第11章:獣の戦士達
私ことハインリッヒは野営地に現れたアストラン3都市同盟の戦士達と向き合う形で立っていた。
ただし舞う風達も一緒で、メルセデス殿達も同じく立っているけど初めて見る彼等の出で立ちに興味を持っている様子だった。
何せ彼等はジャガー、鷲、コヨーテなど名称にしている動物達の毛皮や羽を身に着けているから初めて見る人間には奇妙に映るんだよ。
私も初見の際は驚いたけど古代の歴史を調べれば大半の国が動物や神話の神に準えた出で立ちをしているのが分かる。
また彼等が複雑な多神教を信仰しているのも理由に挙げる事が出来るかもしれないけど先ずは挨拶が先だ。
「久し振りだね?シパクリ(鰐)」
私は戦士の集団から一人だけ前に出ていた黒髪に褐色肌を持つ同い年くらいの男の名前を呼びながら手を差し出した。
「あぁ、久し振りだな。元気そうで何よりだ。我が友---クアウトリ(鷲)よ」
差し出した私の手をシパクリは褐色の手で力強く握り締めてからフランツと、メルセデス殿を見た。
「そっちの男・・・・お前達が追い掛けている”テスカトリポカ”の一味か?」
「そのテスカトリポカってのは何だ?」
フランツはシパクリの高圧的な口調に平然と問い掛けてきた。
「我等が信仰する神々の一柱を担う神だ。そして地獄の王でもある。お前の気からは・・・・邪悪な気と、聖なる気の両方が出ているが・・・・どういう事だ?」
「今まで扱き使われたんで独立しようとしているのさ。その前に元の主人と一味を叩き潰すがな」
「なるほど・・・・して、そちらの”白い肌”を持つ者達は?」
シパクリはフランツからメルセデス殿達に視線を向けたが高圧的な口調は変わらない。
それは彼自身が次期皇帝の候補者であり、偉大なる戦士であるからだけど初対面の人間には良く映らないのは明白だ。
だけどメルセデス殿はシパクリの佇まいなどから察しがついていたのか静かな口調で答えた。
「然る方に仕える身ですが、縁あってハインリッヒ殿に助太刀する形で同行しています。名前はメルセデスです」
それ以外は言えないとメルセデス殿が言うとシパクリは喉で笑った。
「クククククッ・・・・クアウトリよ。お前は相変わらずだな?」
初めて会った際も舞う風達を連れて現れ、我々を驚かせたが今回も同じだとシパクリは言ってきた。
「何とも言えないよ。それはそうと・・・・どうして遥々ここに来たんだい?」
「つい先日の話だ。我が都市に白い肌を持つ者が集団で来た。馬という4本足の生き物に跨り、数人の女子供を連れてな」
「・・・・トラコトリ(奴隷)として売りに来たのかい?」
私の問いにそうだとシパクリは頷いたけど直ぐに私達を安心させるように答えた。
「だが断った。何せ奴等は邪悪な気を全身から放っており・・・・我等の道路を注意深く見ていたからな」
ただし私達で言う所の「確証」が得られないので・・・・・・・・
「ポチテカ(商人)を派遣して改めて取引しようと話を持ち掛けたのだが断られた」
しかし、それが返って疑惑を強め・・・・密かに後を付け・・・・彼等の会話を盗聴したとシパクリは言い魔石を取り出し発動させた。
『あの野蛮人共・・・・新たな拠点として良い場所に住んでいたな』
『うむ・・・・道路は広く金銀も豊富だからな。暫く”異教徒狩り”をしなくても良いな』
『あぁ、そうだな。しかし、その前に”高貴な野蛮人”共を売ろう』
『そうだな・・・・足下を見られるが致し方ない』
魔石から聞こえる会話は私の心を昂ぶらせるには十分すぎる内容だったがシパクリは私の肩を叩いた。
「クアウトリよ。そのように怒りの炎を燃え上がらせるな。怒っては冷静な判断が出来ないぞ?」
「・・・・次期皇帝としての命令かい?」
「いいや、純粋に友としての頼みだ。そのように怒るな」
