると上司から渡された連絡用の魔石から応答があった。
「こちらハインリッヒ」
『アルバンだ。聞いたぞ?長期休暇を取ったらしいな?』
魔石から聞こえてきたのはサルバーナ王国の王都ヴァエリエに置かれたヴァエリエ署の副署長を務めるアルバン・エルリンヒル殿だった。
「些か仕事で疲れたので」
『やれやれ。しかし・・・・黴の生えた聖教の私兵団が相手とは・・・・な』
「中々に厄介な敵ですが・・・・貴方が相手をしている真・聖教よりはマシですよ」
『どうだかな?こっちも色々と面倒な事になってきたからな』
アルバン副署長の言葉に私は瞳を細めた。
「“魔獣事件”で一斉捜査が入ったのに懲りてない訳ですか」
『寧ろ奴等の怒りを増幅させる結果になった。しかし・・・・アグヌス・デイ騎士団を何とかすれば俺達に女神は微笑む』
「というと?」
『署長が自ら“囮捜査”で掴んだ情報だが・・・・アグヌス・デイ騎士団は近い内にヴァエリエに来る予定なのさ』
「なるほど・・・・だから大カザン山脈で路銀を稼ごうとした訳か」
フランツがアルバン副署長の言葉に何か察するものがあったのか、一人納得した。
『誰だ?』
アルバン副署長はフランツの声を聞いて問いを投げた。
「超お人好しな部下と司法取引する予定の男だ」
『なるほど・・・・アグヌス・デイ騎士団の野郎か?まったく、お前の言う通り超お人好しだな』
アルバン副署長はフランツの名乗りで合点したのか、私に皮肉を言ってきた。
『まぁ良い。で、黴の生えた聖教の私兵団。てめぇの名前は?』
「フランツ・ヴァン・プロップだ。元アグヌス・デイ騎士団総長付き平騎士だから・・・・あんた達が欲しがっている情報は持っているぜ?」
『なら教えてくれ。てめぇの古巣はヴァエリエで何をする気なんだ?』
「そこは聞いちゃいないが・・・・俺の元上司はこう言っていた」
「聖都を野蛮な雌豚から取り戻す聖戦を行う」と・・・・・・・・
『やれやれ・・・・碌でもない宗教でウンザリするぜ』
アルバン副署長は2000年前に聖教が起こした「春の政変」を連想したのか、大きな嘆息を魔石越しに漏らした。
「だから黴が生えてんのさ」
フランツの言葉にアルバン副署長は相槌を打ったが私も納得していた。
そして大カザン山脈を調査していたのもヴァエリエから遠く離れているが「第2の拠点」を設ける計画だったと私は思った。
この辺は春の政変で失敗した点を反省しているとも思うけど・・・・・・・・
『そんな馬鹿げた誇大妄想なんて実現させるかよ。ハインリッヒ・・・・早く王国の国境線を奴等に超えさせろ』
王国の国境線で内務省と司法省が手ぐすね引いて待っているとアルバン副署長は私に言った。
しかし・・・・口調は明らかに悪人の口調だった。
「不良騎士より“悪党騎士”の方が似合いな口調ですよ」
『可愛くない台詞を言いやがるようになったな?まぁ否定はしねぇ』
だから・・・・・・・・
『早く連れて来い。大カザン山脈に居られたままじゃ・・・・俺達は動けねぇ』
クリーズ皇国で不穏な動きがあるから下手に刺激ある行動は取れないとアルバン副署長は言い、それに私は頷いた。
「必ず奴等を連れて行きます」
『頼むぞ?それからフランツ。てめぇの事は司法省と内務省に俺から話しておく』
悪いようにはしないとアルバン副署長はフランツに言い、それにフランツは頷いた。
「頼むぜ?」
『任せておけ。司法省も内務省も話は通じる人だからな』
そこでアルバン副署長は通信を切った。
「お前の上司、面白い野郎だな?俺の素性を聞いても驚かないんだからよ」
「本人も苦労しているからね。何より渾名の通り型破りな性格なんだよ」
「そいつは良い。あの男は型に填まり切っているから堅苦しかった」
フランツは自分の元上司とアルバン副署長を比べるような台詞を言いつつ・・・・メルセデス殿達の進んでいる方角を見た。
「心配しなくてもメルセデス殿達なら大丈夫だよ。舞う風も居るしね」
「あの女騎士なら一人で騎士団の一つ位は殲滅できそうだからな」
「確かにね。さて、私達も急ごう」
道は長く険しいと私は言い、青い月に跨がった。




