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序幕:寂れた修道院において

どうもです。


傭兵の国盗り物語に出て来るハインリッヒを主人公とした外伝を投稿します。


内容は「孤高の剣王」の続編とも言えるもので、本編から少し時間を経た内容となっておりますが独立した内容にしているのでこちらだけ読むだけでも大丈夫と思います。

 サルバーナ王国の北側に在る大カザン山脈にある寂れた修道院。


 そこは古の時代に聖教から発生した「聖へレーナ教」の修道院だったと言われている。


 だけど古の時代という事もあり砦の役目も担っていたんだ。


 もっとも砦の役目を果たした事は聖ヘレーナ教の修道院として築かれてから・・・・ただの一度も無い。


理由は聖ヘレーナ教が衰退したからさ。


 そして修道院が築かれた場所も悪い点が挙げられる。


 私達が今、居る場所---大カザン山脈を越えるのは今も至難の業とされているから古の時代ともなれば尚更だ。


 おまけに聖ヘレーナ教は女性の聖人が築いた宗派だ。


 だから西方派聖教を始めとした聖教の分派は公式に認めなかった点もある。


 その結果・・・・中心的な役割を果たす者が居なくなった途端に一介の地方宗派という地位に転落してしまったのさ。


 だけど幸いな事に建物自体は今も姿を保っていて・・・・今、砦としての役目を朽ち果てた身に鞭打って果たそうとしている。


 「ハインリッヒ!奴等が左側から来たぞ!!」


 右側の土塁に居た私の所へ同い年の男が来て怒声混じりに「奴等」の再突入を伝えてきた。


 「分かった!直ぐ行く!!」


 私は男に負けない位の声で応じると土塁に居た味方に告げた。


 「奴等が来たら撃ってくれ!構うことはない。今までの怨みをぶつけるんだ!!」


 私の言葉に味方である「崇高な戦士達」は一斉に銃やクロスボウ、または弓矢で迫る敵を攻撃した。


 だけど、それを物ともせず敵は数に物を言わせて押し寄せて来たけど・・・・まだ「奥の手」があると私は見た。


 『私達が先に死ぬか、完成が間に合うか・・・・・・・・』


 何せ「ここにある物」だけで作業をしているから準備が明らかに不十分なんだ。


 そして大勢の「捕らわれていた人達」が居るから形勢は明らかに私達の不利だ。


 しかし私は直ぐに暗い考えを止め左側の防塁へ走った。


 左側の防塁に着くと敵が白兵戦に持ち込もうとしていたが私を見るなり矛先を変えた。


 『奴を殺せ!!』


 一斉に敵は私に襲い掛かろうとしたが、そこを待っていたように「じゃが芋顔」の騎士は動いた。


 「今だ!!」


 じゃが芋顔の騎士が手を掲げると伝道所の低い木壁に隠れていた伏兵がクロスボウで敵を一網打尽にした。


 それを見て敵の指揮官は退却の命令を出したのか敵は一斉に背中を向ける。

  

 「・・・・・・・・」


 私は退却する敵とは別方角に眼をやり・・・・静かに手を上げた。

  

