第一幕:国境警備課第11基地
序章で書き忘れました。
視点はハインリッヒで統一します!!
サルバーナ王国の王都から西へ進み続けると大カザン山脈がある。
そこの山脈の西にある一支脈の先端に私が所属する所属するサルバーナ王国司法省傘下の「国境警備課第11基地」がある。
もっとも最初は強盗騎士団の根城だったんだ。
だから基礎は出来ていたと言って良いかもしれない。
その基礎は以下の通りだよ。
先ず山を削って平らにした部分に石造キープをモット・アンド・ベーリーに取り入れた「シェル・キープ」式の建物を強盗騎士団は築いた。
そして周囲に流れる川の渓谷を利用するように北、南東、東の3方に谷が来るようにしている点。
この3方に谷が来る点でも中々に目の付け所が違うと言えるけど、それだけではなかったよ。
3方に谷が来るように建物を建てた上で背後に大カザン山脈に行けるようにしたんだ。
つまり道を自然と限定した点が第2点として挙げられる。
更に5つある曲輪と集落の間には空堀と掘切等が築かれているのが第3点だ。
ただし、このまま使えば嘗て住んでいた強盗騎士団の根城をそのまま使う事になると聖教派が騒ぐのは明白だった。
ここをヴァエリエ分署の「不良分署長」は善良な市民から得た情報でキャッチし私は一工夫するように命じられたんだ。
そこで私は基地が在る大カザン山脈の支脈を隔てる谷の方にも「モット・アンド・ベーリー式」で小さな砦を築き、各四方には堡塁等を築いた上で自然地形を使った連絡路も築いた。
もっとも私の「悪癖」とも言うべきかな?
サルバーナ王国を築いた偉大なる初代国王フォン・ベルト陛下が伝えた「ラント・ブルク(土の城)築城術」を活用したんだ。
ただ自分なりに考えた部分もあるからマシかもしれない。
そして有る限りの材料と、限られた時間で出来た基地を不良分署長は「上出来だ」と簡素だけど褒めてくれたのは嬉しかったよ。
そんな曰く付きの建物に私が一工夫した第11基地は基本的に一般人の立ち入りは緊急事態を除いて認めていない。
基本的には山の下に設けた「守護所」で応対するんだ。
だけど物事には「例外」がある。
守護所ではなく基地に来る人間も居るのさ。
もっとも彼等には大カザン山脈を越えて来たから基地の方が近かったという理由がある。
そして知り合いが私と「あの事件」で一緒に戦った仲間しか居ないから私達を頼って来たという訳なんだ。
そんな例外に位置する訪問者達と私が知り合った経緯は個人的な理由で省く。
ただ訪問してきた彼等は私の少ない友人だし、一個人としても尊敬に値する人間ばかりだという点は・・・・・・・・
彼等と短い時間を過ごした私は胸を張って言えるよ。
現に彼等も自分達の「部族」に誇りを抱いて常に生きている。
だから私は彼等を「誇り高い部族」と言っているんだ。
そして上司も私の説明を聞いて手厚くもてなすつもりだったけど彼等の話で事態は急変したんだ。
誇り高い部族達は遊びに来たんじゃない。
私の所へ助けを求めてきたんだよ。
その助けを求めてきた理由は・・・・・・・・
私達の祖国サルバーナ王国の国教たる聖教が深く絡んでいて上司は・・・・直ぐに緊急会議を開いた。
勿論その会議には私を筆頭にした夢の騎士団の人間は全員参加する事になったよ。
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「・・・・大カザン山脈を越えて悪事を働くとは根性があるな」
私達の上司は会議室の椅子に座り太い葉巻を吹かしながら私達に皮肉を発した。
その言葉に私達は頷くけど「誇り高い友人達」は沈痛そうな表情を浮かべていた。
何故なら彼等は私達のように上司や上官の類は存在しないからだ。
これは大カザン山脈に暮らす大半の人間に共通する事だけど彼等は皆が「平等」なんだ。
だから上官などから命令される事には慣れていないから私達の関係を奇妙に見ている。
でも私達と上司は一人ずつ質問したから彼等の沈痛な表情は理解していた。
「それじゃ・・・・先ずは時系列を纏める」
ダミアンと上司が言うと私の左斜めに居た青年が立ち上がった。
あの事件で共に戦った一人ダミアン・ヴァン・フェイスだ。
「彼等の話を聞くと誘拐犯達はクリーズ皇国の西部から誘拐を始めました」
それから大カザン山脈の手前で姿を消したとダミアンは地図に描かれた黒い点を指さした。
「行動範囲が広域に渡っているのは犯人の足と、人数の多さを表しているね」
「少なくとも一個大隊クラスじゃないかな?」
ダミアンの指さした黒い点を見て仲間が相槌を打ったけどダミアンは更に共通点を今度は挙げた。
「犯人は幼児か、成人女性を攫っている事が挙げられます」
身代金を要求するのが目的なら幼児で「事は足りる」とダミアンは言った。
「でも、そこに成人女性が加わっている事から一つの仮説が立てられます」
その仮説は「民族浄化」とダミアンは言い、私達は聖教のやりそうな事と思った。
何せ聖教は自分達が崇める神しか存在しないと断じているから他の宗教を一切認めていない。
ただ聖教にも異教の神々と、それを崇める人間のランク付けがあるんだろうね?
