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幕間:草原へ2

 「それが・・・・“あの男”が裏で手を引いたそうで後手に回らざるを得なかったそうです」


 「・・・・第3皇女を使った訳ですか」


 ベレンゲラは王室で浮いた存在の第3皇女を裏で操る男を思い出した。


 初めて会った時から鼻持ちならない者と思っていたし、それからの行動を振り返っても・・・・やはりと思わずにはいられなかった。


 あの男は商人と第3皇子を足した性格で、アンドーラ宰相も警戒していた。


 だが教皇と同じく中々に尻尾を見せないので強引な手は打てなかったが・・・・・・・・

  

 「今回は・・・・してやられましたね」


 ベレンゲラは愛矛を握り締めて事実を口にした。


 まさか、あの男が教皇と手を組むとは・・・・・・・・

  

 いや、考えてみれば「敵の敵は味方」という論理があるから予想できた。


 それなのに後手に回ったのは自分達の過失だ。


 アンドーラ宰相の油断もあったのは言うまでもないがベレンゲラはダニに問い掛けた。


 「聖白十字騎士修道会はその後どうしたのですか?」


 聖白十字騎士修道会の総長は見た目が「色男気取りのナンパ師」であり、実際にベレンゲラも口説かれた事が何度もあるので間違いではない。


 おまけに騎士修道会の総長なのに「三無主義」に加え規律違反の常習犯という事もあり、とてもじゃないが教皇に仕える騎士とは口が裂けても言えない。


 しかし、実際に付き合えば彼が如何に真面目で気骨もあり、そして面倒見も極めて良く戦いの技術もあると知る。


 恐らく彼の事だから情報を得た瞬間すぐに行動したと予想しつつダニの言葉を待つと・・・・ダニは予想通りの返答をした。

  

 「アンドーラ宰相に報告してから直ぐ出発したそうです。ただ、教皇が動くのを牽制する為に私達と同じように少人数で向かったとの事です。またアンドーラ宰相も南北大陸に派遣された武官に指示を出したそうです」


 ただし後手に回った事から遅れを取っているとダニは言い、ベレンゲラも頷くしかなかった。

 

