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第17章:殿の戦い

 私達は霧が晴れた草原の彼方から土煙を上げながら現れた大軍を見た。


 全員が馬に乗り、その馬にサーコートを着せた一団の動きには小さな乱れもない。


 「ちっ・・・・選抜隊だ」


 フランツが舌打ちし、現れた一団の正体を明かした。


 しかし選抜隊といえど数は300人近くで、おまけに重装騎兵だから凄いよ。


 重装騎兵達は丘に布陣した私達に気付かないが辺りを警戒しつつ死体と化した奴隷商人達の方へ近付いて行く。


 その一人が馬から下りて死体の検分を始め、残りは周囲を警戒した。


 だけど私達が居ると予想しているのか・・・・魔術師がこちらを見ている。  

  

 「ちっ・・・・相変わらず勘が鋭い奴だ」 

 

 フランツが舌打ちしながら死体の検分を続ける騎士を罵った。


 そこに余裕はなく・・・・如何に「ヤバい相手」か私達に教えた。


 そんな相手を私は観察し続けたけど奴等は少しずつ・・・・動いていた。


 「・・・・来る」


 私が呟くように言葉を吐いてから間もなく・・・・クロスボウの矢が飛んで来た。


 ただし丘の上に私達は布陣しているからクロスボウの矢は当たらない。

 

 でもクロスボウの矢はあくまで私達に対する「牽制」だ。


 それは魔術師が詠唱している事からも分かった。


 「全員、頭を伏せろ!デカい魔法が来るぞ!!」

  

 フランツが叫んだのと同時に私達の布陣している丘に業火が襲い掛かってきた。


 しかも強風に煽られた炎だったから勢いが強い。

    

 忽ち辺りは炎に包まれたけど私達は動かずに・・・・アグヌス・デイ騎士団が来るのを待ち続けた。


 すると丘に通じる道から鎧のぶつかり合う音が聞こえてきた。


 「前進!神に逆らう異教徒に死を与えよ!!」


 男の鋭い声と共に下馬した騎士が列を組んで道を登って来たのを確認した私は叫んだ。


 「迎え撃て!!」


 私の叫び声に皆は一斉に攻撃を始めた。


 しかし丘の下に居る敵と登って来る敵の2手に別れざるを得ないから・・・・・・・・


『“戦力の分散”だ』


 私達の所に来る道は一本しかなく、その上で道幅も狭いから敵は必然と「兵力を少数投入」すると考えていた。


 だけど下からの攻撃も甘く見られない。

 

 それこそ魔法を使って来るから余計に甘く見られないのに・・・・・・・・


 『甘かった!!』


 私は自分の読み違いに憤りを抱かずにはいられなかったけど、その怒りを敵にぶつけた。


 そうする事で心を落ち着かせようとしたのさ。


 「盾を構え・・・・ぐっ!?」


 敵騎士の怒声が途中で切れた。


 欠伸をする猫の放った矢が盾の間を抜けて騎士を射抜いたんだ。


 ところが騎士は倒れずロングソードを振り上げた。   


 「前進せよ!神は常に我々を見て下さっている!怯むな!!」


 この言葉に味方は士気を高めたのか、更に登って来た。   

 

 「ホォ・・・・敵ながら見事な意思だな」


 シパクリが投げ槍を手に口端を上げて笑った。


 「だが貴様等は我が友の敵。悪いが・・・・死んでもらうぞ」


 投げ槍の補助機の「アラトラル」を手にしたシパクリは投げ槍をアラトラルに設置すると手首を活かして槍を騎士に投げた。


 それを騎士はカイトシールドで受け止めようとしたけど投げ槍はカイトシールドを貫き、騎士の心臓も貫いてみせた。

  

 ところが残る敵騎士は怯まず前進してきた。

    

 そいつ等を私達は片っ端から撃ったけど丘の下に居る敵の攻撃は激しさを増した。


 激しさを増した下からの攻撃で下を攻撃していた仲間達の攻撃は緩んでしまった。   

  

 それを見越した敵は丘に従者を行かせると鍵縄や梯子を使い登って来た。

    

