表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/62

第9章:青い星の女

 「!?!?!?」 


 敵の指揮官は私達の存在に気付くと直ぐ嵌められたと気付いて部下達に応戦を命じようとした。


 だけど一瞬早くダミアンが撃った長距離クロスボウの矢に胸部を射抜かれ馬上から転落した。


 そして隣に居た副官らしき男は私が放った複合弓の矢を右眼に受けて事切れる。


 これで前列は先ず倒したけど敵は味方をやられた事で直ぐ反撃を開始しようとした。


 もっとも欠伸をする猫達も矢を射始めた事、2人の死体、暴れる馬、そして狭い道という様々な状況が合わさり上手く動けなかった。


 対して私達は彼等の頭上から一方的に攻撃を続けられた。


 「・・・・!?」


 「・・・・!?」


 「・・・・!・・・・!?」


 敵は私達の攻撃に後退しようとしたのか、誰と言わず叫んだ。


 だけど後列は既にフランツ達に遮断されている。


 それを知り彼等は前に進む事を選択し仲間の死体や自分の盾で身を護り始めた。


 私達は更に攻撃を強め徹底的に叩き続けたけど敵も負けていない。


 私は炎から身を護る為に伏せた。


 炎は私の頭上を矢のように真っ直ぐ飛んで行ったけど私は驚きを隠せなかったよ。


 『詠唱をしないで魔法を使うなんて!?』


 そう・・・・私を攻撃した魔術師は詠唱しないで魔法を使った。


 ただ手を振るだけで魔法を使う魔術師なんて・・・・いや、居た。


 「“客人”も使えた筈だ』


 私は仕える主人---王女の客人が詠唱しないで魔法を使った姿を思い出し自分の詰めの甘さに歯軋りした。


 『・・・・!・・・・!!』


 敵の怒声が聞こえてきてフランツ達の方を私は見た。


 フランツ達も魔法で攻撃を中断せざるを得ない状況だった。


 不味い・・・・このままでは・・・・・・・・


 『・・・・!・・・・!・・・・・・・・!!』


 敵の歓声が私達に聞こえてきた。


 それは援軍が来たと向こうは思ったからさ。


 だけど・・・・直ぐ悲鳴に変わった。


 『・・・・・・・・!?』


 『・・・・・・・・!?』


 『・・・・!・・・・!・・・・・・・・!?』


 悲鳴は絶えず赤く泡立つ岩山に響き渡った。


 だけど私達は敵が誰と戦ってきのか分からない。


 相手を知る為に私は匍匐前進して下を見た。


 「・・・・凄い」


 私は下で繰り広げられる一方的な戦闘に目を奪われた。


 敵が戦っている相手は騎士団だった。


 人数は100人前後で一人の騎士に2人の従者が付き添う体制で息を合わせた攻撃を敵にしている。


 従者がクロスボウや弓矢を射て、それに怯んだ所を騎士が突進して倒す形だ。


 しかも狙いは正確で確実に敵に致命傷を与えている。


 そして騎士達も一騎当千の戦闘力を皆が持ち、それを敵に遺憾なく発揮していた。


 ただ私の眼を引く一人の騎士が居た。


 その騎士はラメラー・アーマーを着ていて両手で長柄武器を操っているんだ。


 長柄武器は剣状の穂先を持つ代物---メリディエース大陸等の島国で生まれた手矛だった。


 だけど今では生産性に勝る槍等に取って代わられているんだ。


 そんな古の時代を生きた矛を両手で持った騎士は敵の一人を唐竹割りにした。


 敵は風変わりな兜とラウンド・シールドで防御したけど矛は物ともせず股関節まで敵を両断した。


 返り血が騎士を赤く染めたけど騎士は気にせず残る敵を葬っていく。


 まるで黒獅子のような強さに私は見惚れてしまっていたけど・・・・騎士の背後に敵が近付くのを見た。


 周囲は他の敵を倒していて気付いていない。


 危ないっ!!


 私は立ち上がりながら複合弓に矢を番え力一杯に引き絞って矢を放った。


 放たれた矢は今にも騎士を背後から突こうとした敵の胸を深く貫いた。


 敵は私を憎悪の眼差しで睨んだけど騎士によって首を斬られ私から視線を外す。

   

 だけど代わりに騎士が私を見た。


 横一直線に切り込みを入れた眼の部分からは蒼い星が2つあって私を静かに見つめる。


 あんなに綺麗な瞳は初めて見るけど・・・・何処となく女神の瞳に似ていると気付いた。


 もっとも私が助けた事で騎士団は完全に私達の存在を知る事になってしまったんだ。

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

 謎の敵を騎士団が倒すと私達は下におりた。


 それは蒼い星の瞳を持つ騎士が話をしたいと申し出て来たからさ。

  