 それとは別に黒い狐は退却する敵に矢の雨を降らせつつ倒した敵の装備を回収した。


 装備が足りない私達には倒した敵の装備は実に良い「補給」になるからさ。


 とはいえ・・・・・・・・


 「果たして・・・・間に合うか?」


 私の言葉を掻き消すように大きな爆発音が聞こえてきた。


 見れば退却する敵が木っ端微塵になった姿が暗い闇の中でも見えた。


 そこだけオレンジ色の閃光が輝き、紅蓮の炎も灯されていたからだ。


 「味方が派手にやったのに嬉しくないのか?」


 「いいや・・・・しかし、敵は諦めない」


 短く私が現実を言えば男は皮肉な笑みを浮かべた。


 「あぁ、そうだな。お前が淹れたコーヒーみたい“濃い”ぜ」


 男の言葉に私は小さく笑った。


 「ブラックで頼むと言ったじゃないか?」


 「あんだけ濃いブラックはないぜ。しかし・・・・厄介だな」


 奴等は聖教の暗部の中でも極めて危険と男は言った。


 「団員一人の実力で言えば“聖槍第7騎士団”には劣るが・・・・数は多いからな」


 しかも統率者たる総長も能力があると男は「古巣」だからか饒舌な態度を控えて私に重く告げた。


 「私も一目で解ったけど・・・・負ける訳にはいかない。いや、死ぬ訳にはいかないよ」


 「へっ!“死ぬのは奴等”ってか?」


 「あぁ、そうだよ。ただ、君も死なせないよ?」


 元「アグヌス・デイ(神の子羊)騎士団」総長付き従騎士フランツ・ヴァン・プロップ・・・・・・・・


 私が男の名前を言うと男は口端を上げて笑った。


 「そう言ってくれて助かるぜ。俺だって死にたくねぇからな」


 奴等は裏切った者を決して許さないとフランツは言った。


 「だから俺は捕まれば裁判無しで私刑確実だからな」


 「私の方も似たようなものだよ。君を司法省に引き渡せば奴等の悪事を白日の下に晒せる」


 そうすれば裏でコソコソ動いている「真・聖教」と共に奴等を一網打尽に出来ると私は言った。


 「そして俺は牢屋行きの末に縛り首か、磔だな」


 悪事の代償だとフランツは自分の事なのに当たり前とばかりに言い切った。


 「だが司法省に捕まれば正式に裁判が受けられる。つまり“筋道”があるからマシだぜ」


 「法は万人に平等だからね。だけど・・・・逃げても良いんだよ?」


 私の提案をフランツは鼻で笑った。


 「冗談は止せよ。逃げても奴等に追われるんだ。何より・・・・可愛い女達と、子供達を置いて大の男が逃げられるかよ」


 フランツは修道院の奥で今も恐怖と戦っている婦女子を一瞬だけ見て私に言った。


 そこから解るのは・・・・いや、僅か数日間だけど彼と一緒に居たから私には解る。


 彼なりに「贖罪」をしているのだと・・・・・・・・


 「・・・・もう暫く協力してくれ」


 「あぁ、そのつもりだ」


 私の言葉にフランツは静かな口調で返答したが、古巣に居たから解るんだろうね?


 『奴等は直ぐに来る』


 眼で私に告げていた。


 「・・・・何とか防衛できましたね」


 横から声をかけられて私が振り返ると一人の女性騎士が立っていた。


 白銀と見間違う銀色の髪は櫛を使う必要がない位に艶やかで、着ている濃紺色の「ラメラー・アーマー」は紋章こそ描かれていないけど腕の良い職人が仕上げたと判る代物だった。


 腰に吊るされた「黒漆大刀拵」の大刀も同じ印象を受けるけど・・・・それだけ女騎士が騎士団総長を務める騎士団は長い歴史がある証拠でもあったよ。


 もっとも出会ったのはほんの数日前で詳しい事は何も知らない。


 だけど私には数日前に出会ったばかりでも目の前の女性騎士が誠実な騎士という事は確かと断言できたよ。


 そんな女性騎士の言葉に私は頷いた。


 「何とか防衛できましたが・・・・貴女達には御迷惑を掛けてしまいましたね」


 出会ったばかりなのに・・・・こうして籠城に加わっているのだから迷惑を掛けたと言う他ないと私は思った。


 ところが女騎士は首を横に振った。


 「お気になさらないで下さい。あそこで出会ったのも何かの縁です。そしてフランツ殿が言うように・・・・私達も女子供を置いて逃げる訳には参りません」


 何より修道士が剣を持って戦場に立つのは「騎士修道会」の教えに反していると女性騎士は厳しい口調で断じた。


 「おまけに人身売買を行うような”騎士団の面汚し”と言える輩を貴方は多勢に無勢だというのに戦っています」


 それなら・・・・我が団も騎士の名誉に掛けて助太刀するのが筋と女性騎士は凛とした口調で断言した。


 「そう言ってもらえると有り難いですが・・・・万が一の時は私達に構わず逃げて下さい」


 これは私以外の者達も同じ気持ちと私が言えば女騎士はジッと「スターサファイア」の瞳で私を見つめてきた。


 言葉は何も言わないけど・・・・スターサファイアの瞳は明らかに私の言葉に気分を害しているのが見て取れた。


 それに対して私は申し訳ないとばかりに見つめ返したけどフランツが「子供の情操教育に悪影響だ」と尤もらしい台詞を言って2人で笑い合った。


 殆ど面識がないのに不思議な事だけど・・・・それも直ぐ「戦の臭い」が風に乗って鼻を擽る事で終わった。


 だけど私は一瞬でも笑えた事に感謝した。

 

 そして今頃は次の手を考えているだろうアグヌス・デイ騎士団の居る方角を見ながら聖教の闇が深いと一週間前に命じられた任務の経緯から思い出した。


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