 「後退だ!!」


 私は皆に地雷を埋めた場所まで下がる事を伝え、皆は地雷のある所まで後退した。


 これに対して敵は丘から登った従者と、狭い道を来た騎士が合流してきた。


 そして下に居た者達も続々と登って来て私達を圧倒するように人数は増えていく。


 「見つけたぞ!裏切り者のフランツ・ヴァン・プロップ!!」


 騎士達はフランツの姿を見るなり殺気を強めた。


 「貴様は偉大なる神に背を向けた挙げ句に反逆した。よって処断する!!」

  

 『覚悟せよ!!』

  

 一人の騎士が大声でフランツに死刑宣告を告げると他の騎士達も続くように声を荒げた。 

 

 「ケッ!ナマ言うんじゃねぇよ。だいたい堅苦しい野郎の集団に名前なんて呼ばれたくねぇってんだ!!」


 フランツはロングソードを片手にアグヌス・デイ騎士団を罵りながら私を見た。


 『まだか?』


 『まだ早いよ。もう少し引き寄せてからじゃないと』

  

 フランツの問いに私も眼で答えつつダミアン達に目配りした。


 ダミアン達は無言で頷き煙幕筒と、魔石を用意した。


 「ふんっ。相変わらず口が達者だな?しかし・・・・もう終わりだ」

  

 ここで貴様等は終わると言って敵騎士は従者にクロスボウを射させた。


 無数の矢が私達の隠れる木や岩に襲い掛かってきて、その間に騎士が接近してきた。


 魔術師はクロスボウを射る従者達の側で威力を弱めた魔法で私達を炙り出すように攻撃を続ける。


 対して私達は弱々しい抵抗をした。


 実際にアグヌス・デイ騎士団の攻撃が激しいから嘘は吐いていない。


 だけど徐々に距離を詰めて来るアグヌス・デイ騎士団との距離は正確に計っていた。


 まだ・・・・まだまだ・・・・後少し・・・・


 私は距離を詰めて来るアグヌス・デイ騎士団を見ながら左手に持った魔石を握り締める。


 仲間達も同じだった。


 そして・・・・一気に片をつけようとしたのか、アグヌス・デイ騎士団は大きく前に出た。


 しかし・・・・その大きな一歩で彼等は自分達を傷付ける事になった。


 それは最前列が地雷を踏んだからさ。


 最前列の騎士達が地雷を踏むと地雷は直ぐ作動した。


 「ぎぃっ・・・・グギャアアア!?」


 アグヌス・デイ騎士団の一人が片足を吹き飛ばされて悲鳴を上げのたうち回った。


 それに少し遅れて他の騎士達も自分達の手足が吹き飛ばされた事に気付き悲鳴を上げた。


 突如として味方が片足を吹き飛ばされた事にアグヌス・デイ騎士団は面食らった。


 そして次々と地雷を踏んでは手や足を吹き飛ばされた。 


 次々と騎士がやられていく様を見て従者達は戸惑いながらも助けようと近付いて来た。


 「今だ!!」


 従者達も来た所で私は岩から躍り出て魔石を投げた。


 これにフランツ達も続いて魔石と煙幕筒を投げる。


 一斉に魔石は爆発し騎士と従者達を吹き飛ばした。


 そこに煙幕筒も加わり辺りを白く染め上げる。


 『ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!お、おのれぇ!フランツ!!』


 煙幕で周囲を覆われながらもアグヌス・デイ騎士団はフランツに憎悪の声を上げた。


 「生憎だな?俺を殺すなら総動員で掛かって来な!!」


 フランツは煙幕と魔石で苦しむアグヌス・デイ騎士団に捨て台詞を投げると私達と素早く山道を進んだ。


 山道は険しいけど青い月達は物ともせず突き進み見る見るアグヌス・デイ騎士団から遠ざかる。


 もっともメルセデス殿達が進んでいる道とは逆方向の道を私達は進んだ。


 その上で私は右薬指に填めた指環に念を込めながら地面に手を当てる。


 すると近くに生えていた木林が追っ手の足止めをするように枝や草を伸ばしてくれた。


 続いて私は左薬指に填めた指環にも念を込めて地面に手を当て・・・・地面を泥とした。


 『ありがとうございます。”蓮の姫君”、”睡蓮の姫君”』


 この指環を与え、そして騎士の叙任じょにんを改めて行った2人の貴婦人に私は心中で礼を述べながら先を急ぐ。


 ただ・・・・・・・・


 『敵の司令官なら”この程度”の小細工は見抜くだろう』


 そう・・・・私は心中で不安を抱かずにはいられなかった。  


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