 最初は戸惑ったけど騎士の瞳に吸い込まれるように私は下りて、それに皆も付いて来たんだ。


 そして改めて死体が転がる中で騎士団と対面したけど不思議と恐怖感はない。


 「・・・・先程は助けて頂きありがとうございます」


 蒼い星の瞳を持つ騎士は流れるようなサルバーナ語で私に礼を言ってきた。


 そこには先ほど戦った敵の口調から聞き取れた「訛り」が一切無い。


 ただ、職業病とも言える癖を私は早々に仕舞い首を横に振った。


 「いえ、出過ぎた真似でした。ですが私の方こそ礼を言いますよ」


 貴女達が来てくれたので助かったと言いながら私は帽子を取り女性騎士に頭を下げた。


 「いいえ、礼を言うのは私達の方です。元を正せば私達が追っていた、この者達を貴方達は倒したんです」


 理由はどうであれ礼を言うのはこちらと女性騎士は言い、兜を脱いで素顔を私達に見せた。


 「ヒュー・・・・女騎士は何人も見てきたが、ここまで美人に出会ったのは生まれて初めてだぜ」


 フランツが口笛を吹きながら素顔を見せた女性騎士を見ているけど私は暫し見惚れていた。


 素顔を見せた女性騎士は私と同い年か、1~2歳年上で銀髪は艶がありスターサファイアの瞳は・・・・まさに夜空に輝く星のように綺麗だった。


 薄い唇は桃色で肌は陶器みたいに白くて・・・・有名な画家が生涯を懸けて描いた絵画のように私は見えたんだよ。


 「おい、お人好しな旗騎士。何か言えよ」

  

 女性騎士に失礼だぞとフランツに言われて私は慌てたけど女性騎士が先に頭を下げた。


 「改めて言わせて下さい。貴方達の助太刀・・・・心から感謝します」


 その礼に何か手伝わせてくれと女性騎士は言い、それに私とフランツは目を見開かせた。


 いきなりの申し出という事もあるし・・・・姓名も騎士団も名乗ってない相手を果たして信用するに値するのか?


 そこは私も流石に疑問を抱き女性騎士に問い掛けようとしたけど女性騎士が今度も先に喋り出した。


 「失礼ながら貴方達は仲間というよりは・・・・目的を果たす為に手を組んでいるのではないでしょうか?」


 私とフランツの間に微かな「心の壁」があると女性騎士は言ってきて・・・・隠せないと早々に私は諦めたので頷いた。


 「はぁ・・・・お人好しの上に諦めるのも早いな」


 フランツは肯定した私に呆れ返った。


 だけど欠伸をする猫達は「嘘はいけない」とフランツに言った。


 「“嘘も方便”って言うだろ?まぁ・・・・鋭い洞察力には恐れ入るぜ」


 女性騎士をフランツは鋭い眼差しで上から下まで見て呟いた。


 「その装備から察して先祖代々高名な騎士とは分かるが・・・・仮に死んでも”犬死”だと覚悟してくれよ?」


 「死は万人に与えられる存在ですから構いません」


 「良い事を言うねぇ。しかし・・・・相手は敵対者には情け容赦しないから気を付けてくれよ?」


 こっちの御人好しとは違うとフランツは私を見て皮肉を言ってきたけど私は肩を落とす事で甘んじて受け入れた。


「騎士ですから死ぬ覚悟は常に持っています。ただ、その前に貴方達の姓名を教えてもらえませんか?」


 「やれやれ・・・・また名乗るのかよ?しかし、俺等が名乗るんだ。あんたの方も名乗れよ」


 フランツは僅かに警戒する口調で女性騎士に釘を刺すように台詞を言いつつ自分から名乗った。

 

 「アグヌス・デイ騎士団総長付き平騎士のフランツ・ヴァン・プロップだ」


 「・・・・メルセデスと言います」


 フランツが名乗ると女性騎士は静かな口調で自分の名前を名乗ったけど従者を始めとした者達は無言で居る。


 しかも表情すら気取られないように注意しているようにも見えたから・・・・よほど自分達の出自を言いたくないんだなと私は推測した。


 ただ、メルセデスという名前はオリエンス大陸では余り聞かれない。


 そこを私は頭に刻み込んだけどメルセデス殿は私を見て名前を尋ねてきた。


 「・・・・サルバーナ王国王立司法省傘下の守護騎士団国境警備課に所属しているハインリッヒ・ウーファーと言います」


 「やっぱり法の番人だったか。しかも”夢の守護騎士団”の総長とは・・・・・・・・な」


 フランツは私の身分に察していたからか、クスクスと子供みたいに笑ってみせた。


 しかし私は彼に尋ねた。

 

 「どうして夢の守護騎士団を知っているんだい?」


 「そいつは後で話してやるよ。今は死体を片付けようぜ」


 ここは聖地だとフランツは言い、それに私は受け入れる形で頷き死体の後始末を皆で行った。


 ただ・・・・メルセデス殿は私をジッと暫し見つめていたのが印象深かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