この高貴な友人達を聖教は「未熟な野蛮人」と見なしているのさ。
もし、それよりランクが上なら問答無用で皆殺しにするのが聖教の過激派だからね。
しかし・・・・奴等のやろうとしている民族浄化は別の意味で性質が悪いよ。
『奴等は幼児達には教育を施し、成人女性は自分達の“愛人”にするつもりだ』
嘗て大カザン山脈で聞いた噂を聞く限り・・・・似たような内容と私は仮説の一つとして挙げた。
「ダミアン、説明を止めて良いぞ」
上司はダミアンに説明を止めさせると自ら説明を始めた。
「ダミアンの説明を聞いて予想は出来ただろうが・・・・俺は断言できる」
こんな荒々しい方法はサルバーナ王国の犯罪組織の中でも聖教の血を色濃く継いだ組織だと上司は言った。
「そして俺の中では一つの組織しか浮かばない」
この言葉に私達は少なからず驚いた。
何せ犯人達の方法は一つの集落を大人数で襲い、幼児と成人女性のみ誘拐するという事以外は分かっていない。
それなのに上司は既に犯人の目星を付けているんだからね。
「犯人はアベル辺境伯爵の黒騎団みたいに統率が取れた組織だが、そんな組織は聖教の過激派の中には一つしか無い」
最低最悪の婿養子がやった「馬鹿騒ぎ」でも悪名を馳せた真っ黒な騎士団たる「聖槍第7騎士団」よりも一昔前に産声を上げた騎士団と上司は言った。
「一昔前・・・・まさか・・・・・・・・」
私はピンと来るものがあったので上司に言おうとした。
だけど上司は私より先に答えを言った。
「聖王カール陛下が・・・・生み落とした“アグヌス・デイ(神の子羊)騎士団”が今回の犯人だ」
上司の顔は苦渋に満ちていたのは・・・・私達の祖国を統治していた歴代国王の一人が今件の発端に係っているからだった。
でも上司は自分の仕事とばかりに説明を続けた。
「アグヌス・デイ騎士団の団員は聖教を篤く信仰している信者で構成されている。補給する団員も同じだ」
その騎士団の任務は「異教者を聖教に改宗させる事」で、その任務を遂行するに至って手段は一切問わないらしい。
「だから奴等に滅ぼされた宗教や集落は100を軽く越えていると言われている」
ただし奴等の悪行が表に出る事は聖王が崩御してからも無かったと上司は語ったけど・・・・・・・・
「本当の理由は“公共の利益”を守る為だ」
察しがついた私達に対し簡潔に上司は言った。
「公共の利益・・・・他国にまで害を及ぼしたから事が明るみに出れば国際問題に発展したからですか」
私が静かに尋ねると上司は頷いた。
「そこを奴等も狙っていた面があるから狡賢いぜ」
流石は聖王の肝煎りで出来た騎士団と上司は皮肉を言うが眼は笑っていなかった。
「聖王カール陛下が崩御された後は聖教の”汚れ屋”として暗躍し続けていた。しかし、ここ数年は地下に潜っていたが・・・・ここに来て姿を見せる辺り“腐れ豚”の意向が働いたと見て良いだろう」
「ですが問題は他にあるのでは?」
私が尋ねると上司は頷いた。
「奴等の根城は今ある情報から考えても大カザン山脈内に在るからな・・・・司法省はおろか内務省 も“管轄外”だ」
そう・・・・大カザン山脈をサルバーナ王国は自領に入れていない。
かと言ってクリーズ皇国やアガリスタ共和国が入れているかと言えば違う。
「誰の所有地でもない」と言われている通り・・・・大カザン山脈は3ヶ国から独立した土地なんだ。
だから私達が大カザン山脈で捜査をする事は法律から逸脱していて・・・・出来ない。
上司の言葉に遥々来た気高い友人達は明らかに落胆した。
それは私達なら力を貸してくれると考えていたからだろう。
しかし・・・・私達の気持ちは固まっていた。