「・・・・・・・・」
シパクリの言葉に私は無言で怒りの炎を沈下させ、それが完全に沈下されてから改めて尋ねた。
「それで君達は奴等の正体を掴んで来たのかい?」
「それもある。何せ舞う風達の集落を襲っている話はこちらにも来ていたのでな。そして・・・・お前達も居ると知り馳せ参じた」
お前は私の都市で本当の歴史を皆に知らしめたとシパクリは言った。
「それによって悪い事も起きたが・・・・私は良かったと思っている。そして私は恩を感じている」
恩を受けたら恩で返すのが礼儀とシパクリは言い・・・・腰に吊るした70cm前後の片刃の湾刀である「ドゥサック」の柄を叩いた。
「だから助けに来た。ここに居る皆もお前達を助ける為に来た。数は少ないが、都市を空にする訳にはいかんからな」
「いいや、これだけ居れば十分だよ。感謝するよ。シパクリ」
「そう言ってもらえると助かる。しかし、どう奴等を倒す?」
ポチテカの他に鷲の戦士も偵察に出して根城は判っているとシパクリは言った。
「報告を聞く限り我々の力では無理だが・・・・お前の知恵は違うだろ?」
「どうかな?だけど守りが堅い場所ほど侵入は容易だよ。もっとも大所帯で侵入は出来ないから命懸けだけど・・・・・・・・」
「逆に奴等を拠点から誘い出すって考えか?」
ここでフランツが私とシパクリの間に入って来て、私の考えていた作戦を口にした。
「それが私達には良いと思うんだよ。シパクリ達は野戦でこそ真価を発揮するからね」
「そして手薄になった拠点を別働隊で攻めるか?悪くないが・・・・肝心の“釣り餌”はどうする?」
フランツの言葉を私は肯定するように頷いた。
「そこだよ。釣り餌は美味そうじゃないと魚は食らい付かないからね。君を釣り餌にも考えたけど・・・・不味そうだからね」
この言葉にフランツは微苦笑した。
「実際に不味いぜ。しかし正解だ。あいつ等は俺を見つけ次第、直ぐ殺すだろう」
だが自分一人の為に大部隊を派遣する事は先ずないとフランツは語った。
「寧ろ俺達が来るのを奴等は待っていると思うぜ。牧師様と俺の連れ添いを向こうは手中にしているからな」
それに匹敵する餌がないと向こうを釣る事は出来ないとフランツは自嘲した。
ところがフランツの自嘲は直ぐ消し去られる事になった。
それはメルセデス殿の言葉だ。
「では・・・・奴等が捕らえた婦女子を私達が取り返したら・・・・どうでしょうか?」
メルセデス殿の言葉に私達は驚いたが直ぐフランツは首を横に振った。
「それをやれば間違いなく奴等は来るが・・・・どうやって取り返すんだよ?」
拠点の中に居るのにとフランツは言うがメルセデス殿は直ぐ返答した。
「奴等は捕らえた婦女子を売ると言いましたが・・・・幹部は既に奴隷商人と話を付けています」
そして明後日には取り引きするから・・・・拠点を奴等は出るとメルセデス殿は語った。
「・・・・あの女が貴女に教えたのね」
舞う風がメルセデス殿に問うとメルセデス殿は頷いた。
「・・・・・・・・」
私はメルセデス殿をジッと見つめたがメルセデス殿は私の眼ではなく胸辺りを見て言葉を発した。
「ハインリッヒ殿。貴方が私に疑惑を抱くのは解ります。ですが・・・・貴方が愛した女神は信じてくれませんか?」
メルセデス殿は自分ではなく女神を信じてくれと言ったが、それは素性を隠す自分を恥じているから・・・・・・・・
私は「事実」をそのまま解釈した。
そしてメルセデス殿の言葉に首を横に振った。
「彼女は信じています。きっと貴女の前に現れたのも彼女なりに考えがあったからでしょう」
だから・・・・・・・・
「私は貴女を信じます。彼女が信じたからではなく・・・・貴女の誠実さを私は信じるんです」
シパクリ達のモデルはインカ帝国およびマヤ帝国をモデルとさせて頂きました。