 南北大陸に派遣されている武官は文官同様に一人だ。


 しかも文官が教皇の息が掛かっているのと対抗するように武官は王室の息が掛かっている。


 その上で派遣されている武官は気難しく厳格な性格だが手堅い用兵術と、公明正大な性格と来ているから・・・・・・・・


 『先ず王室の意を汲み全力で教皇の息が掛かった文官達を止めるでしょうね』


 あの武官は常に「武人とは仕えるべき主人に忠実であるべし」と口にしており、それを実行するように彼は王室に対して何ら批判はおろか讒言もしていない。


 些か枠に嵌まり過ぎている感は否めないが軍団の運用に穴は見当たらなかったのをベレンゲラは演習で見た事がある。


 些か猛将・勇将に偏ってはいるが、教皇の右腕として名を馳せている長男が相手でも遅れは取らないという事は確かだ。


 だが・・・・・・・・


 『あの男が教皇と組んだという事実から考えて・・・・東スコプルス帝国の軍は寡兵で戦う事になっているでしょうね?』


 あの男が持ち込んだ異世界の兵器と軍団は強力だから教皇は先に東スコプルス帝国の軍団を叩かせたと・・・・ベレンゲラは予想した。


 そして南北大陸の軍団と長男が率いる軍団で東スコプルス帝国の帝都まで一気に攻略するハラだ。


 東スコプルス帝国の兄弟国たる「西スコプルス帝国」も火事場泥棒をやり完全占領には時間を要するだろう。


 しかし、あの強欲な教皇は欲しい物を必ず手に入れる性格だから・・・・・・・・


 「また・・・・我が国は業を背負う事になりますね」


 国祖の妻にして初代女王の悲願ではあるが今更に真面目に考えている者は居ない。


 ただ自分達の欲望を満たすだけだ。


 それをベレンゲラは解っていたが・・・・言わずにはいられなかった。


 対してダニは何も言わなかったがベレンゲラと同じ気持ちなのか・・・・ハインリッヒの仲間達を見た。


 ハインリッヒの仲間達は何所までも真っ直ぐな瞳をしており、そこに乱れも汚れもなかった。


 「彼等が羨ましいです・・・・・・・・」


 ダニは嫉妬を僅かに込めた言葉を発したがベレンゲラも同じ気持ちだったので何も言わなかった。


 しかし間もなく見えるだろう奴隷商人達と、アグヌス・デイ騎士団には理不尽だが有りっ丈の怒りをぶつけようと心に決めた。

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 ベレンゲラ達は険しい山道へ入る前にある丘の上に居た。


 その丘から草原は見渡せる形になっていてハインリッヒの仲間達は「最高の場所」と称した。


 そして直ぐに馬から野砲を外すと砲撃の準備を始めた。

  

 幸いな事に奴隷商人達の方から霧は晴れてきた事もハインリッヒの仲間達には幸運に働いている。

  

 「“キャニスター弾”を第1弾とする。装填!!」


 ハインリッヒの仲間の内1人にして砲撃の指揮官となったジャックが指示を出した。


 だが、野砲は2門、筒を並べた兵器も2門しかないから貧相な見た目だ。


 しかしベレンゲラは威力を間近で見ているから・・・・確信している。


 「ダニ、奴隷商人達との距離を測りなさい」


 「既にしております」


 ベレンゲラはダニを見たが、そのダニは言葉通り地面に両手を置いて奴隷商人達との距離を測っている最中だった。


 「・・・・距離700だが当てられるかい?」


 ダニが測った距離をハインリッヒの仲間達に伝えると、ジャックは自信満々で頷いた。


 「問題ありませんよ。必中とまでは行きませんが・・・・それでも敵の一部に損害を与えれば問題ないです」


 後はシパクリ達が倒すからと言いながらジャックがハインリッヒの考案した遠目鏡を手にした。


 「敵の数・・・・凡そ150前後。指揮官は・・・・最後尾に居る。奴隷商人も一緒・・・・サブレウ野砲は真ん中辺りを狙え。カイレグとラオホ・カノーネは風が弱くなった瞬間に発射」


 敵の数を3割程度に減らしたら直ぐに撤収とジャックが命じると手の空いている者は馬の手綱を掴んだ。


 それをベレンゲラ達は黙って見ていたが・・・・霧は更に晴れて行き・・・・間もなく現れるだろうハインリッヒ達の姿を見せるのではと危惧した。


 だがハインリッヒの仲間達は微動だにせず・・・・発射する瞬間をジッと待っている。


 刹那・・・・深い霧を突き破り大量の矢と槍が奴隷商人達の頭上へ落ちた。


 奴隷商人達は矢を暫し茫然と見ていたが。


 だが徐々に落下して来るのを見るや慌てたが、それよりも先に私兵団は動いていた。


 奴隷商人達を馬から引き摺り下ろすと直ぐに盾の下に隠し落下してきた矢と槍の雨から雇い主を護った。


 ただし・・・・何人かは早くもやられた。


 そして・・・・合図が出たとベレンゲラは直ぐ知った。


 「撃てぇ!!」


 ジャックが甲高い声で命じると・・・・サブレウとカイレグは同時に火を噴いた。


 サブレウ野砲から勢いよく「シイの実」のような弾が飛び出して奴隷商人達の真ん中辺りに落下した。


 しかし途中で弾が炸裂し何粒もの粒になり私兵団の盾を貫いたのをベレンゲラは見た。


 次に発射されたカイレグは原型を維持したまま私兵団達に襲い掛かった。


 風も弱くなったから狙い通りだったのか?


 私兵団を瞬く間に吹き飛ばし炎で周囲を包み込んだ。


 150人前後は居た敵兵はあっという間に100人前後にまで落ち込んだ。  


 しかも魔法ではない未知の攻撃に奴隷商人達は完全に飲み込まれていた。


 そして炎が目印となっている事にも奴等は気付いていない。


 刹那・・・・霧の中からハインリッヒ達とシパクリ達が躍り出た。


 ただし、その瞬間ベレンゲラ達は出発した。

 

 だがベレンゲラは顔を一瞬だけ振り向かせて言葉を投げた。


 「ハインリッヒ殿・・・・御武運を」


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